「・・・・・・、・・・な、中嶋先輩・・・は・・・絶対ない・・・か」
口をついて出た名前に自分の方が驚いてしまう。
告白される相手としては一番ない人間だ。
あの手のタイプは例え相手に好意を持ったとしても、
自分から積極的に口に出したりしないだろう。
と言うかアイツの場合は違う意味で積極的に行動して、
相手を自分なしじゃいられない位に支配するって感じの方が似合ってる。
実際、啓太との始まりも似たようなものだったし、とのことだって――――
そこで現実に中嶋がに告白するところを一瞬想像してみようとしたけど、
どうしても上手くいかなかった。
正々堂々告白するなんて、それはもう中嶋英明じゃない、別人に違いない。
寧ろ中嶋が万が一、いや、億が一そんなことをしてきたら、
何か特殊な病気にでもかかったんじゃないかと思ってしまう。
それ位になさすぎる。
中嶋が告白と言う表現だけでも不自然さMAXだ。
「ヒデ・・・っておい、よりによってここでその名前はねぇだろ、」
「え?・・・げっ!!」
丹羽の言葉にハッとして七条に視線を向けると、
どす黒いオーラと一緒に笑顔を浮かべてを見ている彼と視線があってしまった。
丹羽がにツッコミを入れたのも無理はない。
既に学園内じゃ周知の事実だけど、
生徒会の副会長・中嶋英明と会計部の七条臣の仲の悪さは並じゃないのだ。
画面越しだと笑い話だけど、実際にあの二人が鉢合わせた現場に居合わせた時の緊張感は半端ない。
あれをまともに止められるのは西園寺位だろうか。
も何度か止めることに成功したことはあるけど、3回に1回位の確率だ。
正直やつらを止める面倒な仕事を引き受けるよりは、
その場から逃走を図る方がよほど精神衛生上ダメージを受けずに済む。
とにかく奴らの仲の悪さはシャレにならない。
それを承知で七条の居るこの場所で中嶋の名前を出すなんて、ホントにはどうかしてる。
は思わず自分の迂闊さを呪った。
◇◆◇
はぁ、と小さな溜息を吐き、
目の前に積まれた他のファイルの山を崩さないようには手元のファイルを机の上に置いた。
取り合えずこれで中嶋に頼まれたファイルの整理作業はひと段落だ。
本当にここはあの暴君で怠惰な王様のせいでいつ来ても仕事が山積みだし、万年人手不足だし、
これで生徒会として機能してんだから驚くしかない。
それもこれも中嶋がそれだけ優秀だからどうにかなってんだろうことは言うまでもないことだけど。
「・・・・・・・・・」
はそこで机を挟んで少し離れた向かいの椅子に座って黙々と仕事をこなしてる中嶋を盗み見た。
いかにも堅物で冷徹そうな端正な顔をした男、生徒会副会長・中嶋英明。
これは多分、この学園の生徒の大半のこの男に対するイメージ。
ももしも以前の世界からの先入観なしで彼を見てたら、
そう言う風にコイツを見てたのかもしれない。
そんなこと、今じゃ想像もつかないけど。
にとってコイツは今も昔も鬼畜ドS眼鏡だ。
まさかが身をもってその事実を刻み付けられるようなことになるなんて思いもしなかったけど。
そう、実はは、中嶋と付き合ってる。
――――んだと思う。
なんて、曖昧な表現になってしまうのは、
も中嶋もどっちもお互いに『告白』なんてものをしてないせいだ。
そのくせ、なんと言うか、不本意ながらやることはやってる感じで。
正直、達の始まりは殆ど中嶋から力づくで押し倒され、
殆ど抵抗出来ないまま終わったと言う最低なものだった。
アイツはが女なんじゃないかと薄々勘付いてたらしく、
半分はそれを確かめるためだったらしいけど、
それにしたってあんなやり方は酷すぎる。
それでも最低だ鬼畜変態サド野郎と罵りつつ、最終的には中嶋を受け入れた。
つまり、悔しいなんて言葉じゃ足りない位に気に食わないけど、
は中嶋を好きになってしまってた訳だ。
って男の趣味サイテーなんだ・・・。
そう思ってなきゃやってられない。
確かに外見は文句の付けようのない完璧さだし、頭脳明晰、
スポーツ万能ってやつだし、
しかも喧嘩にも強いと言う二次元男子ばりばりな奴で、実際にとっては最高の『キャラ』だった。
でも鬼畜なドS野郎なんて、どう考えてもどんなにトチ狂っても現実に恋人にするには、避けるべき相手のはずだ。
それが―――――
って男の趣味サイテーなんだ!
もう一度、は自分の頭の中で同じ言葉を繰り返す。
いつだって、人のことを弄んで面白がってるようにしか見えない男なのに。
あの低く囁くような声と眼鏡の奥の瞳に対抗するには、
の経験値じゃ張り合えるレベルじゃ全くない。
キスも、それ以上のことも、仕掛けてこられたら最後、行き着くところまで行き着かないと終わらなくて、
気付いたら溺れてるのはこっちだなんて、本当に笑えないと思う。
いつだって今日こそそうはさせんぞと身構えてるのに、
がそれを阻止できたことなんかただの一度もないのだ。
『形だけの抵抗でプライドを守るのがそんなに大事か?
・・・もっと素直になれ、欲望のままに、俺を・・・求めてみろ』
・・・っ!いやいやいやいや、な、何を考えてるんだ・・・!
不意にフラッシュバックしそうになったそのワンシーンにはハッとする。
余計なことばっかり考えてないで、そろそろ寮に戻るべきかもしれない。
生徒会室とはいえ、二人っきりで居るから妙なことばかり考えるんだ。
落ち着け自分と言い聞かせる。
とにかくとっととこの場から離れるのが得策だ。
が彼に頼まれた仕事はきっちりこなしたんだから。
「おい」
「っ!?え?何ですか?」
「それはこちらの台詞だ。何を人の顔をじろじろ見ている」
ぎくり。
中嶋の台詞に思わずの体がぎこちない動きで震えた。
最初のころはちらりと盗み見る程度にしてたはずの視線が、
いつの間にかの目はしっかりアイツの顔に固定されてしまってたらしい。
は慌てていい訳を探す。
「べ、別に、ただちょっと考え事をしてて。そっちに目がいったのはたまたまですよ」
「ふぅん、たまたま・・・ね」
言った中嶋が静かに椅子から立ち上がった。
それと同時に瞬間的にの中の警報が鳴り始め、は思わず身構る。
はいつの間にか中嶋に関してのこの手の危険信号はかなり早い段階で分かるようになってしまっていた。
コイツと付き合ってく上では必要な特技だけど、複雑な感じだ。
「それにしては随分物欲しそうな目で俺を見ていたな?」
「なっ!ま、またそう言う・・・!そんな表現止めて下さいよ!」
「何を考えていたのか言ってみろ」
そう口にしながら中嶋がの方へと近づいてくる。
特に足早という訳じゃないのに、それどころかどちらかというとゆっくりとした歩調に見えるのに、
その中嶋の動きにはいやにびくびくとしてしまった。
本当に、この男は変に鋭くていやになる。
の顔に出やすいとしても、その詳しい内容まで見透かされた気分になるなんて絶対におかしい。
「・・・中嶋先輩には関係のない・・・、く、下らないこと、です」
「ほぅ?だったら口に出したところで差し障りはないな?」
こっ、コイツ、無理やりにでも言わせるつもりだ。
本当に性格の悪い男。
「・・・昨日、会計室で皆で話した時の話・・・ですよ」
子供っぽいと思いつつも、拗ねたような不機嫌な声では答える。
苦し紛れに思いついたことだけど、中嶋の望み通りのことなんか言ってやらない。
は素直な啓太と違って捻くれてるんだから。
ふと気付けば、いつの間にか中嶋はの椅子のすぐ横に立ってを見下ろしていた。
「・・・あぁ、そう言えば丹羽の奴がそんな話をしていたな」
「え?」
丹羽は自分が仕事をサボって逃げ込んだ先の話までしてるのか。
何やってんだ、あの男も。
「アイツの下らない質問に、お前は随分と興味深い返事をしたようだな?」
「はっ!?」
中嶋のその言葉には咄嗟に間抜けな声を上げた。
そうだった。
迂闊だった。
いや、迂闊なんてもんじゃない、馬鹿だ、は。
会計室での話題と言ったら、だって真っ先にその話を思い浮かべる。
例え中嶋が会計室での会話内容を詳しく知らなかったにしろ、
この男相手に少しでもあの話を知られるかもしれないような真似するなんて、
アホじゃないだろうか。
見上げた先にある眼鏡の奥の中嶋の瞳は、いかにも楽しそうに哂っていた。
最悪だ。
丹羽の奴!!!!
丹羽の奴!!!!!
丹羽の奴めえええええ!!!!
の椅子の隣に立った中嶋が、の耳元に唇を寄せて屈みこんで来た。
わざわざそんな体勢にならなくても自分の声が聞こえるのは分かってるくせに、
アイツはわざと吐息を吹きかけるような低い声での名前を呼んだ。
「・・・」
「な、何ですか?」
「お前は、好意を告げられて『絶対に』拒絶するような相手の手で、
あんなに激しく乱れるのか?
もしもそうならば・・・お前は自分が思っているよりもずっと淫乱な女だと言う事だな」
「っっっ!!!」
ガタン!
ねっとりと直に鼓膜を震わせるような口調でそう言われ、
は反射的に机に両手をついて立ち上がった。
中嶋はそのタイミングを狙っていたみたいにの腰に素早く腕を回し、
を背後から抱きしめるような形にして自分の方へ引き寄せる。
「っちょ!?」
「ここのところ随分色んな奴から誘いをかけられて断っているようだが、
ソイツらに同じように触れられても、お前はあんなに感じるのか?」
「〜っ〜っ〜っ!!!!!」
どうしてっ!!このっ、こんのっ!!この男は!!
何をするにもこう鬼畜ワード、卑猥ワードを武器にしてくるんだろう!?
こうしてを辱めるようなことを言って、
それでがムカっぱらを立てるのをみるのが楽しんだろうか。
きっと楽しいんだろう。
相手はあの中嶋英明だ。
を恥ずかしがらせたり、
怒らせたりするのなんて、きっとコイツにとっては凄く簡単なことで。
そこで中嶋のあの長く真っ赤な舌がの耳朶をぬるりと這う感触がして、
はぞくりと身を震わせた。
同時に、熱くて湿った吐息が耳の奥に吹きかかる。
「ちっ、違うっ!が、絶対ないって言ったのはっ・・・!」
身を捩って逃げようとしたけど、それが無駄な抵抗に終わるのは最初から分かってる。
後ろからの体に回された中嶋の腕はまるで鋼みたいにがっちり動かなかった。
しかも、片腕だけでの動きを完全に封じながら、
空いた片手で器用にの制服のジャケットのボタンを外していく。
それは驚くほど自然に、だけどあっという間の出来事だった。
「・・・」
「っ、中嶋先輩っ、やめっ!」
何でこの男はこの手のことにこんなに神業みたいな速さと優雅さを身に着けてるんだ。
それは彼が中嶋英明だからだと言えば全てがその理由になるのがいやだ。
とにかくがじたばたと抵抗にもならない抵抗を試みている間に、
ジャケットのボタンどころか上下の制服は見事に乱されてしまってた。
気付けば背後からブラを強引に上にズラされ、胸を揉みしだかれてる。
の胸のふくらみを中嶋の長い指がこねるような形で動いているのが分かった。
胸の先端を摘んだ指先がそこをこりこりと転がし始め、
無意識にの声が掠れる。
「あっ、・・・っ」
「、お前は最初から、本当に俺に抵抗する意思などなかった・・・。
でなければ、あんなに物欲しそうな目で俺を見ているはずがない」
「・・・はっ・・・」
「クックック・・・、もっと素直に俺に身を委ねてみろ」
は机に両腕をつき、その場にへたり込みそうになるのをどうにか堪えた。
その間に腰に回されていた中嶋の手が、既にベルトが外され、
チャックを下ろされて無防備になった下腹部に伸びていく。
「ちがっ・・・!」
内腿を撫でるその手の動きが余りにもいやらしくて、それだけで息が上がる。
今まで何度も中嶋に触れられてきたことで、
自分でも驚く位にアイツの手や言葉に体が過剰反応を示すのが分かった。
まるで、次どうされるのか期待してるみたいな自分の体に腹が立つ。
一見体温なんてないんじゃないかと思える骨ばった中嶋の指は、
予想以上の熱を持ってて、それが余計にの奥にある何かを呼び覚ます。
胸の膨らみ辺りにある掌も、未だに容赦なく動いてて、
無意識に上がりそうになる甘ったるい声をは必死でこらえた。
内腿から少しずつ移動した中嶋の指が下着越しに無防備な一点を押し込むように動き、
粘着質な水音がいやに大きくの耳に響く。
それ位に分かりやすく反応してしまってる自分自身の体に泣きたくなった。
「ここを・・・俺に触って欲しくて仕方なかったんじゃないのか?予想以上に濡れているぞ。
まるで俺のものを待ちわびているようにな・・・」
「あっ・・・、あんたがっ・・・!そんな、だから!は・・・!」
「何だ?」
くくっ、と。
耳元であのどぐされ眼鏡が喉の奥で笑ったのが分かる。
本当に、の男の趣味は最低中の最低だ。
こんなことをされて、こんな扱いを受けて、それでも嫌いになれないなんて。
は自分ではMっ気なんてないと思ってたけど、そう信じたかったけど、
もうこれはそれを否定できないかもしれない。
「が、絶対・・・ないって、言ったのは・・・!
あんたから・・・告白されるとか・・・ない!って意味・・・だったの・・・!」
「・・・・・・・・・」
その時、ほんの一瞬だけ中嶋の攻め手が緩んだ。
はその隙を突いて、ぐるんと体を反転させ、中嶋と向き合う。
制服が乱れまくって凄い格好だったけど、もう今はそれを気にする余裕はなかった。
「の気持ち、馬鹿にしないでください。
・・・は、す、・・・好きでもない人と、そんな、何度も・・・こっこんなことしないし!!」
確かに最初は無理やりに近いものがあったけど、
それ以降はからだって中嶋の所に来てた。
正直、何度この人のことを頭の中で罵ったか分からない。
というか、多分、口に出してたことも少なくないと思う。
それでも完全に生徒会と縁を切って離れなかったのは、
どんなに不本意だろうがが中嶋のことを好きだったからだ。
「・・・」
「・・・っ」
名前を呼ばれたと同時に、中嶋はにキスをした。
甘ったるくて蕩けるような感覚とは違う、
何だか痛みさえ覚えるような濃厚でねっとりとしたキス。
二人分の吐息と熱が混ざり合って、お互いの喉を焦がしてく。
絡んだ舌と舌から、溶け合った唾液から、ちゅくりくちゅりと水音が響いた。
「忘れるな、・・・。言葉などなくとも、お前を手に入れたのはこの俺だ」
「・・・・、先輩こそ、忘れないでください・・・」
「何だ?」
「が中嶋先輩のものってだけじゃない、中嶋先輩だってのものだってこと」
「・・・ふっ」
の言葉に小さく笑って応えた中嶋は、眼鏡を取ってそれを制服のポケットにしまうと、
再びの腰を強く抱き寄せた。
長い足がの太ももを割って絡められてくる。
今日二度目のキスは、さっきと同じくらいに濃厚なのに、眩暈がするくらいに優しくて甘くて。
って男の趣味サイテーなんだ。
だけど中嶋も女の趣味はいいとはいえない。
だったら、これで十分、釣り合っている。
は不覚にも、中嶋先輩を好きになったことに、幸せを感じずにはいられなかった。
(END)