不意打ちKISSと彼女の心理


「この糞餓鬼がっっ!!!!待ちやがれ!!」
「キシシシシッ!バァーカ!待てと言われて待つヤツぁ居ねぇってェーの!」


「げ。」

前方、数十メートル先。
九影先生に追いかけられて逃走劇を繰り広げている小悪魔一匹。
ヤバイ。
かなりヤバい。
凄くヤバい。
相当ヤバい。
このままじゃ確実にアイツに見つかる。
っていうか、見つかるだけでなく絶対巻き込まれる。
キヨの奴はいつもそうだ。
いつもいつも、あたしを面倒事に巻き込む。
あたしは咄嗟にクルリと踵を返した。
――――が。

「お!コブタはっけーん!ケケケッ!捕獲するぜェ!」
「・・・・・・げげ!!!!!!!!」

呆気なく見つかり、あたし目掛けて突進してこようとするキヨ。
だけど、ここで捕まる訳にはいかない。
キヨに捕まったら最後、どんな目に合わされるか分かったもんじゃない。
いや、それ以前に、キヨの背後に迫って来ている九影先生もその筋の人っぽ過ぎて恐ろしいこと山の如しだ。
あたしはチラリと一瞬だけキヨに視線を向け、すぐさまその場から駈け出した。

「ああ??おい!オマエまで逃げることねぇだろうが!俺が追ってんのは仙道だぞ!」
「知ってますよ!!!けど・・・っ!」
「キシシシシッ、このオレ様から逃げられると思ってンのかぁ?コブタちゃんよぉ!」

例のチェシャ猫笑いで如何にも楽しげにあたしを追いかけてくるキヨ。
まるで自分が九影先生に追っかけられてる事なんか忘れてるみたいだ。
あたしは校内だと言うことも忘れて、全力疾走することにした。
って言うか、そうでもしないとあの小悪魔の脚力からは逃げられない。
とにかく逃げて逃げて逃げまくれ。
力の限り全力疾走。
今まで似たような状況でキヨに捕まってロクな目に遭ったことがない。
あたしは廊下を突っ走り、階段を駆け抜け、あっちと言わず、
こっちと言わず、とにかく無茶苦茶に校内を爆走し続けた。
不本意にも奴との度重なる攻防戦で体力だけはついてしまったようだ。
気づけば九影先生はいつの間にか居なくなっていて、そして更に奇跡的な事に、
キヨを撒くことにも成功したようだった。

ゼェーハァー。
ゼェーハァー。

肩で大きく息をしながら、片手で小さくガッツポーズをするあたし。
今、あたしはあたし自身を褒めてやりたい。
何と言ってもあの小悪魔野郎の魔の手から逃げ伸びたのだ。
これが奇跡でなくて何と言う。
ああ、神様ありがとう。

「・・・よっし・・・折角逃げられたんだから・・・、
どうあっても見つからないようにしなきゃな・・・。」

汗で濡れた額を片手で拭い、あたしは周囲を警戒しながら歩を進めることにした。
その時。

「だァーれが逃げられたってェ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・。」


背後。
唐突に掛けられた声に。
ギギギギギ。
知らず、あたしの首が、機械仕掛けの人形のように、不自然に動いた。


「きっ・・・キキキキ・・・キヨっ!!!」
「このオレの殉職から逃げられると思ってんじゃねェぞー。
オマエの行く先なんざお見通しだってェーの!キシシシシシっ。」

ひぃいいい!
喉の奥から間抜けな悲鳴を上げるあたし。
俊足だろうが!!!と言うツッコミすら入れられない。
入れてる場合じゃない。

「おっと、今の間抜け面をカメラに納めさせて貰ったぜぇ。
ブッ・・・これでブチャとコブタの写真展示会でもやってやっかなー。」
「ぎゃああ!!ちょっと!!止めてよ!!っていうか撮るなそんなもの!!」
「お、イイ顔!ケケッ、コブタはブチャよりもシャッターチャンスが多いからなぁ、
オレ様オマエから目が離せなくて困るぜ。」


―――パシャ。


言いざま、キヨが手にある携帯電話のカメラのシャッターを押す。
いつもはいつ写真を撮ったのかも分からないほどの素早さで済ませるくせに、
この時はわざとあたしに見せつけるみたいにして撮りやがった。



死ね!死んでくれ!
今すぐ直ちに死んでくれ!!!!
この小悪魔めええええ!!



「大体コブタのブンサイでオレ様から逃げようってのが間違いだってェーの。」
「ブンサイじゃなくて分際!!・・・いやいや、そうじゃなくて!
こ、九影先生はどうしたのよ!?あんた追われてたでしょうが!」
「ヘッヘッヘーオレがあんなのに毎度毎度捕まるかって―――――」

そこで奴は何故か急に言葉を切り、あたしの肩を掴むと素早くすぐ側の教室に身を滑り込ませた。

「?ちょっと、何をいきなっ「ああー、うるせぇ、コブタ、ちょっと黙れ。」
「フム・・・ガッ・・・!」

訳が分からず抗議しようとしたあたしの口を、キヨが掌で強引に塞ぐ。
そして奴は教室のドアを少しだけ開けると隙間から廊下を覗いた。
因みに、片手であたしを抱き込むようにして腕を回し、掌で口をふさぐと言う形を保ちつつ、だ。


「すまねぇな、キヌさん。俺がアイツを逃がしちまったせいで色々迷惑かけちまって。」
「ふふふ、いいんですよ。丁度僕も手が空いていたところですからね。」

「チッ・・・ハゲの奴、オバケを引き連れてきやがったのかよ。面倒クセェ・・・。」
「・・・ムぅっ・・・ン!」


助けて!!!九影先生!!衣笠先生!!!
小悪魔の人質がここに居ます!!!!


あたしはキヨに抵抗しながら先生たちに向けてSOS電波を必死に発信する。
声は出せないものの、暴れれば気配で察して貰えるかもしれない。
だけど、そこで不意にキヨの奴があたしの耳元に唇を寄せてきた。

「おいおい、コブタちゃんよ、あんまり暴れてっと、
オマエのおもしろ顔特選集を大量に焼き増しして校内にばら撒くぜェ?」
「!!!!!!!!!!!!!」
「キシシシシシッ、それが嫌なら大人しくしてろってェの。」


だ、だだだだ、誰かあああ!!!
神様、仏様、衣笠先生様ぁっ!!!
お願い、気づいて!!この小悪魔をどうにかして!!!


殆ど涙目になりつつ黙り込んだあたしを満足そうに眺めてキヨが笑う。
本当に心底性格悪い。
だから美形は性質が悪い。
顔のイイ分、性格は超最悪。
あり得ない。
コイツはマジであり得ない。

「ヘッヘッヘー、やっと行きやがったぜ、アイツら。」
「・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・ウウ・・・。」

ガックリ。


何てことだろう。
あたしのSOS電波は九影先生たちに受信して貰えなかった。
二人の足音が遠ざかる。
遠ざかって行く。
そして完全に足音が消えたところで、ようやくキヨがあたしの口から手を離した。

「ップハ・・・キヨーーー!あんたねぇ・・・!・・・っていうか、いい加減に放してよ!」
「ああー?何騒いでンだぁ?コブタはよー。」
「コブタって呼ぶな!って言うか、放して!」

ジタバタと暴れてはみるものの、
いつの間にかさっきよりもガッチリ後ろから抱きこまれて殆ど身動きが出来ないあたし。
しかも今になって気付いたけど、何だかえらく密着率が上がっている。
それに予想外にキヨの腕の力が強いことに内心あたしはかなり驚いていた。
知らず、ドクドクと鼓動が早まる。


お、落ち着けあたし。
相手は高校生にもなって生足のしかも小悪魔だぞ!
騙されるな。意識するんじゃない!


。」
「っ!!!!!!!!!!!!!!!!」

耳元。
唐突に囁かれて呼ばれたのはあたしの名前。
今まで一度だってまともに呼んだことなんかないくせに、
何だっていきなりこの状況でこうゆうことをするんだろう、コイツは。

「なァーんてな?ケケケッ、なンだよ、
オレ様はオマエがコブタって呼ぶなっつーからわざわざ名前で呼んでやったんだぜェ?
何を固まっちゃってんのかなァ?」
「か、固まってない!!ってか、どうでもいいけど放してよ!今すぐ!」
「なぁ、、オマエの唇って柔らかいな。」
「・・・・・・・・・・・・・・はぁ!!??」

な、なななな、何を言い出すんだ、コイツは次々と!


心臓が爆音を上げる中、キヨの奴は一向にあたしを解放する気配がない。
それどころか耳元に寄せていた唇をいきなり耳朶に押し付けてきやがった。

ちゅ。

あたしの鼓膜にダイレクトに響く、奴のリップノイズ。
同時に、キヨの手が再度あたしの唇に伸びてきた。
そしてその指先があたしの唇の上をゆっくり往復する。

「・・・・ちょ、ちょっと・・・からかわないでよ。」

この体勢だとキヨの表情は分からないけど、奴のことだ、
本当に単にからかっているだけと言うことも有り得る。
と言うか、そっちの方が自然だ。
からかってる。
キヨはあたしをからかって遊んでる。
そうに違いない。
そう、思ってるのに。

「キヨ・・・・マジでいい加減に・・・・・・・っ!!??」


あたしが声をあげた、その瞬間。


―――グイッ


キヨは今度はあたしを正面に向き直らせ、その上いきなりあたしの方に屈みこんできた。

「んぅ・・・!」

強引に重ねられ、押し付けられた唇。


どっくん。


瞬間的にあたしの呼吸が止まる。
思考が停止する。
鼓動が大きく一つ、鳴り響くと、それから全く音が聞こえなくなった。
まるで、心臓も、止まってしまった、みたいに。
触れ合せた唇と唇。
やわらかで、あたたかい。
だけどそれ以上に―――――――――――――――


「オマエはオレ様の可愛い玩具だからなァ、たまには褒美をくれてやろうってな?
今度はもっと時間のある時に気持ちイーイことしてやるから期待して待ってやがれェー!じゃーな!」


言いざま、キヨはもう一度あたしに軽く触れるだけのキスをして、
そのまま教室を出て行った。
廊下を走り去るキヨの足音が聞こえる。
うそだ。
聞こえてない。
あたしには何も聞こえてなかった。
ただ、呆然としていた。
唇。
キス、その感触に、ただ、ただ茫然と。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


立ち尽くして、居た。



ああ、だから、だから嫌だったのに。
アイツに捕まるのは。
今までだってロクなことがなかったけど、今回のは今までと比べ物にならない。
こんなこと、あり得ない、信じたくない。



だけど、けど、ああ、あああああああ!



マジであり得ない。
絶対、心底あり得ない。
何がって。
何がって、そんなの自分で分かってる。

キヨからの不意打ちのキスが、こんなに嬉しいなんて。


あいつはやっぱり、とんでもない小悪魔野郎だ。


(END)


あとがき

教師も生徒もあんまり性格変わらないヒロインじゃないか?コレ。
と疑問に思った姫様、正解です(・・・)微妙に違う程度で申し訳ないです。
そしてやっぱりキヨが難しい・・・、精進します。
私は書き慣れるまでにとても時間がかかるので(苦笑)
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様に深く感謝しつつ、失礼致します。