啓太の家にお邪魔して5日目の朝が来た。
目が覚めてすぐに隣に居る朋子ちゃんを見ると、彼女はまだ夢の中だった。
少しだけ口を開けてスースー寝息を立ててるその寝顔は啓太とそっくりだ。
は朋子ちゃんを起こさないようにそっと彼女の頭を撫でる。
そういえばここに来てから啓太と二人になった覚えがない。
と言うか、朋子ちゃんが懐いて来てくれるのが嬉しかったのは勿論、
学園を離れて『女の子らしい会話』ができる事が想像以上に楽しくて、
はしゃぎすぎてたかもしれない。
自分ではそこまで意識してなかったけど、は思った以上に女の子独特の話題に飢えてたようだ。
女の子同士で堂々と雑貨やファッションについてきゃいきゃと他愛のない会話をすることが、
日常だった頃は全く気付かなかったけど。
今日は叔父さんも叔母さんも夜遅くなるって言ってたし、
朋子ちゃんも今日のお昼前に家を出て友達の家に一泊する予定だと言ってた。
つまり今日はほぼと啓太だけがこの家に残ることになる。
ここは啓太の実家で、と啓太は従姉弟同士。
付き合ってることは叔父さんや叔母さんにはあくまで秘密だ。
だけど、二人きりになれるのはやっぱり嬉しい。
それから約30分後、朋子ちゃんはいつもより早めに起床した。
昨日の夜は早く今日が来るようにと早めに布団に入っていたけど、
興奮しすぎてたせいで結局すぐには眠れなかったようだ。
それでも今朝は自然と目が覚めたみたいなので、余程今日のお泊りが楽しみだったんだと思う。
それから朋子ちゃんの友達二人が彼女を迎えに来て、元気に家を出て行った。
叔父さんはとっくに出勤してたし、
叔母さんも朋子ちゃんを見送ったすぐ後に昨日聞いてた通り友達と日帰りで温泉に行くってことで家を後にした。
「そっか・・・、今日って朋子がお泊りの日だったんだ。でも母さんまで居なくなっちゃうと思わなかったな」
「結構前から計画してたから啓太には言ってあるって言ってた。
まぁ、多分忘れてるだろうとも言ってたけどね」
「あはは・・・、あ、もしかして昨日の夜、が俺に言いかけたことって、このことだったのか?」
「うん、そう」
二人きりで残った達は居間のソファで寛ぎつつお茶を飲んでいた。
「お昼は作ってあるから、夜は適当に食べてって叔母さんからお金頂いてる」
「え?母さんそんなに遅くなるのか?」
「みたいだね。叔父さんも遅くなるし羽伸ばすってさ」
「そ、そっか・・・。父さんも今日は仕事の後飲んでくるって言ってたもんな。
じゃ、じゃあ・・・その、今日の夜ってもしかして・・・」
すぐ隣に座っているのに啓太の声がどんどん小さくなってくせいで、
最後の方がよく聞き取れない。
は軽く啓太に身を寄せた。
「何?」
「うわあああ!!な、なんでもない!俺はなにも考えてないって!」
悲鳴を上げられた上にえらく過剰反応されて思わずの眉間にしわが寄る。
啓太は顔を真っ赤にしたまま焦った様子でどう取り繕おうかと必死で考えてるようだった。
それをむむっと不審者を見る目で見つめつつ、は少しの間考えた。
残念ながらここで鈍感さを発揮して今の発言を聞き流す可愛さを備えてないは、
啓太が突然おかしな態度を取った理由を理解してしまった。
とは言え、それを口に出せる勇気はない。
だって実はも全く『そんなこと』を考えなかった訳じゃないんだから。
「?」
今度は急にが黙り込んでしまったことを不思議に思ったのか、
がぼんやり考えてる間に落ち着きを取り戻した啓太がこっちを覗き込んでくる。
は慌てて視線を逸らした。
「なんでもない」
「なんでもないって・・・」
「啓太と同じでなにも考えてないから!」
しまった!こんな返事の仕方をしたら、啓太と同じことを考えてたのがバレバレだ。
案の定、一瞬きょとんとした啓太が、そのすぐ後に顔を真っ赤にした。
「え?ええっ!?、お、俺と同じって・・・」
「この話はもうやめよう!そうしよう!今日どこに行くか考えよう、啓太!」
甘ったるい空気が流れようとする一歩手前。
恥ずかしさでそれに耐えられなくなったは、とり合えず得意技、強制的に話題変更を使うことにする。
いつもなら啓太もあわあわしつつ結局の技に飲み込まれてくれるんだけど―――
「!」
「っ!?」
今回は上手くいかなかった。
啓太はの名前を呼んだと同時、突然両肩に手を伸ばしてくる。
その予想以上の力強さと体温の高さに思わずどきりとした。
そして瞬間的に察してしまう。
啓太のスイッチが入りそうになってることを。
「ど、どうしたの?」
「俺・・・、が俺の実家に遊びに来てくれてから、余り近寄り過ぎないようにしてたんだ。
朋子がいつも近くに居たからっていうのはモチロンだし、
俺たちはここではただの従姉弟同士として付き合わなきゃいけないんだって」
「う、うん・・・」
「だからどんなに近寄りたくなってもガマンしてた。
・・・でも俺、朋子が毎晩と一緒に寝てるのが、本当は羨ましくて仕方なかったんだ」
「え?」
「俺、ずっとに触れたくて触れたくて堪らなかった。
それにもっともっと俺に構って欲しかったんだ。・・・なぁ、は平気だったのか?」
今にもを押し倒してしまいそうな位の距離で、熱っぽい視線を送りながら啓太が言った。
間近にある綺麗な瞳が少しだけ潤んでて、こんな時なのに可愛いななんて思ってしまう。
が返事をしなかったのをどう取ったのか、啓太は拗ねたみたいな表情をして見せた。
「ここに来てからキスだってしてないんだぞ。俺はにもっと近寄りたくて、それでもずっとガマンしてたのに、
は違うんだな。俺より全然余裕のある顔してる」
「えっ!?そ、そんなことないけど」
「・・・本当に?」
「うん、本当に」
「それじゃあ・・・、今触ってもいい・・・ってことだよな?」
「う、ん?え?ちょ、ちょっと待っ―――」
ほんの数秒前まで自信のなさげな子犬のような顔をしていたくせに、啓太は一瞬にして狼になった。
と言っても、獰猛で荒々しい肉食獣って感じのやつじゃなくて、
自分の可愛らしさを利用する小悪魔チックなズルいやつだ。
自覚はないんだろうけど、啓太はいつもこうしてを自分のペースに誘い込む。
言葉の途中での唇を塞いだ啓太の唇は決して強引じゃないのに、の抵抗を許さない。
画面越しだと受けのイメージが強かった啓太は、だけど攻めに転じた場合、
あの西園寺でさえ抗えない場面のある相手だ。
この状況でなんかが敵うはずはない。
吸い付くような唇からの口内に舌が入り込み、隅々までを這い回り始めた。
そうしながら、啓太はゆっくりの背中をソファに沈めてしまう。
押し返すつもりだったの手は、無意識に彼の後頭部に回していた。
啓太のキスは上手いのとは多分違うと思う。
それでも溺れずにはいられないのだ。
どこか少しぎこちなくて、優しくて甘ったるいのに遠慮がない。
いつの間にかこっちも夢中になって彼のキスに応えてる。
気が付けば啓太の手はのTシャツを捲って直に肌に触れ、ブラをずり上げる形で膨らみを押しつぶしていた。
啓太の親指と人差し指が胸の先端を転がすように動いて、
その度にくすぐったいような軽く痺れるような感覚がを襲う。
無意識に零れ出る掠れた甘い声が恥ずかしくてたまらないのに止められない。
「はっ・・・ぁっ・・・」
「・・・、可愛い」
「けい太・・・」
「が俺の前でだけ見せてくれる、女の子の顔・・・俺・・・スゴク好きだよ」
いつもと変わらない明るい笑顔。
そのくせ啓太の口調は微かにトーンが低く震えてて、卑猥な湿り気を帯びてる。
男の子の、欲情した声だ。
「啓太、でも・・・ここじゃ、」
「ごめん、俺も分かってるんだ。でもここまで来て・・・もうガマンなんて出来ないよ」
ほんの数秒前。
それこそコンマな世界で狼の表情を見せてたはずの啓太は、一瞬で子犬みたいな顔をする。
そうして、を引きずり込む。
可愛らしい顔して、全然可愛らしくない行為に、その先に。
ここは伊藤家の居間だ。
テレビがあって、ソファがあって、普段は叔母さんや叔父さん、朋子ちゃんも居たりして、
多分、ここの仲のいい家族が揃って団らんするような場所。
そんな所で大好きなあの人たちに秘密でこんなことをしていいはずがない。
頭では十分分かってるのに、啓太のキスが、掌の熱が、の思考回路を乱している。
「啓太、・・・だ、ダメだってっ・・・!今まだお昼、で、っ・・・しかもここは・・・ぁっ・・・」
「、イヤ・・・なのか?」
が嫌がってないことくらいとっくに分かってるくせに、啓太はそんなことを聞いてくる。
が否定するのを知ってて、その答えを待ってる。
きっと無意識に、それでも舌なめずりして待ってる。
「・・・?」
不安そうな啓太の声。
目の前の潤んだ大きな瞳が揺れてる。
ああああああ!!もうううう!!!
「ヤじゃ、ないけど・・・」
結局は否定の言葉を口にするしかない。
啓太が頬を染めたまま、嬉しそうに笑顔を浮かべる。
そしてゆっくりの首筋へと顔を埋めた。
結局啓太の手が、唇が、肌のあちこちに触れるのを止められないまま、
は彼から移されていく熱が、どんどん伝染して更に上昇するのを受け止めるしかない。
嫌なんて、そんなこと、言える訳がない。
だって、啓太を抱きしめたかった、抱きしめて欲しかった。
それなのに、啓太の手を拒むことなんか最初から出来るはずがないのだ。
従兄弟の家にお邪魔して、真昼間のこんな時間からこんな場所で、
なんて形だけの拒絶の言葉は結局啓太の前では無意味で。
「、好きだよ、大好き・・・」
啓太の甘ったるい囁きと小悪魔な笑顔にの全部が奪われる。
そうだった、ここは彼のテリトリー。
そうじゃなくてもが敵わないのは決定事項。
優しくて可愛いくせに、本当にズルイ。
「も、啓太が大好き」
普段は恥ずかしすぎて口に出来ない言葉も、自然と口に出来てしまう。
体も頭もこれ以上になく沸騰してどろどろに溶けてる。
きっとこの後なんだかんだと後悔するくせに、同じ状況になったらに選択肢なんてないのだ。
自分の妹にさえ嫉妬して、子犬と狼、小悪魔と天使の顔を持つの可愛い恋人。
ああ、やっぱり、絶対敵う訳がない。
(END)