認めたくないが好きみたいです

「なぁ、お前、本当に一人で帰れるのか?遠慮なんかしなくていいんだぞ。
俺が部屋まで送っていくよ」

今朝から余り調子の良くないの体を心配して啓太が気遣わしげな表情を浮かべて言った。

「平気。そんなに心配するなって、寮の部屋まで位なんとかるから。
大体啓太は今から西園寺の所に行かなくちゃいけないんだろ?
女王様は待たせない方がいいしさ」

は啓太を安心させる為に極力笑顔を作って返事をする。
確かに朝から体調は良くないけど、
それは断じて啓太が心配してくれるような大げさな理由からじゃない。
そう、特に風邪とか熱があるとか、そう言った理由じゃないのだ。
啓太には、と言うか誰であろうと口が裂けても言えた内容じゃないけど。

「平気そうに見えないから言ってるんじゃないか。
そうじゃなくてもお前、最近ずっと元気がなさそうだし・・・。
それに、西園寺さんだってお前の体調を優先したって言う理由なら怒ったりしないよ」
「まぁ、そうだろうけど。
とにかくオレは一人でさっさと帰って横になるし、明日は幸い学校も休みだしさ」
「・・・・・・・・・ハァ・・・、そこまで言うなら分かったよ。
でも、ちゃんと部屋で大人しく寝てるんだぞ?」
「分かってる。・・・・啓太、心配してくれてサンキュ」
「お礼なんか言うなよ。心配して当然だろ、お前は俺の大事な従姉妹なんだから。
じゃあ、俺、もう行くけど、本当に無理しちゃ駄目だからな」
「了解・・・。じゃあ」
「うん、またな」

心配性の従兄弟殿は別れの言葉を口にした後もやっぱりまだが気になるらしく、
何度かちらちらとの様子を伺いながら傍を離れて行った。
はそんな可愛い啓太の姿が見えなくなるまで笑顔で見送った後、
完全に啓太が見えなくなった途端、脱力してその場に座り込んだ。
同時に、ハアアーーーーっっと、盛大に溜息を吐いた。
体がダルくて重い。
今朝からこの放課後になるまで本当に長い一日に感じた。
ここ1週間位はずっとそうだ。
寝不足の上体力ゲージは常に0に近いところを彷徨っている。


ああーっ!!くそっ!それもこれもあれも全部あのド鬼畜野郎のせいだ!!!


生徒会室での最悪で最低の一件から約2週間。
自分でも認めたくないけど、と言うか信じたくないし自分でも信じられないけど、
このBL学園の副会長・中嶋英明とは、あの一件以来、
もう数えるのも馬鹿らしい位ああいう(・・・・)ことをしていた。
ああいうと言うのは、つまり中嶋が今やの体で知らない事はない、
と言う、そう言う(・・・・)意味だ。
生徒会室での一件以来、は中嶋のことをとにかく避けまくっていた。
中嶋だけじゃなく、あの日に仕事を押しつけやがった、
ある意味で元凶とも言えなくもない丹羽ともなるべく顔を合わせないように、
は生徒会執行部の二人との接触を避けた。
とは言え、それまで何だかんだで生徒会役員二人と中々親しい後輩ポジに収まってしまってた
突然彼らを避け始めて、周囲が不思議に思わない筈がなく、
その上丹羽はあの性格、事情を全く知らない事も有り、
最終的にはあの件から4日後にはまたしても生徒会室で仕事を手伝わされる羽目になった。
そして再度、お約束の様にあのどぐされド鬼畜野郎の魔の手に堕ちた訳だ。
だけどが本気で抵抗を示したのはその2度目まで。
3度目は、もう最初から諦めていた。
それ以降は気付けばお互いの部屋を行き来することまでしてる始末。
自分でも本当に本当にほんっとに、全くちっともこれっぽっちも訳が分からない。
一体何がどうしてこんなことになったんだろう。
あれ程中嶋英明って奴は二次元だから愛せるド鬼畜眼鏡で、
リアルじゃ絶対に断じてあり得ない相手だと思ってたのに。
今だってそりゃその気持ちは変わってないけども。
それにだからって達は付き合ってるって訳じゃない。
当然の様にどちらも告白したりはしてないし、
寧ろアイツがを好きでああいうことをして来てるとはどうしても思えなかった。
じゃあ何でだったのかって話だけど、そんなことはには分からない。
ただ、啓太はもうどちらかと言うと西園寺達の方と仲が良かったし、
だからの方が手近で、しかも事情が事情だけに手を出し易かったのかもしれない。
中嶋の奴に関する知識はプレイヤー時のものでそれなりにありはするけど、
直に接するとあの男は本当に全く相手に心を読ませないタイプで、
にはアイツがちっとも理解できなかった。


「・・・・ハァ・・・」


小さく溜息を吐き、はようやく座りこんだ廊下からのろのろと立ち上がった。
一度座りこむと立ち上がるまでがとても面倒だけど、
だからってこのままここでぼんやりしてる訳にも行かない。
とは言え、このまま寮に戻るにはやっぱり疲れ過ぎてる。
せめて一休みしてからにしたいところだ。
は立ち上がった時と同じ位とろとろとした動きで廊下を進んだ。
そして、その途中に有る空き教室の前で足を止める。
やっぱ鍵が掛かってるんだろうなぁなんて思いつつも、
駄目もとでその空き教室のドアを開けてみることにした。


「あ・・・・・・・・・・!」


予想外にドアは呆気なくガラッと音を立てて開いた。
セキュリティがどうのって話を聞いたけど、それならちゃんと閉まってる筈だし、
中を覗いてみる限り物置きっぽい感じで重要な物は置いてなさそうだ。
はその教室にふらふらとした足取りで入りこみ、
丁度イイ感じに机が三つくっついて並んでいるその上に横になった。
さすがに長時間横になるとなると体が痛くなるような硬さだけど、
少し休むだけならこれで十分そうだ。
もしも誰かに見つかったら、その時はまぁ、気分が悪かったと言っておく事にしよう。
実際それは間違ってない。
ぼんやり天井を眺めながら、はまたしても懲りずに中嶋の事を考えた。
って言うか、この体のダル重の原因はあのドS野郎な訳だから、
思考がそっちに向いても仕方ないと思う。
そう、まさかが、啓太じゃなく、
このがこんなことで思い悩む日が来るなんて思いもしなかった。
本当に全く信じられない。
こんな悩み。
中嶋が毎回自分勝手にヤりまくるから、体力ゲージが毎回真っ赤なんです、なんて。



あり得ない。
あり得ない。
あり得なさ過ぎる。


寧ろ誰の話だ、これは。
しかもこれで彼氏彼女じゃないってことは、俗に言う『セフレ』と言うものになってしまう。
本当にあり得ない。
そんな言葉、今までもこれからも全く縁のないもので有って欲しかったし、
が誰かとそんな風になるなんて想像もしなかった。
だけど状況だけ見れば明らかにそうだ。
体の繋がりだけで、アイツはの彼氏でも何でもないんだから。


「・・・・・・・あー・・・、・・・駄目だ・・・・・・・・・・泣きたいかも」


ボソリ。

思わず呟いた、その時。


、こんな所で何をしている?」
「・・・・・・・・・・っっっ!!!??」


音もなくドアが開いたかと思うと、今一番会いたくない相手の聞き慣れ過ぎた声がした。
は瞬間的にびくっと大げさに驚き、恐る恐る、身を起こす。


「・・・・・・・・う、げ、中嶋先輩・・・・・・・」


視線の先に予想通りの人物を捕らえ、半分だけ体を起こした状態で凍りつく
奴は入って来た時と同じように静かにドアを閉め、ゆっくりとこっちに近付いて来た。

「ここは半ば物置きになっている様な教室だが、無断で入っていい場所じゃない筈だ」
「・・・中嶋先輩こそ・・・、どうして」
「丁度奥の廊下を通りかかった時にお前がこの教室にふらふら入りこんでいるのが見えたからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・、体が怠くてどうしても寮に戻るまでもちそうになかったもので」

元凶も元凶、諸悪の根源を前にして、は思わず剣山ばりに刺々しい声でそう返した。
それに気付いた中嶋が口元を微かに吊り上げてにやりと笑う。

「ほぅ?疲れが溜まっているのか」

を挑発してからかっているような態度だ。
はムッとして眉間にしわを寄せ、アイツを睨みつけた。

「溜まってますよ、これ以上に無く。ねちっこくてしつこい誰かさんのおかげで」
「ふぅん。しつこい・・・ね。その割には随分と気持ち良さそうだったじゃないか」
「な"っっ!!!」

しれりと言われた言葉には思わずカッとなった。
毎度毎度人の都合も考えずに睡眠も与えずに体力を奪い続けといてよく言ってくれる。
相手がじゃなく男の啓太だったとしても泣きが入った位だ、
女のが中嶋の底なしの体力についていける筈がない。
なのに連日連夜のこの状況。
少しは労わるとかそう言う気遣いはないものか。
今更この中嶋英明って男にそんなことを求めるのは間違ってるってのは分かってる。
この男の性格は二次元的な意味でも三次元的な意味でも分かってるつもりだったけど、
それでもやっぱり腹が立つ。



って言うか、単なる遊び相手だから気遣う必要なんてないってだけじゃないの・・・?



そう思うと何だか悔しくやる瀬なくて、は唇を噛みしめて瞳を伏せた。
そうだ。
言うなら、今しかないかもしれない。
ばっかりこのドS男に振り回されて、こんな扱い受けて。
本来は体だけの付き合いなんて出来るタイプの人間じゃ全くちっともないのだ。
その証拠にもうとっくに心が体の繋がりに引きずられてしまってる。
つまり、本当は物凄く不本意で認めたくなんかないけど。
は、中嶋を――――――――――――



「っ!?ちょ、ちょっと、勝手に近寄らないで!」


いつもの苗字ではなく名前を呼ばれてハッとして顔を上げると、
知らない間に中嶋は随分との近くまで来ていた。
しかもは体を起こしたとは言え、机に座っている状態で、逃げる事も出来ない。

「こんな場所で一人で入ったのは本当に休む為だったのか?」
「それ以外に何があるって言うんですか・・・、・・・っ、ちょっと、な、中嶋先輩!?」

中嶋がの両腕を掴み、唇を耳元に寄せて来た。
そしてのよく知る低く、熱を帯びた囁く様な口調で言った。


「最近は連日お前を抱いているからな。
淫乱なお前の事だ、昨夜のことを思い出して体が疼いて仕方ないんじゃないのか?」


「っ!!!!!?????」


はカッとなって反射的に片手に拳を握り、それを振り上げようとした。
だけど勿論、当然の様にその手は易々とどぐされ眼鏡男に掴まれて拘束される。
そのことが益々の怒りに油を注いだ。

「あんたって・・・、ど、どこまで!!人の事馬鹿にしないで!!」
「クックック・・・、随分と男らしい(・・・・)反応だな」


中嶋の眼鏡の奥の瞳が如何にも楽しそうに細められた。
そして奴が喉の奥で笑う度、の顔に生温い吐息が吹きかかる。

「ここの所従順になったと思っていたが、まだ躾が足りていなかったようだ」

まさにドSキャラ丸出しの台詞を口にして、中嶋がまた薄い唇の端を吊り上げて笑った。
それとほぼ同時に再度、は両腕に力を込める。
毎度のことながら、どう見ても優男チックな外見のくせに、
の両腕はムカつく位にがっちりしっかりと抑え込まれてしまっている。
美形で線が細い様でしっかり筋肉がついてるってのは二次元ではよくある話だけど、
実際そうだと本当に遣る瀬無くなる位に腹が立つ。

「〜っ〜っ!!そう言うのが嫌だってのよ!はあんたのペットでも下僕でもない!
そんなもんになりたくもないし、これからだってなるつもりもないから!
SMしたいんだったらもっと素質ある奴探してよ!」
「ふぅん。素質のある奴・・・ね」

くくっと、そこでまた中嶋が喉の奥を鳴らして笑った。
眼鏡の奥の瞳が底意地の悪い色を宿している。


、ひとつ教えてやろう。俺に目を付けられた時点で、お前には十分その素質がある」
「・・・・・・っ!!??にMっ気があるって・・・!?じょ、冗談言わないで下さいよ!」
「ふっ、俺の腕の中であれだけ感じておいて、よく言う」
「!!!!!!!」


コイツは!!!
コイツは!!!
この男だけは!!!!


少し会話を進める度に卑猥ワードを言わなくちゃ気が済まないんだろうか。
だからこそそう言う部分が鬼畜たる所以なのかもしれないけど。
は唇を一度、ぎゅっと噛みしめ、それから心の中で何度も深呼吸を繰り返した。
そして、心を決めて口を開く。


「百歩、ううん、千歩譲ってそうだったとしても、はもうこんなのは御免だから!
・・・は、こんな成りしてたって中身は普通の女子高生なんです!
あ・・・ああいう(・・・・)ことをするんだったら好きな人と・・・、
を好きで、が好きな人としたいし、それなりに普通の恋愛したいの!
格好良くて優しくて包容力が有って頼りがいのあるそう言う人と青春したい訳!
中嶋先輩なんか格好は・・・・イイかもしれないけど!優しくないし自分勝手だしSだし、
何より・・・・・・のこと好きでもないでしょうが!!」

は一気にそこまでまくしたて、ゼェハァゼェハァと肩で息をする。

「・・・ふっ、疲れていると言っていた割には元気じゃないか」

どこか小馬鹿にした中嶋のその台詞に、はムッとして口を開いた。

「っ!中嶋先輩、人が真面目に言ってるってのに・・・!」
「・・・・・・・分かっているさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ン"ぅうっ!?」

返した中嶋が不意にの唇に自分の唇を押し当てて来た。
抵抗する間もなく、口内に舌を差し入れられ、ねっとりと濃厚な口付けをされる。
こんなことで誤魔化されるもんか、と、頭の中では思ってるのに、
嫌になる位慣らされた体が中嶋のキスに自然と応えてしまう。
唇を合わせてそう間もないのに舌先から蕩けそうな感覚がを襲う。
自分のものではない舌の独特の弾力とその形を、はもう覚えてしまっていた。
そのことがまた遣る瀬無くて悔しくて、
それなのに中嶋のキスに溺れる自分がやっぱり情けなかった。

「・・・
「・・・・・・・・・・・・・っ、・・・・・・・・」


キスの合間に名前を呼ばれる。
それだけで体の奥から何とも言えない感覚がぞわぞわと生まれる。


「なん、で・・・、・・・止めてよ、もう・・・」


殆ど涙声では言った。
こんな関係は間違ってると思うのに、抜け出せない。
今回だけじゃなく、本当は今までだって何度もこんなことを続けることを止めようと口にするつもりでいた。
だけど結局今の今まで言いだせずにいたのは、
が中嶋を本気で好きになってしまったから。
どんなに言い訳しても、最終的に辿りつく答えは決まっていた。
唇が触れるか触れないかの距離のまま、は中嶋から視線を逸らす為に瞳を伏せる。


、お前は・・・俺が好きでもない奴を相手にこんなことをすると思っているのか?」



「・・・え?」

思いがけない問いに、は思わず伏せていた視線を上げた。


「俺は、お前みたいな厄介なタイプの女を遊びに選ぶほど愚かな人間じゃない。
最初は単なる興味からだったが、その程度ならば手を出すまでには至らなかっただろう」
「・・・・・・・・中嶋、先輩?」


この人、今・・・・・・・・。


「・・・・・・フッ、それともお前は、自分の体が目的なんだと自惚れるほど、体に自信があったのか?」
「は、はいっ!!??な"っっ!!!」



な、ななななっ何言い出すんだ!?この男は!!!



ククッと、中嶋はまたしても喉の奥で小さく笑った。
こんな時にからかわれたことにムッとしていると、至近距離の中嶋の瞳が、
いつもとは違う柔らかな色を宿していることに気付いた。

「なか、じ・・・」
「・・・・・・これがお前の言う戯れのひとつなら、とっくに飽きている。そう言うことだ」

低く、囁くようにそう続け、中嶋はの唇を甘く食んだ。
今聞いたばかりの中嶋の台詞にの思考回路が痺れている。
無意識に小刻みに唇が震えたのは、不覚にも、涙が出そうになったからだ。
それ位に嬉しくて、それがまた悔しかった。



だっては、今の中嶋の言葉で、完全、完璧に落ちてしまったから。



ついさっきまで不満で一杯だったくせに、全部全部、どうでもよくなってしまった。
同時に気付いたから。
この人がを追ってこの教室に足を踏み入れたのは、
ふらふらしながら教室に入っていったを気にしてくれたからだって。
中嶋先輩は優しくないなんて本当は嘘で、
単に優しさが酷く分かり難い人だってことが分かってたから。
怠くて重くて仕方なかった体が、軽くなった様な気がするほど、
中嶋の言葉が嬉しいなんて、自分の現金さと単純さに呆れて笑ってしまう。


「・・・・・やっぱり、ムカつく・・・・・・・」


キスの合間、小さく囁いて、は中嶋の背中に両腕を回し、彼の制服を掴むようにして掌を強く握りこんだ。


(END)


あとがき
またまたなんがああああああ!・・・と言うことで、
長くなった理由はわかってるんですけどもね、うん。
啓太の登場はいいとして、その後のヒロインの独白部分が長過ぎた。
でもまぁ以前から書きたかったネタなんで、ようやく書けてそこは満足してます。
ヒロインが中嶋の前で自分がMっ子だと言うのを否定するとことかは、
実は最初の話に入れる予定だったものだったりします(笑)。
ではでは、こんなドドドマイナー夢ですが、
どうやら有難いことに読んで下さっていると言う貴重な姫様もいらっしゃるとのこと、
本当に本当に感謝しておりますvvお付き合い、有難うございます〜。
Title by 確かに恋だった