恋をしていますありがとう!

2月14日。
バレンタイン当日。
今日は平日だから、当然普通に授業も行われてる。
だけどまぁ、野郎共ばっかのこの学園の生徒も、
『BL学園』なだけあって彼女持ちな生徒以外の人間も落ち着かない様子だ。
現に明らかに貰ったチョコじゃなく、今から渡しに行くんだろうという感じの男子生徒も何人か見かけた。
一応それなりにこそこそはしてたけど、『そう言う話題』もこの学園内じゃそう珍しくもない。
そこはそれ、『BL学園』なだけに、と既には納得していた。
と言うより、正直今は彼らのことを気にしてる余裕もなく。
今日は授業が終わるとなるべく啓太と和希の傍には近寄らないようにしてた。
いつ成瀬が突然教室に飛び込んでくるか分からないからだ。
成瀬が啓太にケーキを渡すところなんか見たくない。
一応あの二人にはからの義理チョコを朝一で渡しておいたし、
今日はもう逃げ切れるとこまで逃げ切るつもりだ。
成瀬は自作弁当派だから、食事をしに食堂に来ることは余りない。
キッチンを借りて料理やお菓子作りをする時は別として、
彼があそこに顔を出す理由なんてひとつだ。
愛しいハニーに会う為。
ってことで、今日のランチははチャイムが鳴ったと同時、パンを買いに購買に走り、
そのまま屋上へ向かった。
更に昼休みが終わるギリギリに教室に滑り込み、授業が終わると猛ダッシュで寮の自分の部屋へ戻る。
和希と啓太には睡眠不足気味だから帰って夕食まで寝とくって適当な理由をつけて逃走を図った訳だ。
ここのところの様子がおかしいことには二人とも気付いてて、
結構心配してくれてるみたいだったから申し訳ないとは思ったけど、
理由なんて勿論話せるわけがない。
は寮の部屋に戻るといつもはすぐに手を付けない宿題を真っ先に開始し、
暫くそれに集中することにした。
実際は集中するなんてとんでもなくて、
集中力に欠けすぎてて思ってた倍の時間を掛けて終えたのだった。


さて、どうしよ・・・。


勉強机の椅子に座ったまま、両腕を上げて大きく伸びをする。
ちらりと横目で見た時計は食を取るにはまだ早い時間だった。


さすがにもう・・・成瀬は目的を果たしたかな・・・。


コンコン。


「っ!」


不意にの部屋のドアをノックする音がして、は動きを停止する。
もしかして啓太か和希だろうか。
今日一日一人でバタバタしてたから、心配して様子を見に来たのかもしれない。


「はい」
「あ、、良かった、居たんだね」
「・・・え゛!?」


の返事に応えた声は、思いもよらない相手のもので、は驚いて声を上げた。
そして反射的にジッとドアを凝視する。


「啓太達に聞いたんだ、今日は真っ直ぐ部屋に戻ったって」
「成瀬・・・?な、何で・・・オレのとこに・・・」


ドア越しに聞こえてくる声は間違いなく成瀬のもので、
は驚きすぎて軽くパニっくを起こしかけていた。
今日は、今日だけは特に会いたくないと思ってた相手だ。
成瀬が啓太にケーキを渡すのを見たくないってのも勿論あったけど、
本人とも顔を合わせたくないからは今日一日あれほどバタバタしてたわけで。
それがまさか向こうから会いに来るなんて思っても見なかった。
この間、食堂からを追って来たときも驚いたけど、今回はあの時以上にビックリしてしまった。


「君に渡したいものがあって、ほら、この間言っただろ?ケーキを焼くって」
「・・・あ・・・」


ど く んっ


瞬間的に、心臓がわざとらしい程大きな音を立てて脈打った。
の眉間に自然と深いしわが寄る。
勿論、成瀬がケーキを焼くって言ってたこと自体は覚えてた。
それを、にもくれるっていってたことも。
だけど―――――


「・・・・・・」
?」
「・・・啓太には、もう渡した・・・・・・?」


そんなこと、確認するまでもない。
にくれるってそのケーキは、あくまでも本命のついで、なんだから。
答えなんか分かってるのに、何でこんなことを聞くんだ、は。


「あぁ、丁度ランチ時だったから、俊介達も一緒だったけどね。
その時に君の姿が見えなかったし、僕は放課後部活だったから・・・、
でも今日は早く上がって来たんだ。良かったら夕食のデザートにでもどうかなってさ。
ねぇ、・・・、その・・・ここを開けてくれないかな?」
「オレは・・・」
?」


少しの間躊躇った後、結局は部屋のドアをゆっくりと開けた。
ドアを開けた先には、片手にケーキの入った箱を持っている成瀬の姿。
何処かホッとしたみたいな表情でを見下ろしてる。


「良かった、断わられちゃうかと思った」
「・・・成瀬、あのさ・・・」
「ん?」


は視線を床に落とし、そこで言葉を切った。
唇が僅かに震えたのが自分でも分かる。
成瀬は、純粋にを友達として心配してくれてる。
性格にはあれこれ物申したいこともある奴だけど、間違いなくイイ奴で、
ルックスと言う面だけでなく、内面も含めて成瀬はイイ男だ。
本当にいい友達として、笑いながら、面白がりながら、
それでも成瀬の恋を応援できればどんなに良かっただろう。
彼に想われて晴れて恋人になれた時の啓太の幸せを、
想いが通じて幸せで満たされた成瀬の蕩けそうな笑顔を、
は既によく知ってる。
大好きな従兄弟と大切な友達の恋を応援して支えてやれる器の広さが、
今のにあれば、どんなに―――


「・・・っ、・・・」
「っ!?!?どうしたんだい!?」
「や、ヤバ・・・」


ああ、くそっ!!なんてことだ、のドチクショウ!!


ポロポロと。
の意思を全く無視して不意に零れ出た涙は、
慌てて引っ込めようと努力した時にはもう遅くて。
気付けばほんの数秒でボロボロとの頬を濡らしてた。
は慌てて片手で顔を隠し、更に成瀬から視線を逸らす。


「な・・・なんでも・・・ない!」


咄嗟に返した声は既に鼻声。
しかも震えてると来てる。
最悪だ。
男として情けないのは言うまでもないし、女としてもみっともない。
何より、成瀬は訳が分からないに違いない。


「・・・ごめん、・・・成瀬、悪い、けど、今日はもう・・・かっ・・・」


帰ってくれ。


そう続けるはずだったの言葉は、突然成瀬に強引に腕の中に引き寄せられたことで遮られた。
ドサリ。
それと同時に彼の手にあったケーキの箱が音を立てて床に落下する。
それは、何の抵抗を示す間もないほど一瞬の出来事。
気付けば、は成瀬の胸に顔を押し付けられてるような状況で。


「えっ、・・・なっ!!??」
「泣かないで、。何か悲しいことがあったんだろう?僕に聞かせてくれないかな?」
「ばっ、いい、いいっ・・・から、成瀬、離せ・・・!」


何を。
何を考えてるんだ、コイツは。


普通なら男が涙見せたからって同性相手に抱きしめたりなんてしない筈だ。
ここがBL学園だからとか、BL学園だから許されるとか、BL学園ってだけでその理由になるとか、
そう言うことはこの際置いといて、成瀬の場合は元々男女関係なく愛を振りまいてたらしいけど、
それにしたって今は啓太しか見えてない様な状況の癖に。


あ、馬鹿・・・・・・っ!


そんなことを考えながら、成瀬の腕の中でじたばた暴れていると、
ほんの一瞬引っ込みかけた涙がまたじわりと目の端を濡らし始める。
どんなに暴れても成瀬の奴は全くの体を離そうとはしてくれなくて、
はとうとう両腕をドンッとアイツの胸の辺りに叩き付けた。


「やめて・・・くれ!!離せ!!・・っ、あんたには、成瀬には、好きな人が居るくせに!!
もう・・・、・・・、お、オレに構うな・・・!!」


怒鳴った筈の声は、殆ど悲鳴に近いもので、涙声が混じってるせいで、
益々みじめに響いた。
こんな形で成瀬に気持ちをぶつけるつもりなんかなったのに、
こんなみっともない醜態なんか、晒すつもりなかったのに。
最悪だ。
は、とても、サイアク。


・・・君は・・・」
「・・・離して・・・。大丈夫・・・、一人になれば、落ち着く・・・」


強がりで口にした言葉さえ、笑えるほどまともに口に出来てやしない。
大丈夫、が、聞いて呆れる。
でも、そうやって強がりでも言ってなきゃやってられない。
このままコイツの腕の中に居たら胸が痛くて苦しくて耐えられない。



「駄目だ、離せないよ。そんな顔の君を置いて行ける訳がないだろう」
「・・・っ、だから・・・そう言うこと言うの止めろよ!オレは・・・!!」



「ねぇ、君は信じてくれないかもしれないけど、僕は、君が好きなんだよ、



ドッ  クンッ


暴れるを抑え込むように息苦しさを感じそうなほど力強く抱きしめられたまま、
成瀬から告げられた一言。
心臓が大きく胸を叩いた瞬間。
の思考回路は一瞬にして停止した。
そして、次の瞬間からクラッシュを起こす。
つい数秒前に成瀬が口にした言葉が余りにも信じられなくて、あり得なさ過ぎて、
聞き違いにしても性質が悪い。


「・・・な、なに?成瀬、あんた・・・なに、言って・・・」
「・・・ごめんね、急にこんなこと言っても、驚いちゃうよね・・・。
僕も驚いているんだ。まさか自分がこんなに鈍い人間だとは思わなかったよ」
「成瀬・・・?」


呆然と。
抵抗することすら忘れ、は彼の名前を呼んだ。
成瀬はゆっくりとから体を離し、そしての瞳をジッと見下ろす。
その目が驚くほど真剣で、どうしても逸らすことが出来なかった。
ポロリ、と、目の端に溜まっていた涙がまた頬を伝う。
成瀬はそのの頬の雫を片手の指先で優しく拭った。
その仕草までもには驚くことしか出来ない。
今、何が起きてるのか、成瀬が、何を言おうとしているのか、
それどころか、ついさっきの彼の言葉さえ理解出来てなかった。


「・・・君はいつも僕が啓太をハニーって呼ぶと笑っていたよね。
だけど、最近は何だかどんどん元気がなくなっていって・・・、
余り僕達に、・・・僕に近付かなくなってきていた・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「どうしたのかなって、ずっと思ってたよ。
それからも君の様子が気になって仕方がなくなっていた。
でもつい最近までは、僕は自分の気持ちに気付くことが出来なかったんだ。
僕が自分の気持ちをハッキリ自覚したのは、
この間君が食堂から抜け出した後に少しだけ話をしただろ?あの時なんだ」
「・・・・・・、食堂って・・・、え?もしかして」


はそこで食堂で啓太争奪戦を繰り広げてる成瀬を見てるのが辛くて、
食堂を抜け出した後に、彼がを追いかけて来てくれたことを思い出した。
成瀬は少しだけ瞳を細めて苦笑して頷く。


「うん、あの時。を元気付けたくてケーキを焼くって言ったんだけど、
君は益々悲しそうな顔をして笑ったよね」
「っ!!」


成瀬、気付いてた・・・!?


は一瞬大きく瞳を見開いて成瀬を見上げた。
彼はまた、困ったように笑う。


「あの時の君の顔が頭から離れなかったよ、
気付かない内に君を傷付けてたのは、君の元気をなくさせちゃったのは、
もしかして僕だったんじゃないのかなって」
「あ・・・」


成瀬は、気付いてた。
違う。
気付いてくれたんだ。
を、気に掛けて、を、のこと、見ててくれたんだ。
そこで成瀬は少しだけ照れた口調で先を続ける。



「でももしもそうなら、僕がまた君を元気にしてあげたいと思った。
君の傍に居て、君を笑顔にしたいと思ったんだ。
ねぇ・・・、もう一度言うよ、僕は君が好きなんだ」



あああああああ!!もう!!
ああああああああああ!!もう!!


なんてことだ。
はやっぱり最低だ。
成瀬のことを好きなくせに、一番彼のことを見てなかったのは自身だった。



「成瀬・・・!・・・好き・・・」
・・・!」



踵を上げて両腕を伸ばし、は今度は自分から成瀬の体に腕を回した。
彼はほんの一瞬驚いたような表情を見せた後、すぐに抱きしめ返してくれた。
ああくそう、本当になんてことだ。
いつもなら笑い飛ばす甘ったるい告白の言葉も、
恥ずかしくて直視できない筈の蕩けた笑顔も、
成瀬がたった今くれた全部が嬉しくて嬉しくて仕方ない。
近いうちには彼に自分の性別を明かすつもりだ。
だけど今は、それよりもこの恥ずかしささえぶっ飛ぶ喜びに浸らせて欲しい。


「嬉しいよ、凄く・・・!」
「うん、オレ、も・・・。あ、ケーキ・・・ごめん・・・折角作ってくれたのに・・・」


そこで床に箱ごと落下したケーキのことを思い出し、
は少しだけ体を離して成瀬に謝った。
わざわざを元気付けようと作ってくれたケーキだ。
食べるつもりは勿論あるし、箱に入ったままだから食べられないわけじゃないけど、
きっと最初の綺麗なままではないだろう。


「ふっ、いいよ。ケーキはまた作ればいいし、
・・・それに、その代わり僕はこれ以上にない素敵なものを貰えたからね」


言って、成瀬はの方へと屈みこんで来ると、の唇に自分の唇を重ねた。
やわらかな感触と同時に成瀬の髪がの頬を掠める。
涙はいつの間にか乾いてた。
一度唇を離した成瀬が、再びにキスをして、一層強くを抱きしめる。


つい数日前までバレンタインなんて来なけりゃいいと思ってたのに、
バレンタインも捨てたもんじゃない、どころか、
バレンタイン最高!になっているの思考回路は相当お花が乱れ咲いてる自覚がある。


でもいいじゃないか、だって青春ド真ん中の女子高校生なんだから。
少なくとも今は、この甘ったるい幸せを心行くまでかみ締めてやる。



だって今日は、今までで一番最高のバレンタインデーなんだから。



(END)



あとがき
毎度お馴染みの流れを汲んじまいますよ、成瀬相手だと(苦笑)。
どうしてもね、ハニーからは離れられませんわ、和希と成瀬はね。
そしてやっぱり無駄に長い!!今回はさすがに前後編に分けました。
あ、俊介の関西弁が似非過ぎるのはスルーしてやって下さいまし。
実はVDネタ自体は考えてて書こうか迷ってたんですが、
拍手からあり難いお言葉を頂き、頑張って形にしてみましたvv
ここまでお付き合い頂いてる姫様方、感謝感激雨霰です!!失礼します。
Title by 確かに恋だった