一緒に帰ろう。「喜べ、そして感謝しろ、副担任。この俺のバイクにお前を乗せてやる。」 学園での一日の終わり。 既に放課後と言うには遅すぎる時刻。 帰り支度を済ませ帰宅しようと、廊下を歩いている最中。 何の前触れもなく私の前に姿を見せたのは、 私が副担任を受け持ち、補習担当をしている3年E組、通称クラスXリーダー格・真壁翼だった。 「翼?・・・?君は今日撮影があると言ってなかったか?」 「フン、今日は打ち合わせだけだったからな、予定より早く終わった。 それよりもさっさと来い。この俺を1分1秒でも待たせるな。」 「そうか、つまり君はここで私が来るのを待っていたんだな?」 ニヤリ。 私は咄嗟に口角を上げて笑った。 瞬時、翼は動揺した様に頬を僅かに赤く染め、狼狽える。 「なっ!ち、違う!俺はマタマタここを通りかかっただけだ! お前が毎回徒歩などと言う庶民的な交通ジュータンしかないのをアワれに思って来てやっただけだ!」 「徒歩に庶民だとかは関係ないと思うが。それから、マタマタじゃなく偶々。 ジュータンじゃなく手段。もっと言うならジュータンはジュウタンだ。絨毯。」 「っくっ!うるさい!お前は担任以上にコマか過ぎるんだ!副担任!」 言いながら、私を睨みつけるその表情は年相応の顔をしている。 常に不遜で高慢な態度を崩さない翼だが、こう言った場合の奴は中々可愛らしいと思ってしまう。 まぁ、さすがに本人にそのことを告げるつもりは毛頭ないが。 私は吹き出してしまいそうなのをどうにか堪え、翼の肩に手を伸ばして軽く触れた。 「有難う、翼。私も丁度今日は早く帰りたいと思っていたんだ。バイクなら早く帰れる。」 「・・・最初から素直にそう言え、・・・行くぞ。」 むっつりと答えた翼はだがどこか嬉しそうに見えて、 私は危うく我慢しかけた筈の笑いを漏らしてしまいそうになった。 「チャーン!wait for me!今夜はこの俺に君を家まで送り届けると言う栄誉を与えてくれ!ベイベ!」 私と翼の背後。 唐突に湧いた、基、唐突に現れたのは葛城だった。 奴は足早かつ大股に私の傍まで近づいてくると、クルリと明らかに必要のないターンで1回転し、 更に私の片手を取り、恭しく跪いた。 その一連の流れが不自然でありながら何故か自然とも取れて、私は一瞬されるがままに手を握らせてしまっていた。 「俺の愛しきスイートハニー!今日はもう遅い。 さぁ、この俺が君専属のナイトとなってこの身に変えても君を守ってみせよう!ッハッーンっ!」 「葛城、貴様に切腹を許す。さっさと果てろ。」 冷やかな声で一蹴し、同時に私は葛城に冷たい視線を向ける。 奴としては最高の決め台詞だったらしく、今回のエコーはいつにも増してやかましかった。 「きゃー!今日もクールなその台詞!銀児痺れちゃうぜ☆」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか、お望みなら常世を見せてやってもいいぞ。」 やはり救いようのない阿呆だ、この男。 心底呆れ果てていると、不意に私の隣の翼が葛城の手首を掴んだ。 「オッサン、うちの副担任に手を出すな。」 「あっれー?翼坊ちゃまじゃねぇか。お前まーだ居たのか?」 「放せと言っている、チビホスト教師。」 「な゛!!チビだとおおおお!!」 即座、翼の言葉に反応した葛城が声を上げた。 だが、それでも私の手は離しやがらない。 翼も力を込めて引っぺがそうとくれているようなのだが。 「フン!チビにチビと言って何が悪い?俺の方が身長が高いんだ、モンダイあるまい。」 「大有りだ馬鹿野郎!!たったの6センチだろうが!そんなもん高いうちに入るかっ!! チャンっ、君は俺の事を分かってくれるだろうっ!?」 言いざま、奴は立ち上がった。 しかし、下らない会話を繰り広げつつも私の手はしっかりと葛城に握られている。 「おい、オッサン!!何度も言わせるな、さっさとそのアツムルシイ手を退けろ!!」 「暑苦しいだろう、翼。ムサイと混ざってる。」 「!副担任!お前こんな時にまで! まさか、このホスト教師に手を握られたままでいいとでも思っているのか!?」 私のツッコミに眼鏡の奥の翼の瞳がいつも以上に不機嫌に吊り上がる。 そして、その台詞に何を勘違いしたのか葛城は一層強く私の手を握りしめた。 「やっぱり!やっぱりそうなんだね?マイシュガーベイベ!君は俺のことを・・・っ!」 フゥ。 私は小さく溜息を吐く。 視線を上げればうっとりと頬を染め、瞳を輝かせている葛城の顔。 「ああ、そうだな、よーく分かった。」 「チャン!ようやく俺の愛を分かってくれたんだね!嬉しいぜ!! さぁ、俺の胸に飛び込んでおいでっ!!ラビューハニー!」 葛城は喜びに打ち震えた様子で声を上げ、更に両手を広げる。 「What!?本気か!?副担任!」 翼は激しく動揺した表情を見せた。 「黄泉平坂でも観光してろ、ど阿呆。」 葛城の手が私から離れたのと同時に、私は拳を握り、冷やかな視線と共にそれを葛城の腹部にぶち込んだ。 グッホッ。 油断しきっていた葛城は腹を押さえて妙な声を上げる。 私はそれを奴の頭上から見下ろし、そして翼に視線を移した。 「行こうか、翼。害虫駆除に手間取った。」 言って、私は再び廊下を歩き始める。 背後で葛城が何事か叫んでいたが、綺麗に無視してやった。 「―――副担任、・・・オトコゼンとはお前のような奴の事を言うんだな・・・。」 「男前だ。・・・・普通女にそれはないと思うが、ま、褒め言葉として受け取っておくか。」 私は小さく苦笑して、そう返事をした。 翼は何故か瞳に複雑な色を宿している。 一見それは、拗ねているようにも見えた。 「女のお前がオトコマエ過ぎると・・・このPerfectな俺が情け無く見えるだろう・・・。不愉快だ。」 「?何のことだ??」 「フン!自分で考えろ!」 私の隣を歩いていた翼の速度が上がる。 だが、奴はすぐにピタリと足を止めた。 「・・・・・・・・それから、あんなにカンタンにオッサンに手を握らせるな。 当たり前だが、オッサン以外にもだぞ。 ・・・まったく、ガードが固いのかユルいのか分からん女だ・・・。」 後半部分。 殆どごにょごにょと呟くように言って、奴は再び歩く速度を上げて私の先を進む。 どうやらこれは拗ねていると言う方向で間違いないらしい。 そして焼きもちをやいているというのも当て嵌まるかもしれない。 そう思うと、翼の奴が可愛くて仕方なく思えてしまい、私は咄嗟に小さく笑みを零した。 「何を笑っている!?お前も担任の病気がうつったか。」 「そうかもしれないな。」 クック。 喉の奥を鳴らして笑い、私も足早に歩を進めると、翼の隣に並んだ。 外はもうすっかり暗くなり、濃紺色の闇が空を覆っている。 その空には幾つもの星が瞬いていた。 明日もいい天気になりそうだ。 (END) あとがき
アンケコメント頂いたし、翼を練習してみよう!ってな訳で、葛城先生が可哀そうなことになってますが、
愛ゆえにです。と言うか、葛城先生絡ませた方が書き易かったです(笑) 翼は想像以上に難しかったな。そしてゲームでの悠里との関係と違って、 ヒロインの方がちょっと余裕目に書いてみました。一応、一応!(しつこい) Aは男前な大人の女ってことで(しかしキヨ相手だとテンパり気味だったとかはスルーで) ヒロBだとこうはいかないですけど。 ではでは、ここまでのお付き合い、誠に誠に有難うございます!失礼致します! |