まさか、まさかこのが、中嶋相手に啓太と似たような悩みを抱くとは思わなかった。
まぁ始まり方からして信じられなかったし、あり得ないなんてレベルじゃなかったし、
寧ろ中嶋の奴は犯罪だろあんたって感じだった訳だけど、
それでも何だかんだで今じゃ不本意ながらは中嶋のことを好きなんだって認めてる。
お互いの部屋を行き来することに対しても、以前の時みたいな抵抗を覚えなくなった。
休み時間や放課後に生徒会の仕事を手伝いつつ、暴君野郎、基、
王様こと丹羽を捕獲して仕事をさせることに手を貸す毎日も今や日常。
だけど休日に中嶋と一緒にどこかに出かけて遊んだり、
買い物をしたりと言ういわゆるデートっぽいことをしたことは、
片手で数えられる位しかした覚えがない。
片手、と言うか正確にはピースサイン程度。
大体土曜だろうが日曜だろうが中嶋は生徒会の仕事をしてることが多いし、
そうじゃなけりゃどちらかの寮の部屋のベッドで一日を終えるような状況ばっかりだ。
今更「体が目的だったのね!?」みたいなどこぞの三流ドラマの女優みたいなことを言うつもりはないし、
自分の体にそんな自信は微塵もないけど、それにしてもこれ如何に。
健全な高校生のカップルとして間違ってるんじゃないだろうか。
中嶋と健全なんて言葉、全然しっくりこないけど。
でもだってこう見えたって普通の女子高生だ。
制服デートってのは無理としても、いや『BL学園』なんだし、
普通にそう言うカップル見れるような学園だから無理じゃないんだろうけど、
とにかく普通の学生カップルみたいに普通のデートをしてみたい。
でもまぁ、今問題と言うか、が悩んでるのはそこじゃなくて。
そう言う部分も含めて、もっと基本的なことで悩んでる。
中嶋の口から、まだ一度も『好きだ』と言われたことがない。
って事実だ。
どうせ中嶋のことだから直で聞いても「下らないな」とか言うんだろうし、
素直に言葉にしてくれるとも思えない。
だけどとしては未だに不安なのだ。
覚悟を決めてあのド鬼畜様と付き合うことにしたものの、
どんなに前知識があってもアイツの考えてることは今も全然分からない。
以前一度だけ、が望んでる言葉に
そして始まりが最低とは言え今まで続いてる以上、好意は持たれてるんだと思う。
でもそれがイマイチは中嶋に好かれてるって自信に繋がらない。
中嶋の優しさや気遣いは必要以上に分かり難くて、
が彼のことで振り回されてるのと同じ位にのことを想ってくれてるとはどうしても思えなくて。
ああ言う性格の人間だと分かってても、が中嶋の特別なんだと考えられなくて。
案外ある日突然あっさり手を放されてしまうんじゃないかと不安な訳だ。
「その気持ち・・・俺にも少し分かる、・・・かな」
そんなもやもやを抱え込んで毎日を過ごしてたある日のこと。
最近の元気がないんじゃないかと心配してくれた我が従兄弟に相談すると、
彼はあのくりっとした大きな瞳を伏せて口元に苦い笑みを浮かべた。
「西園寺か?」
「・・・うん。西園寺さんはああいう人だから、好き嫌いが凄くハッキリしてるんだ。
だから俺のことも無理して傍に置いてくれてるなんて思わないけど、
それでも俺の方がきっと西園寺さんの何倍もあの人を好きなんだろうなって・・・。
まぁ俺はあの人の傍に居られるんだったら、それでもいいんだけど・・・って!
ごめん、これじゃどっちが相談されてるんだか分からないよな」
「ううん、いいよ。お互い同じようなことで悩んでるんだったら一緒に考えられるしな。
・・・打開策が見つかるかは別として」
「・・・、それじゃ意味ないんじゃ・・・」
と啓太はそこで同時に苦笑する。
ここは寮の食堂。
まだ食には時間が少し早いせいか、まだ人気はまばらだった。
「・・・俺、たまに・・・って言うか本当はいつもなんだけど、
西園寺さんの口から好きだって言わせたくてたまらなくなっちゃうんだ。
そうしないと安心できないって言うか・・・」
「西園寺は答えてくれるだろ。その辺羨ましいけどね」
「中嶋さんは・・・・、難しそうだな。それにの方も意地張って聞けなさそうだし」
「うっ・・・」
さすがに我が従兄弟殿、鋭い。
そうなのだ。
確かに中嶋に直に聞いても素直に答えてくれなさそうだとは思ってるけど、
それ以前に自身がそんなこっぱずかしい真似が出来るかと言う部分があって。
「たまには素直になって聞いてみればいいじゃないか。
そうすれば中嶋さんだってきっと分かってくれるよ」
「甘い!啓太!あの偉そうな男がそんなタマかよ。
って言うか、そこまでして分からなくて答えなかったらオレは恥のかき損だし」
「偉そうなって・・・。でも、やってみなくちゃ分からないだろ?
このまま何もしないままじゃ何も変わらないんだぞ」
正面に座ってる啓太がそう言って真っ直ぐにを見つめる。
外見からして可愛らしい系男子のくせに、こういうときの啓太の顔は男前だ。
何だか随分勇気付けられてしまった。
「ハァ・・・、オレ、啓太のこと好きになれば良かった」
「えっ?ええっ!?」
ボフン。
の発言に啓太は爆発したみたいに顔を真っ赤にして驚いてる。
まったく、愛い奴だ。
しかし私もかなりここに慣れてしまったなとふと思う。
人気が少ないし他人の会話なんて誰も聞いてないだろうとは言え、
男子校の寮の食堂内で同じ在校生の名前を出して恋愛相談。
BL学園ならではだ。
ま、の場合は似非BLだけど、啓太の相手はあの女王様として恐れられてる西園寺だし。
彼らの場合、この舞台に相応しいと言うかあるべき姿なので、やっぱり『BL学園』ならではだと思う。
「あ」
そこで不意に啓太がの背後に視線を向け、驚いたような表情を見せた。
は一拍置いて「?」を浮かべつつ、彼が視線を向けてる方向に振り返る。
「げ」
そこには何やら会話を交わしながら、達の方に歩いてくるやけに目立つ生徒が二人居た。
一人は西園寺、そしてもう一人は―――――
「西園寺さん、中嶋さん!」
二人の名前を呼びながら、啓太が椅子から立ち上がる。
何故このタイミングで登場するんだ。
西園寺はいいとして、何でいつも一緒の七条じゃなく中嶋が。
とは言え、七条と中嶋が揃うのは色々な意味で恐ろしいし迷惑なのでそれはそれでいいんだけど。
それにしてもまさかこんな早い時間に中嶋がここに顔を出すとは思わなかった。
(続く)