あいたくてたまらない

一日の授業も終わり、寮の部屋に戻ったは携帯電話と睨めっこをし続けていた。
ディスプレイに和希の携帯番号を表示して既に5分近く経ってる。
後は発信ボタンを押すだけだ。
そう、それだけ。
それだけ、なのに、は未だにたったそれだけの行動が出来てない。
何も大げさに考えることじゃない。
最近まともに会ってなくて寂しいからちょっと電話してみた、って感じで、
昼に西園寺や七条もアドバイスしてくれたことだし、ここは勇気を出して。


でももしまだ仕事中で・・・の電話で邪魔したら・・・。
いやいやいや!!このままじゃ何かもうマイナス思考ループだ!!
行くしかない!!


「よ、よし!」


押すぞ!と、妙に気合を入れては携帯の発信ボタンに手を触れ――


コンコン

?居るか?」
「!!!!???」


そこである意味絶妙のタイミングでの部屋のドアがノックされ、そのすぐ後に聞き慣れた、
聞き慣れすぎた声がした。
は反射的に大げさにびくりと体を震わせ、携帯を取り落としそうになりながら、
慌てて返事をする。


「あっ、和希、う、うん!今開ける!」


わたわたと一人でバタついた動きをしつつ、携帯をベッドに置いてはドアに向かった。
驚きすぎて未だに心臓がどくばく激しく暴れている。


「ごめんな、急に。本当は先に連絡入れようかと思ってたんだけど、
結局そのまま来ちゃって」
「かなりビックリした。でもそれより仕事、いいの?・・・てか和希、走ってきた?」


和希を室内に招き入れて、ドアを閉めながら、はそう訊ねた。
すぐには気付かなかったけど、彼は軽く息を切らしてて、
額に薄っすら汗を滲ませてる。


「あぁ、仕事の方はもう大丈夫だよ。やっとひと段落着いたからな。
後は石塚に任せとけば上手くやってくれる。
・・・それで少しでも早くに会いたくて、走ってきたんだ」


和希はそういい終えた所で両腕を伸ばしてを抱き寄せた。
それと同時に、ふわりと、久しぶりに和希の香りがを包み込む。
瞬間的にふっと体の力が抜けた。


「走ってこなくても、良かったのに。仕事で疲れてるんだからさ」


うわ、相変わらず可愛くない言い方。
心の中で思わず自分を殴り倒す。
仕事で疲れた体を心配してるのは本心だけど、この言い方じゃそうは取れないかもしれない。
それに、そこまでして会いに来てくれたのをメチャクチャ嬉しいと思ってるくせに、
こんな時まで可愛くない自分にうんざりだ。
言葉の代わりにはそろそろと和希の背中に腕を回した。


「いいんだよ、俺はに会いたくて仕方なかったんだから。
最近ずっと仕事が忙しくて、お前とゆっくり話も出来なくて、こんな風に触れられなかったし、
早く充電しないと俺の気力が持たなかった」
「・・・そ、そんな、大げさな」
「大げさなんかじゃないよ。・・・、お前は?お前は寂しくなったのか?」


寂しかったに決まってる。
寧ろ、和希に飢えてたのはの方だ。
大げさなんて、よく言えたもんだと思う。
自分の方が和希の何倍も弱ってたくせに。
とことん可愛くない。


「・・・女王様や七条さんの前では言えるのに、俺に直には言ってくれないんだな」
「・・・え?・・・え゛!!??い、今なんて!?」


がばり。
和希の思わぬ言葉には勢いよく体を離して顔を上げた。
今、和希は何とのたまっただろうか。
まさか、まさか。
見上げた先の和希は、どこか意地の悪い笑顔を浮かべていた。


「俺に会えなくてが落ち込んでる、俺に会いたいって言ってたって聞いたんだけど、
あの話は聞き間違いだったかな?」
「っ!!!」


西園寺!七条!!!


まさかの会計コンビの裏切り。
いや、あの二人はあの二人なりにを気遣ってくれてた。
それは本当だと思う。
とは言え、が和希にこの話を持ち出された時どんな反応を示すかは、
彼らなら想像出来たことだろう。
つまり、少なからず面白がられてた部分もあるんじゃないだろうか。


?」
「・・・聞き間違い、じゃない」
「え?」


一旦視線を和希から逸らし、はぼそりと口にした。
和希はに会いたかったと口にしてくれた。
走って来てまで、少しでも早くに会いたかったと。
しかもが西園寺達に話したことまで知られてる今、変に意地を張るのも馬鹿らしい。
だって本当のことだ。
は寂しくて、和希に飢えてた。


「和希に会えなくて、寂しくて・・・、落ち込んでた。・・・あ、会いたかった、凄く」
・・・」
「でも和希は理事長だし、いつも以上に忙しい時にの我が侭で困らせるのが嫌で、
我慢、しようと思ってたの」
「そうか、やっぱり最近元気がなかったのは俺が原因だったんだな」
「てかこっちこそごめん、我慢できなくて」


分かってはいたけど、思ったとおり和希はが元気が無かった理由に気付いてたってことだ。
和希はを思って色々と気を使ってくれてたのに、結局は――


「謝るなよ、俺のほうこそごめん、寂しい思いさせて」
「和希は全然悪くな・・・、っ・・・」


そういい掛けたところで和希は再度、を抱き寄せ、そのままの唇を塞いだ。
彼の唇の温度ややわらかさを感じるのは久しぶりだ。
軽く重ね合わせただけのキスなのに、それだけで思考回路が溶けてく。
和希の匂い、両腕の感触や密着した胸板、低い声、その全部が心地いい。
気付けばと和希はお互いに貪るようなキスをしていた。
少しずつ息が乱れ、舌と舌が生き物みたいに縺れ合う。
二人分の唾液が交ざる感覚と一緒に、和希の熱い吐息がの喉を焦がしていく。


・・・」
「は・・・」
「やっとこうしてゆっくり会えたんだ。
・・・なぁ、もっと、充電させて。お前に・・・もっと触れたい」


唇を合わせたまま、和希はそう囁いた。
は小さく頷いてそれに応え、殆ど体を離さずに達はベッドに倒れこむ。
勢いよくベッドに押し倒された割に衝撃が少なかったのは、
和希がを支えてくれていたおかげだろう。
彼は制服のジャケットを脱ぎ捨てて、片手で器用にネクタイを緩めた。
それだけの仕草が妙に卑猥に見えて、思わずは彼から少しだけ視線を逸らす。


「・・・俺さ、お前を抱く時はいつもがっついてて余裕無く見えるよな?ごめん」


再びに覆いかぶさってきた和希が困ったように笑っていった。
その片手が部屋着に着替えたのシャツをゆっくり乱してく。
そしてあっという間にブラを外し終えてしまった。
変な話だけど、相変わらず見事な素早さだ。
長くて骨ばった指がなぞる様に肌を撫で、胸元を揉みしだく。
そうしながら、和希はの首筋に軽く吸い付き、
舌でねっとりとその周辺を辿った。
くすぐったさとは違う感覚が、そこからぞくぞくとの体を駆け巡る。
和希がくれる感触全部にの神経が反応する。
いつも以上に敏感に、彼のひとつひとつの行動に自分でも驚くくらい体が震えた。
彼の手が少しずつの下腹部へと伸びていく。
それだけでこの先の展開を思って待ちわびているようにその中心が疼いた。


「・・・、和希」
・・・」


の声に応えて和希がの名前を呼ぶ。
甘くて低い、優しい声音だ。
ここのとこずっと慌しくて、余り耳にすることの無かった口調。
嬉しくて嬉しくて、は思わず自分から和希にキスをした。




◇◆◇



「・・・、起きてるか?」


二人揃ってベッドで静かに横になり、体の熱も少しずつ収まりかけた頃、
少し遠慮がちに和希がに声を掛けてきた。
寝てるかもしれないと思ってるからか、いつもよりひそひそ声だ。


「うん、何?」
「今日はこのままここに泊まっていってもいいかな?」
「それはいいけど。和希はいいの?また篠宮先輩に怒られるかもだし」


点呼の時にいないとなると、寮長の篠宮にばれた場合、また門限破りだ、
無断外泊だ何だと叱られるんじゃないだろうか。


「ははっ、まぁな。でも・・・明日はどうせ学校も休みだし、
仕事もようやく少し余裕が出来たところだから、
今日はもうこのままお前と一緒に居たいんだよ。駄目か?」
「・・・そ、そんな風に言われてが断るわけないって分かってるくせに」


わざと子供っぽく唇を尖らせて抗議してみせると、和希は小さく笑った。


「ハッキリ聞きたいんだよ」


そう言って、コツンとの額に自分の額を軽くぶつけてくる。
いつも学生を装ってる時とは違う、大人の男の色気を放つ表情をして、
けれどどこか悪戯っぽく和希はまた笑った。


「・・・居て欲しい・・・、このまま、ここに」
「うん、俺もお前と一緒に居たい」


答えた和希がちゅっと音を立てての唇に吸い付く。
恥ずかしさで赤くなりそうな顔を見られたくなくて、は和希の胸に顔を埋めた。
その彼の手が、の髪を優しく撫でる。


「おやすみ、
「・・・おやすみ、和希」


ゆっくり目を閉じて軽く深呼吸をひとつする。
久しぶりに間近にある温かい体温と、和希の匂い。
凄く安心するのに、同じくらいどきどきする。
でも両方とも、同じ気持ちからくる感覚だ。
自分から手を伸ばさなくても和希が居ることが分かる、
そしてから手を伸ばせば確実にそこに彼が居ると分からせてくれる。
この距離が愛しくて仕方ない。


は最後にもう一度だけ深呼吸をした後、静かに眠りに落ちた。


(END)


あとがき
前編に和希出せなかった分糖分詰め込もうとしたら結局微エロ入ってしまいました。
エロと甘は違うって分かってるんですけど、多分糖度もそれなりにある!・・・筈。
和希夢はその内、啓太と和希の絆に苦しむヒロインの話を書きたいんですよね。
恋人同士になる前に確実に通る道だと思うので。
ではでは、毎度ドマイナー上等!な学ヘヴ夢にお付き合い、誠に誠に感謝です!
特に和希夢は成瀬と同じ位少ないと思いますが、楽しんで頂けたなら幸いです。
失礼致します〜^^
Title by 確かに恋だった