俺のためを思うなら 自分を大切にして「よ〜う、兄チャン。一人でこんなとこをふらふら何してんのかなぁ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 背後から不意に掛けられた声に私は無言で振り向く。 何となく身の危険を感じ、もう少し先に行けば大通りに出られると言う所まで歩を進めたその手前。 とうとう性質の悪い男に絡まれてしまった。 相手は10代後半から20代前半の如何にもイマドキなストリートファッションの若者だった。 瞳の色が濁っている様に見えるのは、 ニタニタとした下卑た笑いを唇に張り付けているからだろうか。 「なぁ、兄チャンよ。オレ今丁度遊ぶ金が欲しくって困ってたんだよ。 ちょいとあんたの金恵んでくんねぇかなぁ?」 「―――断る。」 一言で一蹴し、冷やかな視線を男に送りながら、私は逃走経路を考えていた。 相手は一人だ。 今ならば男との間に適度な距離もある。 どうにか隙を見て逃げることも可能だろう。 「おいおい、そんな冷たいこと言うなよ〜。 ムカついて ――チャキ。 「っ・・・!」 小さく響いたその音と同時に、男が折りたたみ式の刃物を取り出す。 私は一歩、後ずさった。 この周辺の治安があまり良くない事は知っていたが、 それでもその中心となっていた『レッドガリア』と言うストリートで幅を利かせていた連中を、 一がたった一人で潰した後は大した輩は残って居ないと聞いていた。 それで少し油断し過ぎていたのかもしれない。 私は注意深く相手の動きを観察し、逃げる瞬間を見極めていた。 「ヒャッハッハッ!これでも喰らいな!」 ビュッ。 刹那。 いやらしい笑い声と共に男が手にある刃物を私に向けて突きだす。 刃先と男の動きに神経を尖らせていた私は素早くそれを回避した。 こんな場所で刃傷沙汰なんて冗談じゃない。 しかも標的は私自身。 最悪だ。 「金を置いてきゃ止めてやってもいいんだぜ〜。ほらほら、兄チャン!」 「・・・っくっ・・・!」 男は避けることしか出来ない私を見て半ば楽しんでいる様にナイフで攻撃を仕掛けてくる。 紙一重でそれを避けながら、私はどうにかこの状況を打開しようと必死で考えていた。 その時――――――――― 「おい、何やってンだ!!!」 ドッ。 聞き慣れた声がしたと同時に目の前の男が勢いよく後ろに吹っ飛んだ。 咄嗟に振り向く私の視線の先。 一だ。 アイツが男を蹴り飛ばしてくれたのだった。 「・・・先生、下がってな。・・・久々のファイトだ。 アンタに手ぇ出した分も含めてコイツの相手してやるぜ。」 「なぁんだぁ?お前、粋がってんじゃねぇぞっ!!」 蹴りを入れられたことで頭に血が上った男が一に飛びかかって行く。 先ほど吹っ飛ばされた拍子にナイフは手から取り落としたようだ。 一は易々と身をかわすと、男の腹部に素早く拳を叩き込んだ。 ドゴッ。 「ッグゥっ・・・!」 人の体を殴った時の独特の籠った鈍い音が私の耳に大きく響く。 相手は虚を突かれた表情を見せた後、背中を丸めて腹を押さえた。 次いで、一は男に足払いを食らわせ、更に攻撃を繰り出そうとしている。 「一!!止めろ!!それ以上は必要ない!!」 「コイツはアンタに手を出したんだ、それだけで俺にとっちゃ十分な理由なんだよ!!」 「ひいいっ、やっ、止めてくれ!頼むっ・・・!」 今の短時間で男は一の強さを身にしみて実感したらしく、怯えた様子で声を震わせ懇願した。 私は未だ怒りを抑え込めないでいる一の腕を掴むと、強引にその場から奴を連れ出す。 最初は不満を露わにしていた一だったが、次第に落ち着きを取り戻し、素直に私に従ってくれた。 その後、私達は一の部屋で一休みすることになった。 そして今、私と一は向かい合って座っている。 「・・・悪ぃ。先生・・・ついカッとなっちまった。」 「いや、君は私を助けてくれたんだからな。 やり過ぎたのも確かだが、礼を言う。助かった、有難う。」 「それはいいけど・・・先生、大丈夫か?どっか怪我とかしてンじゃねぇだろうな?」 言って、彼は私の体を観察するようにマジマジと見つめた。 気遣うような、心配そうな表情。 私は僅かに苦笑する。 「大丈夫だ。確かにナイフを振り回されたが、どうにか避けたしな。」 「・・・って、アンタ、ここ、服が裂けてるじゃねぇか!それに血が滲んでるぜ!」 「え?」 脇腹。 微かに切り裂かれた跡と、そこから薄らと滲む赤い血。 一に言われて初めて私はその事に気が付いた。 あの時は男のナイフを避けるのに必死で全く痛みを感じていなかったが、 言われてみればきり傷特融の鋭くキンとした感覚がある。 だが、見る限り大して深そうでもなかった。 ほぼかすり傷に近いものだろう。 「手当してやる、腹、見せてくれ。」 「一、この位なら自分で出来る、消毒液を貸してくれ。」 「いや、俺がやる。・・・なぁ、さん、俺にやらせてくれよ、いいだろ? ・・・つーか、駄目だと言われても俺がやる。洋服捲るぞ。」 言い終えてすぐに一は椅子から立ち上がり、 此方に近づいて来るとソファに座ったままの私の前に片膝をついて私の衣服に手を伸ばした。 そして私が制止する暇もなく、彼は私の素肌を露わにさせた。 外気に触れた私の肌が一瞬ぞくりと粟立つ。 「・・・チッ・・・くそっ・・・やっぱりアイツ・・・もっとボコっとくんだったぜ。 肌に傷なんかつけやがって・・・・・・・・。」 暫く無言で私の傷を眺めていた一が吐き捨てるように呟いた。 「この程度なら大丈夫だ。痕なんか残らないし、かすり傷だ。」 そう、予想通り、私の脇腹の傷はか細い筋を残しただけの軽傷だった。 だが、一は私の返答すらも不満らしい。 未だに険しい表情を崩さない。 「さんの肌に痕なんか残してみろ、ソイツ、俺がぶっ殺してる。 ・・・・・アンタも!何だってあんな所を歩いてたんだ。 この辺は前よりもマシになったが今でもああ言う馬鹿がふらついてんだ、女一人で居ていい場所じゃない!」 「悪かった・・・。まぁ、あの男は私を男だと勘違いしてたようだけどな。」 苦笑して見せると、一は深く大きな溜息を吐くと同時に私の腰に腕を回して床に膝をついたまま抱きついてきた。 「・・・頼むよ、さん・・・。アンタは自分が思ってるよりずっと綺麗な人だ。 確かに一見野郎に見えない事もねぇけど、それは単純にアンタの背格好のせいだし、 女だってバレて絡まれて見ろ・・・・取り返しのつかねぇ事にだってなり得るんだぜ。 マジで俺の心臓幾つあっても足りないって・・・。」 「・・・一、安心しろ。私はそんな柔な女じゃない。」 言って、私は一の頭を掌でそっと撫でる。 「いいや・・・さんは分かってない・・・。確かにガードも堅くてしっかりしてるとこもあるけど、 それ以上にアンタ、たまにこっちがビビっちまう位に無鉄砲だ・・・。こんな傷作っちまって・・・。」 囁くようにそう口にし、不意に一が先ほどよりも私の方に乗り出してきた。 そして、未だに肌を晒したままの脇腹のその傷にゆっくり濡れた舌を這わせてくる。 「っ・・・一・・・!」 「ん・・・ああ、後でちゃんと消毒しような。だけど、傷は舐めときゃ治るんだぜ?」 「私はお前の大好きな動物とは違う・・・。・・・ァッ・・・」 一の舌が執拗に何度も何度も私の傷を往復する。 その度に背筋がぞくぞくと震えた。 「なぁ・・・さん、さっきの質問にまだ答えてくれてねぇんだけど・・・、 アンタ、何だってあの辺うろついてたんだ?」 私の傷口を舌で舐め上げながら、生ぬるい吐息を肌に吹きかけて一が言った。 同時に奴は片手を私の脇腹から背中へと移動させ、掌で滑るようにその周辺を撫で始めた。 「丁度こっちに用事があった帰りだったんだが・・・・・・・・・。 それで・・・君に、逢いに来たんだ・・・。あそこを通ったのは、方角的に近道だと思ったからで・・・。」 説明をしつつも私は照れ隠しから自然と言葉を濁してしまう。 らしくないことを口にしている自覚は十分にあった。 だからこそ言葉が素直に紡げない。 「さん・・・。」 不意に一が顔を上げて下から私を覗き込む。 私は咄嗟に視線を逸らした。 「すまなかった・・・、心配掛けて。」 「・・・・・・・・・・そんな風に言われちゃ、許しちまうしかねぇよな・・・。 けど約束してくれ、次に俺の部屋を訪ねるときは、連絡するってさ。 どこに居ても俺がアンタを迎えに行く。だからあそこに一人で行くのは金輪際止めて欲しいんだ。」 「・・・分かった。」 「つーか、・・・実はマジな話・・・今すげぇ嬉しくてヤバイ・・・。」 言いながら、一が徐々に私との距離を縮める。 やがて互いの吐息が重なり、溶け合った瞬間。 ゆっくりと唇を重ねられる。 それと同時にシャツを捲って背中に回された彼の手がプツと私のブラのホックを外した。 「ン・・・・・・・。」 次第にキスの深さと濃厚さが増していく。 絡み合う舌と舌。 そこから蕩けるような感覚。 一の熱い吐息が私の喉を焦がした。 先ほど彼が私の傷口に舌を這わせた為に僅かに鉄分を含んだ血の味がする。 それすら甘い蜜のように思えて、私は自身からも角度を変えては一のキスに応えた。 その間も彼は掌で捏ねるように私の胸元を愛撫し続け、更に胸の突起を指先で弄んだ。 「っ・・・ハ・・・ん・・・。」 無意識のうちに私の口から零れる吐息に甘さが滲む。 体の芯が熱く疼いた。 一が指先に挟んだ私の胸の突起を転がすように動かす。 その度に小さく震える自身の体。 「さっきのアイツはマジで大馬鹿野郎のクソッタレだぜ・・・。 こんなに女として感じてるアンタが・・・男に見えるなんてさ・・・。 なぁさん、アンタ今スッゲェ色っぽい顔してるぜ?・・・このまま俺がイッちまいそうな位だ・・・。」 唇を触れ合せたまま、至近距離で私を見つめた一が熱っぽい声音で囁く。 僅かに息を弾ませ、欲情を膨れ上がらせているのが分かった。 獰猛な野獣のような、だけど同時に美しく、熱のある瞳。 私はそっとその頬に手を伸ばし、わざと音を立てて一の唇に吸いついた。 「私が女であるのは君の前だけだ、一・・・。」 私がその台詞を口にした直後。 ほんの一瞬。 私の心に呼応したように、一が舌を這わせたあの傷口が、燃えるように熱くなったような気がした。 (END) あとがき
傷の手当てはどうしたあああ!?と言う激しく方向性のズレた話になりました。
あれ?何か私の書くハジメって全部微エロに転がろうとしてる・・・?(・・・) と言う訳で、気づけばハジメも3作目。 彼はアンケで翼と競り合ってる状態ですが、翼も増やせるといいな。 お題と内容が微妙にズレてますが、目を瞑ってやって下さい(笑) 王道的にはヒロインが一に言う類のものですが、あえて一に心配掛けた話が書きたかったのです。 因みに拙宅のハジメは完璧二人っきりで恋人モードだと名前、それ以外は先生呼びです。 ではでは、ここまでお付き合い下さった貴重な姫様にありったけの感謝を込めて! 失礼致します。 |