「ねぇ、和希、やっぱ・・・、避けられてるとしか思えないんだけど・・・」
「そんな風に悪いほうに考えるなよ。きっと少しタイミングが悪かっただけだって」
「タイミング・・・、でも、あれからもう4日も経ってんだけどなぁ」
そう、4日目だ。
あれから、と言うのは、が保健室でベッドを借りて成瀬が付き添ってくれたあの日から数えてって意味。
ベッドで寝入ってしまったに付き合ってくれたせいで成瀬が授業をサボることになり、
小言ジイ様の説教部屋送りになったことを知ったは、
彼に直にお詫びとお礼を言うつもりで一旦寮に戻って彼が帰ってくるのを待っていた。
で、その後、部活を終えて寮に帰って来た成瀬に声を掛けることに成功した。
――までは良かったのだ。
だけどあの時の成瀬は何だかいつもと違って微妙に余所余所しくて、
に対する態度に違和感を覚えた。
普段は真っ直ぐ人と目を合わせて話をする彼が、決してと視線を合わせようとはしなかったし、
それにどことなく落ち着かず、そわそわしてるみたいに見えた。
一応目的のお礼とお詫びは言えたものの、何だか釈然としない。
例のとの保健室の一件で、小言ジイ様から反省文を提出しろと言われていたらしく、
今から急いでそれに取り掛からなきゃならないんだと言う理由で、
成瀬は早々にの前から離れていってしまった。
その翌日の放課後、部室に向う前の成瀬に声を掛けるも、
今日はミーティングを早めに始めることになってるからってことで、これまた早々に会話を切り上げられてしまう。
二日目はの方が生徒会の仕事に付き合わされて、成瀬の所まで行くことができなかったってのもあるけど、
以前までの彼なら休憩中なんかに少しでも声を掛けてくれたりしてたのだ。
三日目。
何だかもやもやした気分のまま休憩中を狙って、二年の成瀬の教室を覗いてみるも、またしても運悪く彼は席を外していた。
因みに放課後も既に部活へ行ってしまった後だったっていう、残念さ。
そして4日目の放課後、現在に至る。
確かに和希の言う通り、タイミングが悪かったといえばそうかもしれない。
だけど、は4日前の成瀬の態度がどうしても心に引っかかってしまっていた。
とは言え、何だか、ちょっとこれ、成瀬を追っかけ回しすぎじゃないだろうか。
啓太の一件以降、以前より成瀬と一緒に居る時間が多かったせいか、
学園生活の中で彼の顔を見ない日が続くことに妙な不安を抱いてもいた。
ここはやっぱりもう少し冷静になるべきかもしれない。
「今日も行くのか?成瀬さんのところ」
和希にそう問いかけられて、は少しの間視線をさ迷わせて考える。
そして、今回は止めておこうかなと言う返事を口にしようとした、その時だった。
「あっ・・・」
不意に和希の視線が教室のドアに向けられ、同時に彼は何かに気付いたような表情を浮かべる。
も釣られて同じ方向へ視線を移動した。
そしてその先に居た長身の生徒の姿に思わずぎくりと体をこわばらせる。
「成瀬・・・?」
「!」
丁度達の教室に足を踏み入れたばかりらしい成瀬は、
と和希が自分の存在に気付いたことを察し、の名前を呼んで片手を振った。
は苦笑しつつそれに応え、和希はそんなにちらりと気遣わしげな視線を向ける。
「、すれ違いにならなくて良かったよ。どうしても部活に行く前に会いたかったんだ」
達に駆け寄るようにして近付いてきた成瀬がそう言って笑顔を見せた。
その笑顔がなんとなくぎこちなく見えたのは、
の方が予想外の彼の登場に戸惑ってしまったからそう思えたのだろうか。
休み時間や放課後になる度、あれだけ追い掛け回していたくせに、いざ目の前にあらわれるとビビってしまう。
「部活が終わった後に、寮で会えないかな?
少し話がしたいから、君の部屋に行ってもいいかい?」
「え?」
「モチロン、僕の部屋でもいいんだけど、どうかな?」
成瀬の予想外の登場の上、予想外の誘いを受け、は咄嗟に返事が出来ない。
この学園の生徒は皆寮暮らしだし、友達の部屋を行き来するなんて別に今更気にするようなことじゃないんだけど、
その相手が成瀬で、しかも二人きりで話をするとなると何故か落ち着かない気分になった。
「部活の後なら寮の食堂でも談話室でもいいんじゃないですか?成瀬さん」
の様子で戸惑ってるのを察してくれたらしい和希が、そこでそう言って助け舟を出してくれる。
それと同時に成瀬の形のいい眉がぴくんと軽く跳ねた。
「悪いけど、僕はと二人きりになれる場所で話がしたんだよ、おともだちくん」
刺々しい口調で返事をする成瀬のその表情と声音は、久しぶりに目にするものだった。
和希をわざと名前で呼ばずに『おともだち君』と呼ぶのも、これまたかなり久々だ。
ついさっきまでの戸惑いも忘れ、はきょとんと成瀬を見つめる。
和希も一瞬驚いた様子で成瀬を凝視して、それから何かに気付いたように少しわざとらしく深い溜息をついた。
更に、和希は今度はに視線を向ける。
「だ、そうだ。、嫌なら断ってもいいんだぞ」
「え?あ、ああ・・・その、」
「これは僕との話だ。おともだちくんは余計なことを言ってを惑わせないでくれないか?」
「余計なことじゃありません、必要なことです」
が次の言葉を発するより先に、何故か再び始まる成瀬と和希の謎のバトル。
ゴングはどうやらさっきの成瀬の最初の『おともだち君』発言からみたいだけど、
なにがどうしてこいつ等はここに来てこんなことになってんだろうか。
当たり前だがは啓太じゃないし、こういっちゃ何だが、成瀬はとっくに啓太に失恋してる。
まぁとりあえず今が言えることは。
「ストーップ!二人とも面倒くさいからその先は止めろ!」
を挟んでの言い合いなんて面倒くさい、鬱陶しい。
画面越しに見てる分、または現場に居たとしても第三者として傍から見る分には笑えるけど、
訳の分からない間に巻き込まれた上に、どうやら自分も当事者っぽい今の状況。
急展開ってこともあって、全然笑えない。
の言葉に二人がぴたりと口論を中断する。
「成瀬、そろそろ部活に行ったほうがいいんじゃないか?」
「え?ああ、そうだね。だけどその前に返事を聞かせて欲しいな」
「俺からあんたの部屋に行くよ、それでいいだろ?」
「ああ、モチロン!それじゃあ、また!」
成瀬は何故か妙に勝ち誇った表情で和希に視線を向けた後、
に笑顔で手を振って教室から出て行った。
その背中を見送った直後、の隣に立っている和希がさっきと同じようにわざとらしい位に深い溜息を吐く。
「?和希?」
「、本当に面倒くさくなるのはこれからだぞ」
「はい?なにそれ?どういうこと?」
「さぁな、その内お前にも分かるよ」
「?」
和希の言葉の意味が分からずにこの後も何度かこの時のことを質問したんだけど、
結局和希はまともに答えてくれず、はぐらかされて終わってしまった。
以前にも何度か似たようなことがあったけど、
こうなるともうきっと和希はこの問いに答える気はないということだろう。
『その内』にも分かる時がくるまでは、話題にしても仕方ない。
□■□
その後、と和希は寮の食堂で夕食を終え、
和希はまた理事長の仕事があるってことでそれぞれの部屋に戻ることにした。
和希はこの後が成瀬と二人で話すことを以上に色々気にしてくれてるようだったけど、
学園で口にしてた『面倒臭くなる』と言う謎の発言の時と同じく、
意味深なことを言う割りに何に対してそんなに心配してるのかいまいちよく分からなかった。
まぁ、そんなこんなで、あっと言う間に成瀬との約束の時間になって、現在進行形では成瀬の部屋に向っている。
あの保健室での出来事以来、ここ4日間、成瀬に避けられてるんじゃないかって位に彼と顔を合わせてなかったけど、
今日彼がに会いに着てくれた事でそれは和希が言ってた通り、
タイミングが悪かっただけなのかもしれないと思い始めていた。
とは言え、未だにそれだけじゃ納得し切れてないのもまた事実。
保健室での出来事も、やっぱりずっと気になってしまってる。
成瀬が話がしたいといってくれたのはいい機会かもしれない。
そう思う一方で、これから彼と二人きりになるんだと思うと、妙に緊張して落ち着かない気分になった。
今更成瀬相手に緊張するなんておかしな話だと、自分でも思ってはいるけれど。
「!待ってたよ」
「うお!?」
ぼんやり考え事に浸りつつ廊下を進んでいたは、
突然目の前の廊下の曲がり角から姿を見せた成瀬の姿に驚いて声を上げた。
このフロアは二年の寮の部屋が並んでいる。
だけど、彼の部屋の場所はもう少し先のはずだ。
「ごめん、驚かせちゃって。
そろそろが来る頃だと思ってエレベーターまで迎えに行こうかと思ってたんだ」
「出迎えなんて大げさな。まぁいいや、えっと・・・成瀬の部屋でいいんだよな?」
「ああ、行こう」
言って、成瀬はそこでこっちが驚くほど極自然にの手を取った。
驚いたは反射的に足を止めて、軽く手を引っ込めようとする。
それほど強く握られてる感覚はないけど、それでもその程度じゃ彼の手はから離れなかった。
「っ!?な、成瀬!?」
「?どうしたんだい?」
「いや、どうしたんだいって・・・」
それはこっちの台詞なんですけども!!!
成瀬は元々スキンシップが多いイメージがあるけど、正直それは愛しのハニー、啓太相手に限られる。
そして今はその啓太相手にも丹羽との一件依頼かなり控えめになっていた。
成瀬に限らず他の男子生徒も含め、男同士でも肩を抱いたり叩いたり、
多少距離が近いまま話をしたりってのもないではない。
だけど、単に廊下を二人揃って歩くだけの状況で、ナチュラルに手を繋ぐなんてのはさすがに今までなかったことだ。
BでLなこの学園内ではもそう言った光景を目にしたことはそれなりにあるけれど、
と成瀬は断じてそんな関係じゃないと言い切れる。
少なくとも今までは一度もそんなことはなかった。
それなのに、何でコイツはこんなに当然みたいに突然にの手を取りやがったんだろうか。
嫌か嫌じゃないのかって言えば、そりゃ嫌じゃないけど、そういう問題でもないだろう。
何だか今日は4日前とは別の方向に成瀬の様子がおかしい。
あの時は何だか余所余所しくて、と距離を取ろうとしてるようにも見えたけど、今回はその逆だ。
そういえば、放課後に会いにきてくれた時も何だかいつもと違う気がした。
「・・・いや、いい・・・。行こ」
成瀬の今までとは違う態度に微妙に違和感を覚えながらも、は取り合えず彼の話を聞くことを優先した。
もしかしたら彼の話を聞けばこのことも何か少しは分かるかもしれない。
何にせよ、としては不自然さ盛り沢山なこの状況が、成瀬にとって問題なしと言う時点で、
今ここで質問したところで無駄だってことだ。
繋いだ手の温度やその感触に妙に照れくさく緊張した気分になりながら、
はどうにかそこから気を逸らす努力をしながら、
成瀬に連れられて彼の部屋へと向うことにした。
続く