西園寺を見ていると、自分の性別に激しく疑問を抱きたくなる。
今は特殊な状況だから男装姿だけど、が女だってことは間違いない。
だけど例えば以前みたいに普通にスカートを履いて今より髪が長いままだったとして、
西園寺の隣に堂々と立っていられるだろうか。
答えはモチロンNOだ。
無理に決まってる。
いや、まぁ、当然、例えが男だったとしてもあの人の隣に居ることに気後れするのは変わりないだろうけど。
画面越しじゃなく、二次元としてじゃなくて、現実でこうして等身大の西園寺を目の前にすると、
彼がどれだけ美しいのかいつも思い知らされる。
ゆるやかに波打つ色素の薄い長くしなやかな髪。
整った眉に長い睫が印象的な涼しげな目元。
高すぎず低すぎず、大きくも小さくもない絶妙なバランスの理想の形の鼻。
グロスや口紅を付けている訳でもないのに妙に色っぽくて艶やかな瑞々しい花びらみたいな唇。
その上白くて滑らかな肌に細い腰や長い手足、指先や爪の形に至るまで、
つまりは頭のてっぺんからつま先まで、
そのひとつひとつ、全部が男女問わず周囲の人間の目を惹き付ける。
西園寺郁というのはそう言う男だ。
当然彼の魅力は外見だけじゃないのは分かってる。
女性と見まごう美人顔に反して、内面は驚くほど男らしい人でもあるから。
同じ高校生とは思えない位に視野が広いし、頭がいいなんてレベルじゃないし、
彼は自分に何が出来て何をどう使えばいいのかもよく分かってる。
欠点と言えばあのネタに等しい体力面だけど、これも何だか可愛いと思えてしまえるから不思議だ。
たまにもしかして女のより腕力も持久力もないんじゃないだろうかとかなり本気で考えてしまう位、
彼は肉体労働やスポーツに向いてない男だった。
でも寧ろ西園寺と付き合うようになってからは特に、彼が完全無欠人間じゃなくてホッとしてるほどだった。
(彼自身の為にももう少し体力をつけるべきだという七条の意見にも大いに賛成ではあるのだが)
我が愛され体質の従姉弟殿と違い、は正真正銘凡人の一人。
西園寺と付き合い始めて数ヶ月経つけれど、
未だには彼がを好きになってくれたことさえ奇跡だと思ってる。
西園寺がに向けてくれる笑顔とか、優しい言葉とか、やわらかな眼差しとか、
そのひとつひとつが嬉しくて信じられなくて、
彼がそういう仕草を向けてくれる度一生分の運をここで使ってるんじゃないかって気分になっていた。
勿論、ここでの運を使い果たしてるんだとしてもは西園寺から離れたいなんてちっとも全く考えなかったけど。
そして当然と言うか何というか、『恋人』同士になった以上、いわゆる甘い雰囲気と言うヤツにもなる訳で。
啓太のお相手だった時の西園寺は両思いになったのとほぼ同時に自分から啓太を自室に招いてベッドへ誘った。
あれは同性同士だったからそういうことにも遠慮がなかったからなのかもしれない。
実を言うと達はまだ、キスの先まで進んでいなかったりする。
それに近い所までは何度か進んだことがあるんだけど、
服を乱されて裸になる直前にがいつも反射的に硬直してしまって、
西園寺が手を止めるってのを繰り返してるのだ。
「私が怖いか?」
初めて西園寺の部屋で押し倒された時、彼はにそう聞いた。
多分、それだけがガッチガチになってたからこの先の進むことの意味にが怯えてると思ったんだろう。
勿論実際そう言う部分はあった。
だけど、決して軽い気持ちで西園寺を受け入れようと思った訳じゃないし、
彼にもっと触れて欲しいと思ってた気持ちも、触れたいと思ってた気持ちもにも十分あったのだ。
でもそれと同時に、いつもよりもっともっと色っぽさを増して、それでいて見蕩れるほど綺麗な彼の様子に、
はこの先の状況がどうのと言うのとは違う意味で怖くなってしまった。
西園寺があんまりにも綺麗で、綺麗過ぎて、そんな彼に自分が全部をさらけだして、
もしもガッカリされてしまったら、なんてことを瞬間的に考えたら、怖くて堪らなくなった。
そんな訳で、あの初めての時から似たようなことを何度か繰り返して現在に至る。
西園寺はのことを気遣ってくれて、強引にことを進めるような真似はしない。
その優しさが嬉しくて、同時に申し訳ない。
しかもそんな状況にさせているのはなのに、
その一方でもっと彼に触れたいし触れて欲しいって気持ちは膨れていってる。
いっそのこと西園寺に目隠しでもしてもらおうかなんて、
初心者にはハードルのべらぼうに高すぎる思考まで浮上する始末。
彼と二人きりになる度妙に一人で悶々としてしまうと言う、
まるでの方が男子高校生か!と言う状況にあった。
◆◇◆
「そうだ、よく出来たな。以前よりも問題を解く速度も上がっている」
「ありがとう、西園寺のおかげ。後、七条も教えてくれてたしね」
「ふっ、礼など必要ない。私がお前の力になりたいと思ったから教えているんだ。臣だってそうだろう。
そうだな、ここまで出来れば次の試験は心配ないだろう。だが、念の為に復習はしておけ」
「うん、そうする。本当にありがとうね、西園寺。
課題だけじゃなくて普通に勉強にもつき合ってもらって」
言いながら、はびっしりと数字や公式が書かれたノートをぺらぺらと捲る。
啓太も言ってたけど、ここの授業はどの教科も本当にレベルが高くて、
本来そこまで苦手じゃなかったはずの数学も、少しでも油断すると追いつけなくなってしまう。
試験が近付いてきたこともあり、はここのところ西園寺や七条に勉強を教えてもらっていた。
いつもは会計室でってことが多かったんだけど、今日は女王陛下のお部屋にお招き頂いてる。
西園寺の部屋にはもう何度か来たことがあるのに、未だに自分の部屋との雰囲気や内装のギャップに驚かされていた。
この優雅で豪華な室内が、寮の一室だなんて信じられない。
上質なソファの座り心地は相変わらず最高で、視線を少し周囲に動かせば、
品のいい高級そうな調度品が幾つか目に入る。
「こんなに余裕持って課題終われると思わなかったな」
「全部終わったのか?」
「うん、後はレポートが一個残ってるけど、それももう半分以上終わってるし、期限までには余裕」
いつもは期限ギリギリまであれこれバタバタと終わらせる感じだけど、
今回は清々しい位に色々と綺麗に終わった。
本当に西園寺と七条には感謝してる。
今日はこの部屋に来た時には七条はここに居なくて、ティーセットだけが綺麗に用意されてたけど、
(が来るタイミングに合わせて紅茶を淹れてくれたらしい)
今度会った時にはお礼を言っておこう。
「そうか、ならば問題ないな」
「?何が?」
不意に、隣に座っていた西園寺がぐっととの距離を狭めた。
ふわりと、目の前の空気が動き、同時にの鼻腔を薔薇に似た香りがくすぐる。
気付いた時には彼の見蕩れるほどに綺麗な顔がの視界一杯に広がっていた。
艶やかな唇がの唇を啄ばむ。
「っ!」
「この先のお前の時間を私の物にしても問題ないなと言う意味だ」
まるで内緒話でもするみたいにひそひそとした、
それでいて妙に色っぽさを滲ませた声で西園寺はそう返事をした。
ど く り。
の心臓が分かり易く大きな音を響かせて鼓動を刻む。
今の一瞬で心拍数が面白い位に跳ね上がった。
「・・・」
「・・・ん・・・」
の名前を呼んだ西園寺が、再びあの薄紅色の綺麗な唇をのものに押し当てる。
柔らかな感触が重なり、彼の唇が食むみたいに肌に吸い付いてきた。
西園寺のキスに反応して少しだけ口を開ければ、その隙間から濡れた舌がちろりと軽くの舌を掠める。
彼は他の男子生徒に比べれば筋肉のつき方から見ても華奢な部類に入る人だけど、
こうして密着するとその骨格はしっかり男のものなんだと再確認してしまう。
細くて見えても女のと違って柔らかさより硬さが勝ってる。
彼の長くゆるやかに波打つ髪の毛がの頬を何度も撫でた。
キスを交わしながら体勢をゆっくり変えられ、は背中で上質なソファの生地を受け止めていた。
彼の仕草ひとつひとつにまるで魅入られるみたいに夢見心地でそれを受け入れた。
口内ではお互いの温くとろみのある唾液が混ざり合って、いやらしい水音を響かせている。
厚手で大きめのトレーナーを着ていたのわき腹から、西園寺の白い手が滑り込んできた。
彼の冷たい指先が直に肌に触れ、それに反応しての体がびくりと震えた。
の脚の付け根に押し付けられた西園寺の下腹部の硬い感触で、
彼が今雄として興奮してるんだと伝えられる。
西園寺が僅かに唇を放して白い喉を僅かに上下させて二人分の唾液を飲み込んだ。
を見下ろす彼の瞳は明らかに熱を帯びている。
彼はその眼差しを間近からに向けたまま、言葉を濁すことなくこう口にした。
「、私はお前が欲しい」
ドクッ ン
さっきよりも一層力強い動きで心臓がひとつ、の胸を打つ。
深くて長いキスの余韻で、お互い微かに息を乱したままだった。
いつもより更に更に色気を増して綺麗に見える西園寺。
だけど彼が口にした言葉は分かり易くて飾り気も気取った様子もなく、
それが逆に西園寺らしいと思えるくらいに男らしかった。
「あ、えっと、・・・・・・」
「私にこうして触れられるのは嫌なのか?」
「・・・ううん、ち、違う。それは、その・・・イヤじゃない、全然」
「ならば、私にお前を見せて欲しい。お前の全てを私に」
「・・・さ、西園寺、でも・・・」
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
西園寺の言葉はスゴク嬉しいし、だってもっと彼に触れて欲しいし彼のことを抱きしめたいと思ってる。
それこそそのせいでここ最近一人で悶々しっぱなしだった位だ。
思考回路だけならの方が西園寺の数十倍は健全な男子高校生だったと自信がある程度には考えていた。
今だって、今すぐ彼のあの白くて滑らかな肌に触れたくて仕方ない。
が西園寺から視線を逸らして次の台詞に迷っていると、
彼の長くしなやかな指がそっとの頬を撫でた。
「?やはり怖いのか?」
「・・・こ、怖い、けど・・・多分、西園寺が思ってるのとは・・・少し違うと思う」
「?どういう意味だ」
「・・・それ、は・・・」
は一度、西園寺に視線を戻して、それからまたすぐに伏せた。
ヒドイ。
反則だ。
今更だけど、本当に物凄く物凄くものすごーく今更だけど、こんなに間近に見ても西園寺には何の粗も見当たらない。
きめ細やかで瑞々しい白い肌に、濡れた唇、
びっしり生え揃った黒くて艶のある長い睫にくっきりした二重瞼の涼しげな目元。
今は色気がぐっと増してる分いつもよりもっと綺麗に見える。
普通、こんなに至近距離で見たら何かしら微妙な部分が見つかるはずなのに、
そんな影は全くちっともこれっぽっちも見あたらない。
内側も外側も綺麗なんて、みたいな人間がそんな人の前に全部をさらけ出すなんて―――
「、私は気が短い。だが、お前に無理を強いてまで奪いたいと思っている訳ではない。
お前の心の準備が出来ていないというのなら、耐えてみせる程度の気概はあるつもりだ。
だが、お前は私がしようとしていること自体に怯えているのではないという。
ならばその理由は何だ?」
「西園寺・・・」
「私の目には、私がお前を抱きたいと思っているのと同様に、
お前も私を欲しいと思っているように見えるのだがな?」
「っ」
私は間違っているか?
西園寺が続けてにそう質問する。
は小さく息を吸い込んだ。
「が・・・、ガッカリ・・・されたくなくて」
「・・・なに?それはどういう意味だ」
「西園寺に、がっかりされたくなくて、・・・」
西園寺に聞き返されて繰り返したに、彼は整った眉を怪訝そうに寄せる。
「私がお前に落胆するというのか?」
彼はイマイチの言っている意味が分からない様子だった。
「だって西園寺、よりずっと綺麗だし・・・」
「そんなことはない、・・・何を言っているんだ、お前は」
「そんなことある。だからは――」
「」
そこで西園寺はの言葉を遮るように名前を呼んだ。
仕方なくは一旦口を閉じ、その先を待つ。
「私がお前をどれほど可愛いと思っているのか、そしてどれほど愛しいと思っているのか、
知らないとは言わないだろうな」
「っ・・・!」
「」
至近距離に顔を寄せたまま、再度彼がを呼んだ。
返事をしろ、と急いてる。
がこういう真っ直ぐな言葉に照れてあわあわしてても、
西園寺はそれを承知した上で待ってくれようとしない。
七条も言ってたけど、こうと決めてしまった西園寺は本当に強引な男になる。
それが嬉しいと思ってるも相当どうかと思うけど。
「分かってる」
「ならば私がお前を欲しいと、抱きたいと思っているこの気持ちがどれほどのものなのかも分かっているはずだ」
「う、それは・・・」
「分かっていないのか?」
「わ、わわわ、分かってる」
あわあわしすぎて唇が震えてどもってしまったけど、西園寺はいやに満足した様子でふっと微笑を浮かべた。
「そうか」
そう口にし、彼はするりと片手を伸ばしての頬を撫でる。
優しい感触と一緒に白くて長い指先と綺麗な掌がの視界の隅をゆっくり通り過ぎた。
「私はお前に落胆などしない。するはずがない」
「・・・西園寺」
「だが、初めてだと言うのにソファでと言うのは軽率な行動だったな。
、ベッドに移動するぞ」
その言葉と同時に西園寺はソファから身を起こして立ち上がり、
に向けて片手を差し出した。
「来い」
「・・・・」
は殆ど彼に吸い寄せられるように無意識にその手を取った。
だって、あの西園寺が、こんなに真っ直ぐを求めてくれてるってのに、
何を迷うことがあると言うんだろう。
まぁ勿論、乙女心としては好きな人が自分とはレベル違いの美人顔ってのは複雑だけど、
そんなのは最初から分かってたことだし、その西園寺がにここまで気持ちをぶつけてくれてるのだ。
欲しいと思ってるのは、彼だけじゃない。
寧ろのほうがずっと悶々としてた自信もある。
西園寺に彼の寝室のベッドまで手を引かれている間に、
ぐるんぐるんと色々な考えが脳内を回っていた。
◆◇◆
あの高級なソファと負けず劣らず、と言うかさらに上質な印象の大きなベッドの上、
は西園寺の繊細でしなやかな手の動きや濡れた花弁みたいな赤い唇に翻弄されていた。
着衣を乱されて殆ど下着姿になってしまったは、と同じく殆ど裸に近い形になった彼を見上げる。
室内はの希望で薄暗い程度まで明かりを落としていた。
そんな中でも、暗がりに慣れた目が西園寺の白い肌をしっかり捕らえる。
こうして見ると、やっぱり彼も男なんだと改めて思えた。
だけど、見とれる位に綺麗だと言うのは全く変わりない。
彼はゆっくりとの上に覆いかぶさり、の太股を割るようにして脚を絡めてきた。
直接密着しあった肌が同じほど熱を持って、吸い付くような感覚を持ってるのが分かる。
男にしては細い腰や薄い腹筋は、それでもやっぱり硬く、
押し付けられた彼のものが随分高ぶっているのが薄い下着越しに生々しく伝わってきた。
その部分が擦れあうだけでぬめりあう粘着さを帯びた感触に、
確かめなくても自分の下着が濡れているのが分かる。
ソファの上で彼にキスをされた時から、下腹部が何ともいえない切ない疼きを訴えてたのにも気付いていた。
余りにも分かり易い自分の体の反応が恥ずかしいと思ってるのに、
西園寺のものの予想以上の熱さと硬さに興奮してるが居る。
彼の手がのブラのホックを外した時、
しわになってもみくちゃになりそうなシーツを無意識に胸元にかき集めた。
西園寺はをあやすみたいに優しいキスを繰り返し、
それからそっとそのシーツをの手から取り去った。
長いキスに浅い呼吸を繰り返すを間近から覗き込んだ彼が、
ぞくりとするほど熱と欲の浮かんだ色っぽい瞳をに向ける。
気のせいか彼の下半身の昂ぶりが一層大きくなった気がした。
「、私はお前が好きだ。これから・・・私はお前を私のものにする。
なるべくお前への負担を減らす努力をするつもりではいるが、正直自信がない」
「・・・大丈夫、は平気。西園寺になら何をされても、も、西園寺が好きだから」
「ふっ、お前は本当に可愛いことを言う・・・」
「・・・ん」
その先はもう、今までずっと考えてたはずの『西園寺にガッカリされるかもしれない』なんてことは、
頭の片隅にも浮かばなかった。
ただ彼の重みや熱を、無我夢中になって感じてたから―――
その後、西園寺もも殆ど意識を失ったのに近い形で寝落ちてしまってた。
ふと目を覚ました時には一体いつから寝てたのかも全く分からなかった位だ。
ほんの少し視線をずらせば、かなりの至近距離に西園寺の綺麗な寝顔があった。
体に回された彼の腕の重みや直に重なり合った体温が心地いい。
体のあちこちに違和感があるし、シーツは濡れたままだったものが乾いてて、
妙な肌触りがする。
未だに室内には達の汗の匂いや独特の香りで満たされてるし、
その全部が気恥ずかしい。
そして何だか凄く幸せだった。
今まで色々と余計なことを考えて沈んだり浮かれたりしてたのが馬鹿らしくなってくる。
こんな時でも、彼の寝顔は完璧だ。
本当に、見とれる位に綺麗で羨ましい。
は西園寺を起こさないように彼の頬にほんの少し、軽く触れるだけのキスをした。
少しの間西園寺の寝顔を堪能した後、もう一度目を閉じる。
次起きたときは、照れ臭さで彼の顔をこんな風に見られないに違いない。
(END)