「最近克彦君と仲がいいみたいだね、。」
「え?」

図書室。
亮司さんと向かい合って資料を整理しているところで、
不意にそう声を掛けられ、私は顔を上げた。
彼はいつもの穏やかで優しげな笑顔を浮かべて私を見ている。
どうやらずっと会話がないから話を振ってきただけらしい。
資料に集中して私達はお互い30分近く口を開いていなかった。
私は軽く頷いて亮司さんに答える。

「同じクラスだから、前よりはマシになれたって位ですけど、
あの嫌味にも免疫ついたみたいです、私。」
「彼は無関心な人間にはとことん無気力らしいから、
君は気に入られているんだな、克彦君に。」
「ううーん、だけどそれなら珠州達だってそうですから。
アイツはきっと手近に居て自分の嫌味に対抗出来る私を面白がってるだけだと思いますよ?」

会話をしつつ、今目を通したばかりの資料をすぐ側にある棚に直す為に、
私は立ち上がった。
そして、亮司さんに背を向ける形で、元あった場所に資料を収め始める。

「でもあれで結構子供っぽいところがあるから、コタからアイツの好物聞いた時は笑っちゃって。
あんな澄ました顔してオムライスが好きなんですよ、克彦。
しかもそれを本人に確認したら予想以上に面白い反応して―――――」

そこで私は言葉を切った。
唐突に、本当に唐突に、背後から亮司さんに抱きすくめられてしまったからだ。
咄嗟の事に驚いて、手にした資料をひと束、バサリ、と床に落としてしまった。

「亮司さん・・・?」
「そんなに楽しそうに、彼の話を口にしないで欲しいな・・・。」
「え?」
「話を振ったのは僕だけど、・・・・あなたは鋭いのか鈍いのか分らないコだね、。」

言いながら、亮司さんが両腕に力を込めて益々私を強く抱きしめる。
私の心臓は恐ろしい速度で早鐘を打っていた。
この数秒の間にどうにか思考回路をフル稼働させ、彼の台詞の意味を理解する。
亮司さんは普段は穏やかで優しげな空気を纏っている人だけど、
実は独占欲が強くて、そして意地の悪い面(昌をからかって遊んでいるのを目撃済み)も持っていたりするのだ。

「・・・つまりは、妬いてるんですね・・・。」

ボソリ。
私は小さく呟いた。
そして、少しだけ首を捻って後ろに居る亮司さんを見上げる。
私を見つめる彼の視線。
フッ、と、瞳を僅かに細めて亮司さんが口を開いた。

「そう、僕は克彦君に嫉妬してるんだ・・・。あなたはこんなに独占欲の強い男は嫌いかな?」

耳元。
わざと吐息を吹きかける様に、彼はそう囁いた。
それから再度、至近距離から私と視線を絡ませる。


この人はズルイ人。
私の答えが分かっているのに、こうして確認するみたいに問いかける。
ズルイ、大人だ。


分かってるのに、私には正直に言葉にする事しか出来ない。
違う。
分かってるから、正直に答えを口にしてしまう。


「いいえ、嬉しいです。ヤキモチ妬かれると、愛されてるって実感できるから。」
・・・。」

私の名前を呼んだと同時に、彼が唇を私の唇に重ねた。
合わせた唇は、予想以上に熱を帯びていて、そして痺れる位に甘い。
柔らかだったキスは、あっという間に濃厚で深いものに変化した。
貪られるみたいに何度も唇を求められて、息苦しさに私の呼吸が乱れてしまう。

「あなたにキスをすると・・・どうしても一度では止められなくなる・・・。
僕の方が年上なのに、余裕が全く無くなるよ・・・。」

熱を含んだ声で直に私の鼓膜を震わせるように彼がそう囁いた。

「りょう、じ、さん・・・。」
「あなたには僕だけを見ていて欲しい。他の誰でもなく、僕だけを。
我が侭な願いかな?・・・・・・・聞き入れてくれるかい?」

どこかねだる様な甘えるような彼の声に、私の腰が砕けてしまいそうになる。
どんなに気障でクサイ台詞でも、亮司さんの口から出ると、全部全部許せてしまう。
全部受け入れてしまう。
やっぱりこの人は、ズルイ。

私は返事の代わりに小さく頷いて見せた。
クスリ。
亮司さんが笑う。


ねぇ亮司さん、本当は知ってるんでしょう。
私が亮司さん以外、目に入ってないことなんか。


(END)


後書き
このタイプの人っていつもそこまで好きにならないんですが、
亮司はあの嫉妬深さと実はいじめっこ気質な部分があるのとで好きになりました。
ルートの姉妹愛憎劇には笑ってしまったのですが、それはそれとして(笑)
ではでは、この話にお付き合い下さった貴重な姫様に深く感謝しつつ、失礼します。


ブラウザバック推奨