素顔の一瞬「・・・好みのタイプの男性?またベタな質問を飛ばしてきたな、悠里先生。」 「え?そうですか?でも・・・ちょっと気になって、聞いてもいいですか?」 「女性はそう言う話題が好きだな。」 「って、先生も女性でしょう!それで、どうなんですか?」 再び質問を重ねた悠里先生の瞳は、好奇心に輝いていた。 更に彼女は、ズズイと私の傍へ身を寄せると、耳を大げさに此方に傾けて見せる。 私は軽く苦笑してから答えた。 「そうだな、外見は特に・・・問題は性格だな。 落ち着いて良識が有り、空気を読める男(ひと)。 酒と煙草はたしなみ程度で、ギャンブルには手を出さない。 まぁ、そうは言っても面白みに欠けると言うのはこちらも息苦しいが、 それでもやはり、間違っても借金をするような男は御免だ。」 これだけは譲れないな。 そう付け足して、私は悠里先生のすぐ背後にある自身の机についた。 「・・・・・・先生、あの・・・それって・・・・。」 「うん?」 何事か言いかけた彼女は、先を続けにくいのかごにょごにょと言葉を濁している。 「つまり、間違っても葛城くんのような男性は御免だと言うことですね。 ふふふっ賢明な考えだと思いますよ〜?」 「衣笠先生っ!いつの間に・・・!?」 驚く悠里先生の隣。 儚げとも艶やかとも言える微笑を湛え、現れたのは衣笠先生だった。 相変わらずその秀麗な容姿と表情に似合わずさらりと口にする言葉は厳しい。 だが、葛城に関しては全く否定のしようがなかった。 「えぐっ、えぐっ、グッスン!!ひどいぃーー! 酷過ぎるっ!チャンも衣笠さんも酷いっ!ブロークンハーットっ!!」 「ええ!?葛城先生まで!?」 あれだけデカイ図体をどこに隠していたのか、今度は唐突に葛城のボケが姿を見せる。 「子猫ちゃーん!傷心の俺を慰めてぇー!」 更に、奴は事もあろうに衣笠先生の前で悠里先生を抱きしめようと両手を広げた。 以前衣笠先生が奴に悠里先生には憑りつくなと釘を刺した話を聞いていたが、 当の本人はそれを忘れてしまっているのだろうか。 だとしたら救いようのないド阿呆だ。 既に衣笠先生から黒いオーラが放たれているが、それに気づいているのは今現在私だけだろう。 身内の勘とも言うべきか。 私はこの手のオーラを親族からよく感じ取るのだ。 「やめろ!!この悪霊が!!!」 言いざま、私は素早く立ち上がり、葛城の腹部に一発食らわしてやった。 グハッ。 葛城が大げさに声を上げ、腹を押さえる。 だが後数秒遅ければ、衣笠先生の手が出ていたであろうことは、恐らく私しか知り得ないことだろう。 この場には今、九影先生も鳳先生も居ない。 不本意ながら、私が奴を力づくで抑える役割につくしかなかった。 そうでなければ確実に恐ろしい瞬間を目にすることになっていた筈だ。 「OH!!マイラバースイートハニー!それはJEALOUSY!やっぱりこの俺の事を愛しているんだね?ベイベ!」 「・・・さ、さすが、めげませんね、葛城先生。」 「ふふふっ葛城くん、あまりオイタが過ぎると粗大ゴミで出しちゃいますよ?」 優雅で穏やかに口元を綻ばせながら、 衣笠先生は視線だけで悠里先生に葛城の側から離れるように促しているのが見て取れた。 それに気づいた彼女は顔を赤くしつつも素直に従っている。 今度は此方に照準を定めて顔を近づけてきた葛城を出席簿でブロックし、 同時に私は深く大きな溜息を吐いていた。 やっぱりただの阿呆だな、この男は。 放課後。 人気のなくなった職員室で、私はぼんやりと窓から外を眺めていた。 今日は私の補習担当の生徒である翼はモデルのバイトで既に校内には居ない。 だが、以前のように何も言わずにサボったりはせず、私に一言言い置いて撮影所へ向かった。 翼は勉強面だけでなく、徐々にだが間違いなく人としての成長もし始めている。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それに比べて・・・・・・・・・。」 「ちゃぁーーん♪俺の可愛いバンビちゅぁーん!君の愛しい銀児の登場だぜ!ンーん!ラビュー!」 ハァァァーーーーーーーーーーーーーーーー。 この上なく深い溜息と共に私は椅子から立ち上がり、 今職員室に入ってきたばかりの葛城に冷やかな視線を向ける。 奴はいつもと同様踊るようにステップを踏んで私の傍まで近づいてきた。 この際もう誰でもいい。 コイツを即刻排除、若しくは除霊してくれないだろうか。 「今日も君のそのクールビューティな瞳に銀ちゃんはく・ぎ・づ・け☆あーッハっ!」 「エコーを響かせるな。見るな、話すな、近寄るな。」 よりにもよって誰も居ない職員室で葛城と二人だけ。 これは何かの罰ゲームの一種だろうか。 「窓際で黄昏る君・・・そのアンニュイな横顔に俺は・・・っ、ああっ俺はっ!」 「だから近寄るなと言っているだろう!悶えるな、気色の悪い。」 私の傍まで歩を進めた葛城は自分の体に腕を回して身をくねらせている。 しかしこのテンションを常に保てるこの男はある意味で尊敬に値するかもしれない。 私は速やかに帰り支度を始めることにした。 「チャン・・・。」 「・・・何だ?まだ何か用か?葛城。」 「君に聞きたい事があるんだ。」 「・・・・・・・・・・ん?」 葛城は唐突にいつもの妙な口調ではなくどこか真剣な響きを含んだ声音で私に言った。 私は咄嗟に手を止め、視線を奴に移す。 「き、きき、君の・・・・・・・・・・・。」 「?」 「ああー君のスリーサイズはー「永遠の眠りにつけ!葛城!!」 ――ドゴッ 即座、私は奴の顎にアッパーを食らわした。 グェッ・・・。 葛城はカエルの潰れたような呻き声を上げる。 私はそれを冷やかな視線で一瞥し、再び帰り支度を続けることにした。 ほんの一瞬、ほんの一瞬でも、 奴が何か聞くに値することを言うんじゃないかと思った私が大馬鹿者だったのだ。 「チャーン・・・、違うんだぁー!聞いてくれー・・・!」 「ふん、一人で言ってろ。私は帰る。」 「わあああ!ま、ちょっと、マジで待ってくれよ!!」 私が荷物を持ってその場から去ろうとしたその時、 奴は慌てた様にその横を素通りしようとした私の腕を掴んだ。 「・・・・葛城・・・貴様、まだ私の拳が足りないようだな。」 「チャン落ち着いてー!っていうか、少し、少しだけでいいから俺の話を聞いてくれ!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 私は少しの間無言で葛城を見上げた。 奴の様子が少しおかしい。 いや、葛城は常におかしいのだが、 勿論そう言った意味でなく、何故か緊張している様にも見えた。 「・・・・何だ?」 問い返して、私は次に先ほどのようなセリフを言った時には、 手の届く範囲にあるあの出席簿で顔面をぶっ叩いてやろうと思っていた。 「ああー・・・あの、あー・・・そのー・・・。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか、言いたい事はないんだな? だったらさっさと放せ。私は帰る。」 「わああああ!!ちょ、ちょっと待って!待ってくれ!チャン!」 ハァー。 幾度目かの溜息を吐いて、私は葛城をジロリと睨む。 「言いたい事があるのならさっさと言え。」 「・・・・・・・・・・・・チャン・・・、今朝、子猫ちゃんと話してたよね・・・。 ほら、好みのタイプってヤツをさ・・・。」 「ああ、あれか・・・。」 「・・・もし、もし俺が今より我慢してギャンブルをなるっべくやらなくなったら、 その・・・・き、君は俺の事を・・・・。」 言いながら、葛城は掴んだままの私の腕をゆっくりと引き寄せ始めた。 いつもなら即座に抵抗すべく手が出ている筈の私だが、この時だけは違っていた。 何故なのかは分からない。 ただ、葛城のド阿呆がいつになく真剣な表情で、 いつもの胡散臭い英語を挟んだ言葉遣いすらしていなかったことも、 原因だったのだろうと思う。 私の視線の先の葛城は、本当に珍しく真摯な色を瞳に宿していた。 「俺の事を・・・少しでも、男として―――――「ああああ!!!またセクハラしてるよ、葛城さん!!」 奴が先を続けようとしたその時。 葛城の台詞を遮るようにして真田先生の声が職員室内に響いた。 「なっ!!こっ、子猿!!!テメェ!!! 折角の俺とチャンのラブラブランデブーターイムを!!」 「俺は子猿じゃありませんって!!つか明らかにただのセクハラでしょーが!葛城さんの場合!!」 瞬時。 葛城はいつもの葛城に戻った。 そう、つい先ほどまでのアイツはまるでほんの僅かの時間、別人と入れ替わっていたように。 私は少しの間二人のやり取りをぼんやりと眺め、それからすぐに帰宅することにした。 「じゃあ、私はお先に。真田、助かった。」 それだけ言い置いて、私は足早に職員室を後にする。 背後から葛城のド阿呆が何事か叫んでいたが、私は当然のようにそれを無視した。 歩を進める速度が、いつもの何倍も速くなる。 ドックドックドック。 胸の奥。 鼓動。 気のせいだろうか、いつもより早く感じる。 そうだ、これは気のせいだ。 でなければこんな青臭い鼓動が私の中から生まれる訳がない。 しかもその相手があの葛城だなんてあり得ない話だ。 笑い話にしかならない。 そうだ、これは気のせい。 奴に掴まれた腕が熱いのも。 奴のあの真剣な眼差しが瞼に焼きついたみたいに離れないのも。 全て。 気のせい。 気のせいなのだ。 [END] あとがき
葛城先生3本目。やっぱり微糖だ。
照れ隠しにふざけたことばっかしてる葛城先生が好きです。 葛城先生は生徒相手のが甘いの書けそうな予感・・・。 ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございました!失礼します。 |