西園寺に電話ってのは、何故だか直に話しかけるより緊張する。
しかも理由が下らなさ過ぎる。
分かってはいても、誰かの声を聞いて話をして気を逸らしたい。
2コールで出なかったら切ろう!
それなら最初から掛けないほうがマシだし、下手したらいたずらレベルだと思われるかもしれない。
だけどが出せる勇気は2コールまでが限界だった。
は大げさにゴクリと喉を鳴らすと、西園寺の携帯番号を呼び出した。
正直2コールなんて短さであの女王様が出てくれるとは思ってないし、殆ど自己満足に近い。
だから番号を発信した瞬間から切ること大前提で最初は携帯に耳を当てることさえしてなかった。
『??』
「・・・」
『?おい、、返事をしろ』
「っ!!??」
まさかでまさかの展開。
2コールどころか1コールで西園寺が電話を取っていた。
耳に電話を当ててなかったせいで最初電話が繋がったことに気付いてなかったは、
彼の声が遠くから聞こえた瞬間に驚きすぎて携帯を手から取り落としそうになった。
そして慌ててそれを握り直し、彼に返事をする。
「も、もしもし!?西園寺?」
『やっと出たか、お前から掛けてきたのに何故返事をしなかったんだ?』
「ご、ごめん、まさか1コールで出てくれると思わなくて」
寧ろ出ないこと前提で掛けた、ってことはさすがに口にしないでおいた。
『ああ、丁度父と話し終えたばかりだったからな。
それより、お前から電話をしてくるなんて珍しいな』
「こんな時間にごめんね、もしかしてもう寝ようと思ってた?」
『ああ、そうだな。今日は早めに休もうかと思っていたところだ。
だが、お前からの電話なら構わない。何かあったのか?』
ほんの一瞬別の理由で誤魔化してしまおうかなんて考えが過ぎったけど、
こんな時間に自分から電話しといて言い訳を考えるってのもどうなんだと思い直した。
それより何より相手はあの西園寺なのだ。
の下手な誤魔化しなんぞすぐに見透かされてしまうだろう。
情けなくても下らなくても、電話が繋がった以上は正直に話すしかない。
「今、さ・・・雷の音スゴイくない?」
『雷?ああ、そう言えばいつもより少々激しいようだな」
「少々じゃないから!!!・・・えっと、だから・・・ちょっ、ちょっと・・・、怖く・・・なってさ・・・。
西園寺に話し相手になってもらって、・・・気を紛らわそうかなと・・・」
そう話している間にも雷がまたゴロゴロゴロと不穏な音を鳴らしている。
ビビった拍子にの声が変なところで途切れたり跳ね上がったりした。
『怖い?だが以前に会計室に居る時に外で雷が鳴っているのを見て、お前ははしゃいでいただろう』
「あ、あの時は、西園寺も七条も一緒だったし、そ、っれに、大した雷じゃなかったから」
『・・・そうか』
西園寺の短い返事に、はもしかして呆れられてるのかもしれないと思った。
と言うか、やっぱりこんな時間に電話してきた理由がそれかと思われてるのかもしれない。
「あの、西園寺・・・」
『一人で居るのが怖いと言うのなら、私の所に来るか?』
「え?西園寺の所?」
聞こえなかった訳じゃないけど、彼の言ってる意味がイマイチよく分からなくてはもう一度聞き返した。
『そうだ。お前がこちらに来ると言うのなら、部屋の鍵を開けて待っていてもいい』
「・・・えっと、でも・・・さ・・・ひいいっっ!?」
西園寺はもう寝るとこだよね?
と続けようとしたその途中にバリバリバリッと凄まじい音がして、はもう数え切れない位上げた悲鳴を口にする。
電話の向こうの彼がほんの一瞬笑ったみたいな気がした。
恥ずかしい。
情けなさ過ぎる。
『待っているぞ』
の悲鳴を返事代わりだと受け取った彼はそのまま電話を切ってしまった。
何てことだ。
つまりにはもう選択肢はない。
西園寺の部屋に向かうしかないってわけだ。
は急いで鏡の前で素早く髪の毛を整え、パジャマのしわをさっと伸ばすと部屋を出ることにした。
この場合立場が逆のような気がするけど、
元はと言えばが雷にビビって電話したからだからが足を運ぶのは当然と言えば当然なのか。
そんな風に考えさせる西園寺はやっぱり女王様だと思う。
部屋から廊下に出たは、見回りの人間が居ないかどうかを慎重に警戒しつつ先へと進む。
心臓が色んな意味でどくばくしていた。
まるでこれから夜這いに行く男子みたいだ。
いやいやいやいや!違うから!
自分で想像しておいて自分で自分につっこむ。
だけど相手が相手だけに傍から見ればそう見えないこともない。
まぁ結局のところ、そんなことを妄想してしまう位には何だかんだでは浮かれてしまってるってことだ。
そういう意味では今の妄想もあながち間違っちゃ居ない。
残念なことに、西園寺はそんなに甘い相手ではないけれど。
□■□
その後は幸い見回りに捕まる事もなく思っていた以上にあっさりと西園寺の部屋に辿り着くことが出来た。
彼はあの上質なソファに座って寛いでを待っててくれて、
が室内に入るとにも掛けるようにと促してくれた。
彼の部屋には今までも何度か招かれてるから、この椅子の座り心地の良さにもすっかり慣れてしまった。
と言っても、いつもはもっと明るい時間か遅くても夕食前後。
それに大体は七条も一緒だった。
こんな時間に二人きりってのは、当然のように初めてで、は少なからず緊張していた。
「どうした?。さっきから随分と大人しいな。やはりまだ雷が怖いのか?」
「う、ううん。・・・雷は今あんまり鳴ってないし、平気」
「そうか。ならば何故そんなに緊張しているんだ?」
「・・・っ」
寧ろは何で西園寺がそんなにいつも通りなのかと問いたい。
まだ深夜と言うには早い時間帯だけど、それでも夜の遅い時間に男女で二人きりなのだ。
としてはそれだけで十分緊張する理由になるってのに、相手が西園寺なんだからもっと落ち着かない。
元はと言えばが彼に電話したのが始まりだけど、こうも普通に接されると、逆に落ち込んでしまう。
は彼にとって全く意識外にある相手なんだろうか。
余計なことを考えすぎてるのは自分だけだと思い知らされてしまう。
「・・・」
「な、なに?」
同じソファのすぐ隣に座っている彼が、の名前を呼んで僅かに体をこっちに傾けた。
その拍子に元々近かった彼との距離がまた縮まり、同時にふわりとなんとも言えないいい香りがした。
それだけでの体は飛び上がりそうな勢いで大げさな驚き方をする。
はこの部屋に入ってから彼の仕草や言動をいちいち意識して、どきどきしていた。
本当にまるでの方が男子高校生みたいだ。
「お前に聞きたいことがある」
「・・・うん」
「お前はどうして私を選んだんだ?」
「え?・・・えっと、それって・・・」
「雷に怯えて助けが欲しかっただけならば、啓太や遠藤と連絡を取ればよかっただろう。
啓太や遠藤の部屋なら直接向かう事も出来たはずだ。だがお前は私を選んだ」
どうしてだ?と、重ねて西園寺がに問う。
見蕩れるほど綺麗なあの宝石みたいな瞳が真っ直ぐに向けられていた。
いつだってそうだ。
彼の視線は正面から相手を捕らえる。
少しの嘘も許されない。
だけど今西園寺が口にした質問に包み隠さず答えてしまったら、の気持ちを告白するようなものだ。
「・・・真っ先に思い浮かんだのが、西園寺だったから」
何と返事をしていいのか迷った挙句、は結局素直にそう答えた。
たったそれだけ答えるのに、心臓は早鐘を打ってるし、何だか少し息苦しい。
西園寺はじっとを見つめたまま、口を開いた。
「そうか。・・・ならば、この部屋に来るのに躊躇いはなかったんだな?」
「えっ?そ、それは・・・」
何だかさっきから質問続きだ。
でも答えなきゃいけない。
と言うより、悔しいけど自身が彼からの質問には全部答えたいと思ってる。
「迷わなかった訳じゃないけど、・・・嬉しかったから。西園寺が一緒に居てくれるんだって」
ここまで言うとの気持ちなんてバレバレだろう。
もうこれ以上深く突っ込んでくるのは勘弁して欲しい。
恥ずかしさの余り西園寺からの視線に耐えられなくなって、は瞳を逸らした。
その直後。
偶然にも窓際のカーテンの隙間から空に大きな稲妻が走るのを目にしたと同時、
またまたまた(以下略)しても凄い勢いで雷が鳴り響いた。
は反射的に身を竦ませて悲鳴を上げる。
「ぎゃああっ!」
自分で言うのもなんだけど、可愛らしさなんて微塵もなかった。
その時、すぐ傍に居た彼が腰を上げ、そのの頭を自分の方へと引き寄せた。
思わぬ西園寺の行動と予想以外のその力強さにわたしは思わず顔を上げる。
「あ・・・」
「ふっ・・・、お前は、もう少し女らしい悲鳴の上げ方は出来なかったのか」
「ご、ごめん・・・」
「あれはあれでお前らしいと言えばお前らしいがな」
を間近で見下ろしている彼のしなやかな髪が、の顔を囲むように降って来てる。
至近距離で目にすると西園寺はまさに息を呑むほど綺麗だ。
艶のあるふっくらとした唇に、筋の通った形のいい鼻、切れ長の完璧な瞳に涼やかな眉毛。
白い肌は決め細やかでふれるときっと期待以上に触り心地がいいに違いない。
「お前が私を選んでくれて良かった」
「え?あ、ど、どうしたの?急に・・・」
「急にじゃない。ずっと思っていたことだ」
つい数秒前まで雷に怯えてたことも忘れて馬鹿みたいにぽかんと彼の顔を見上げてたは、
西園寺の言葉にハッとして彼を見つめ返した。
彼は僅かに瞳を細めてを見ている。
その視線が甘くやわらかく思えて、は勝手に妙な勘違いをしてしまいそうになる。
「」
「は、はい」
「私はお前が好きだ」
突然告げられた言葉に、は本気で聞き違いかと思った。
さっきから心音がうるさいくらいにどきどきしっぱなしだったけど、
今度は逆に止まったのかと錯覚するほどだ。
西園寺の白く長い指がそっとの顎をたどるような動きをする。
呆然としてるの視線をほぼ強制的に自分と合わせた。
「あ、あの、西園寺・・・」
「お前の返事を聞かせろ、」
ぐっと、更に距離を詰めて彼がに答えを促す。
鼻先すれすれに西園寺の顔が迫り、彼の吐息がふわりとの肌を撫でた。
さっき停止しかけた心臓は今はまたしても恐ろしい心拍数を叩き出している。
西園寺はのことが好き。
もう一度、自分の中で今告げられたばかりの彼の言葉を確認する。
この状況だ。
さすがにこの『好き』の意味は、七条や啓太に向けている友愛的なものとは違うだろう。
だったらちゃんと答えなきゃいけない。
最初から西園寺相手に誤魔化すつもりも逃げるつもりもないし、出来るとは思ってないけど。
「も、西園寺が好き」
「・・・そうか」
くくっと。
満足げに喉を鳴らして西園寺が笑う。
ビックリした。
この人のこんな笑い方、始めてみた気がする。
既に間近にあった彼の顔が一層近付いてきたかと思うと、次の瞬間には唇を塞がれていた。
艶やかな西園寺の唇はしっとりとやわらかい。
薄い皮膚同士を触れ合わせて、軽くくすぐられる感触。
それから濡れた舌がの唇の形を確かめるみたいに滑っていき、最後に口内に侵入してきた。
「っん」
「・・・、もう少し・・・口を開けろ」
低く熱のある声で西園寺にそう囁かれて、体の奥からなんとも言えない感覚が駆け上がってくる。
は素直に彼に従った。
彼の真っ赤な舌がぬるぬるとの口内を這い回る。
それと一緒にお互いの唾液が混ざり合い、量を増していくのが分かった。
ぬちゅり、くちゅりと響いてくる音が物凄く卑猥なものに聞こえて恥ずかしくてたまらないのに、
どうしても唇を離すことが出来ない。
が西園寺と、とか、初めてのキスなのに、とか、
そういう気持ちが一瞬浮かんではどこかに吹っ飛んでしまった。
上から挿し入れられる形での口腔をくまなく動いた彼の舌は、
そのままの舌を捕らえて絡んできた。
あのいやらしい水音が鼓膜を震わせて、の思考回路を奪う。
なかなか唇を離すタイミングが見つからないまま長いキスを終えて、
西園寺は二人分の唾液をまるではちみつを舐め取るみたいに飲み込んだ後、
を抱きしめたままこう言った。
「今日は私の部屋に泊まっていけ」
「っ!!え!?いや、あの、で、ででで、でもっ・・・!」
さすがにこの発言には即座に頷く事は出来なかった。
西園寺と両想いという夢のような現実を確認できたのは本当に凄く物凄く嬉しいけど、
それとこれとは話が別だ。
これは画面越しのゲームの話じゃない。
気持ちを伝え合ったその日に・・・ってのは二次元だったからこそ喜べたこと。
勿論そうなるならもう西園寺しか考えられないけど、
それはもっとこう、色々あってというかこれから先の話であって、
今すぐと言うのは幾らなんでも心の準備が出来てない。
西園寺の言葉に激しく動揺するを見て、彼はクスリと笑った。
「安心しろ、今夜お前を抱くと言う意味じゃない」
「っ!!さ、西園寺・・・、キミね・・・っ」
彼が言ったことに心底安心したものの、余りにストレートに口にされて違う意味で焦ってしまった。
「何だ?他に何か心配事があったのか?」
「いや、ち、違うけど・・・」
何かさっきから一人わーぎゃーしてて恥ずかしい。
西園寺はやわらかい微笑を浮かべてをゆっくりソファから立たせた。
そしての肩を抱き、ベッドのある場所まで連れて行く。
密着したことで分かったけど、西園寺は思っていたより華奢なだけの女性体系では決してなかった。
腰も細いし胸板も薄いとは言え、男としての筋肉がついてない訳じゃない。
触れた部分はしっかり硬いし、とは全然違う。
彼はを先にベッドの上に横たえさせ、その隣に身を滑り込ませた。
上質のシーツの冷たい感触と、を抱き寄せる彼の腕の感触を同時に感じる。
「」
「な、なに?」
「さっきも言った様に、私はお前が好きだ」
「う、う、うん、ありがとう。も・・・そ、その、好き」
不意を突くように再度、好きだと口にされてまたまたまたしてもは動揺してしまう。
しかも同じベッドに寝てこんなこと言われると恥ずかしさも倍増どころじゃない。
当然物凄く嬉しいのも間違いないんだけど、西園寺が男前過ぎてどうしても彼を見られない。
もっと言えばこの状況で好きだなんだと伝え合うのも柄じゃなくて、
そろそろ色んな意味で爆発しそうな勢いだった。
自分が思ってた以上には乙女なのかもしれない。
そこで西園寺がの方に身を傾け、の上唇を啄ばむみたいに軽くキスをした。
チュッと言う可愛らしい音がやけにいやらしく響く。
もうどんな顔をしたらいいのか分からない。
「今日はここまでにしておいてやる。だからそんな顔をするな」
「そ、そんな?」
「ああ、泣きそうな顔をしている」
「!?いや、そんな!べ、別に・・・嫌がってるとかじゃなくて、、」
「分かっている」
言った西園寺が小さく笑う。
その表情が余りにもやわらかくて幸せそうで、はまた彼に見蕩れてしまった。
「今日はもう休むといい。雷もさっきよりは落ち着いている。この分ならもうすぐ雨も止むだろう」
「・・・う、うん」
正直雷に怯えてた自分なんて記憶の彼方だった。
だけどここは素直に頷いておく。
西園寺の綺麗な手がそっとの額から髪へと滑る。
「おやすみ、西園寺」
「ああ、おやすみ」
今夜、彼と両想いになれて、しかもこうして彼のベッドで一緒に横になってることがまだ信じられない。
もしかしたら、明日の朝起きたら覚めてる夢かもしれないと思う程度には不安だった。
だけどが目を閉じて眠りに落ちるその瞬間まで、
西園寺がの髪を優しくなで続けてるのが分かって、
何だかとても気持ちよく眠りにつくことができた。
目覚めたら真っ先に隣に彼が居ることを確認しよう。
この夢はまだ続くと信じられるように。
(END)