「ほんっとおおおおだろうな!!??」
「ああ。」
「ほんっとうだな!?マジでもうアイツは居ねぇんだな!?!」
「キミがどれ程猫嫌いなのかは知ってるつもりだ、
そんなに疑うんだったら今日はもうやめておくか?」

溜息と同時に、私は鍵穴に入れかけたキーを掌へ戻す。
チャラリ。
鍵の束が小さく音を立てた。

「バカヤロウ!俺がこの一ヶ月どれだけ我慢してたと思うんだ!
何があろうと今日は絶対お前の部屋に泊まるって決めてんだ、俺は!
大体その為に尤もらしい理由で外泊届け提出までして篠宮の目を誤魔化したんだからな!」
「だったらさっさと覚悟を決めろ。」
「覚悟だと!?お前っ!!やっぱりアイツがまたっ!!」

ハァーーー・・・

私は再度、大きく溜息を吐いた。
私の部屋の前に着いたのは数十分前。
にも関わらず、さっきからこの会話の堂々巡りで、
哲也は一向に玄関へ足を踏み入れようとしない。
それどころか鍵を開けることさえビビっている始末。
原因は私がこの一月預かっていた海野先生の飼い猫、トノサマにある。
ベル製薬の研究の関係で海外出張を余儀なくされた海野先生は、
その間、トノサマの世話を私に頼んで行ったのだった。
そして私がトノサマを預かっていたこの約一ヶ月間。
哲也は寮と同じ敷地内にある私の部屋を一切訪れることはなく、
更に、校内に居る時でさえ私に殆ど近づこうとしなかった。
いや、正しくは近づくことが出来なかった、のだった。
幼少時代のトラウマ。
それによって極度で重度の猫嫌いになったらしい哲也。
特にトノサマは哲也に嫌がらせをすることに味を占めているらしく(本人談)
アイツにとってはまさに最大の敵と言うことだった。
だが、トノサマは一昨日、晴れて本来の飼い主である海野先生の元へ帰っていった。
まぁ、私としては少し寂しい気もするのだが、それでも哲也が部屋に来ると言っていたこともあって、
猫が室内に居たという形跡を少しでもなくそうと徹底的に掃除をしたばかりだ。
そう説明を繰り返しているのに、アイツはどうにもそれを信じきれていないらしく、
先程からこの情けない会話を何度も続けているのだった。

「哲也、覚悟が出来たら入れ。悪いが私は先に部屋に居る。シャワーを浴びたいからな。」
「何!?おい、待てよ、。俺も入るぞ!」
「・・・最初から素直にそうすればいいのに、キミはまったく・・・。

苦笑しながらも、私はようやく部屋の鍵を開けた。
玄関。
挙動不審者よろしく辺りを警戒する哲也。
私はそれを尻目に靴を脱ぎ、奥へ向かう。
私は猫は嫌いじゃない。
寧ろ好きな方だ。
だが、コイツの猫嫌いは徹底していた。
猫の形をするもの何もかも全てが駄目なのだ。
絵だろうと、写真だろうと、マスコットだろうと。
この分じゃあ、一生私は猫に関するアクセサリーやインテリアを手にすることは出来ないな、
と思わず心の中で小さく笑ってしまった。

「哲也、適当にくつろいでろ・・・なんて言わなくても分かってるだろうけど、
とにかく私は先にシャワーを使うから・・・・・・・・・。」

言いかけたところで、大きな影が私を背後から抱きすくめる。
浅黒い掌が、胸元を覆うみたいにして伸びてきた。

「・・・哲也・・・。」
「シャワーなら俺も一緒に浴びるぜ、。服は俺が脱がしてやる。」
「風呂は大浴場で済ませたと言ってたのに?」
「そうつれねぇこと言うなって・・・一緒に入りたんだよ、お前と・・・。」

そう口にしながら、哲也は私のシャツのボタンをひとつひとつ、外し始める。
耳元で囁く声は、既に熱を含んで居た。



バスルーム。
お互い裸で絡み合うようにしてドアを開けた。
入ってすぐにシャワーのコックを捻る哲也。

―サァー


降り注ぐお湯に、私の体が濡れていく。
正面には壁、そして背後から哲也が私を抱き寄せていた。
素肌で密着した身体と身体が、熱を生み出す。
背中に感じるのは、高校生にしては完成度の高すぎる逞しい胸板。
首筋に押し当てられた唇が、噛み付く様に何度も何度も吸い付いてくる。
太股にあたる硬い感触で、アイツが私を激しく求めているのがよく分かった。

「・・・・キミ、相当・・・溜まってるのか?」
「当たり前だろ?一ヶ月だぞ、一ヶ月!アイツのせいで俺はずっとモヤモヤしっぱなしだぜ・・・!」
「ふふ・・・、だったらもっと早く言えば良かっただろう。私だって1日や2日ならどうにかしたのに。」
「無茶言うなよ、アイツの気配がしてるだけで近づけねぇぜ・・・。」

くすくす。
思わず私は小さく笑う。
恐らく哲也は私の背中でいつものあの情けない顔を晒しているに違いない。

「笑うなよ、・・・。」
「ァッ・・・・」

後ろから伸ばされた彼の両手が、私の胸を形が変わるほど激しく揉みしだき始める。
咄嗟に漏らした私の声が、バスルームにやけに大きく響いた。

「俺がイラついてたのは・・・別にお前とヤレなかったってことでだけじゃねぇぜ・・・。
性欲だけなら自分でヤッちまえば終わりだからな。
けど、一ヶ月お前とまともに顔も合わせられなかったってのは、
どうにも耐えられねぇ・・・。なぁ、、お前だってそうだったんだろ?」
「・・・あァっ・・・哲っ・・・・・。」

首筋。
半分噛み付くように歯を立てて、それでも私の肌に傷が付かないようにしている哲也。
シャワーで濡れたお互いの身体。
密着して熱を持った肌と肌が滑りあう。
私はゆっくりと正面に向き直ると、ヤツを見上げた。
明るいバスルーム内。
いつもと違ってお互いの全身が嫌でも視界に入る。
ヤツは私を見下ろして小さく息を呑むと、私の唇に自分の唇を押し付けてきた。
重なり合う唇から、シャワーの水滴が口内へ入ってくる。
咄嗟に私の喉がその雫を飲み込んだ。

「やべぇな・・・、俺ぁこのままだと・・・挿れる前にイっちまうぜ・・・。」
「ふふっ・・・。」

そんなことを口にしながらも、いきなり私に突っ込んできたりは絶対にしない男だ。
唇で絡まりあう舌と舌。
溢れ出る半透明の唾液は、シャワーのお湯で私とヤツの身体を伝い落ちていく。
哲也は褐色の指を私の下腹部へと移動させた。
ズブと私の中へ入ってくる違物感。
反射的に身体が波打つ。

「ふァっ・・・哲也・・・、さすがに一月は長すぎたな・・・。」
「・・・お前の口からそんな台詞が聞けるとは思わなかったぜ、。」

シャワーの降り注ぐ音に混じって、私の体内から水音がする。
堪らず零れ落ちる私の声は、自分でも驚くほど甘さを含んでいた。
お互いの熱はもう充分すぎるほど上昇している。

、悪ぃ・・・俺、もう我慢できそうにねぇ・・・。」
「ああ・・・挿れろ・・・私も・・・。」

言いざま、私はアイツの身体にきつく腕を回す。
哲也は片腕で私の腰を引き寄せ、お互いの身体を一気に繋げた。




―数時間後。
ベッドの上。
私の隣で横になっている哲也は、少し苦笑気味に笑った。

「今日は俺の背中ズタボロだな・・・。お前にしちゃ珍しいじゃねぇか、爪立てるなんてよ。」
「そうだな・・・、久しぶりだったから・・・少し力が入った。」
「少しぃ!?俺なんか恰好悪いとこ見せちまったっつー位夢中になっちまってたんだぜ?」
「ふふ・・・。」

笑いながら、私は再度、ヤツの胸元に身体を寄せる。
哲也は私の腰に腕を回した。

「トノサマの影響かもな。猫は爪を立てるものだろう?」
「!!!ばっ!!お前!!よりによって今アイツの話をするんじゃねぇ!!」
「プッ・・・クックック・・・悪い悪い。」

思わず吹き出して声を殺して笑う私。
ヤツは私の頭の上で何やらぶつくさと文句を垂れていた。
だが、不意にアイツがピタリと黙り込む。
私は哲也を下から覗き込んだ。

「哲也?」
「・・・・・・・・・猫なんざどんな形していようが全くご免だが・・・あー・・・その・・・あれだ・・・、
限定なら爪を立てられるのも悪くねぇな・・・。」


私から目を逸らし、ヤツが言った。
頬が微かに赤くなっている。
これがさっきまで大人の男も真っ青の色気を発散していた人間と同一人物なんだろうか。

「・・・それで、だ、。」
「ん?・・・・・・・っ・・・キミ、もしかして・・・」

私の下腹部にあたる硬い感触。
信じられない話だが、この短時間で体力を取り戻したらしい哲也。
既に私に覆いかぶさってきている。

「明日は日曜日だからな、アイツにお前を独占されてた分、きっちり返してもらうぜ。」

相手は18歳の高校生、しかもあの丹羽哲也。
1回や2回で終るはずもない。
私は思わず苦笑した。


「爪をたててもいいのならね。」
「おぅ!さっきも言ったろ、お前になら背中傷だらけにされても本望だぜ。」
「フッ・・・全くキミというヤツは。」


その言葉が嬉しくて、何もかもが愛おしい。
可愛いくて頼りがいのある、猫嫌いの私の恋人。


明日も部屋から出られそうにはないと半分覚悟を決めて、私はヤツにキスをした。



(終わり)


後書き
あれ?何かこれ、「大人の余裕は〜」に似たような話になってしまって・・・(遠い目)
そして久々に書いたのはやっぱり丹羽だったという(笑)
拍手のお言葉が嬉しくて調子こきました(可哀想な人)
今回かなりギリギリの線で微エロだと私は思ってるんですが、これ以上は裏かな・・・と。
ではではここまでのお付き合い、誠に有り難うございます、失礼します


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