恋も想もしたごころ

寮の食堂で夕食を食べ終えた後、はシャワーを浴びて部屋で一人、寛いでいた。
本当言うと部屋に備え付けのユニット・バスじゃなくて、大浴場の方にも興味は大いにあるんだけど、
幾ら何でもがあそこに行く訳にはいかない。
たまにはたっぷりのお湯と広々としたお風呂にゆったり浸かりたいって時でも、
は当然の様に断じてあそこに行くことは出来ないのだ。
ま、仕方ないとは分かってるんだけど。


――ドンドンドンッ

「!?」

ソファで雑誌を広げてそれを眺めていたところで、
の部屋のドアを誰かが勢いよく叩く音がした。
それに反応して、はすぐに顔を上げ、立ち上がる。
こんなノックとも言えないノックをする人間なんて限られてる。
は足早にドアに向かった。


―――ドンドンドン


その間もドアがまるで和太鼓の様に勢い良く叩かれている。

、俺だ!」
「はいはい、分かってますよ、丹羽先輩」

やっぱり。
ドア越しに聞こえるのは、予想通りの人物のよく通る低い声。
は苦笑しつつも、ドアノブに手を掛けた。
これが他の誰かだったら、お風呂上がりに胸にさらしも巻いてない、
部屋着だけの状態ですぐに部屋のドアを開けるなんて色んな意味で危険な真似はしてないんだけど、
彼が相手なら話は別だ。
BL学園の生徒会長で、王様こと丹羽哲也。
実は未だに信じられないことに、この人とはつい最近、お付き合いってヤツを始めた。
この世界に来る前、プレイヤー時の知識としても、
彼が元々普通に女の子の方に興味があるってのは知ってたけど、
それでもここは世界観的にはその名の通り直接話法に『BL』学園だ。
幾ら男装してるとは言え、この人がに恋愛感情を抱いてくれるなんて夢にも思ってなかった。
それに女だと告白したのは付き合うことになった直後だったから、
向こうもかなり驚いてたみたいだけど、あーだこーだありつつも、
結果的にそれでも丹羽はを好きだと言ってくれたのだった。

ドアを開けるとすぐに、丹羽が機嫌よさ気に笑顔を浮かべ、ひょこっと顔を出した。

「よう!約束通り来てやったぜ!」
「・・・え?あー・・・っと、約束?・・・してましたっけ?」
「おいおい、忘れちまったのかよ。
月曜日までに終わらせなきゃならねぇ課題があるから教えてくれって、
泣きついて来たのはお前の方だぜ?」
「げっ!そうだった!」

は思わず顔をしかめて小さく声を上げた。
丹羽がわざわざ一年の寮の部屋まで来てくれたのは嬉しいけど、その内容はちっとも嬉しい物じゃない。
何かまったり寛いでて忘れてたけど、確か数学の課題が結構な量で出てて、
昼休みにそれを零したら丹羽が俺が教えてやるって言ってくれたんだった。
ここの授業の進み具合は元が居た世界だけでなく、こっちの世界のの高校より内容が進んでて、
しかもレベルが高い為、毎度着いて行くのに必死だったりする。

「その様子だとマジで忘れちまってたみたいだな?ま、安心しろ!どんな問題だか知らねぇが、
一年の数学位、この俺がちょちょいっと教えてやるからよ」
「う"ぅうー・・・、頼りにしてます・・・。あ、丹羽先輩、中に入って下さい」
「おう!」

が丹羽を部屋の中に招き入れると、彼はそれに笑顔で答えた。
そして、室内をきょろきょろと見回す。
丹羽とはまだ付き合い始めてそう経ってないし、
彼がの部屋に来るのは初めてだから珍しいのかもしれない。
それは分かる。
分かるけども。

「・・・・・・ちょ、・・・・そんなにあんまジロジロ見ないで下さいよ」
「ははっ、悪ぃ。けど女の部屋って割には、シンプルだな」
「丹羽先輩、忘れてませんか?今、オレは男なんですよ」

軽く苦笑しつつ、は丹羽にそう返した。
勿論、だって可愛い雑貨とかインテリアに興味がない訳じゃない。
寮の部屋と言ってもこれから一年以上はお世話になってく場所だし、
自分の趣味に合わせた内装にしたいのは確かだ。
だけどは今、あくまでこの男子校であるBL学園の男子生徒。
あんまり過度に女の子っぽい物は置けない。
まぁ、そう言う個人的趣味で可愛い雑貨とかが好きな男も居るには居るだろうけど、
としてはやっぱり色々と考えてしまう訳だ。
とは言え、自分がこうして一人で寛ぐプライベートな空間だから、
それなりに自分の趣味を反映してる部分もあるんだけど。

「・・・・違うな、今のお前は男じゃねぇ」

言った丹羽が、いきなりの体に腕を回してグイッと強引に引き寄せて来た。

「えっ!?」
「今は・・・いや、俺の前じゃ・・・お前はいつでも俺の彼女で、女だ。そうだろ?」

ニヤリとした笑みを浮かべつつそう言い、彼はとの距離を詰める。
体が密着したことで、いつもの制服の生地とは違う、
部屋着一枚の薄い布越しに丹羽の硬い筋肉の感触がダイレクトにに伝わってくる。
そのことを意識した途端、心臓が鼓動を急速に速めた。

・・・」

の名前を呼んだ丹羽が、ゆっくりの方へと屈みこんでくる。
そして唇をのものに重ねようと顔を寄せた。
その時―――――――――

「す、ストーップ!」
「ぐぉっ!?」

は咄嗟に丹羽の唇を掌で覆い、少しだけ力を入れてそれをの顔から遠ざけた。

「んだよ!突然・・・!」
「丹羽先輩、課題教えてくれる約束!今は先にそっちを優先して下さい」

恋人同士なんだし、だって本当は丹羽に触れられたりするのは嫌じゃない。
と言うか寧ろそれは嬉しいことで。
でも、だからこそ早い内に離れておかなくちゃいけない。
そうでもしないと丹羽に流されて課題そっちのけになってしまいそうで怖かった。

「へいへい。ったく、キス位許してくれたっていいだろー?」
「じゃあ、準備しますんで」

ぶつくさと文句を垂れている丹羽の言葉が聞こえないふりをして、
は教科書と参考書を取りに勉強机に足を運んだ。




「よーし、そんじゃ始めるか。課題ってのは何ページからだ?」
「えっと、確か・・・。ちょっと待って、ページ開くから」

が参考書と教科書を手に戻って来ると、早速丹羽にそう質問され、
は慌てて彼の隣に座った。
そして、数学の教科書のページをぺらぺらと捲る。

「54ページの・・・」

「んー?」
「さっきも思ったんだけどよ・・・。お前、もしかして風呂上がりか?」
「え?あー・・・はい、まぁ・・・」

返事をしながら、はちらりと視線を上げて丹羽を見た。

「ってこた、お前・・・もしかして・・・、その・・・今、その服の下は・・・」

言った丹羽の顔が見る見る赤くなってく。
しかも何やら言葉を濁してもごもごと口の中だけで先を続けた。
何となくだけど、丹羽の言いたい事が分かってしまったかもしれない。
そう思うと恥ずかしくて居たたまれなくて、こっちまで赤くなってしまった。

「54ページの問12からお願いします!」

は無駄に大きな声でそう言うと、
教科書のページを開いてそれを殆ど丹羽の顔にぐいぐい押し付ける形で彼に見せた。

「ぶっ!・・・って、おい!、お前なぁ!んな近づけられたら見える訳ねぇだろ!」
「はははは、ですよねー・・・!」
「ったく。ほら、まずは一回自分で解いてみろ。
その後答え合わせして、間違ってた所を俺が教えてやる」
「はい、分かりました」

その後は、何だかんだでどうに達はまともに勉強を進める方向に向かった。
まぁ途中何度か話が脱線したりとか、そこはかとなく空気が妖しくなりそうだったりとか、
そう言うこともあったのはあったんだけど、
取りあえず課題が終るまではとが全部強引に軌道修正してどうにかなった。
結果、時間が掛かったながらもめでたく課題は終了。

――――――――――した、んだけども。




「っだーー!!無理だ、もう、我慢できねぇ!!」
「っえ!?っちょっと!?」

唐突にがしがしがしっと頭を掻きむしりながらそう声を上げた丹羽は、
の両肩を掴んでそのまま床に押し倒した。
勢い良く床に押し倒された割に背中に衝動が掛からなかったのは、
丹羽がわざとそうしてくれたからだと思う。
その気遣いは嬉しいけど、嬉しいけれども、そうじゃなくて。

「に、丹羽先輩・・・!」

余りにも突然な展開に動揺を隠せずには声を上げる。
の視界には既にに覆い被さって来た丹羽の顔と、
その向こうに僅かに見える天井だけが見えて居た。

・・・」
「っ!」

いつもより熱を持った声で丹羽に名前を呼ばれ、そのまま唇を塞がれる。
噛みつくと言う表現ピッタリのキスと同時に、肉厚で大きめの丹羽の舌がの口内に侵入してきた。

「んぅっ・・・」

口の中一杯に物を頬張った様な感覚と一緒に、彼の舌がぬらぬらと暴れまわる。
にはそれを受け止めてどうにか応えるだけで精いっぱいだった。
画面を通して見てただけの感覚のないキスとは全然違う。
丹羽のキスは、奪い尽くすみたいに荒っぽいくせに、どこかぎこちなくて優しい。
唇を貪りながら、彼の手がのわき腹から洋服を捲りあげてその中に入り込んでくる。
丹羽の大きくな掌の感触を肌で直に感じ、そこでは大げさな位にビクンと体を震わせた。

「え、あ、に、丹羽・・・先輩!?」
「・・・・・嫌か?」
「いや、・・・・・・・じゃない、けど」
「そっか、・・・良かった。悪いが俺は、・・・マジで限界だ・・・!
さっきからずっと我慢してたからな、・・・・・・・お前を抱きたくて抱きたくて仕方なかった・・・」

低く掠れた声でそう言うと、丹羽はの首筋に顔を埋めた。
彼の少し硬めの髪がの頬をくすぐる。
同時に丹羽が首に噛みつくように吸いつくのを感じた。
本当に、まるで肉食獣そのものみたいに。

「っ、・・・あ、ッ・・・!」

ごつごつとした大きな掌がの胸元を粘土細工みたいにこねている。
更に、その指先でこりこりと突起を弄ばれて、無意識にの口からいやに甘ったるい声が漏れた。

・・・、その声、すげー・・・そそるぜ」

熱い吐息と一緒に丹羽が耳元に唇を寄せる。
それからもどかしげにの一気に服を脱がした。
は自分からも手を伸ばして丹羽に洋服を脱ぐように促す。
それに応えた丹羽は自分の着衣を脱ぎ捨てると、またすぐにに覆い被さって来た。
間近に感じる彼の硬く逞しい筋肉の感触。
浅黒く厚い胸板の熱を感じながら、は無我夢中で丹羽に応えた。





「・・・・・・・・・・・・・・・、あ、あり得ない・・・」

深夜。
ベッドの上。
茫然状態でそう呟く
丹羽はついさっき眠ってしまったばかりだ。
奴はいやに満足げな表情で健やかに寝息を立てている。
テーブルに視線を向ければ、数学の課題が終った直後の、ノートが広げられたまま。
そう、あの後すぐにああなって(・・・・・)しまったから、片付けることすらしてなかった。
しかも、ああなった後もこうなってそうなって――――。
とにかく、気付けばベッドに移動してからも色々あって、いつの間にか今に至ると言う状態。
この人、プレイヤーの時点で明らかに体力があってお相手(つまりあの時は啓太だけど)は大変だな、
なんて思ってたけど、本当に半端ない。


・・・・あ、でも寝顔は子供みたいだな・・・。


人のベッドを陣取って、無邪気な顔で眠っている王様。
はそのほっぺを指先でつんつんと突いた。

「んー・・・」

それに反応して丹羽が小さく唸り声を上げ、薄らと瞳を開ける。
そこまで激しく突いたつもりはなかったし、何よりこの程度で起きる様な人じゃないと思ってたから、
は少し驚いてしまった。
丹羽はぼーーっとした表情でそのままの状態でを見つめた後、いきなり腕を伸ばしての体を捕らえた。

「わっ!?に、丹羽先輩っ!?」
「ん・・・・・・・おやすみ・・・・・・・・・・」

言いながら、丹羽の奴はを腕に抱いたまま、ぐーっと寝息を立て始める。
って言うか、もしかして今のも殆ど夢の中で、寝ぼけてたんだろうか。
起きてたって言うより、半分以上寝てたみたいな感じで。
は少しの間丹羽の腕の中から抜け出すかどうかを考えたけど、
結局そのまま目を閉じることにした。
丹羽の事だから多分きっと、
明日(と言うよりもう今日だけど)目を覚まして自分がの部屋に居るってことに気付いたら、
相当大慌てするに違いない。
すまん、!悪かった!とか何とか言いながら、謝り倒す丹羽の姿が目に浮かぶ。
は思わず吹き出して小さく笑いながら、丹羽の胸に体を寄せた。
起きてる時はこっ恥ずかし過ぎて自分からこんなことは出来ないけど、
この人の腕の中は安心する。

朝になって大騒ぎする丹羽の様子を再度、思い浮かべつつ、は今度こそ眠りに着いたのだった。


(END)

あとがき
睡魔に襲われながらの執筆だったんですけど、どうにか書き終えた(笑)。
丹羽は男前かつヘタレてるところが好きです。
ではでは!ここまでお付き合い下さった超貴重な姫様方に感謝しつつ、失礼致します。
Title by 確かに恋だった