何か微妙に気まずいって言うか・・・。
いや、まぁ別に向こうに話し聞かれてた訳じゃないし。
「啓太」
「すみません、今日は放課後に会計室に行けなくて」
「いや、事前に話は聞いていたからお前が気にすることじゃない」
「ほぅ、女王様は犬の躾だけでなく、他も随分行き届いているな」
ま、またあの眼鏡は鬼畜ワード口にしてるよ。
半ば呆れた気持ちでも啓太と同じく席を立つ。
二人とも食事を終えてドリンクのみだったから、片付けにそう手はかからない。
は啓太のグラスに手を伸ばした。
「あ、!俺、自分で片付けるよ」
「ううん、これくらいさせてくれ。話聞いてくれたんだし。どうも、西園寺。
・・・珍しい組み合わせだな・・・」
西園寺の隣に居る中嶋にちらりと視線を向けては言った。
「食堂に入る前に偶然居合わせた。私は啓太に、中嶋はお前に用事があるらしいからな」
「し、七条さんが一緒じゃなくて良かったですね・・・」
ボソリと。
啓太は中嶋に聞こえない程度の声で酷く安心した様子でそう呟いた。
考えることは皆一緒だ。
「じゃあ、啓太、西園寺も迎えに来たことだし、またな。
あ、今日はオレの話し聞いてくれてホントありがと」
「ううん、俺の方こそありがとうな!じゃあ、中嶋さんも、失礼します」
「あぁ。西園寺、例の書類は・・・」
「分かっている。明日の昼までにはまとめ終える」
「それは助かる・・・、まぁこちらの場合、問題はその後だがな」
そこで達は会話を終え、啓太と西園寺は一足先に食堂を出て行った。
は自分と啓太のグラスを食堂の洗い場まで持って行き、
再び中嶋の傍まで戻ってくる。
4人の時もさっきまでの啓太との話で何となくきまずかったけど、
2人きりになると益々気まずい気分になってしまう。
「・・・珍しいですね、中嶋先輩がわざわざ食堂までオレを迎えに来るなんて。
それに、こんなに早く寮に戻ってきたのも珍しいし」
は極力いつも通りを装いつつそう口にした。
実際、こんなことは滅多にない。
達は食堂を出た後、揃って中嶋の部屋に足を向けていた。
「そうだな・・・、今回はいつもより早く切り上げてきた。
明日は是が非でも丹羽の奴を捕まえて仕事を進めさせなければならんだろうな。
アイツは伊藤やお前には比較的弱い、頼んだぞ」
「・・・啓太とオレ巻き込むこと前提ですか。
啓太に頼ってばっかりだと、西園寺に睨まれますよ」
「ほぅ?そう言うお前は随分伊藤に頼りきっているように思えるがな。
今日は一体何を相談していたんだ?」
中嶋はニヤリと意地悪く口元を歪めて笑い、にそう質問した。
内心はうげっと声を上げる。
そう来たか。
何か勘付いてそうだとは思ったけど、まさかわざわざそれでここまで迎えに来たんだろうか、この人は。
でも中嶋がのことをそこまで気にしてくれてるとは思えない。
「何でそんなことまであんたに教えなくちゃいけないの」
動揺して思わず素の言葉遣いが出てしまった。
中嶋の奴は口角を上げたまま再び口を開く。
「ふっ、聞かなくとも大体は想像が付くがな。どうせお前達のことだ、
伊藤は西園寺の、お前は俺のことでも話していたんだろう」
「っ!オレがいつも中嶋先輩のこと考えてると思ったら大間違いですから!」
図星を指されて益々焦ってしまった。
何なんだこの男は、本当にムカつく。
の反応も大概可愛くないなってのも自覚済みだ。
相手が相手だからってこともあって、どうしても喧嘩腰になってしまう。
いかん、いかん。
「そんなことより、今日オレはどうしても中嶋先輩に聞きたいことがあるんですけど」
思いの外するりと自分の口からそう言葉が出て少し驚いたと同時には微妙に後悔する。
こんな言い方をしてしまったら、後戻り出来なくなってしまう。
『どうしても』なんて言い方じゃなくて、もっと普通に話題変えるだけみたいなソフトな言い方にすれば良かった。
そうすれば怖気づいても適当な話題を見つけてそっちに持っていける。
往生際の悪いはそんなことを考えたけど、
中嶋を程度がまるめこめる筈がないのもわかってる。
「何だ?」
「その前に約束して欲しいんですけど、
これからが聞くこと、ちゃんと答えてくれるって」
寮の廊下にはと中嶋だけだったので、はいつもの自分の話し方に戻して言った。
これから自分が恥ずかしいことを口にしようとしてる自覚はあるので、ズルいは保険をかける。
こっぱずかしい思いをしてまで相手が答えてくれないなんて、
さっき啓太にも言ったけど、そんなの恥のかき損だ。
中嶋はの台詞に少し怪訝そうにメガネの奥の瞳を細めた。
達は中嶋の部屋の前に到着し、そこで足を止める。
彼が部屋のドアを開けてからその中に足を踏み入れて、
は先を続けた。
「別に難しい質問じゃありません。生徒会とは全然関係ない、
ホントにプライベートなことですから」
「・・・いいだろう、言ってみろ」
中嶋が部屋のドアを閉める。
はジッと彼を見上げた。
心臓がどくどくと激しく鼓動を刻んでいる。
心の中で10回くらい深呼吸したあと、は中嶋に向けていた視線を少しずらして口を開いた。
「中嶋先輩は・・・のこと、・・・す、好き・・・ですか?」
とうとう、とうとう聞いてしまった。
恥ずかしすぎて柄じゃなさ過ぎて中嶋の顔がまともに見られない。
いや、それも勿論だけど、
どうせ聞くならもっと別の訊ね方の方が良かったかもしれないと思い始めた。
今の聞き方だと、中嶋のどぐされ男は下手したら「あぁ」の一言で終わらせるかもしれない。
いや、それでも肯定されるだけマシだ、もし「さぁな」なんぞと言われたら、
はもう本当にどうしていいか分からなくなる。
彼はの問いに少し驚いたような表情を浮かべた後、不意に静かに口角を上げた。
嫌な予感がする。
「それがお前がどうしても俺に聞きたかったことか?」
「そうです・・・。だって、今までまともに口にしてくれたこと、ないし」
始まりは犯罪的だし、その後の流れもセフレみたいな感じだったし、
不安要素ばっかりで我ながらよく恋に落ちることが出来たもんだと呆れる。
自分自身にも、そしてそんな流れを作ったド鬼畜眼鏡にも。
は中嶋が次に何を口にする気かを注意深く見守った。
このどぐされ男に対する嫌な予感はほぼ9割位の確率で当たる。
「ふぅん?まともに口にしてくれたことない、・・・ね」
の台詞を繰り返すようにしてそう言った中嶋が、一歩、の傍に近付く。
元々そう離れていなかった距離がまた縮まった。
は殆ど身構える形で中嶋の次の言葉を待つ。
「じゃあ聞くが、、お前はどうなんだ?」
「え?」
「お前は俺に対して一度でも、お前が俺に望んでいるその言葉を口にしたことがあったか?」
「っっ!!??」
問いを問いで返されたことよりも、その内容に驚いて、はぽかんと口を開けて中嶋を見上げた。
彼はニヤリと一層意地悪く口角を上げる。
なん、だと。
嫌な予感はしてた。
してた、けど。
そして中嶋のその台詞で今まで彼と一緒にいた時の記憶を全力で漁ってみたが、
確かには彼に向けて好きだと言った事は一度もなかった。
それどころか、いつもいつも可愛げのない態度ばかり取ってたように思う。
いやいやいや、騙されるな!
それは元々このどぐされ鬼畜眼鏡のせいであり・・・!
「この場合、まずお前自身が先にそれを口にすべきじゃないのか?」
「で、でも、こういうことは、男の方から潔く言ってくれるのが!」
「ほぅ?つまり自分に出来ないことを先に俺にやらせるという訳だな」
「ちょ、何その言い方!それはっ、・・・っ、・・・!」
何か反論や罵声を浴びせてやろうとは更に口を開くが、結局先が続かない。
というか、例え言ったところでが中嶋に敵う訳がないのだ。
「〜っ〜っ!・・・が言ったら、中嶋先輩も・・・い、言って下さいよ」
「・・・ふぅ・・・いいだろう」
最初の溜息が気になるけど、この際それは聞かなかったことにする。
はギラリと正面に居る中嶋を見上げた。
「喧嘩でも売られている気分だな」
「ちゃ、茶化さないで」
自分だって分かってるけど、この位気合入れないと今更中嶋相手に告白めいたことなんて無理だ。
今だって恥ずかしくてしょうがないってのに。
は一度、唇を噛み締めたあと、小さく息を吐き出して覚悟を決める。
「は、・・・な、中嶋先輩が、好・・・っ、」
き。
完全な言葉になる一瞬前。
正面に立ってる中嶋が、突然の腰に腕を回し、自分の方に引き寄せてきた。
不意を突かれて驚いてるの唇を中嶋が奪うように塞ぐ。
ぽかんと開いてたそこからぬらりと舌を侵入させると、あっという間にの吐息を飲み込んでく。
反射的に両手でドンドンっと中嶋の胸の辺りを叩いて見たけど、
それは笑えるくらいに弱弱しい見せ掛けのもので終わってしまった。
この卑怯者、どぐされ眼鏡、鬼畜変態。
頭の中で精一杯中嶋を罵るものの、その思考も数秒後には溶ける。
この男は、本当に嫌になる位にキスが上手くて、
どんなに不満で一杯のときもはいつもこれで落ちてしまう。
熱い吐息とぬるい唾液が混ざり合い、呼吸が苦しくなる。
ねっとりと濃厚なキスに夢中になりながら、気付けば中嶋にすがりついてる自分が居る。
「っは、・・・ふ・・・」
「・・・ん、・・・」
お互いの唇から吐息に近い声が漏れる。
そしてゆっくりと離れると、と中嶋の唇をキスの名残の透明な糸が繋いだ。
アイツはそれを赤い舌で見せ付けるように舐め取る。
そして口内に溜まっている唾液を喉を鳴らして飲み下したあと、またしてもあの底意地の悪い笑みを浮かべた。
「残念だったな、。お前の言葉は最後まで聞き取れなかったぞ」
つまり、自分との約束はなしだと言いたいのか、この男は。
そうまでして言いたくないのか、ムカつく眼鏡野郎。
次のキスの時には舌を噛んでやる。
半分溶け切った頭でそんなことを考えながら、ジロリと中嶋を至近距離から睨む。
そのの様子に、中嶋はさも楽しそうに喉の奥で小さく笑った。
そして、を自分のベッドの傍まで誘導する。
またこのパターンか!とつっこむと、でも本当は何処かで期待してた、
と言うが同時に心の中に存在した。
中島は自分の制服のジャケットを脱ぎ捨てると、ネクタイを緩めてそれも床へ落とした。
たったそれだけの仕草も何だか様になってて、悔しいことにはそれにバカみたいに見蕩れてた。
それから手馴れた感じにのジャケットを脱がせ、
長く神経質そうな骨ばったあの指でのネクタイを緩める。
その途中でまた唇に吸い付くようなキスをされた。
されるがままなのが何だか癪で、も中嶋のシャツのボタンを外す。
中嶋よりずっともたもたして、未だに指先が上手く動かない。
彼はの首筋に舌を這わせ、同時に乱した制服のわき腹から直にの肌に触れた。
衣替えをしてから、夏の薄着の時と違い、は晒しを巻いてない。
肋骨付近を撫でるように中嶋の掌が動く。
それだけでこれからのことを思って体が熱を持ち始めるのが分かった。
不意に何故か彼の顔が見たくなって、は少しだけ体を離して彼の眼鏡のフレームに触れる。
中嶋はが何をしようとしたのか分かったのか、
特にその手を止めようとはしなかった。
間近でジッとを見下ろすその端正な顔には、いつもの鋭さや意地悪さが薄れてて、
艶やかな熱と優しささえ含まれて見えた。
「・・・中嶋先輩」
「何だ?」
「好き」
「!」
さっきはあんなに気合を入れまくった言葉が、この時は自分でも驚くほどするりと口にできた。
特に意図して言った訳じゃない。
だけど、自身が驚いてるんだから、中嶋はもっと驚いたんだろう。
動きを止めて一瞬を見たその目が、微かに見開かれたのが分かる。
でも次の瞬間にはやっぱりいつもの中嶋に戻っていた。
「知っている」
ああ、そう来ますか。
悔しくないと言えば嘘になる。
だけど、何だろう、これでいいかと言う気になった。
だって仕方ない。
未だにムカつくし、嫌なヤツだと思ってるけど、好きなんだから。
が、中嶋を好きなことには変わりないから。
どさりとベッドに押し倒され、何度目かのキスをして、シャツが、下着が脱がされていく。
激しくて濃厚なキスに軽く呼吸を乱していると、中嶋が耳朶をやわらかく食んできた。
その感触にはそこから軽く電流でも流された錯覚に陥る。
「」
「ん」
「俺も好きだ」
「―――――――――――」
ああ、もう。
ああ、もう。
ああああああああ、もう。
だからあんたはムカつくんだ、中嶋英明。
は、あんたの、その分かり難いところが、凄く苛々して、大嫌いで、それなのに泣ける位。
「大好き・・・っ!」
(END)