早朝。
目覚めてゆっくりと身体を起こせば、窓際に立つヒデの姿が私の視界に入った。
彼は薄手のシャツを一枚羽織っただけで、胸元のボタンは一切留めていないようだった。
無駄な肉の一切ついていない、筋肉質で、
それでいて細身にさえ見える身体の線がここからよく確認できた。
ヒデは気だるげな視線を空中に向け、煙草の煙をくゆらせている。
白く濁った煙の向こうには、眼鏡を外した硝子玉を思わせる瞳がある。
教師の立場としては、今すぐにアイツからあの煙草を取り上げて火をもみ消す事が正しいに違いない。
とは頭では思うものの、私は全くそのつもりはなかった。
他人の煙草の煙と言うのは、自分自身が吸うにしろ吸わないにしろ、
不愉快なものなのだが、悔しいことにヒデの煙草の煙は微塵も私に嫌悪感を与えない。
寧ろ、この白い靄につつまれた空間を好ましくさえ思えているから不思議だ。
ベッドの側にある椅子の背もたれに掛けてあるカーディガンに手を伸ばし、私はそれをのろのろと自分の肩にかけた。
視線は未だにぼんやりとヤツに向けたままだった。

「フッ・・・煙草がそんなに珍しいか、。」

私がベッドから身体を起こした瞬間から、私の視線に気づいていたに違いない。
アイツは少しだけ薄い唇の端を上げて笑って言った。

「仮にも教師の前で堂々と吸っておいて、それか、キミは。」
「だったらさっさと取り上げればいいだろう。随分と長いこと人のことを観察していたな。
それともこれがシガレットチョコか何かとでも思っていたのか?」

からかうような口調でそう言うと、彼は再び煙草の煙を口からゆっくりと吐き出した。

「・・・キミから何かを取り上げるなんて、後で何倍になって返ってくるか分かったもんじゃない。
それより、その煙草、私にも1本くれないか?久しぶりに吸いたくなった。」

言いながら、私はベッドの端から立ち上がり、彼の側まで近づく。
ヒデは今まで吸っていた煙草をいつの間にか持ち込んだらしい携帯灰皿でもみ消した。

「・・・、お前はいつ煙草を止めたんだ?少なくとも俺は学園でもこの部屋でも、お前が煙草を吸ってる姿は見た事がないぞ。」
「BL学園の教師になる前に止めた。と言っても、元々そんなに吸ってた訳じゃない。
初めて煙草を吸った時は、煙を1回吸い込んだ瞬間にカズに見つかって取り上げられたしな。」

父が部屋に置き忘れていた1本の煙草。
興味本位で口にした私に、カズは目くじらをたてて叱った。

「確か、女の子が吸っていいものじゃない・・・と、言われた気がする。」
「ふぅん・・・、お前は遠藤に初体験を目撃されたということか。」
「・・・ヒデ、お前の言い方は幾ら何でも不自然だし妖しすぎる。」

少し呆れた口調で返す私。
奴は全く気にも留めない様子で私の体に腕を回した。
私は小さく溜息を吐き、更に続ける。

「カズのあの時の台詞、今思えば笑えるな。
実はそれから数年後に結局私は煙草を吸い始めたんだが、
その時の友達が言うには、私が煙草を吸っていると、男の色気が増すらしい。」
「男の色気だと?」
「ああ、元々中性的だとはよく言われる方だし、気にしてなかったんだがな、
煙草を吸っている時は極度に色気のある男に見えると言うことらしい。」

くすくす。
思わず笑ってしまいながら、私は当時の友達の台詞を説明した。
そこで不意に、ヒデが私の身体に回していた腕に力を込める。
視線を上げると、奴は私の太股を割って長い脚を絡ませてきた。

「ヒデ・・・?」
「安心しろ、、今のお前は完全な女だ・・・。特に俺の前では淫乱な雌そのものだからな。」
「・・・今私はそう言う話をした訳ではなかったんだが・・・ァっ・・・!」

ヒデは私の腰に回している腕とは逆の手で、私の胸を少々荒っぽく掴んだ。
びくん。
即座に私の身体が反応を示す。
奴がククッと喉の奥で小さく笑った。

「ヒデ・・・キミはまた・・・」
「煙草が欲しいと言っていたな、。くれてやる、俺の口に残っている煙草の味を、お前に与えてやるよ。」

言いざま、ヒデが私の唇を強引に塞いだ。
同時に挿し入れられた奴の舌が、ぬらぬらと私の口内を泳ぎ始める。
煙草の苦味がすぐに広がり、ほのかなメンソールの香りが私を酔わせた。


久しぶりの煙草の味は、とろみを帯びた甘い猛毒の味がする。


それは、中毒を引き起こすに充分な、濃厚な蜜の味。


(終わり)



後書き
なっ何でだあああああ!?おかしいです・・・明らかに考えていたのとは別の話に。
・・・でもこれはこれでよしとするしかないか(苦笑)
七条を増やしたいのに丹羽と中嶋ばかりが増殖してしまう。
ではではここまでのお付き合い、誠に有り難うございます。失礼します


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