「中々出てきやがらねぇと思ったら、まーだ教室に居やがったのか、お前は。」


放課後。
誰も居ない教室で一人、私は教卓に陣取っていた。
そこへ不意に聞き慣れた声が聞こえ、私は筆を握っていた手を止め、視線を教室のドアへと移す。

「真弘、キミ、皆と先に帰ったんじゃなかったの?
これから毎日珠妃を送って帰るって言ってたじゃない。」
「当然、面倒見のいい真弘先輩様は約束は守ったぜ。」
「・・・じゃあ、何でここに・・・。」

聞き返す私を無視し、真弘はずかずかと私の居る教卓の側まで歩いて来た。
それから私の手元に散らばる霊符を怪訝そうに眺めた。

「それよりよ、お前こそ何やってんだよ?。」
「霊符作り。ほら、こないだ珠妃が清乃の霊符に助けられたって言ってたから。」

言って、私は筆を置く。
最後の1枚を丁度完成させたところだった。

「初めてだったから我流でやったんだけど、タタリガミ1体位なら吹っ飛ばせると思うわよ。
とは言え、今日は3枚が限界。神経使う使う。」
「霊符作りの為に一人で残ってたのか?
大体これからは俺らがアイツを守ってんだから、必要ねーだろ。」
「いつ何があるか分からないでしょ。」

霊符を集め、筆と硯を片付けながら私は真弘に返事をする。
そこで私はピタリと手を止めて、再度、アイツに視線を向けた。

「ねぇ、もしかして・・・珠妃送った後にわざわざ戻ってきたの?」
「ああん?ばっ・・・!!バーロー!この俺様がわざわざそんなことする訳ねぇだろ!」

ムキになって否定する真弘。
慌てて焦るその様子が、全てを物語っている。
ホント、分かり易いヤツ。
私は小さく笑って言った。

「私なら平気よ。朱月と紅月があるし。」
「勝手に決め付けて話すすめてんじゃねーよ!俺は忘れ物を取りに来ただけだ!」
「忘れ物って何?」
「・・・・・・教科書だ!!教科書に決まってんだろ!!」
「ブッ・・・!!」

真弘の咄嗟の『言い訳』なのがバレバレ過ぎて笑える。
大体コイツが教科書忘れて取りに戻るなんてそんなわけない。
吹き出した拍子に、私は手にしていた霊符を下へひらひらとばら撒いてしまった。

!お前何だその絶対有り得ない的な笑い方はよ!!」
「ごめんごめん。」

謝りながらも笑いが堪え切れない私。
会話を続けながら、教卓の陰に落ちた霊符に手を伸ばす。
でも奥のほうに入り込んでしまっていてそれだけは届かず、
私は仕方なく体を屈めて教卓の中まで進んだ。

「あれ?ねぇ、真弘、後1枚そっちに落ちてない?」
「ん?おぅ、お前の真後ろに1枚落ちてるぜ。」
「後ろ?サンキュ、じゃあ―――」

振り向きざま、至近距離に真弘の顔が視界に広がる。

―ガツッ

「いったぁ!!」

一瞬、驚き過ぎて、私は教卓の内側で額を打ってしまった。
真弘自身も相当驚いたらしい、尻餅をついている。

「何やってんのよ、真弘!」
「うるせ、それはこっちの台詞だバカヤロ!ビビっちまったじゃねぇかよ。」

額を押さえて抗議する私に、アイツが怒鳴り返す。
何だかお互い間抜けすぎて、私はまた吹き出しそうになってしまった。
真弘が不機嫌そうに眉をしかめる。
頬が赤いところを見ると、照れているだけで怒ってる訳じゃないんだと分かった。

「ったく、さっきから何なんだ、お前は。さっさと帰るぞ。」
「OK!OK!・・・あ、ねぇ真弘。」
「あ?」
「・・・・・・・・・有り難う・・・わざわざ戻って来てくれて。」

立ち上がろうとするアイツの腕を掴んで、私は少し小さめの声で言った。
真弘の動きが止まり、拗ねた様な顔でアイツが口を開く。

「礼なんか言う必要ねーよ・・・。お前は・・・なんつーか・・・その、
俺の大事な・・・・・・・・・・・・女、なん・・・だからよ・・・。」
「・・・・・・・・・真弘・・・・・・。」

正直、聞き違いかと思った。
私が自分の都合のいいように聞き違ってしまったんじゃないかと、本気で、そう、思った。

「真弘・・・今・・・何て・・・。」
「何度も言わせるな!お前は俺の女だって言ってんだよ!!!」
「まひ・・・っ!」

ガタンっ


私よりもずっと小さくて、華奢に見える体。
なのに、引き寄られた腕は、男の子の力以外の何ものでもない程力強くて。
気がついた時には、私の唇に真弘の唇が押し付けられていた。
少しだけぎこちなく、乱暴で、優しいキス。
唇が震えているのが分かったけど、
それが私のものか真弘のものなのかは分からなかった。
半分しがみ付くみたいに伸ばした私の腕。
アイツは私の体に回す手に、少しだけ力を込めてくれた。


「そろそろ・・・帰るか・・・。」

照れくささを隠すみたいにして、真弘が私から視線を逸らして言った。
私は教卓から出て立ち上がると、霊符を書くために出した道具を片付けた。
帰る用意が出来てすぐに、真弘が私に片手を差し出してくる。

「手貸せ、行くぞ。」
「・・・真弘。」

私は素直にその手を取った。
体全体に心臓があるんじゃないかと思うくらい鼓動が激しいのを感じながら、
それでも私は小さく深呼吸して口を開いた。


「私もキミが好きだから・・・。」


これから始まる戦いの中で、皆心も体も傷ついていくことがあるのかもしれない。
そして、第三者である私が出来ることなんて、殆ど無いのかもしれない。
それでも―――


真弘、私はいつでもキミの側に居て、一緒に歩いて行きたい。



(終わり)



後書き
最後、シリアスになってしまいました。真弘は本編ではそれなりに甘かったものの、
青空〜ではギャグ中心だったので(いや、それも好きなんですけどね)
自給自足な感じでちょっと甘いものを書いてみました・・・が、無駄なシリアスさが(苦笑
ではではここまでのお付き合い、誠に有り難うございました。失礼します


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