―お前、美味そうな匂いがするな・・・。アイツ以外にもこんな匂いのする女が居るとは思わなかったぜ。

数週間前、初対面だと言うのに、遼はそう言って無遠慮に私を眺め回した。
それだけでなく、私の首筋に顔を埋めてくると言うセクハラに近いオマケつきで。

しかも、彼は珠妃にも同じような事をしたと言う。
それを聞いたのはほんの数日前。
話を聞いた瞬間、『やっぱり』と納得した自分と、
『私にだけじゃなかった』と言うショックにも近い感情を持ったのを覚えている。

彼は言っていた『アイツ以外にも』と。
アイツと言うのはつまり玉依姫である珠妃。
まぁだから納得した訳だけど―――



「よぉ、、相変わらず美味そうな匂いだな。」
「おはよう・・・ってどんな挨拶よ、遼。珍しいわね、キミがこんなに早くから学校に居るなんて。」
「フン・・・お前達が揃って学校に来い来いと煩いからな。」

資料室。
早朝から試料生理を頼まれた私は、一人、古い資料の中に埋れて悪戦苦闘していた。
普通ならこんな所に居た私をよく探し出したもんだと思うところだけど、相手はあの狗谷遼。
彼の嗅覚は並みじゃない。

「・・・遼、キミ・・・来ていきなり何をしているのかな?」

私の背後。
移動した遼が、後ろから私の体に腕を絡めてくる。
その上、唇をうなじに押し付けてきているのが生暖かくて柔らかい感触で分かった。

「いい加減俺にお前を食わせろ、。」
「・・・・・・・・・・・・・・・キミねぇ・・・・・・!」

先を続けかけて、フッ、と脳裏を過ぎる台詞。


―お前、美味そうな匂いがするな・・・。アイツ以外にもこんな匂いのする女が居るとは思わなかったぜ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「どうした?やけに大人しいな、それともお前もようやくその気になったか?」

耳元で囁くようにして遼が言った。
彼に回された腕で、ぎゅっと、より一層体を密着させられる。
私の背中全体に、遼の体温を感じる。
私は視線を足元へ移した。

「・・・・・・私じゃなくてもいいでしょ、キミは。」

無意識に零れ出た言葉に、自分自身でハッとする。
背中で怪訝そうに奴が言った。

「?何だと・・・?」
「・・・珠妃・・・、キミ、彼女が自分に振り向かないから、
同じような『匂い』のする私に構ってるだけなんじゃないの?」

嫌な言い方。
分かっているのに、もうそれを止めることも出来なかった。
不意に、私の耳元で、ククッと喉で笑う遼の声が聞こえた。

「お前妬いているのか?」
「・・・・・・え?何を言って・・・。」

否定しようとするのに、先が続かない。
自分の体が小刻みに震えているのが分かった。

「珠妃は確かに極上の匂いのする特別な女だ。」
「・・・・・・・・・っ!」

息を吹きかけるようにして、奴は笑いを含んだ声で私に言った。
思わず唇を噛み締める私。
認めたくない、嫉妬、してるなんて。
だけど―――

「アイツの匂いは特別だ、どこに居てもすぐに分かる。」
「や・・・やめて・・・。」
「珠妃の匂いは、玉依姫に関係する宇賀谷の人間や、
守護者の連中全てを憎んでいた俺の興味を惹く位に特別だ。
「やめてよ!!!・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・あ・・・・・・」

咄嗟に遼の方へ体ごと振り返り、大声を上げてしまったことに、自分自身、一瞬、呆然とする。
見上げる視線の先。
真っ赤な遼の瞳。
奴はニヤリと口元を曲げて笑う。

「それは嫉妬じゃないのか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

肯定することも否定することも出来ない。
だけど、もう本当は気づいていた。
そうだ、これは嫉妬。
遼の中の特別が、私だけではないことへの。

「キミって、ホント、嫌な男・・・。」

そして私は、何て可愛くない女だろう。

。」

彼が私の名を呼び、両肩に手を置いた。

―トンッ

そのまま資料棚に私の背中が押し付けられる。

「今言ったことは確かに嘘じゃない。俺は嘘は言わないからな。だが・・・。」

そこで、彼が私の方へと屈みこんで来た。
首筋。
鼻先を触れ合わせながら、唇を寄せられる。
そのすぐ後に、ツキン、と、刺すような一瞬の痛みが走った。

「っ・・・?遼?」


「お前の匂いとアイツの匂いは質は同じだが、
俺にとってより特別な女を選ぶとすれば、お前しか居ない。俺のものになれ、。」


「・・・私・・・。」
「今お前に印をつけてやった、どうせ他の男はもうお前には近づかないぜ。」
「え・・・?」

ニヤリ。
再び彼が口の端を上げて笑った。
遼の赤い瞳が妖しく光る。
私は思わず片手で首筋を押さえていた。

「まさか、遼・・・!こんな見える所に・・・!?」
「そう言うことだ。お前は大人しく俺のものになって、俺に食われればいい。」

言いざま、彼が私の首筋に舌を這わせる。
湿った熱い吐息。
ぞくりと、背筋に何かが駆け抜ける。

「普通・・・こう言うことは返事を聞いてからするものじゃないの?」

少しだけ恨みがましい瞳で彼を見上げると、またしてもアイツがくくっと喉の奥で笑った。
遼の手が私の制服のリボンに触れる。
だけど、私はもう、抵抗するつもりはなかった。
結局、全部遼の言う通りで、そして彼は今、
私自身気づいて居なかった、私の欲しかった台詞を口にしてくれた。


、お前は本当に素直じゃねぇな。その口、俺が塞いでやるよ。
次に開いたときには、俺が欲しいとしか言えないようにな。」


再び私の方へ屈みこんで来る遼の体に、私は自分から腕を回した。
本当は、もう決めていたから、キミのものにしてくださいと、告げること。



(終わり)



後書き
狗谷は色々な意味で狙っているキャラだと思う。とか考えつつ初狗谷夢(笑
他のキャラより飛びぬけて妖しい台詞が目立った男、狗谷遼。
イマイチキャラが掴みきれてなくて途中四苦八苦してしまいました・・・。
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有り難うございました。失礼します!


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