苦難と受難の日々「・・・・・・・・・・・・おかしい。」 「え?先生?どうしたんですか?急に。」 「・・・・ああ、悠里先生。最近葛城の奴えらく粘り強く私に向かって来ないか? 以前までは悠里先生が一緒に居た場合なんかは結構すぐに撒くことも出来ただろう。」 言って、私はコーヒーカップを口に運び、珈琲を一口、啜った。 恐らく今の私の眉間には深くしわが刻まれていることだろう。 「え?えーっと・・・そうでしたか?」 「・・・明らかにそうだった。だからいつも二人で協力してアイツを撒いていたんじゃないか。」 「あ、ああ!ほら、葛城先生にも心境の変化が起きたのかもしれませんよ。」 「心境の変化?・・・あの借金ホストに?」 「・・・ええ、先生の事を本気で好きになった・・・とか。」 ブッホっ。 悠里先生の余りにも余りな台詞に私は咄嗟に口の中の珈琲を噴き出してしまった。 そして更にその瞬間に珈琲が気管に入り、ゴホゴホと激しく噎せる。 その様子に慌てたように彼女は私の背中を撫でてくれた。 「きゃーっ!だ、大丈夫ですか!?先生!」 「ッゴホっ・・・何を突然・・・言い出して・・・ッゲほっ・・・!」 私はジャケットのポケットからハンカチを取り出し、口に押し当てながら返事をした。 「でも先生、あり得ないことじゃないと思いますけど・・・。」 「ない!ッけっほ・・・断じてあり得ない・・・!っこほッ・・・」 噎せる喉を落ち着けつつ、その合間にどうにかキッパリと断言する。 悠里先生は私の背を撫でる手を一瞬止め、下から覗き込む様ににして言った。 「そ、そこまで断言しちゃうんですね・・・。でも、どうしてそう思うんですか?」 せき込みがどうにか収まったところで私は一旦呼吸を整えると、 口元を拭って彼女に視線を向けた。 「あの男のアレを本気の口説き文句だと取れる方が珍しいだろう。 第一アイツは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 言いかけたところで初対面時の葛城との遭遇シーンを思い出し、 私は知らず、再び眉間にしわを寄せる。 悠里先生は先を促すようにジッと私を見つめ続け、答えを待っている。 仕方なく私は続けた。 「アイツは、初対面で私を男と間違えたんだぞ。」 私の返事に悠里先生は困ったような表情を見せた。 実を言うと彼女も私を男だと間違えた人間の一人なのだ。 だが、それ自体は珍しくもなく、 私も自身の外見や服装がその大きな原因となっていると言う自覚はある。 だから男に間違われることについて相手を責めるつもりは全くないのだ。 しかし。 「私と葛城が初めて会ったのはトイレの前の廊下だ。」 「・・・・・・・・・・。ええ!!??って・・・あの、そこで男性と間違われたって言うのは・・・。」 先を聞いてもいいものか、と言う気遣いからか、悠里先生は戸惑いを隠せない様子で言った。 私は小さく溜息を吐いた後、話の続きを始める。 「私は悠里先生が他の先生方に挨拶に行く前にアイツと遭遇したんだ。 今も言ったとおり、トイレから出てすぐの廊下でな。 初っ端っからあの手マイクでエコーをきかせて背後から私に掛けてきた言葉がよりにもよって・・・」 ――ヘイヘイボーイ!!おいおいおい、 見ねぇ顔だがレディ達が使用するトイレから出てくるとは見逃せないぜ! そんな不届き者は、この銀児様がー、ンーっは!成敗してくれるー!!!シャキィィン☆ 「・・・・・・・・・・・・・・・・。え?・・・・・・・ええ!!??ええええ!!?? 先生、それってまさか・・・葛城先生・・・・。」 「・・・・・・・・・・ああ、そうだ。私を痴漢扱いしやがったんだ、あの男は!」 ブルブルブル。 今思い出しても腹立たしさで拳が震える。 悠里先生は信じられないと言った様子で、うわぁ、と小さく呟いた。 「あの・・・それでその後どうなったんですか・・・?」 「私が振り向いた途端に何故か大口開けて驚いていたが、取りあえず容赦なく・・・。」 「容赦なく・・・?」 「腹に一発拳をぶちこんでやった。」 とは言え葛城はどう見ても筋肉を蓄えた体育会系だ。 (この時点では私は奴の担当教科を知らなかった) 度を越した無礼な言動に咄嗟に拳を振り上げた私だったが、 相手に決定的なダメージを与えることなど到底無理だろうと承知していた。 しかし、どうやら葛城は油断しきっていたらしく、私の拳は見事奴の腹部を抉り、 不意を突かれたアイツは痛みに悶え、情けなくも間抜けな大声を上げたのだった。 「奴が言うには私の顔を見てから女だと気づいたらしい。」 「・・・・は、はぁ・・・そんなことがあったんですね・・・。」 「これで分かっただろう?」 「え?」 問い返す悠里先生に、私はハンカチをジャケットのポケットにしまい込んでから口を開いた。 「あの男が私を本気で好きなるなんてことは万に一つもあり得ない。」 「ええっ!?そんな!そんなことないですよ、きっと・・・!」 「・・・?それはそれとしても、悠里先生、 もしかしてあの男が急に私の方にばかり向かってくるようになった原因を知っているのか?」 私はふと思いついた疑問を口にする。 特にこれと言った根拠はないが、この話題を出した時から彼女の様子が少々おかしいように感じていた。 案の定、悠里先生は目を泳がせ、答えに窮した様だ。 「え!?そ、そんなことは・・・っ!あのっ!」 彼女は喜怒哀楽が激しく、表情豊かなので非常に分かり易い。 何故か妙に動揺し始めた彼女に更に質問を重ねようとしたところで、 悠里先生の背後からスッと誰かが進み出てきた。 「ふふふっ、すみません、少しいいですか?」 私は咄嗟に視線を上げる。 「すみません、お二人の話を立ち聞きするつもりはなかったんですが。」 「ああ、衣笠先生。どうしたんですか?」 「実は、葛城くんのことなんですけど、僕が原因なんですよ。」 にっこり。 性別問わず見惚れてしまわずには居られない程儚げで艶やかな微笑を浮かべ、衣笠先生は言った。 そして、極自然な所作でそっと悠里先生の肩に手を触れる。 幸い周囲に他の教師は居らず、衣笠先生もそれを分かっているからこその行動だろう。 この二人が個人的に親密になっていることは、既に私も薄々勘付いては居た。 だが、悠里先生は過剰に反応を示し、真っ赤になって慌てている。 「きっ衣笠先生っ!」 「落ち着け、悠里先生。・・・それより、衣笠先生、先生が原因だと言うのは?」 「ええ、葛城くんが僕の可愛い人に憑りついてしまわないように、お祓いの言葉を言っておいたんです。」 「きゃあーっ!」 頬を赤くしたままの悠里先生が悲鳴を上げて両手で顔を覆う。 その姿が可愛くて、思わず噴き出してしまいまながら、私は軽く頷いた。 つまり、衣笠先生が悠里先生には手を出すな、と、葛城先生に牽制したと言うわけか。 この際、どんな言葉で牽制したかは聞かないでおくとする。 衣笠先生はあれでいて色々と奥の深い人だ。 大天使の微笑で魔王と言える言動すら垣間見せる、とは、さすがに本人の前では口に出来ない。 衣笠先生とは遠縁とは言え親族には違いないのだが、だからこそその恐ろしさを知っている。 私の周囲は両親を始め、叔父、叔母、祖父母にに至るまでその容姿とはかけ離れた性格の者が多いのだ。 「ふふふっ、可愛い恋人は、どんな手を使っても守りたいですからね。」 私の心中を見透かしたような衣笠先生の台詞。 思わず苦笑を浮かべた私の側で、悠里先生は未だに顔を上げることが出来ないでいるようだ。 だが、まぁ、納得はした。 葛城の奴は元々衣笠先生を慕っている(かなり間違った方向ではあるが)し、 その先生からのお願い(ツッコミ不要だ)とあらばどうあっても聞き入れるしかないだろう。 口では未だに悠里先生を子猫ちゃんだの何だのと言っているが、以前ほど過度な接触がないのも頷ける。 「ハァ・・・原因は分かったが、だからと言って何も私に向かってくることはないだろうに・・・。」 「原因はそれだけじゃないと思うんですけどね。」 「え?それはつまり他に―――――――――「チャーン!!マイスイートハニー♪今戻ったぜ!ベイベ!」 続けようとした言葉を遮って、私の悩みの元凶が今回も懲りもせずエコーを響かせ乱入する。 私は深く大きなため息を盛大に吐くと、 ミュージカルでも始めるのかと思われるステップを踏みながら此方に向かって来ている葛城に視線を移した。 そして速やかに奴が入ってきた入り口とは反対のドアに向かう。 「チャン!俺の愛しいバンビ!さぁ、そんなに照れずに俺の胸に飛び込んで来いよ!COME ON!」 「貴様の思考回路の分解と大幅な修正を要求する。 正しく接続が終了するまで私に近寄るな。いや、寧ろ一生涯近寄るな。」 「ンー・・・!チャン・・・!今日もクールビューティだぜ!銀ちゃんシビれるー!・・・・・・イイっ!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・頼む、葛城、塵と化せ。」 奴の言動による頭痛は以前より更に重くなっている。 先ほどの衣笠先生の含みのある言葉も気になるところだが。 「マイスイートベイビーーっ!照れ屋な君のクールな言葉は俺への愛の欠片なんだろ?ラビュー!」 今はそれよりも、この大馬鹿野郎をどうやり過ごすかが先決問題だ。 私の受難は、まだまだ続く。 (END) オマケ(??) 「・・・二人とも出て行ってしまいましたね。」 「ふふふ、そうですね。先生には可哀想ですが、あの分ですと当分戻って来れそうにないみたいです。」 「・・・あ、あの、衣笠先生、さっきは有難うございました。 本当は私が葛城先生に相談されてアドバイスしちゃったのが原因だったのに・・・。」 「いいえ、ですが悠里先生のアドバイスも無駄になったみたいですね。」 「葛城先生も本当に好きならもっと普通にアピールすればいいと思うんですけど・・・。 ・・・・無理、なんでしょうか。やっぱり。」 「無理でしょうね、葛城くんは真正のお馬鹿ちゃんですから、ふふふっ。」 「衣笠先生・・・・(でも否定できないわ)」 「ああ、それから、さっき僕が先生に言った事は、嘘じゃありませんよ?」 「え?」 「葛城くんに僕の可愛い恋人には憑りつかないようにって、言ってあるんです。」 「!!!!!!!」 あとがき
最後はえらくCP要素が強くなってしまった(笑)そして葛城先生殆ど登場してないし・・・。
補足としては余りのヒロインの冷たさに葛城先生が悠里に泣きつき、 アドバイスとして「葛城先生は誰にでも愛を語りすぎです。あれじゃあ誰も本気だとは思いませんよ」 とか何とか言われたんだという感じですかね(アバウトすぎる) 全く関係ないですが、ビタミン夢って実はマイナージャンルなんでしょうか?夢サイトさん余りないですよね。 だとしたら今これを読んで下さっている姫様は本当に貴重な方です! ここまでお付き合い下さったことを深く感謝致します。ではでは、失礼します。 |