はぁはぁはぁはっ。
はぁはっはぁはっ。
一体どの位この森を彷徨ってるのだろう、私は。
完全にハメられている。
妖が密集した場所へ単身突入なんて、自殺行為以外の何物でもない。
特に生理で体調最悪とくれば、
これはもう妖達に自ら身を奉げていると思われても仕方ないのかもしれない。
「っくっ・・・朱月!!」
――ザシュウッ。
オオオオオオっ!!!
私の声に呼応して、朱月の刃が瞬時に伸び、
鞭の様にしなって2体の妖の脇腹を抉り取った。
同時に、妖達が獣じみた怒号を上げて地面に倒れ込み、消滅する。
正しくは常世へ強制的に送り返されている訳だけど。
私はよろめく足を必死で踏みしめ、
紅月を握っている片手でお腹を押さえながら走り続けていた。
朱月と紅月。
紅月は三日月を現しているから短刀に近い。
朱月は満月、その刃の長さが状況によって変化し、満ちる月を現す。
この2本の刀は対になっていて、代々私の家に伝わる家宝だ。
とは言っても、刀自身が選んだ主にしか従わず、
それ以外の人間が長時間持っていると正気を失い命を落とすこともあると言う曰くつきの代物。
そして私は何故かこの刀に選ばれた特殊な人間だった。
今までも何度か凶暴化し、妖と化したカミ様と遭遇してしまい、襲われそうになったことはるけれど、
その度にこの双刀で凌いできている。
ただし、刀を使用する度に霊力を消耗する為、
今みたいにコンディション最悪の状況にはかなりのリスクを負うことになる。
しかも今回は妖の数が半端じゃない。
相手が低級の妖とは言え、捌く度に消耗していく体力と霊力は半端じゃなかった。
朱月と紅月も私の状況に呼応し、いつもの力が出せていない。
このままいけば妖達の餌食になるのは時間の問題だ。
「・・・っ、冗談じゃないわっ・・・!」
荒い息の合間。
私は眉間に深くしわを寄せて掠れた声で呟いた。
その間も当然、足を止めることはない。
とは言っても、もう殆ど小走り程度にしかなって居なかった。
「喰ワセロ!!ニク!チカラ!!」
「喰ウ!!喰ラウ!!!」「チカラアアアア!!」
「っ!っ・・・!?」
前方から同時に3体の妖が飛び出し、私に襲いかかる。
数秒反応が遅れた私は、瞳を見開き、咄嗟に朱月を振り下ろした。
ザンッ。
グゥオオオオ!!!
咆哮を上げ、一体が地に伏す。
そう、だけど仕留めたのは一体だけ。
残り二体は無傷。
更に、その二体はもう私の至近距離まで迫ってきていた。
やられるっ・・・!!!
本気でそう思ったその瞬間――――
「ねーちゃんっ!!!みっけぇ!!!」
頭上付近からそう聞き慣れた声がして、
ほぼ同時に私の目前に迫っていた妖の体に無数の羽根が突き刺さる。
「コタ・・・!?」
ふらついた足元で後ずさった私は、そのまま地面へ尻もちついてしまいそうになった。
ドッ
「あっ?」
「フン、ふらふらと歩きまわった挙句がこれとはな。」
「克彦・・・っ!?」
背中を誰かに受け止められ、振り向いた視線の先。
弓を手にした克彦の姿。
彼は私を片腕でグイと自分の背後へ押しやり、弓で前方の妖を射た。
グァアアアアアアアアアアアアアア!!!
私に襲いかかろうとした三体はこれで完全に倒された。
だけど、すぐにまた次の妖が数体、姿を見せた。
「ウマイ肉、魂、クラウ!クラウ!」「チカラ!チカラ!!」
「フン、雑魚が一体では敵わないとみて束になって来たか。」
「ばーか、お前らがどんなに束になっても一緒だって!」
「コタ・・・克彦、キミ達・・・どうして?」
乱れ切った息をどうにか整えながら、私は二人に問いかける。
克彦は教室には居なかったから、とっくに帰ってしまったものだと思っていた。
「へへっ、兄貴がねーちゃんの様子がおかしかったからって探してたんだ。」
言いざまコタは木の上から羽根を勢いよく放ち、今現れたばかりの妖を退ける。
克彦は眉間にしわを寄せて死角に居た妖を弓で見事に一発で仕留めた。
「余計な事は言うな、小太郎。・・・・俺は別にコイツが心配で探していた訳じゃない。
顔色の悪い間抜けな女が妖の餌食になるのを、
みすみす放って置くのも哀れだと思っただけだ。」
「克彦・・・キミねぇ・・・。」
助けてくれたことには深く感謝してはいるが、
どうしてそこまで言われなくちゃいけないんだろう。
とは言え、これが克彦と言う人間だから仕方ないのかもしれないけど。
ふらり。
一瞬足元がよろけ、そこを克彦の腕に肩を掴まれ、木の幹にぶつかることは避けられた。
「兄貴っ、また次の妖が出てきたぜ!!
ここは俺に任せてねーちゃん連れて森を出た方がいい!!」
「コタ、だけどこの数じゃあ・・・!」
「へーき、へーきっ!コイツらやっちまったら俺もすぐ後を追うからさ!
さすがに全部相手にしてたらキリがねぇからな!」
言いながら、コタは木の上から私達の少し前方の地面に着地した。
そして、チラリと克彦と視線を合わせる。
「兄貴!」
「ああ、分かった。お前に任せよう、小太郎。、行くぞ。」
「っ・・・!?」
ふわり。
突然私の足が地面を離れ、気づいた時には克彦の腕に抱かれていた。
「なっ!?何をっ!?」
「フン、その顔じゃあまともに走る事も出来ないだろう。
足手まといになりたくないなら大人しくしていろ。」
そう克彦が口にした時には、もう彼は走り出していた。
そして不謹慎にも、私の胸の鼓動は、恐ろしく早鐘を打っていたのだった。
「・・・・克彦・・・、有難う、助かったわ・・・。ここでいいから、下して。」
「・・・ああ。」
ようやく森を抜け、私は彼の腕からゆっくりと下される。
朱月と紅月をあの場において来てしまったけれど、
あの双刀は主の元に戻ってくる様になってるから、きっと時期手元に帰ってくるだろう。
心配なのはコタ。
確かに雑魚ではあったけど、数が並みじゃなかった。
ちゃんと見切りをつけて逃げていればいいけど。
「小太郎はお前が思っている程馬鹿じゃない。必要のない戦闘は避ける。
雑魚相手に無駄な体力を消耗しても仕方ないからな。」
まるで私の考えを見透かしたような克彦の台詞。
私はハッとして彼を見た。
「行くぞ。」
「・・・・え?ああ、帰るのね・・・。」
この後に及んで痛むお腹を片手で押さえながら、私は小さく頷いた。
そう言えば鎮静剤を飲むのを忘れていたと、今になって思い出す。
貧血がいつもよりもひどいのも中々祟っている。
「・・・キミは右だったわよね、私はこっちの道だから、ここまででいいわ。
今日は本当に有難う。コタにもまたきちんとお礼を――――」
言いかけた所で、克彦の手が私の腕に伸びてきた。
「礼などどうでもいい。さっさと歩け。」
素気なくそう言われ、そのまま腕を引っ張られる。
何だか連行されている様な状況だった。
「ちょっと・・・!?」
「お前の家はここからだと10分以上はかかるだろう。俺達の部屋ならば5分だ。」
「それって・・・・え!?キミ達の所で休んで帰れってこと・・・?」
有無を言わさぬ速さでスタスタと前を行く克彦。
私の腕はまだ掴まれたままだ。
「帰宅途中で倒れられては俺たちがわざわざ出向いてやった意味がなくなる、それだけだ。」
お前は黙ってついてくればいい。
口に出さなくても彼が言いたいことが分かった。
だけど、そこまで甘えてしまっていいものか。
とは言え、本当のところこの申し出は有り難かった。
最悪のコンディションの中、妖との度重なる戦闘で私は疲労しきっていたから。
「・・・・。」
「え?」
「さっきよりも顔色が更に悪い様だぞ・・・。
ふん、いきなり倒れられても面倒だ、どうせ俺達の部屋はすぐそこだからな。」
言って、彼は再び私を抱きあげる。
私は気分の悪さも手伝って、全く抵抗することが出来なかった。
「克彦・・・。」
「まったく・・・、いちいち手のかかる女だな、お前は。」
「かもね・・・。」
フッ、と苦笑して私は答え、そのまま彼の腕に身を預ける。
こうなったらもう甘えておこうと思った。
壬生兄弟に借りを作ると言うのは中々高くつきそうだが、
今回ばかりは私もいつものように皮肉や憎まれ口が出てこない。
素直に彼に従おう。
思考能力もかなり落ちてしまっている、考えるだけ無駄だ。
「克彦、有難う・・・・・・・。」
最後にそれだけ口にして、私は彼の腕の中でゆっくりと瞼を閉じた。
「参ったな・・・。お前のような面倒な女など・・・・、
本当なら関わり合いになるべきではないのに・・・。」
抱かれた腕に力が込められた気がするけれど、私の気のせいだったのかもしれない。
夢の淵に誘われながら、耳にした克彦の台詞。
あれ程の戦闘で疲労していながら、私は心地よい気分で眠りについた。
(END)
後書き
はっはっは!乙女ゲーの王道、少女マンガの王道、姫だっこ(笑)
これで今までジャンル色々変えて幾つ夢書いたか知れません。
小太郎が結構書き易いキャラで助かりました。
克彦メインなのにこっちのが書きにくい(苦笑)精進せねば。
ではでは、ここまでお付き合い下さった貴重な姫様、誠に有難うございました!
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