甘い微熱の理由

・・・、ねぇ気持ちイイ・・・?もっと、声出して・・・っ、僕の名前を呼んで・・・?」


弾んだ息の合間に艶やかさを含んだ甘い声で成瀬がに囁く。
密着した肌と肌が汗ばんで、血が沸騰してるんじゃないとか思うくらいにお互いの体が熱かった。
成瀬が腰を使う度、強烈な快楽がを襲う。
彼に触れられた場所から、繋がった部分から、
このまま本当に溶けてしまってるんじゃないだろうかと心配になった。
均整の取れたギリシャの彫刻みたいな綺麗な成瀬の体に手を伸ばし、
は必死で彼にしがみつく。


「もっと僕を求めて・・・、僕の名前を呼んで欲しい・・・」
「ゆ、きっ・・・ひこっ、・・・」


普段の自分からは想像も出来ないような、
寧ろしたくもない様な舌足らずの甘ったるい声が成瀬の言葉に従って彼の名前を呼ぶ。
それを恥じる余裕もなく、はただ成瀬を求めた。


「可愛い、・・・っ、ふ、・・・もっと気持ちよくしてあげるからね」


熱と色気を持って掠れた口調で彼はそう言い、の唇に貪る様にキスをした後、
と繋がっている一部を一際激しく打ちつけた。
瞬間的にの体が弓なりに反る。
目の前を火花が弾け飛ぶみたいな今までで一番強烈な波がを襲った。


「ゆきひこ、ゆっ・・・あアアアっ・・・!!」






――――ピピピピッ ピピピピッ



「!!!!!」



パチリ。
目を開けて数秒、は自分の部屋の見慣れた天井を見上げたまま硬直する。
目覚めた瞬間からアレは夢だと分かったけど、正直さすがに夢の内容に愕然とした。



ど、ど、ど、どんだけ欲求不満なの、自分!!!!



そう思わずにいられない。
しかも内容のひとつひとつが夢というには余りに生々しい感覚で、
あいつの長い指の感触とか、熱い肌の温度とか、荒い息遣いまでこと細かに思い出せた。
それだけじゃなく、恥ずかしいなんてレベルを遥かに超えた恐ろしいと言う表現でもいい位の、
自分の甘ったるい声その他もしっかり耳に残っている。
どうせなら夢らしく忘れちまえば良かったものを。
寧ろその部分は特に忘れたかったところだ。
確かにここのところ成瀬が部活の関係で忙しくて、二人きりでゆっくり会う時間も減って、
必然的に『ああいう』ことをする時間もなかったが、
それにしてもまさかがあんな夢を見るなんて。
ある意味健全な高校生男子としては正しいのかもしれない。
でもは本来女子高生。
そりゃ確かに成瀬のことは好きだし、触りたいとも、触って欲しいとも思ってる。
だけど、まさかあんな生々しいレベルの下心満載の夢を見るなんて。
まさに欲求不満の塊。
自分にげんなりしてしまった。
はこの上なく深い溜息と一緒に自己嫌悪に陥りながら、ずるずるとベッドから離れた。
窓の外は快晴。
眩しい太陽にさわやかな青が広がってる。
そのことで何だか更に卑猥な夢を見た自分の脳内が情けなくなってしまった。



◇◆◇



、啓太、おはよう。・・・、どうしたんだ?お前、何だか朝から疲れたような顔してるな」
「おはよう、和希!やっぱり和希もそう思うだろ?俺も気になって聞いてみたんだけど」


寮の学食でいつも通り和希と啓太と顔を合わせ、二人は真っ先にの様子がおかしいことに気付いた。
こういうときの身内ってのは本当にやりづらい。
それでも二人が部屋まで迎えに来たりしなかっただけまだマシかもしれない。
十数分前はもっともっと酷い顔をしてただろう。
それこそ夢の内容を思い出しては青くなったり赤くなったり、一人信号機状態だった自覚はある。


「いや、何も・・・。二人とも気にするな」


苦笑いを浮かべたまま、二人にそう返したところで、
今最も顔を合わせたくない人物の声がの名前を呼んだ。


!おはよう!」
「っ!」


いつも朝食は一緒に取ってるし、登校も一緒にしてるから、そろそろ姿を見せる頃だとは思ってたけど、
やっぱり大げさにびくりと驚いてしまう。
と言うか、本当ならが支度を終える時間に迎えに来てくれる位なのだ。
今回は寝坊して慌てて準備したから部屋にまで迎えに来てくれなくていいというメールをして、
あの夢を見た直後の酷い顔を見られないようにしたんだけど。
と言うか、正直今日は本当にもう成瀬とは顔を合わせ辛い。
はぎこちない笑顔を浮かべて彼に挨拶を返した。


「オハヨウ・・・」
「成瀬さん、おはようございます!」
「啓太、おはよう。ああ、ついでに遠藤もね」
「俺はついでですか、おはようございます」


啓太をハニーハニーと追い回してた頃の名残のせいか、和希と成瀬は今でもこんな感じだ。
まぁ、これはこれでおなじみのやり取りと言うところで、
仲のいい二人って方が不自然かもしれない。
そして当たり前だけど、成瀬はいつも通り。


「僕はもう朝食を席まで運んであるんだ。席も今なら4人一緒に座れるけど、どうする?」
「いえ、俺と和希は別の「よし!!じゃあ、4人一緒に座ろう、そうしよう!」


と成瀬が最近二人きりの時間をゆっくり過ごしてないってことを知ってる啓太は、
気を利かせてくれようと達二人で食事をさせてくれようとした。
いつもならその気遣いに有り難く乗っかるとこだけど、
今回ばかりは成瀬と二人きりになっていつも通り振舞える自信が全くない。
この人数でさえかなりテンパり気味なのに、
あの夢をフラッシュバックさせつつ成瀬と食事なんて、軽い羞恥プレイだ。
は笑顔のまま強引に啓太の言葉を遮り、4人揃って食事をする方向に話をまとめた。
寧ろまとまらなくてもまとめたことにする勢いで。


「・・・なぁ、、本当に俺達も一緒でいいのか?」
「いいの。と言うか、その方がいい。頼むからそうしてくれ」
「?お前がそう言うならいいけど・・・」


は啓と顔を寄せ合ってひそひそ会話を交わしつつ、
ちらりと隣に居る成瀬を見上げた。
カチリ。
そこで見事に視線が合う。


「・・・、何だか疲れた顔をしてない?もしかして昨日は余り眠れなかったの?」


にそう訊ねた成瀬が気遣わしげな表情での肩に手を乗せ、
ぐっと顔を寄せて来た。
それとほぼ同時に、の脳内で昨夜の夢がフラッシュバックする。


―――・・・、ねぇ気持ちイイ・・・?もっと、声出して・・・っ、僕の名前を呼んで・・・?


「わああああ!!!!」
「っ!?!?」


は反射的に大声を上げて勢いをつけて成瀬から離れた。
当然、成瀬は余りに突然のの行動に驚いてるし、
傍に居た啓太と和希も揃ってぎょっとした様子でに視線を向ける。
はゼェハァと息を整えながら、無駄だと分かっていても無理やりに自分の顔に笑みを貼り付けた。


「わ、悪い、な、何でもない!から!!」


どくばくと騒がしく鼓動を刻む心臓を胸の上から無意識に片手で押さえ込む。
和希が怪訝そうな表情を浮かべてを見た。


「何でもないって、お前さっきからおかしいぞ?」
「おかしくない!」
「俺も、変だと思う」
「変じゃない!!」
「ねぇ、何かあるのなら本当に僕が」
「何も無い!!!さっさと食事しよう、皆!行くぞ!!」


だって自分が明らかに挙動不審なのは分かってるけど、それを認めるわけにはいかなかった。
だってそれを認めてしまったら、当然のようにその理由を聞かれてしまう。
理由なんて、そんなこと口が裂けても言えるはずがない。
はまたしてもそこで話を強制終了し、の様子を怪しむ三人を席に着くように急き立てた。



◇◆◇



その日は例の夢のせいで一日中成瀬の顔をまともに見ることが出来なかった。
結局あの後4人で朝食を取った時も全然落ち着かなかったし、
学園でいつものように休憩ごとに顔を出してくれる成瀬ともまともに会話もままならない始末。
成瀬がに近付く度、彼の香水の香りとか、指先の動きとか、長い髪が揺れる瞬間とか、
そんな小さなことひとつひとつでの脳内であの夢の内容がフラッシュバックして、
どうしても動揺しまくってしまうのだ。
ランチタイムの時もいつもは二人で屋上や中庭で彼のお弁当を食べてるんだけど、
今回は色々と適当な理由を付けてまたしても啓太と和希を巻き込んだ。
啓太も和希も何だかんだでに甘いから了承してくれたけど、
成瀬には本当に色々と悪いことをしたと思ってる。
今日は成瀬がに近づく度には大げさに飛び上がったり大声を上げたり、
そんなことしかしてなかったから。
でもそれを謝りたいと思っても、その場合はどうしても理由を説明しなくちゃならなくなる。
理由なんて、さっきも言ったけど、口が裂けても言える訳がない。
口どころか体が裂けても言えない、言いたくない。
「昨日の夜成瀬とセックスする夢を見たから意識し過ぎて顔が見られない」とでものたまえというのか。



な、ないないないないないないないない!!!!
ぜっっっっっったい無理!!!!



そんなことを口にする位なら暴君丹羽の生徒会の仕事を一週間全部やれと言われる方がまだマシだ。
今の生徒会の状況から言って、一週間どころか一日辺りの仕事量も相当なものがあるってのは知ってるが、
その凄まじい仕事をこなせと言われるほうがまだにとって救いがある。
その位に今回の夢のことは成瀬には知られたくなかった。



!」
「っ!」


名前を呼ばれてハッとして我に返る。
視線を上げると、丁度部活を終えた成瀬がコートからに向かって走ってくるところだった。
相変わらず、モデル並みのルックスにテニスウェアがよく似合っていて、
ただ走るだけの姿さえまるでCMのヒトコマのようだ。
もうこれでもかって位に見慣れた姿なのに、いつも目を奪われてしまう。
ハードな練習の直後で汗を流してる成瀬は、その汗さえ爽やかに見せてしまうレベルの男なのだ。
そう、爽やかに。
それなのに――――


―――可愛い、・・・っ、ふ、・・・もっと気持ちよくしてあげるからね



今のの目には、その汗と上気した頬、汗で頬に張り付いた金髪を含め、全部が卑猥に映ってしまう。



卑猥なのはの頭だっ!!


「急いでシャワーを浴びて戻ってくるよ。ごめんね、いつも待たせちゃって」
「成瀬!!」
「ん?わっぷ!?」


は成瀬の名前を呼んですぐに、
手にしていたタオルを彼の顔面へ放り投げた。
そう、殆ど投げつけるようにして。
勿論わざとじゃないしそんなつもりはなかったんだけど、またまたまた(以下略)しても激しく動揺し、
動悸息切れを感じていたは、普通に振舞うことが出来なかった。


「成瀬、わ、悪い!オレ、今日はこれで先に寮に戻る!」
「え??」
「ホントごめん!じゃあまたな!」


言いざま、は成瀬に背を向け、まるで逃げるみたいにその場を後にした。
きっと成瀬は訳が分からなくて混乱してるに違いない。
心の中は申し訳ない気持ちで一杯だけど、今はとにかく彼の傍に居ていつも通りで居られる自信が全くなかった。
幾ら動揺してたとは言え、今日一日彼には酷い態度を取ったもんだと猛反省と自己嫌悪の嵐に見舞われつつも、
自分でもどうすればいいのか全く分からなかった。




(続く)