虹色 Romance


「キヨーおおおっ!!!」
「アア?」
「アレは何!?何で、アレ!あのおおお!!もおおお!!マジ嫌過ぎるーーー!!!」
「ハーア?オマエ日本語喋ってくンねェーと、オレ様仔ウシ語は理解出来ねェーゼ!
ナギでも呼んでくっかァ?キシシシシッ!」

午後8時半。
夜ご飯を済ませてTVを見て少しの間寛いで、いつものようにバスルームに向かったあたし。
今日は珍しくキヨの悪戯攻撃が無かったな、と訝しみつつも、
まぁそんな日もあるか、なんて呑気に構えてたあたしが馬鹿だった。
そりゃもう大馬鹿だった。
そうだ、今や学園を卒業したと言えども相手はあの聖帝の小悪魔と呼ばれた仙道清春。
気を抜いていい訳がない。
例えコイツとの付き合いが転校初日から数えて既に2年目になったと言っても、だ。
その証拠に毎日毎日手を替え品を変えては悪戯されてきた訳だし。
一緒に住むことになった後だってそれが変わる訳なんぞある訳がない。
そう、ある訳がないのだ。
あたしは現在進行形で、それを今さらながらに思い知らされた。
超ド級に最悪の悪戯で。


「笑うなああっ!!どうすんの!?どうする気!?もおお!マジ勘弁してよ!」
「ンだよ、仔牛はモーモーぎゃーぎゃーうるせェな。
何が起きたのかオレ様にも分かる様にちゃーんとセツメイしろってェーの。」

言いながら、ソファにごろ寝したままのキヨがニヤニヤ笑う。


コイツ。
このくそ悪魔。
明らかに楽しんでやがる!!


「すっとぼけんな!!!あんたでしょうが!翼にまたおかしなモン頼んで開発させやがったわね!!」
「さァー?なンの話かわっかりまセーン。さっきから言ってンだロー?
風呂場で何があったのか、オレ様に分かる様に説明しろってなァ?チャーン。ケケッ。」


あああああもおおおおお!!
ホンット!!
ホンット!!こう言うとこは高校生の時と全然違わないし!!
ムカつく!!!


「バスタブに溢れそうな位蛇が居るし!!!
あり得ないでしょう!!絶対あり得ないから!!」
「ああ、マダラの仕業だなァー、そりゃ。」
「嘘を吐くな!!いつ瑞希が来たかっつの!!てか、白くなかったし!
リアルに茶色とか黒とか・・・あああもおおお!!どうすんのよ!?」

瑞希や一には申し訳ないけど、嫌いなものはやっぱり嫌いだ。
トゲーは可愛らしいし好きだけど、蛇は無理。
しかも一匹だけならまだしも、今あたしが見てきたあれは、
まさにバスタブから溢れんばかりの数で。うようよくねくね、バスタブの中を所狭しと動いていた。
あれは女のあたしじゃなくてもきっと無理な人間は無理だろう。
例えば翼とか、瞬とか、ゴロとか。
アイツらならあたしのこのやり切れない気持ちを分かってくれるんじゃないだろうか

「それで逃げて来たンかよ。ヴァーカ、、オマエあの風呂に入ってみろ、
疲れた肌もあっという間にツルツルだゼ!やっさしーオレ様からの気遣いってヤツだってェーの。
有難く受け取りやがれェー!名付けてスネークバスですべすべ大作せーん!」
「ばっ・・・・!!!無理!!!無理無理無理無理!!絶対無理!!
大体蛇で肌がスベスベになるとか聞いたことないし!意味分からん!!!」

ぶんぶんぶん。
激しく首を左右に振り回し、あたしはそれをハッキリキッパリ拒絶する。
ついさっき見たばかりのバスタブの中でうねうねと蠢いていた大量の蛇を思うと、恐ろしさで鳥肌がたった。

「バァーカ!あれが本物の訳ねぇーだロ!蛇に見せかけた入浴剤みてぇなモンなんだヨ!
オレ様がわざわざオマエの為に用意したサイッコーのシロモンじゃねぇーか!」
「はいいいいいいいいいいい!!!???あれが入浴剤!?
ふざけんな!!どこが!?どの辺が!?生きてたわよ!動いてたし!!」
「キシシシッ、リアルだったロ?カベに言って作らせたんだけどよ、蛇の動きには細けぇとこまで拘ってンだゼ!」

意味不明に誇らしげなキヨ。
いつの間にかごろ寝の体勢から起き上がり、足を組んで超偉そうな態度でソファに座っている。


あれが偽物!?あれが!?
でも、確かに本物なんて幾らなんでもなぁ・・・。
いやいやいや、だけどキヨだし・・・。毒蛇じゃなきゃ害はないゼー!
とかって本物用意させた可能性も捨てきれないし・・・。
ええ!?いやでも・・・


ぐるんぐるん。
パニくったあたしの頭の中を色々な考えが巡る。
そのまま少しの間その場に突っ立っていると、キヨはニヤリと口の端を吊り上げて笑った。


げ。
ヤバ、この顔・・・


また何か企んでやがる。
そう思った瞬間。案の定、奴がソファから立ち上がってあたしに近づいてきた。


「あれが蛇型入浴剤だっつーのを今から確かめさせてやンぜ!」
「!!あそこにまた戻れって!?や、ちょっと!!マジで勘弁して!!」
「オレ様が一緒に行ってやるって言ってンだロ?その代わり、あれがマジで偽物だった場合、
オマエにゃオレ様の言う事を聞いてもらうからなァ。」
「・・・・・・・・・は?何、その流れ・・・。」
「トーゼンだろーが!このやっさしー恋人のオレ様の気遣いから、オマエは逃げちまったンだからなァ?
オレ様の心はふかーく傷ついたンだゼ。その責任は取ってもらわねぇと割に合わねェーってェーの。」

とか何とか言いながら、キヨはどう見てもわざとらしくグスグスと泣き真似をして見せた。
そしてあたしの腕を掴むと、そのままバスルームへと向かう。

「ちょ・・・ちょっと、え!?や、やだ、待て、待て、待て、落ち着こう!!キヨ!!」
「あーはいはい、オレ様は落ち着いてるゼェ?落ち着くのはオマエだろうが、。」

いい加減諦めてついてきやがれェー。
そう続けた奴は、殆ど引きずる形であたしをバスルームに連れて行き、そして押し込んだ。
更に、あたしが逃げ出さないように後からあたしの背中をグイグイ押し続ける。

「・・・ちょっと!キヨ!!!押さないで!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」


ふんわり。
白く温かな湯気に交じって、やわらかくて甘い香りが漂ってくる。
バスタブの周囲だけを見ると、その中身が蛇で一杯な様には全く見えなかった。
一歩。
また一歩。
あたしはビクビクしつつもバスタブに近づく。
そして―――――――――――――――


「・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うそ。」
「ジャジャーン♪ってなァ。どーだァ、蛇は見つかったかァ?キシシシシシッ。」


呆然と見下ろす、あたしの視線の先。
バスタブの中。
赤。
青。
黄。
橙。
緑。
藍。
紫。

キラキラ。
キラキラ。

虹色に輝いている。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キヨ、これ。蛇が・・・」
「そうだなァ。蛇が虹に化けたってヤツかァー?オレ様の言った事に嘘は無かっただろーが。」
「う・・・・うん。」

コックリ。

首を素直に縦に振るあたし。
さっきまで蛇で溢れてたバスタブと同じものとは到底思えない。


綺麗。
凄く、綺麗。


ぴちゃん。
あたしは指先で少しだけお湯に触れてみた。
丁度いいお湯加減。
やわらかくて優しい、心地いい香り。
虹色のお湯はキラキラ輝き続けてて。

「キヨ、ありが―――――――――――――――」
「ア?なンか言ったか?」
「!!!!!!!!!!!!!!!」

今回ばかりは素直に感謝して感激して、(最初の蛇事件には目をつぶって)
そのお礼を口にしようと笑顔で振り向いた、その瞬間。
即座、あたしの笑顔は、凍りついた。
何故なら。

「なっなななななっ何脱いでんのよ!!!??」
「アアー?そりゃ風呂に入るからに決まってンだロ。」
「は、は、はいいいいいいいいいいい!!???」

いつの間に脱いだのか、上半身裸のキヨ。
それどころか、奴は既にズボンにまで手をかけようとしていた。

「待てええ!!早まるな!!キヨ!!」
「ンだよ、オマエは。そりゃあなァー?チャンはいいゼー?
そのタオル一枚取れば素っ裸になれんだからなァ?」
「は?あたし?あたし・・・あた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

今度は瞬間的に石化するあたし。
そうだ、あたしはお風呂に入ろうとしてたところだった。
だから普通に服を脱いでて当然で。
あの大量の蛇を目にして咄嗟に身に付けたのはタオル一枚。
そのまま何を考える事も出来ずにキヨの所に向かった。
そう。
それから当然だけど、今も、そのまま。

「さっきの約束はキッチリ果たして貰うからなァ、
オレ様のふかーく傷ついた心と体をオマエ自身で癒して貰うゼ。」

言いざま、キヨはあたしを素早く抱き寄せ、バスルームの壁にあたしの背中を押し付けた。
同時に感じる、湯気で濡れた硬いタイルの感触。

「わっ・・・き、キヨっ・・・!」
「オマエがバスルームから飛び出してきた時から、オマエを抱きたくて仕方なかったンだヨ・・・。
それをオマエが納得するまでちゃーんと我慢してやってたンだゼ?」

低く囁くようにそう言って、キヨはあたしの耳朶に唇を寄せる。
あたしの体が無意識にビクリと大きく震えた。

「で、でも・・・ほら、昨夜もその前も・・・だし?きょ、今日は「ヴァーカ!ふざけたこと言ってンじゃねェーよ。」

言いかけたあたしの台詞を遮って、奴はそう口にし、至近距離であたしと視線を合わせた。
ニヤリ。
その口角がつり上がる。

「ンなの、毎日ヤっても足らねェーってェーの。
、それもこれもオマエのせいなんだゼ?責任とってオレ様に抱かれちまいやがれ。」
「!!」

スルリ。


素早くタオルをはぎ取られ、咄嗟に抵抗することすら出来ないあたし。
固まり続けること数秒。
だけど結局。

「バカキヨ。」

あたしからもキヨの体に手を伸ばす。


目を閉じれば、瞼にはバスタブに満たされたお湯と同じ七色の虹が見える。
ふうわりと鼻をくすぐる温かな湯気の香り。


蛇騒ぎでは散々だったけど、何だかんだであたしは小悪魔の虜ってヤツで。
こんな同棲生活も、いいかもしれない。
なんて恐ろしいことを考えてる今日この頃、だった。


(END)


あとがき

久々のキヨでした。ネタとしては結構前に出てたんですけど、
執筆するタイミングを逃してました。
同棲じゃなくても出来そうな話だな、これ(苦笑
でも同棲又は同居ネタで他キャラも書いてみたいですね。
『男は皆狼なのよ』的な(笑)同棲&同居シリーズで。
ではではここまでお付き合い下さった貴重な姫様に感謝です!