余裕なんてない


薄らと瞼を開ける。
ぼんやりとした視界。
だけど体はいつも目が覚めた瞬間よりずっとあったかくて心地いい。
小さく欠伸をして瞬きをする。
さっきより少しだけ思考も視界もハッキリしてきた気がした。
そして、そこであたしはようやく気付く。
ベッドの中。
あたし以外の、もう一人の存在。
その体温。
何より、至近距離にある端正な顔。

「ん・・・。」
「っ・・・!」

小さな呻き声と一緒に隣で眠っている一がもぞもぞと体を動かす。
同時に彼の腕があたしの裸の腰を抱き寄せた
裸。


って、下着!!!下着つけてないし!!!!!
ぎゃあああああ!!ぎゃああああ!!


「ちょ、わ、あああっ!」


動揺し過ぎてあたしは意味不明の悲鳴を上げてしまう。
何と言うか、当然のように一も上半身裸なのは何故なんだ。
いや、理由は分かってるんだけど、そうじゃなくて。
そうじゃなくて。
そうじゃなくて。
目覚めて早々パニくりまくるあたしを他所に、一は一向にあたしの体を放してくれる様子はない。
おかげで奴の硬い胸板の感触や、
筋肉の形までがダイレクトにあたしの肌に伝わってくる。
心拍数が恐ろしい勢いで急上昇し、爆音をあげているのが自分でも分かった。


「一・・・は、放し・・・いやいやいや、でも今起きられてもマズくない!?」


マズい、やばい。
それは非常に大変スッゴク。
それでなくとも初・お泊まりと言う最上級に恥ずかしい事実があるって言うのに、
それに加えてこの状況。
あり得ない、絶対顔合わせられない。
無理無理無理。
でもだからと言って自力で抜け出せるかと言うとそれも無理っぽいし。


「うう・・・っ。」

しっかり眠ってるくせにがっちりとあたしを抱き込んでいる一の腕。
ちょっとやそっとじゃびくともしない。


「んん・・・猫にゃん・・・可愛いぜ・・・。」
「・・・ちょっ、ちが、違う違う違うううう!!!」


猫を抱いている夢でも見ているのか、
奴は寝言と一緒に抱き枕宜しく更に力を込めてあたしを抱き寄せる。
さっきよりも密着率が高まって、あたしは一の浅黒い胸に顔を押し付けられていた。

「一起き・・・っっ、いやいやいや、駄目駄目、起きたら・・・!」

でもだったらこの状況をどう打開するって話に戻る訳で。
一番手っとり早いのは一を起こして放して貰うことだけど、今あたしは裸なのだ。
そんな最上級にこっぱずかしい事出来る筈がない。


か、考えろ。
せめて下着だけでも身につけろ、あたし。
って、体固定されてて動けないんですけどっ!


あれもダメ、これもダメ、ダメダメダメ。
色々と考えては打ち消して、打ち消しては考える。
そんなことを続けていると、とうとう一が目を覚ましてしまった。

「ん?・・・あれ・・・あ、・・・・・・・。」
「っ!!!!」

ヒィッ!
なんて間抜けな声を上げるのだけは必死で堪えつつ、あたしは頭上で一の声がした瞬間に硬直してしまった。

「お前・・・起きてたのか・・・?」
「え、あ、う、うん・・・。」
「そっか・・・。ははっ・・・何かいいな、目が覚めてすぐお前が俺の腕の中に居るのって・・・。
すげぇ・・・幸せっつーか・・・。照れくさいけど、気持ちイイぜ・・・。」
「ばっ・・・!!!!!!」

何言ってんの!!!
何言ってんの!!!
何言ってんの!!!コイツはああああ!!!!!


まだ半分夢心地なのか、やけに甘ったるい声で一が囁いて、
おかげであたしは益々かたまってしまった。
多分、いや、今あたしは絶対凄く真っ赤な顔をしてると思う。
顔なんかあげられる訳ないけど、今この顔だけは見せられない。

「あ?・・・?どうした?」
「ちょっ、ぎゃっ!!駄目!!み、見ないでよ!」

絶対絶対見せられない、と思ってたのに、いきなり一があたしを抱きしめてる腕を緩めて顔を覗き込んできた。
あたしは咄嗟に枕を引っ掴んでボフっとアイツの顔に押し当てる。

「どわっ、って・・・おま、何すんだよ!?」
「だ、だって、一があたしの顔みようとするから!」

言いざま、あたしは素早くシーツで体を隠した。
こんな筈じゃなかったのに。
ホントはあたしにだって初・お泊まりの朝に彼と顔を合わせた場合の理想のシチュエーションと言うヤツがあった。
すっごい、すっごい、ベタだけど、同じ位に目が覚めて、お互いの目がふと合う。
そして二人で照れ隠しに笑顔を零しつつ幸せな空気に包まれる、的な。
そんな感じの、もうムチャクチャベタだけど、そんな感じの朝を迎えたかったのだ。
どんなにトチ狂っても目が覚めた瞬間に一人で動揺しまくった挙句、
彼氏の顔面に枕をぶつけるような真似がしたかった訳じゃない。

「なンだよ・・・、俺に顔見られるのが嫌なのか?いいじゃん、顔真っ赤にして可愛いぜ?」
「ぶぅっ!!!」


だから何でそう恥ずかしいセリフ言えるの!!!
元々そう言うキャラじゃないくせに!!
何でこう言うときだけそうやって卑怯なこと!!


「・・・・・・・・・・・・・・・・・一って・・・。」
「ん?」
「あたしなんかよりずっと余裕だよね・・・。さっきからあたしばっかコントやってるみたい。」

胸元にシーツをかき集めて、あたしは俯いたままぼそぼそと呟いた。
恥ずかしい。
色んな意味で恥ずかしい。
初めて一緒に夜を過ごして、同じベッドで目が覚めて。
もっと可愛らしい反応をしたいのに、これじゃまるっきりお笑いだ。
対して一の奴は嫌いになる位いつも通り、とはちょっと違うけど、余裕がある。
それに嫌になる位格好いい。
さらっと口にする恥ずかしいセリフも、
一が言うと何だかえらく爽やかにそれでいて甘く心地よく耳に響いて。

「・・・・余裕?俺が?」
「・・・うん。」
「ったく、ンな訳ねぇだろ。」
「へ?」
何故か少し拗ねたみたいな一の声。
咄嗟に顔を上げると、奴がシーツにくるまったあたしの体をそのまま両腕で抱き寄せてきた。

「っ!」
「余裕なんかねぇよ・・・。昨日の夜も今も・・・マジな話緊張しっぱなしだった。」
「・・・・・・・・・え?え?」
「あんまりガッツいちまったら、お前に嫌われるんじゃねぇかとかさ・・・。
優しくしてやりたかったのに荒っぽいことしちまったし・・・。
それに、ンなこと考えてる割に・・・今だって・・・俺は・・・・・・・・・・・。」

言って、一はあたしの唇スレスレまで自分の唇を近づけてくる。
同時に奴の熱い吐息があたしの唇を掠める。
あたしの体に回された手が、シーツの上からゆっくり脇腹辺りを撫で上げた。
たったそれだけ。
それだけなのに。
ビリビリと、まるで微弱な電流みたいな何かがあたしの体を駆け抜ける。

「お前を抱きたくて堪らねぇんだぜ・・・。笑っちまうだろ?」
「・・・ン・・・。」

一はそう言い終えるとすぐにあたしの唇に自分の唇を押し付けてきた。
瞬間。
喉が焦げるんじゃないかと思うくらい熱い一の吐息が流れ込んでくる。
喰らいつくと言う表現ピッタリの荒々しいキス。
なのにどこか優しさを感じさせるところはやっぱり一だ。
アイツの手がシーツを固定しているあたしの手をゆっくり緩めさせる。
キスに夢中だったあたしは無抵抗にそれに従い、シーツがベッドの上に落ちた。

「っ・・・っ・・・・・!」

今更ながら自分が下着すらつけてないことを思い出し、咄嗟にあたしの両腕が体を隠そうとする。
だけどそれより早く、一の掌があたしの体を滑って胸元に移動した。

「は、はじ・・・め・・・!」

唇を少しだけずらして彼の名前を呼ぶ。
正直なところ、恥ずかしくて死にそうだった。

「嫌・・・か?」
「・・・・・・・嫌じゃ、ない、けど・・・・」

声が震える。
心臓が今にも飛び出してきそうだ。
アイツはあたしの胸を下から持ち上げるようにして揉みながら、耳朶をやわらかく甘噛みした。

「は・・・っ・・・ま、待って、あの・・・あ、明るすぎて・・・あたし・・・。」

殆ど絞り出すみたいな声であたしは必死に訴えた。
昨日と違って今は朝だ。
カーテンをしてると言っても明るいと言っても差支えない位は外の光が入ってきてる。

、悪ぃ・・・止まンねぇ・・・。」

低く掠れた声。
あたしの耳元。
鼓膜を直に震わせて、一が囁く。
あたしは結局、自分からアイツの背中に腕を回してしまっていた。
それと同時に一はゆっくりとあたしをベッドに沈めてく。



結局、初・お泊まりの理想の朝とは程遠い状況だったけど。
でも。


あたしは今、十分に幸せだ。


(END)


あとがき

ハジメでリベンジ撃沈☆(誤魔化せてない)
何ですかね、くっさい言葉を言わせてしまうと言うか、
あのワイルド&セクシー(笑)な格好良さがうりのハジメではない感じになってしまいました。
でもどうにか2本目書けた・・・。
ではでは、ここまでお付き合い下さった貴重すぎる姫様たちに感謝しつつ、失礼致します!