「・・・、じゃあ・・・和希とか」
真っ先に思い浮かんだ顔はすぐ傍で一緒にお茶を飲んでる和希だった。
そのことに少しだけ自分で驚く。
いや、本当は理由は分かってる。
でもまさかそれを口にしてしまうことになるとは思わなかった。
ここはあくまでも軽いノリだってのを強調しとくべきだろうか。
の気持ちが少しでも本人に気付かれない為に。
「遠藤かよ!」
「おや?会長は誰だと思ってたんですか?
もしかして君からのご指名を期待してたんですか?」
「なっ、・・・いや、まぁな!郁ちゃんみたいに美人やみたいな可愛いコなら、
男でも名前出されりゃやっぱ嬉しいだろ」
「そこで私を引き合いに出すな、鬱陶しい」
の内心などお構いなしに、元凶である丹羽は何やら七条や西園寺と楽しげに会話してる。
やっぱその程度のノリだったんだとホッとしつつ、和希に視線を向けると、
彼も苦笑を浮かべて口を開いた。
「っていうか、、じゃあって何だよ?仕方なく選んだみたいな言い方だったよな」
「・・・と、取り合えず誰か選ばないとって空気だったから、つい、さ」
そんなに深い意味はないんだぞという口調では返事をする。
本当は、自分で思った以上に本音で名前を口にしてしまってたんだけど、
それを和希に悟られる訳にはいかない。
和希はを啓太と同じ位大事にしてくれてるけど、
それはあくまでも『妹』的存在としてだと分かってる。
遠藤和希が伊藤啓太をどれほど特別視してたかなんて、『プレイヤー』としてのも、
この世界で彼らと生活してる今のも、十分理解してるんだから。
女として、恋愛対象として見て欲しいなんて、言える訳がなかった。
◇◆◇
今日は丹羽の思い付きの質問のせいで何だかあの後も一人であれこれ考えて落ち込んでしまった。
普段からと啓太、和希は三人一緒にいることが多い。
だからこそ、こういうことは余り考えないようにしてた。
毎日、小さなことで一人でちくちく胸を痛めて落ち込んで、
そのせいで彼らに心配かけたりなんかしたらそれこそ遣る瀬無い。
勿論いつも平気なふりが出来てる自信なんか全くないけど、
今回はあんな形で自分の気持ちを口にしたことで自己嫌悪に陥ってしまった。
幸い和希は全く気にしてなかったみたいだけど。
いや、本当はそのことにも傷付いてる。
軽いノリに見せようと努力しようとさえしたくせに、
本気で全然気にされないと落ち込むなんても大概勝手だ。
コンコン。
早めの食を学食で済ませ、
部屋に備え付けのシャワーを浴びてまたしてもぼんやりと会計室での出来事のことを考えてると、
突然誰かがの部屋のドアをノックした。
ベッドの前に座り込んでいたは慌ててそこで立ち上がる。
風呂上りの上に部屋から出る予定もなかったので、上は長袖Tシャツ一枚という格好だった。
何か羽織るべきかと考えたところで、ドアの向こうから聞き覚えのある声がした。
「、俺だけど」
「・・・和希?」
今日は理事長職の仕事があるからと言ってたから、
まさか和希がの部屋を尋ねてくるとは思わなかった。
足早に部屋のドアまで近付いて、それをゆっくり開く。
廊下には微かに笑顔を浮かべた和希が立っていた。
「和希、どうしたの?今日、理・・・、用事、あるんじゃなかった?」
周りには特に他の生徒も見当たらなかったけど、念の為ぼかした表現を使う。
和希は少しだけ声を落として返事をした。
「優秀な秘書のおかげで予想以上に早く仕事が片付いてね。
、・・・少し、部屋に入ってもいい?」
「あ、うん。どうぞ」
言って、は部屋のドアを大きく開いて和希を室内に招き入れる。
そこで一瞬自分が結局何も羽織らずにTシャツ一枚だってことを思い出した。
「?どうした?」
「あ、ううん、何でもない」
今からでも何か上から着るべきかとも思ったけど、
室内の温度は適温だし、特に寒さを感じてる訳じゃない。
何より、和希はの格好なんて特に気にも留めてないみたいだった。
何だかそれが癪に障って、自分だけ意識してるんだと思い知らされてる気がした。
「で?何か用事?」
一人で感じた苛々は取り合えず一旦気付かなかったふりをして、
は和希に訊ねる。
彼は笑顔を浮かべて頷いてから、片手に持っていた紙袋を軽く掲げて見せた。
「この間、俺が作ってるくまのぬいぐるみを熱心に見てたよな?」
和希が手芸が得意で、特にくまのぬいぐるみがゲーム内で印象的な使われ方をしてたことは、
プレイヤーなら誰でも知ってると思う。
数週間前に和希が自分が作った作品を見せてくれたときも、
くまのぬいぐるみがあって、はそれを妙に感激して見た覚えがあった。
「あ、うん。え?もしかしてその袋の中身って・・・」
がそう言って和希の持ってる紙袋を指差すと、
彼はがさごそとその中に手を入れた。
そして、ピンク色を基調にした布で出来たパッチワークの可愛らしいくまのぬいぐるみを取り出す。
「昨日出来上がったんだ。お前が気に入るといいんだけどな」
「え?これ、くれるってこと?本当に!?」
「あぁ、その為に持ってきたんだ」
は和希が笑顔で差し出してきたそのぬいぐるみにゆっくりと手を伸ばした。
一応男子生徒であるの部屋に置くにしては余りにも可愛らしすぎるくまのぬいぐるみ。
だけど実はこういった女の子らしいものに飢えてた部分があるのも本音で、
何より、忙しい合間をぬってまでこれを作ってくれた和希の気持ちがスゴク嬉しかった。
「嬉しい、ありがと、和希。大事にする」
満面の笑みを浮かべて、らしくないと自覚しつつ、
くまのぬいぐるみにキスする真似をしてからは和希にお礼を言った。
和希も満足げに笑顔を浮かべて応えてくれる。
だけど不意にそこで彼はその笑みをふっと消し、の顔をじっと見つめた。
その目が何だか妙に真剣で、内心どきりとしてしまう。
は動揺してるのを悟られないよう努力しながら、和希に訊ねた。
「どうしたの?」
「・・・、俺は・・・」
言いかけて、和希は少しだけ躊躇するように言葉を切った。
それから一歩、に近付く。
元々そう離れてない距離が縮んで、反射的にどくんとの胸の奥が跳ねた。
だけど特に和希から離れようと思えなくて、はそのまま彼を見上げる。
「今日の会計室での王様の質問のことだけどさ」
「えっ!?あ、ああ、うん」
まさかここでそのことを持ち出されると思わず、は少し驚いて頷いた。
二人きりの状態でこの距離で、その話題は何だか気まずい。
そう思ってるのはだけかもしれないけど、胸の鼓動が速度を増した。
「俺の名前を出したのは、やっぱり俺を安全パイだと思ってるからか?」
そう言った和希の口調は珍しく不機嫌で、何だか少しだけ苛立ちを含んでるみたいだった。
はどう答えるべきか、と言うよりは何といい訳するべきかを咄嗟に考える。
下手なことを言って、自分の気持ちを知られるのは、この先達の関係に支障を来たしかねないから。
いや、和希は大人だから、きっとの気持ちを知っても今まで通りで居てくれるかもしれない。
でも、そんな状態はの方が耐えられなくなる。
とにかくが和希を好きだってことは隠し通した方がいい。
差し障りない言葉で、怪しまれないように、だけどそんな気の利いた台詞、全くには思い浮かばない。
内心一人で慌てていると、が口を開くより先に、和希が再度、続けた。
「・・・俺がお前にとって兄貴としての存在でしかなくて、
あの場を逃げ切るのに丁度良かったから名前を出したのか?」
「そ、それは・・・えーっと・・・」
うん、そうだよ。
なんて返せる雰囲気じゃなかった。
実際違うってのは勿論だけど、和希の言葉に乗って誤魔化すことを考えることも許されない空気。
何だろう、いつもの和希じゃない気がする。
そこで突然、彼はまたとの距離を縮め、の肩に手を触れた。
「っ?和希?」
「風呂上りのそんな格好で・・・二人きりになっても、何も起きないんだと思う位に、
俺はお前にとって『対象外』なんだな・・・」
いつもの穏やかで爽やかさの含まれた口調とは違う、低い声。
和希の台詞では自分がノーブラにTシャツ一枚だと言う際どい状態なんだと思い出した。
和希は全く気にした様子がないように見えたのに、
今更ながら自分の行動の恥ずかしさを思い知らされた気分だった。
でもそれ以上に彼の言葉の意味がよく飲み込めないことに混乱してた。
「・・・た、対象外・・・なのは、の方だし・・・」
「え?」
ああ、ヤバイ。
この先は言わないほうがいいに決まってる。
そう思ったけど、分かってたけど、気付けばは既にその先を口にしてた。
「和希にとって、は妹みたいなもんで、
だから・・・こんな格好してても全然普通なんだって・・・」
自分で言ってて泣きたくなる。
今の目の前に居る和希が啓太のことを恋愛対象にしてるのかまでは、
本当はハッキリ分からない。
だけど彼は遠藤和希だ、だったら確実に伊藤啓太に惹かれるに決まってる。
二人にはそれだけの絆も理由もあるから。
はそれをイヤってほど思い知らされてるから。
「本気でそう思ってるのか?俺が・・・こんな状況でもお前の傍に居て平気だって」
「・・・思ってる、実際そうだし」
「、お前は全然分かってないよ」
「・・・なっ!だって・・・、・・・っ!!??」
どこか呆れてるような口調で和希に言われ、
は思わずムカっとして反論しようとした。
だけど、その瞬間、唐突に和希がの肩に置いたままだった手での体を自分の方へ引き寄せる。
驚いて反射的に身を引きかけたの首筋。
屈みこんで来た和希がそこに唇を押し当てる。
同時に和希の香りがを包み込み、首もとの肌にやわらかな唇の感触が伝わってきた。
それに反応してびくりと大げさに震えた瞬間、の手から和希がくれたくまのぬいぐるみが床に落下する。
「っ、か、和希!?」
「俺はとっくに・・・お前を女としてしか見てなかったんだ。
俺は本当はずっとお前に触れたくて堪らなかった。だけどこれでも俺はお前より年上だから、
怖がらせないように我慢してた」
和希が口を開いて喋るたび、熱く湿った吐息がの首筋の肌を撫でてく。
肩にある彼の手がゆっくりその周辺を移動した。
ただそれだけなのに、妙にいやらしい手付きに見える。
薄いTシャツの布越しに、和希の掌の温度を感じた。
「う、うそだ・・・・」
「?」
「だって、だって和希は・・・和希が好きなのは、啓太・・・でしょ」
そうだ。
だから和希がに触れたいと思ってたなんて有りえるはずがない。
ここはベルリバティスクール。
何度も言うけどBL学園。
伊藤啓太がこの学園で愛されないなんて有り得ない。
怖い人も有名人も。
そして誰より、遠藤和希がどれ程の想いで彼を見守ってたかなんて、
ここに来るずいぶん前からは知ってる。
ここに来てからだって――――――――――
「・・・啓太のことは大事だよ、アイツのことも、
この先もずっと守ってやりたいと思ってる」
「・・・うん」
「正直に言えば、お前が居なかったら俺はアイツに惹かれてたかもしれない。
こんな言い方をしたら、卑怯かな。
でも、俺が本音を口にしないと、お前は信じてくれないだろうからな」
そう言った和希が、至近距離からの瞳をじっと見下ろす。
その目が嘘をついてないことを証明するみたいに、の視線を捉えて離さない。
はやっぱり混乱してて、和希の言葉を上手く理解できなかった。
「俺はが好きだよ」
「・・・え?」
「俺はが好きだ」
思わず呆然と問い返したに、和希はハッキリと繰り返した。
は瞬間的に頭の中でそれをリピートしまくる。
そしてそれが10回目に達したとき、震える声でもう一度それを確認した。
「和希は・・・が、好き・・・」
「あぁ、やっと分かってくれたんだな」
そう言ってホッとした様子で和希が柔らかく笑う。
だけど、は突然の急展開に全く頭がついていってなかった。
もしかしてこれはの妄想が生み出した産物で、
つまりは夢ってやつかもしれないとまで考える。
ぐるんぐるんと一人、脳内パニックを起こしていると、和希がの唇に自分の唇を重ねてきた。
「んっ・・・!?」
やわらかく押し付けられただけのキスは、
和希がの唇を割って舌を差し入れたことであっという間に深くなった。
未だに衝撃過ぎる告白の余韻に浸っている、と言うか溺れていたは、
更に混乱し、反射的に硬直した。
和希はまるでそれをあやすみたいにのわき腹や背中に掌を這わせていく。
口内に入り込んだ和希の舌がねっとりと歯茎や歯列をなぞった。
ぬるくとろりとした二人分の唾液が混ざり合い始める。
「・・・はっ、・・・か、和希・・・」
キスの合間に名前を呼んで、は少し待ってくれと言う意思を伝えようとする。
和希は至近距離でを見つめながら、下唇を甘く食んだ後、囁くように口を開いた。
「俺とのキスはイヤ?・・・俺に触れて欲しくない?」
「・・・い、嫌じゃない・・・っ、」
けど、ちょっと待って。
続けようとしたところで、和希の唇がまたの唇を塞ぐ。
なんてことだ。
はキスひとつで足元がふらつきそうなほどになってしまってる。
彼の手がの腰を支えるように動き、同時に空いた片手が胸元に移動した。
「っ」
Tシャツの生地越しに下から持ち上げるように胸の膨らみを揉まれ、
はびくりと体を震えさせた。
薄い布越しに和希の長い指にそっての胸が形を変えてるのが分かる。
Tシャツで胸の先端が擦れて、それだけで何ともいえない感覚が走る。
は自分でも信じられないくらい興奮し始めていた。
「か、かず、ま、待っ・・・」
震える声でどうにかそう口に出しはするものの、全然言葉になってない。
「、嫌じゃないなら・・・、もっと俺に触れさせて。
さっき言ったと思うけど、俺、かなり我慢してたんだぞ?」
「・・・っ!」
熱と欲を含んだ和希の瞳と口調は、そのことを隠す様子なんて全くなく、
は思わず息を呑んだ。
和希は普段、見事なくらいに『学生』をやってのけてるけど、
今は違う、今は、完璧に『大人の男』に戻っている。
彼の仕草ひとつひとつに、色気ってやつを感じずには居られない。
「・・・」
そう甘さを含んだ声で低くの名前を呼んだ和希は、Tシャツの上からの胸の先端を口に含んだ。
同時にの体がまたびくんと波打つ。
さっき上から胸を揉まれた時と同じか、それ以上に、体の芯が反応していた。
無意識に自分が小刻みに震えてるのが分かる。
少しずつ、だけど確実に体温が上昇して、呼吸が乱れていく。
生地越しに和希の舌の感触が伝わり、同時に彼の唾液がゆっくりの胸の先端を濡らした。
「もっと俺に、お前を感じさせて?」
甘く掠れたその一言で、は結局抵抗する気力を根こそぎ奪われた。
するい。
ずるい。
こんなのはずるすぎる。
みたいな小娘が、大人の男に敵うはずないじゃないか。
もうとっくに足腰立たなくなって、逃げ場なんてどこにもない。
最初から逃げるつもりなんてなかったし、を好きなんだと告白されたあの瞬間から、
の答えなんてひとつしかなかったんだから。
その時ふと、足元に落ちたままのくまのぬいぐるみと目が合った。
は思わず、心の中でごめんと一言くまに謝る。
それから自分からゆっくりTシャツを脱ぐと、両手を和希の背中に回した。
「・・・和希、好き・・・」
(END)