失恋姫様へ・悪魔の恋予言

「よぉ、仔ウシちゃーん。なーに一人でこっそこそ帰ろうとしてンのかなぁ?
このオレっ様に挨拶もなしにさっさと学校出てくンじゃねェーよ!」
「・・・・・・・・っ!キヨ・・・。」
「うっわ、マジでオマエ今、すっげぇブチャ面。元祖ブチャよりスッゲェんじゃねぇーの?」

卒業式終了後。
帰宅途中。
涙でボロボロの顔を俯いてどうにか隠しながら歩いていたあたしに声を掛けてきたキヨは、
そう言って殆ど強引に腕を掴んであたしを立ち止らせた。

「・・・悪いけど、・・・一人にして・・・。」

言葉を口に出すだけでもまた涙が溢れてきそうで、あたしは半分掠れた声で返事をした。
今日はもうキヨの憎まれ口に歯向かう気力もない。
今にも、声を上げて大声で泣いてしまいそうな状態だった。

「アアー?なンだってェ?聞こえねェーなァ?オレ様最近耳が遠くなっちゃってヨォ。」
「キヨ・・・!あたしは・・・!」
「なァンだぁ?ああ、ナナの奴に告ってフラレたってかァ?」
「・・・・・・・っ!」

キヨの台詞に、反射的にあたしの体がビクリと震える。
自分でも情けない位、分かり易い肯定だった。
あたしは唇を強く噛みしめると、未だにキヨに掴まれたままの片腕を力一杯振り上げ、
奴の手を振り払った。

「知ってんだったら放っといて・・・!キヨには、かっ・・・んけい、ない・・・!」

咄嗟にしゃくり上げそうになるのを必死で堪えるあたし。
おかげで、変に声が途切れて震えてしまった。
でももうそんなことを気にしてる余裕すらない。
そうだ、キヨの言う通り。
あたしはたった今、瞬に振られてきたばかりだから。


―――・・・、悪いが、オレには大事な人がいる。
たった一人・・・あの(ひと)だけが、俺の好きな人なんだ・・・。


急ぎ足で校舎を出て、何処かに向かおうとしてた瞬。
彼を引きとめて告ったあたしに、告げられた台詞。
本当は、知ってた。
返ってくる台詞が、どんなものか、あたしは。
なのにやっぱり止まらなくて。
自分が苦しくなるのを承知で、結局先を聞いてしまった。


  それって・・・南先生のこと・・・?



―――・・・ああ、そうだ。


真っ直ぐに向けられた瞳。
瞬の、南先生への一途な想い。
分かっていて聞いたくせに、痛くて、ただ、苦しくて。
本当に馬鹿だ。
バカだ。
大馬鹿だ。


  そっか・・・、うん・・・。もう・・・生徒と教師じゃなくなるしね・・・。


頑張って。
なんて、笑える。
そうやってイイ子ぶることで、少しでも瞬の瞳に映りたくて。
そのくせ。


ああ、サンキュ。


返された言葉に、ムチャクチャに泣きたくなったなんて。


「おい・・・、。」
「何・・・?・・・・・・・・ってか、マジで、ほう、っといてよ・・・。」

返事をする声がどんどん刺々しくなってしまう。
キヨが悪いんじゃない。
分かってる。
だけど今は、今だけは、本当に放っておいてほしかった。

「だァーれが、カンケイねェーって?ふざけンな。
オレ様以外の・・・しかもナナの野郎に告って泣かされるとかマジあり得ねェ。」

言いざま、キヨはさっきよりも更に強引にあたしの肩を掴むと、
そのままグイと自分の胸にあたしの顔を押し付けた。

「なっ・・・!?」
「今日だけだ・・・、今日ゲンテイで、このやっさしー仙道清春様が、オマエのブチャグチャのベチャ面受け止めて、
ナサケネェー話きいてやる。ゼーンブ吐き出しちまえ。モーモーみっともなく泣いとけ、仔ウシ。」
「・・・・・・・・・・・・、きよ・・・。」

さっきみたいにキヨの手を振り払えなかったのは、いつも通りの憎まれ口の癖に、
奴の口調が驚く位に優しかったからだ。

「ううー・・・、何なのよ・・・もう・・・。」

限界。
だった。
あたしの涙腺は瞬間的に崩壊し、殆ど滝みたいに涙が溢れて流れ出した。
そして同時キヨは、あたしが奴に縋りつくより早く、さっきより両腕に力を込めてあたしを抱き寄せ、
あたしをブロック塀の隅に追いやると、周囲の人から見えないように自分の背中を道路側に向けた。

「ンなグチャ面見せられたら他のヤツらはビビって逃げ出すかもしンねェからなァ。」
「・・・っう、・・・ッ・・・るさ・・・。うう…ふっ・・・。」

続けられた台詞はやっぱり優しくないのに。
だけど絶対的にいつもと違ってる。
その優しさが、痛くて、嬉しくて。


「うっ・・・うう、・・・たし・・・だって・・・、瞬の事が好きだった・・・のに・・・!あたしだって・・・。」


掠れて震えた鼻声で、無意識に零れ出る言葉。
顔は涙でぐちゃぐちゃで、確かにキヨの言うとおり、人様に見せられたものじゃない。
ヒイィック。
何度も何度も、泣きじゃくる小さな子供みたいにあたしはしゃっくり上げる。

「・・・・・・・・・・・・・ア?それでお終いじゃねェーンだロ・・・?」
「瞬の視線、の先に・・・あたしが・・・い、居ないことなんか・・・分かってた・・・っ、
分かってたけど・・・・、知ってたけど・・・うう、うう・・・ヒッゥ・・・。」

それから先はもう言葉にならなくて、ただただひたすらキヨの胸に顔を埋めて泣いてしまった。
キヨは。
アーア、オレ様の制服、鼻水でグショベショになっちまうなァ・・・。
なんてボヤきながらも、結局あたしが泣き止む最後の最後まで、あたしと一緒に居てくれたのだった。




「・・・・・・チッ、思った以上にマジイテェ・・・。」

あたしがようやく泣きやんで、二人並んで歩いて帰り始めたその途中。
キヨが、小さく舌打ちをして漏らした独り言。
あたしの耳には届かなかった。
それから、あたし達はあたしの家の公園の側で別れることにした。

「・・・・・・・あのさ、キヨ・・・今日は「アー礼なんて言うンじゃねェーってェーの。」

キヨはあたしの言葉を遮る様にして言った。
あたしは未だに赤いままの瞳を奴に向ける。

「・・・・・・・・・・キヨ?」
「イイか?。言っとくがなァ、今回の事は別にオマエの為にした事なんかじゃねェーぞ。」
「・・・・・・・・・・・・え?」
「・・・・・・・・・コーユーことだヨ。ヴァーカ!」

言いざま、キヨは訳が分からずきょとんと奴を見上げていたあたしの唇に、自分の唇を押し付けた。
それは一瞬の、だけど十分に唇の柔らかさを感じられる位の出来事だった。

「・・・ショッペェ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なん、な、にして・・・。」

余りに唐突なキヨの行動に、あたしは混乱して舌が回らず、言葉にならない。
キヨはそんなあたしの瞳を真っ直ぐに見詰めて言った。

「ナナに告って振られたこの日を、オマエは多分この先ずっと忘れねェだろうがなァ、
そん時は、絶対ェオレ様とのこのキスのことも思い出す筈だ。」
「・・・・・・・え?」
「だけどなァ、、カンチガイすんなヨ?オレ様は、思い出になんかなってやらねェ。
オマエがこの日を思い出すそん時は、オレが必ずオマエの側に居て、
ナナの事を()オマエが好きだった(・・・)野郎としてからかってやる。」

キヨは何処か予言めいた口調でそう言って、未だに訳が分からず呆然としているあたしに向けて更に続ける。


「今日オレ様がオマエのグチャ面受け止めてやったのは、ゼンブその日の為だ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・。」

何を言ったらいいのか、それ以前に何がどうなっているのか分からずに、
あたしはただただキヨを見上げた。

この先どうなるかんて、今は勿論考えられない。
瞬に振られたばかりのあたしの心は、やっぱり苦しくて、切なくて、悲鳴を上げてる。
だけど、そう、ひとつだけ言えること。


キヨの言う通り、あたしは多分、この日の出来事をこの先もずっと忘れられないと思う。
それは、さっきのキスも含めて、全部。
アイツは礼なんか言うなって言ったけど、
あの最高に不細工なぐちゃぐちゃのあたしを受け止めてくれたのは、やっぱり紛れもなくキヨで。
どんな形であれ、一番泣きたい瞬間にあたしを泣かせてくれたのはキヨで。

「ありがとう・・・。」
「はーーア!?オマエ、オレ様の言葉ちゃんと聞いてたンかヨ?アア?」


言って、キヨはどこか拗ねたような表情を見せた。
でもあたしはもう知っていた。
これは拗ねてるんじゃない、照れているんだって事を。
あたしはこの時初めて、キヨの前で少しだけ笑って見せた。
それからキヨは再度、あたしをジッと見つめて、続ける。


「覚えとけ、。オレ様は、欲しい物は絶対ェ手に入れる。
何があろうと逃がしゃしねェーってなァ?」


泣きはらしたあたしの赤い瞳に映る、不敵に笑うキヨの姿。


あたしの脳裏、ハッキリと、焼きついた。


彼のこの時の姿が、あたしの中の瞬を追い越すことがあるのか。
それはまだ、分からない。


(END)


あとがき

うううううううんんん、最後、ちょっと中途半端な感じになってしまったかもしれません。
そしていつの間にかシリーズにしてしまった失恋系。
私としては一夢の『片想いにKISS』の清春Verってな感じだったのですが、
はっはっは、ラスト周辺、清春をちょっと暴走させ過ぎたかな(笑)
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様、誠に有難うございました。
失礼致します。