突然ラブコメ!?

「七条って言ったらやっぱ驚くよな」


と言うか寧ろ七条の驚く顔は見てみたいかもしれない。
会計の二人はの性別を知ってるから、変に気を使わずに居られて、
最近は特にここに顔を出す事が多い。
そのせいもあって七条とは結構仲良くなったんだけど、
未だにコイツの胡散臭い笑顔には慣れないし、食えない奴だって印象は益々深まるばかりだ。
何と言うか、画面越しに見てた時よりもリアルに接してる分更にそんな感じ。
の一言で、しかもこんな下らないネタみたいな話題で、
彼が動揺するとも思えないけど、少し興味が湧いた。


「・・・僕、ですか?」


ちらちらと七条に視線を向けると、意外なことに、彼は本気で驚いた様子で瞳を微かに見開いていた。
そのことにまで驚いてしまう。


「驚くと言うよりは呆れるな。臣なんて、趣味が悪過ぎるだろう」
「ふっ、郁は酷いことを言いますね」
「事実だ」
「七条ってのはちょっと予想外だったな。遠藤か啓太のどっちかの名前出すかと思ってたぜ」


勝手なことをのたまいながら、丹羽がつまらなさげにぼりぼりと頭を掻く。
は七条に気付かれない程度にまた彼の表情を観察した。
馬鹿みたいだと分かってるけど、今の言葉で少しでも七条が動揺したんだと思うと、
何だか少し嬉しいと思ってしまう。
でもその理由がいまいち自分でも分からない。
またちらっと七条に視線を向けると、絶妙のタイミングで彼がこっちに瞳を向けてて、
思い切り視線がかち合ってしまった。
にこり。
その瞬間に七条が微笑む。
いつも浮かべる、そしてついさっきまで浮かべてた胡散臭い笑顔とは何だか違う表情。
その違いが何なのかは分からないけど、咄嗟にどんな顔をしていいのか分からず、
は慌てて七条から視線を外した。
いかん、いかん、大げさに動揺しすぎてる。
これは単なる冗談、ネタみたいなものだ。
それなのに、一人で慌てて焦ってばかみたいだ。
そう思ってるのに、それから別の話題に移った後も、は暫くの間七条の顔をまともに見られないままだった。



◇◆◇



「父の部下から連絡があった。急な話だが、どうやら私が出て行かねばならないようだ。
私はこれから一度寮に戻る。臣、お前はどうする?」
「僕はここを片付けて海野先生にこの間のファイルを渡してから戻ります」
「そうか、、お前も私と一緒に戻るか?」
「あ、ううん、も片付け手伝ってから帰る」


咄嗟にそう返事をした瞬間。
はその後すぐに激しくそのことを後悔した。
啓太と和希が半ば強引に王様に連れられて生徒会室に向かった今、西園寺が居なくなってしまうと、
必然的には七条と二人きりになってしまう。
丹羽の妙な質問のせいで、一方的とは言え気まずい気分なのに、
何故は自ら二人きりになるような真似をしてしまったのか。


いやいやいや、今ならまだ間に合う。
言え、、やっぱり西園寺と一緒に帰るって。


だけどいつもお茶を淹れて貰ってお茶菓子までご馳走になって、
後片付けもしないでさっさと帰るなんて余りに頂けない。
七条も西園寺も気にしないかもしれないが、
それに一旦片づけを引き受けといてそれをまた止めるというのもどうだと思う。
まぁそんな訳で、結局私は一足先に寮に戻るという西園寺を見送って、
七条と一緒に会計室に留まったのだった。


「あー・・・、えっと、七条、ここは私がやっとくから、
七条は先に海野先生の所に行って用事済ませて来ていいよ?
あ、ティーセット割ったりしないから大丈夫」
「ふふっ、そんな心配はしていませんよ。
ですが、わざわざ残って下さって有難うございます、君。
本当は僕が一人でやるべきことなのに」
「ううん、いつも美味しいお茶飲ませてもらってるしね、こっちこそありがと。
で、・・・行ってくる?」
「そうですね、では、今回はお言葉に甘えてここはお任せします」


何かちょっと七条を追い出してるみたいな口調になってしまったかも、
と、は少し心配したものの、彼は特に気にした様子もなく笑顔で言った。
は内心ホッとしながら頷く。


「うん、じゃあ片付けとく」
「はい、ありがとうございます。では行ってきますね、君。
あ、寮に戻る時は僕が君を送っていくつもりなので、少しここで待っていて下さい」
「・・・えっ!?」
「どうしましたか?」
「う、ううん、・・・オッケ、了解・・・。いってらっしゃい」
「はい、行ってきます」


の返事にいつもの笑顔を浮かべ、七条はファイルを手にして海野先生の所に向かった。
は慎重かつ手早くティーセットを片付ける。
そうしながら、またしてもここに残ったことを後悔してた。
七条が海野先生との用事を済ます間に片づけを終わらせれば二人だけになる時間はそうないと思ってホッとしたけど、一緒に帰るとなると話は別だ。
ここから寮まではそう距離はないけれど、それでも何だか落ち着かない。
だけどさっきからあの『ネタ』を気にして気まずくなってるのはどう見てもだけで、
七条は全然そんな素振りは見せてない訳だし、も必要以上に気にしないのが一番だろう。
そうだそうだと自分に言い聞かせ、は速やかに片づけを終わらせ、
ソファに座って七条が戻るのを待つことにした。



◇◆◇



「・・・くん、・・・君・・・君」
「ん、うぅー?」
「起きて下さい、君」


やわらかく穏やかな心地よい声がを呼んでる。
ふわふわとした温もりと妙に安心できる香りに包まれる中、そのことに気付いて数秒。
最初はそれが誰なのか分らなかった。
と言うか、自分がいつの間にか眠ってたことにも気付いてなくて、
その誰かがの肩に触れて揺り動かしてることに気付くのにも少し時間がかかってしまった。
そして、ようやく瞼をうっすらと開け、視界にぼんやりと相手の姿を捉えたとき、
はそこで慌てて自分が転寝してしまったことに気付いた。


「しっ七条!?」


予想以上の至近距離からを覗き込んでいる七条に、目を覚まして早々驚いて声を上げる。
しかも最初は確かに座ってたはずなのに、
いつの間にかソファに横になってことには更に慌てた。
すぐに勢いよく体を起こして七条を見上げる。
だけど彼はそんなの反応にはお構いなしで、
いつものにっこりとした胡散臭さ満点の笑顔を浮かべた。


「はい、おはようございます、君」
「・・・お、おはようございマス。・・・ご、ごめん、寝てたね」



「いえいえ、おかげで僕は君の寝顔と言う貴重なものを見られました。
君の寝顔はいつもより少し幼く見えますね、とても可愛かったですよ」


にっこり。
再び例の一見穏やかで優しげな笑顔を浮かべる七条。
はその言葉に思わずぎゃああと悲鳴を上げずにはいられなかった。
更に、不意に目に入った窓の外が思った以上に暗くなってて、は慌ててまた七条を見る。


「って、外暗いんですけど!?えっ!?どの位寝てた!?」
「そうですね、僕がここに戻った時にはもう眠ってしまっていましたから、
その時から考えても一時間ほどは経ってるんじゃないでしょうか」
「えええええ!!??」


一時間。
つまりその間は七条に間抜けな寝顔を晒してたという事か。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
反射的によだれを垂らしたりしてなかったことを確認してホッとしたけど、
問題はそうじゃなく。


「どうしましたか?君。大きな声を出して」
「いやいやいや、起こそうよ!」
「はい、僕としては本当はもう少し君の寝顔を見て居たかったんですが、
これ以上遅くなっては君も困るんじゃないかと思って、起こしちゃいました」
「いやいやいやいや!そうじゃなくて、もっと早くって意味で!」
「ああ、そう言う意味そうですか、それはすみませんでした、君」


のツッコミもものともせず、七条は笑顔を崩さない。
間違いない。
コイツ、絶対が言ってる意味に最初から気付いてた。


「はぁ・・・。ううん、いい、元はと言えばが転寝したのが悪かっ・・・」


言いかけたところで、
はそこでようやく自分の上にかけられていた制服の上着に気付いた。
そしては再度、七条を見上げる。
案の定、彼は上着を着てない。


「七条・・・上着・・・、ありが・・・げ、しわになってるし!・・・ご、ごめん」
「ふふっ」
「七条?」


上着をしわくちゃにされて何故笑えるんだろう。
相変わらずよく分らない。


「いえ、そのしわは君が僕の上着を抱きしめて寝ていたから出来たものなんですよ」
「・・・え?・・・えええっ!?」


うわ、うわ、うわああああ!
なにそれ、恥ずかしすぎるんだけど!!


「ご、ごめん、取りあえずアイロンかけて返す!」


余りの恥ずかしさにはまたしても七条の顔をまともに見ることが出来なくなった。
知らない間のことだったとは言え、本人の目の前で上着を抱きしめて寝てるなんて、
本当に恥ずかしすぎる。
つまりあの心地よいぬくもりは香りは、全部この七条の上着が原因だったと言う訳だ。


「いえいえ、いいんですよ、そのままで。・・・いえ、と言うか、僕はそのまま返して欲しいんです」
「え?でもしわ・・・」


言ったの手にある七条の制服がそっと彼の手につかまれる。



「君が抱きしめて出来た跡ですから、このままがいいんです」
「っ!」



言葉と同時にふっと笑った七条の笑みが、何だか妙に色っぽくて、
無意識にの胸の奥の心臓がどくんと大きく跳ねた。
そして、そのまま鼓動が加速する。
コイツは分ってるんだろうか。
今自分が、どれだけの心臓に悪いことをのたまったのか。
大体、そんな顔は、口調は、止めて欲しい。
妙な期待をしてしまう。


いやいやいや、期待って・・・は何を・・・。


どうして自分がここで『期待』を抱くのか理由が分らない。
そこでは一瞬、丹羽がした下らない質問の答えをが口にした時の、
あの七条の表情を思い出した。


いやいやいやいや!!だ、だから何を!


君」
「な、何っ!?」


本人を前にあれこれおかしなことばかり考えていたせいで、
は必要以上にびくついて返事をした。
七条の瞳がじっとを見下ろす。
元々ある身長差に加えて、がソファに座ったままなので尚更高い位置に七条の顔があった。



「丹羽会長の質問通り、僕がもしも君に告白したとして、君は本当に僕を受け入れてくれますか?」



「・・・・・・・・・・・・え?」


を見下ろす色素の薄い七条の瞳はしっかりとの視線を捕らえている。
は一瞬ぽかんと口を開けてその瞳を見つめ返した後、
慌てて表情を作る努力をした。
これはまたからかわれてるんだ、そうだ、そうにちがいない。
真に受けてまともに返事をするなんてことはきっと七条も望んじゃいない。
そう思おうとするのに、視界に入った彼の顔にはあの胡散臭い笑顔は浮かんでない。
微かに微笑んでるように見えるけど、からかおうとしてるって感じじゃない。
そのことに戸惑いを覚えつつ、は口を開いた。


「た、・・・試してみれば?」


可愛げの欠片もない口調でそんなことを言った自分の口を今すぐ捻りちぎってやりたい。
少しでも平静さを装うとして口にしたことだけど、
その努力は全然報われてないように思えた。
だけどここで七条の質問にイエスと答えてしまえば、それこそそれはからの告白になってしまう。



告白・・・?え?・・・いやいやいや、まさか・・・?
え?え?・・・まさか・・・七条のこと・・・。



七条の問いに絶対に正直に答えを出さなきゃならなかったとしたら、
はきっと首を縦に振ってた。
それはつまり、そうだ、そういうことだ。
そこではまた丹羽の質問に七条の名前を出した時の彼の反応を思い出し、
それを目にした時の自分の気持ちを同時に思い出していた。
つい数時間前のことだが、あの時分らなかった自分自身の感情の意味が、今なら分る。


は七条のこと・・・好きなんだ・・・。


「あっ・・・あの、七条・・・」



自分の好きな相手に試しに告ってみれば?なんてこと、よく口に出来たもんだ。
自分で自分に呆れるしかない。
は慌ててたった今言葉にしたことを取り消そうとした。
んだけど。


「そうですね、それが君の気持ちを知る、一番分りやすい手段だと思います」
「えっ!?・・・っ!?」


七条はの台詞を拒むことなく、それどころか突然に両腕を伸ばしてソファから立ち上がらせた。
七条との距離が一気に縮まり、バランスを崩しそうになったは咄嗟に片手で彼にしがみつく。
だけど実際は七条の腕がしっかりを支えてたので、そんな必要は全くなかった。
彼はすらりとしてて肌も白いし、華奢とまではいかないまでも、頭脳派タイプで余り力あるようには見えない。
画面越しに見てる時からそれでもしっかり『男性』なのは分ってたつもりなのに、
ここまで近くで触れられたことがなかったせいか、余計にその両腕が力強く感じた。


「し、七・・・!」
「本当は近い内にこちらから呼び出して伝えるつもりだったので、
僕の予定とは違う形になってしまいましたが・・・」
「え?な、何が・・・?」


そこで七条はふっと息を吐くように微かに笑った。
どくんっ。
の心臓が胸から突き破りそうな勢いで大きく鼓動を刻んだ。
そのやわからさと真剣さの入り混じった彼の表情に、
は彼から目が離せなくなる。



「君が余り可愛らしい姿を見せたので、抑えられなくなってしまいました」
「え?え?え?な、何の話を・・・」


君、僕が君に好きだと告白すると言う話ですよ」



囁く様にそう七条から告げられ、は一瞬言葉を失う。
空気を吸い込んで、そのままほんの数秒吐き出すのを忘れたくらいだ。
頭が、思考回路が、追いつかなくて。
だってはたった今、自分の気持ちを自覚したばかりで。
それなのに、こんな都合のいい展開なんて、あの七条臣がを好きだなんて。



「――――」
君?」
「ほ、」
「はい?」
「ほんき、で?」
「本気ですよ、勿論」


そこで七条は返事と一緒にはっきりと頷いた。
今なら分かる。
あの時の、啓太の気持ちが。
あの誰も居ない屋上で窓ガラスを使ってのロマンチックな告白シーン。
あれに比べたら本当に普通の告白の仕方なんだけど、それでもあの時の啓太と同じくらい、
もしかしたらそれ以上に今のは驚いてるかもしれない。
七条が、を好きだと言ってくれたことに。



君。僕は君が好きです。僕の気持ち、受け入れてくれますか?僕を、君の恋人にしてくれますか?」
「・・・っ」


は、と。
は小さく息を吐き出す。
心臓が爆音を上げてるのは言うまでもなく。
頭が混乱しまくってるのも同じく。
でも―――――


君?」


を支えてくれてる七条のあたたかな腕の中。
密着したことで、分かる。
の心臓と同じくらい、七条の心臓の音も乱れてること。
いつもと同じような余裕の顔してるくせに、緊張してるのがわかる。
の答えを聞くことに。
それが嬉しくて、それだけ想われてるんだってことが分かって、ただ嬉しくて。


、嘘は吐かない」
君?」
「丹羽先輩に答えたでしょ?別に意外性だけを狙った訳じゃないし」


なんて、つい数時間前のあの時まで、自覚なかったんだけど。
でも、今なら分かる。
はずっと前から七条を意識してたからこそ、丹羽の質問に彼の名前を出したんだ。



も、七条が好き。を七条の恋人にしてください」



いつもならこっぱずかしくて柄でもなくて、こんな至近距離でこんな真っ直ぐ相手を見つめて、
こんなにはっきり告白なんて出来ない。
でも今回は、七条の気持ちが嬉しくて、本当に心から嬉しくて、
もきちんとこの想いを伝えたかった。



「はい、僕は今この時から君の恋人です。・・・さん」



七条はそういい終えてすぐに、をさっきよりも一層自分の方へと引き寄せ、
の唇にキスをした。
は踵を上げ、それに応える。


が転寝をしてた時に感じたぬくもりと七条の香りが、
今度は彼から直接伝わってくる。
そのことに照れくささとこの上ない喜びを感じつつ、達は何度もキスを交わした。



(END)



あとがき
よっしゃあああ!トリヒロでは初・七条夢でした^O^
七条をご指名下さったお二人の姫様!有難うございます。
今回はエロてぃーっくな表現は控えつつ、ほんのり甘い雰囲気を目指してみました。
ほんのりって言うか結構糖度高いかもしれないな(苦笑)。
七条大好きなのに中々増やせなかったので、ここで書けて良かったv
お二人とも本当に有難うございます。ここまでお付き合い下さった姫様にも深く感謝です^^