Sweet and sour

「おい、何をしている?さっさと帰るぞ、
「あたし先生に用事あるから。」
「フン、つまりこの俺に待っていろと言いたいのか?」
「いや、先帰っていいし。」
「仕方あるまい、今日はモデルの仕事もないからな。少しだけなら待ってやる。」
「・・・・・・いやいやいや、ねぇあたしの言葉聞こえてる?先帰っていいから!!」
「5分以内に戻って来い。永田、ドリンク。」
「はい、翼様。」

「聞きなさいよ!?ねぇ!!」

ゼェハァ。
ゼェハァ。


何かこないだからこんなんばっかなんですけど!?
ドグサレぼんの奴、会話してくれないんですけど!?
キャッチボールじゃないよ、これもう、あたしもあんたも一方的に言葉の投げ合いだよ!!


肩で息をしつつ、結局あたしは真壁翼を放置して職員室へと向かうことにした。
ああなったらもう何を言っても無駄だ。
と言うより、アイツはあたしの言うことなんか最初から聞く気なし。
永田さんに話を振っても笑顔でスルーされちゃうし、
(無視するとかじゃなくて)何かもうあれ以来(・・・・)毎度同じことの繰り返し。
そう、あれ以来。
あの日直の日。
何故かドグサレボンの真壁翼があたしが奴に告ったとエキセントリックな勘違いをして以来、だ。
そして信じられない事に、あたし達はどうやらマジで付き合っている二人と認識されてしまっているらしい。
おかしい。
絶対おかしい。
初歩的に色々間違い過ぎてる。

「よぉ、!相変わらず放課後は痴話喧嘩か?」
「は、一・・・。違うからね?違うから!!」
ってばペラッパ愛されちゃってるよね〜。ゴロちゃんウラヤマしーんだぁ!」
「・・・・・・・・・・・・どこ、どの辺!?寧ろあたしのが教えてほしんだけど!!」

教室を出ようとしたドア付近。
同じくドアに向かっていた一にゴロがニヤニヤしながらあたしをからかう。
この光景すら、既に日常と化そうとしてるところが恐ろしかった。

「・・・仲良き事はうつくしきかな・・・。」
「クケクケー!!」
「って、瑞希にトゲーまで・・・!」

今日初めて起きてるところを目にした瑞希。
やっと口開いたかと思ったらそれか的発言。
そして気のせいかもしれないけど、トゲーにまでニヤニヤ笑われてる気がする。

「おい、。何をしている?Jump to it!俺は5分しか待たんと言ったハズだ!」
             (早くしろ!)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・はいはいはいはい!!行って参りますわよ、坊ちゃま!」

半ばヤケ気味にそう返事をして、あたしは足早に教室を後にする。
そのあたしの視界の隅に、頑張れよ〜、ふぁいとぉ〜、
なんて呑気に言葉を掛ける一とゴロの姿が入った。
・・・頑張って、。トゲー!
あたしの背中に更にエールが送られる。
振り向かなくても瑞希とトゲーだと分かっていた。


こ、コイツら、人ごとだと思って・・・!


そんな事を考えつつも、殆ど小走りになって用事を済ませようとしてる自分自身が憎い。
もしかして、もしかしなくても、あたしはあの真壁翼に振り回されているのだろうか。
あり得ない。
今の状況全てがあり得ない。




予想以上に用事が長引いてしまって、急いで教室に戻ると、既に生徒は誰も居なくなってしまっていた。
誰も。
そうだ、当然、ドグサレボンも、だ。
あたしは咄嗟に脱力してしまった。
妙に焦って戻ってきて自分が急に馬鹿みたいに思えてくる。

「・・・・・・・ソウデスカ、こー言うオチな訳ね・・・。」

ぶつくさ文句を垂れつつ、自分の席に向かい、荷物を少し乱暴に机に置いた。
そこではたと手を止める。
別に何もむくれるようなことじゃない。
先にヤツに向かって帰ればいいと言ったのはあたしだ。
アイツは最初からあたしの話なんか聞いちゃ居なかったけど、
だからこそ帰りたいと思った時に帰っただけに違いなくて。
そうだ、別にこんなにムカツイたりしなくてもいい筈なのに。
自分が変にガッカリしているようで、それがまた腹がたった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

そこであたしは不意に、荷物の中のケータイがブルブルと震えていることに気づく。
どうやらメールを受信したらしい。
あたしは荷物からケータイを取り出すと、すぐにメールを開いた。
送信元は――――


「真壁翼・・・。」


  『バカサイユで待っている。幼児が済んだらレンラクしろ。』


「・・・・・・・・・用事だし・・・、連絡位変換できるでしょうが・・・。」

相変わらず頭の悪い。
なんて思いつつも、いそいそと帰り支度を進め始める自分に気付き、
あたしはぶんぶんと思いきり頭を振り回した。


別にいそいそとなんてしてない!
これ以上待たせると何言われるか分かったもんじゃないってだけで・・・。


誰に言い訳してるんだか自分でも分からない。
あたしは慌ただしく準備を整え終わると、
片手で握ったケータイで返信しながらバカサイユに向かうことにした。



「遅いぞ、。」
「・・・・・・・・・・・・・・、マジで待ってた。」

バカサイユの中に入るまでもなく、アイツは建物の前で殆ど仁王立ちしてあたしを待っていた。
一言、咄嗟に漏らしたあたしに、真壁翼が眉間にしわを寄せる。

「What?だから待って居てやると言っただろう、・・・変な女だな。もういい、帰るぞ。」
「・・・・う、うん。」

返事をして、あたしも奴の後を追った。
いつも通り手ぶらの真壁翼は、校門をくぐってそのままスタスタ先を進む。

「・・・・・・・?ねぇ、車じゃないの?」
「何だ、車の方がいいのか?お前・・・いつもトッポがいいと言っているだろう。」
「徒歩だから!うん、あたしは勿論徒歩のがいいから全然問題なしだけどね。」

少しだけ小走りして奴に追いついたあたしは、そう返事をした。
あの一件以来(・・・・・・)、南先生によるB6集中補習やモデルの仕事がない場合、真壁翼は毎度殆どあたしを拉致る形で車で送っていた。
だけどあたしはその車内で毎度歩いて帰る事を主張し続けていたのだ。
車が嫌いだとかそう言った理由じゃない。
寧ろコイツのところの車は色々と快適だ。
だけどあたしとしてはやっぱりご近所さんの目が気になったりする訳で。
それに根っからの一般庶民なあたしは片道15分の道のりをぷらぷらしながら帰るのも嫌いじゃない。

「・・・・・・・・・・けど、何か真壁翼が歩いて帰宅って変な感じ。」
「・・・フン、この俺が歩いてキタクなどするか。
帰りは永田がお前の家の近くに車を付けるヨテイだ。
それよりも、何故お前はいつもいつも俺をfull nameで呼ぶ?
first nameだけでいい、これからは翼と呼べ。」
「え!?ああー・・・うん・・・、まぁ・・・努力する。」

曖昧に返事をしつつ、少しだけヤツから視線を逸らす。
何かスゴク変だ。
このままだと本当に『付き合ってる二人』っぽくなってしまうような気がする。
と、不意に真壁翼があたしの片腕を掴んでグイッと引っ張った。

「何っ!?」
、Look out!電柱に激動する気か!?」
(気を付けろ!)

前を見て歩いていなかったせいで、あたしは目の前に電柱が迫っている事に気付いていなかった。
危うくぶつかりそうになるというベタベタなことをしでかしながら、
それでも奴のおかげでギリギリのところで助かった。

「ごめん、ありがと。」

お礼を口にしつつ、今回だけは激動に対するツッコミは入れないことにした。

「担任並にどんくさい奴だ。・・・し、仕方ないからな、こ・・・このまま手を繋いで居てやる。」
「・・・・・・・・・え?」

あたしが問い返した時には既にアイツはあたしの手に自分の掌を重ね、
再度、歩き始めるところだった。
しかも、普通に手を繋ぐだけでも驚きだけど、俗に言う『恋人繋ぎ』をされてしまい、
あたしの指の間に真壁翼の長くて節くれだった色白の指が絡められ、
意識せずにはいられない状態だった。

「・・・・・・・・あ、あのさ、真壁翼・・・。」
「・・・・・・・・・・・・first nameで呼べと言っただろう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。つ・・・ばさ。」
「・・・何だ?」

自分で名前で呼べ呼べと言っておいて、いざあたしがそう口にすると、奴はやけにぎこちなく返事をした。
その上、気のせいか真壁翼の頬が薄らと赤い。
それを目にすると益々あたしまで意識してしまい、
しかもこれから口に出す話題が恥ずかしすぎて妙に甘酸っぱい空気があたし達を包んでいた。

「手、繋がなくても平気なんだけど・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・、、お前は、俺と手を繋ぐのがイヤなのか?」
「や・・・あの、そう言う訳じゃなく・・・・・・。」

奴の眼鏡の奥からあたしに向けられた視線を、余りの照れくささに逸らしてしまいつつ、
あたしは歯切れの悪い答えを返す。
すると、繋いだ手にぎゅとさっきより少しだけ力を入れられた。

「ならばno problemだろう・・・。・・・この俺が途方で送ってやっているんだ・・・。
この位は・・・・・・・・・と、・・・・トウゼン・・・・だろう・・・。」
「トッポの次は途方・・・?徒歩だから・・・!」

甘酸っぱ過ぎる空気に耐えきれず、あたしは無理をしていつも通りの会話をしようと必死になってしまう。
どうやらそれは真壁翼の奴も同じようで、何だかお互いぎくしゃくとした話し方になっていた。


こんなのはおかしい。
こんなのは変だ。


だって、あたしは元々コイツと付き合ってるなんて思ってないし。
あの日直の日のことだってコイツのエキセントリックな勘違いで。
なのに。
なのに。


片道15の道のりが、後3倍か4倍になってしまえばいいなんて。


そんなこと、考えるなんて。


(END)


あとがき

ええーーと、そろそろ翼をお笑い担当から外したいのですけど、
外れてくれてるといいと思いつつ、執筆しました(笑
格好良くて可愛い翼を書きたかった(願望)
しかも今回かなり青い春を前面に押し出したラストになってしまいました(笑
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様、本当に本当に有難うございます!
失礼致します。