ふわりと色付く恋心「ホントに結婚したね、鳳先生と南先生。」 「だな。」 言って、あたし達はお互いに自分の手にあるグラスの中身をゴクリと飲んだ。 甘みの強くて少しだけ苦みのあるカクテル。 パチンパチンと小さな泡が微かな音を立てて弾けている。 窓から見える空は、薄ら夕焼け色に染まっていた。 「綺麗だったよな・・・、南先生。すげえ幸せそうな顔だったしさ。」 「うん・・・、綺麗だった。」 呟くように返事をして、あたしはぼんやりと空中に視線を彷徨わせる。 色白で華奢な南先生は純白のウエディングドレスに身を包み、 本当に見ているこっちまで幸せになりそうな笑顔を浮かべていた。 そしてその隣には―――――― 「・・・・・・・・卒業から1半年か・・・。一は吹っ切れた?」 「ん?ああ、まぁな。俺は結構前から吹っ切れてたぜ?」 「ええ?マジで!?」 「ああ、マジで。お前こそどうなんだよ?。鳳先生の事さ。」 言われて、あたしは少しの間無言で一を見つめた。 そして、ゴクリ、と、また一口、カクテルを飲んだ。 「うん、あたしも吹っ切れた。あの二人を素直に祝福出来たしね。 結婚式の招待状が送られてきた頃はボロ泣きしたんだけど・・・って、一は知ってるか。」 「ああー、あんときゃ俺もマジで凹んだぜ。」 「だったよね、翌日お互いスッゴイ顔でランチ一緒したからねぇ・・・。」 「ははっ、確かに。お前目が腫れてすっげぇげっそりしてたよな。」 「一もえらいグロッキー状態だったわよね。」 「つーかあの時お前、」「てかあの時あんた、」 「「何聞いても、うーとかあーとかしか言わなかったし!」」 見事にハモったお互いの台詞。 あたし達は一瞬、相手の顔をぽかんと見つめた。 そしてすぐに笑いを堪え切れずに吹き出してしまった。 その後は声を上げて笑いあう。 それからひとしきり笑い合った後、あたしはケータイで撮った結婚式の写真を画面に映した。 鳳先生と南先生、そしてあたし。 並んで写って笑顔を浮かべている。 自分でも清々しい位に満面の笑みだ。 しかも、作り笑いじゃない事は、あたし自身が一番よく知ってる。 ――君は卒業前よりずっと綺麗になったよ、さん。 この時、写真を撮り終わってすぐに鳳先生が笑って言ってくれた台詞。 そこいらの普通の男が口にしてたら、 間違いなく寒いと言うか、気障ったらしいことこの上ない言葉。 だけど鳳先生が言うと、全くそうは感じられなくて。 あたしはそんな先生が大好きだった、本当に。 もちろん、僕の奥さんには敵わないけれどね? 付けたした後、鳳先生はまた微笑んで、南先生に視線を向けていた。 真っ赤になって慌てる南先生。 そんな二人の姿を間近に見ながら、ああ、いいなぁと、卒業の時とは違う、 もっと優しい気持ちで羨ましがっている自分に気付いた。 これが本当に吹っ切れると言うことなんだろうと、そう思った。 鳳先生の事は今でも勿論大好きで、尊敬してて、それに格好いいとは思うけど。 もう以前のように切なくて胸が苦しくて、泣きそうになったりはしない。 そうだ、もっとずっと、ふわりと、軽く、穏やかな気持ち。 「。」 「何?」 「俺と・・・付き合わないか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、え?」 きょとん。 唐突に言われた一からの一言。 十数秒程、呆然として、理解できるまでに更に十数秒。 「え?なに、言って・・・。ええ?えええええええ!!??」 「言っとくけど、冗談じゃないぜ。俺は本気だ。お前の事が好きなんだ、 だから・・・これから先、友達じゃなくて恋人として付き合いたい。」 言いざま、一の片手があたしの腕を掴んだ。 ビックリする位に真剣な眼差し。 酔ってるんじゃないの。 なんて、ふざけた言葉で返せるような状況じゃない。 だけど、あたしは正直一瞬にしてパニくっていた。 だってついさっきまであたし達はお互いの失恋について話してた筈だ。 なのに。 「な、何で・・・?何で急に・・・。」 「お前にとっては急だったかもな。 けど俺は・・・待ってたんだ、お前が・・・鳳先生への気持ちに決着付けるまで。 俺はの事を好きだって気付いた時点で南先生の事は吹っ切れてたからな。」 「・・・・・・・・・・・・一・・・・・・・・。」 見つめる視線の先。 一の顔は、さっきより緊張しているように見える。 そして同時に、とても真剣だ。 今の状況はハッキリ言って余りにも急過ぎて、あたしの思考は追い付いて行ってない。 でもそうだ、これだけは言える。 嬉しい。 一があたしを好きだと言ってくれたことが、マジで凄く嬉しい。 そこであたしはようやく気付いた。 卒業式、鳳先生に振られたあたし。 そして同じように南先生に振られてしまった一。 卒業式の後、B6の皆と馬鹿騒ぎをしながら、テンションを馬鹿みたいに上げて、 そんな中、一の瞳の奥にあたしと同じ種類のやるせなさを見た。 卒業後も一とは何かと連絡を取り合って、時間があればB6と合流して遊んだり、 二人だけで会った事も数えきれない。 何処かで鳳先生の事を引きずってたあたしは、だけど一と一緒に居る間は笑って過ごせてた。 最初は勿論無理してた部分だってある。 でも途中からはそんなこと全く考えてなくて。 鳳先生と南先生の結婚式の時だって、胸の奥が懐かしい痛みを訴えたりはしたけど、 それはあくまでももう『想い出』だった。 だからこそ鳳先生達を祝福出来たんだと思う。 一が居なかったら、あたしはこんな気持ちで二人を見てなんか居られなかったに違いない。 「一・・・あたし・・・・。」 「ああー、やっぱ待った!!」 「え?」 「悪い・・・その、酒飲みながらこんな状況で口にしちまうつもりなかったんだ。 だから・・・・返事は今すぐでなくていい。」 言って、一はあたしから視線を逸らした。 その頬が赤いのは、アルコールのせいなのか、 それとも今のこの状況のせいなのかは分からない。 一はゆっくりと立ち上がると、 壁に掛けてあったジャケットを手にすると、再度、口を開いた。 「俺はそろそろ帰るわ。暗くなっちまうと、色々危ないからな。」 「ああ、最近物騒だしね。でも一なら全然問題なさそうだけど。」 極力普通を装いながら返事をするあたし。 アイツは少しだけ困ったように苦笑した。 「いや、俺が危ないって言ってんのはお前の事なんだけどな。」 「・・・?何で?」 「暗くなるまで俺が居座って、困るのはお前だろ?」 「?いや、別に特には。」 「バーカ、じゃあアルコール入って我慢できなくなった俺が襲いかかったらどうすんだよ?」 「なんっ!!!!???」 そこで過剰に反応を示したあたしに、一は声を上げて笑った。 それから玄関まで二人一緒に移動する。 「冗談だって。・・・・・・・・・いや、半分マジか・・・。 けど・・・そんなんで返事聞く前に嫌われたくねーしな・・・。」 「え?」 「何でもねーよ。それじゃあな、戸締りしっかりしとけよ。 後、悟郎がB6とお前で今度南先生達の新婚生活に押しかけようって言ってたぜ。」 「うっわ、B6皆で・・・とか怖過ぎ。特にキヨとか何するか分かんないよ、アイツ。」 「ははははっ、確かにな。っと、それじゃあ・・・俺は帰るぜ。じゃーな。」 「うん、また・・・・・・。」 また。 その時は、一に返事をする時だ。 そう考えているあたしの気持ちを読んだように、一は小さく苦笑した。 そしてそのままドアから玄関を出て行く。 いつもだったらあたしは自転車を押して駅まで一と一緒に行って、 帰りは自転車に乗って帰ったりしてるんだけど、今日はそれを言い出せなかった。 一もきっと、今日は一人で帰りたいと思っているんだろ思う。 部屋に戻ると、あたしはグラスを片付けることにした。 それから、足もとにあるケータイを拾い上げる。 グラスを片付ける最中に踏んづけたりしそうだ。 拾い上げたケータイの画面は未だに鳳先生と南先生と一緒に映ったあの状態のままだった。 何気なくボタンを押して、その日撮った写真をぼんやりと確認する。 ・・・・・・・・ん?・・・あれ? ボタンを押して、次の画面へ、また次の画面へ、そうやって行く度、あたしが気付いたこと。 「一ばっか撮ってるし・・・・。どんだけ・・・。」 呟きながら、またボタンを押す。 一とウェディングドレスの南先生の姿。 妙に、ぶれている。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 今のケータイは性能がいい。 そう、カメラ機能がただの脇役で収まらない位に、だ。 少々の手の震え位ならどうにか誤魔化せるはずなのに。 にも拘らず、分かりやすい位にぶれてる。 だけど意識してそうした訳じゃないのは、撮ったあたし自身が一番よく分かってる。 「・・・・・・・・・分かりやす・・・。」 くくっ。 思わず自分で自分を笑う。 あたしはその数ある写真の中で、一だけがどアップで映っている画面を選んだ。 確か、隙を見てふざけてわざとアップで撮ったヤツだ。 ――どわあっ、何やってんだよ!?お前は! と言う一の声が今にも聞こえてきそうな一品。 それをメールに添付して、更にタイトルを付ける。 “あたしの大好きな人” 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 恥ずかしいことをやってる自覚はある。 だけど、そうせずにはいられなくて。 あたしは、ゆっくりと、そのメールを、一のケータイへ、送信、したのだった。 (END) あとがき
な、何か、最近(と言っても一ケ月以上前ですが)執筆したビタ夢。
全部失恋絡み&一絡みなんですけどおおおおおお(笑) 何でしょうかね、書き易いのかな、ネタが出しやすいのかな。 勿論一の事も好きだから全然問題ないんですけど。少し驚きました。 ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様方、有難うございます!失礼致します。 |