Sweet loveに口付けを


先生!悪い!匿ってくれ!」
「ん?一じゃないか、毎度毎度忙しい奴だな。
わざわざ図書室まで足を運ばなくても悠里先生や鳳先生の居る職員室の方が安全だろう。」
「いや・・・そうなんだけどさ、っと・・・それより先に奥に入れてくれ!マジで頼むぜ!先生!」

言って、サッカーのユニフォーム姿の一が焦った様子で図書室の本棚の影に隠れる。
それとほぼ同時に数人の生徒が廊下を走る足音が近づいてきた。
私は何事もなかったかの様に再び席に着き、手元の資料の整理を始める。
程なくして図書室のドアが開く気配がした。

先生!」
「何だ?その前に・・・こら、廊下を走るんじゃない。しかもそんな大人数で。」
「あ、ごめんなさい・・・!でもでも、そのっ、こっちに草薙先輩来ませんでした!?」
「アタシ達草薙先輩に差し入れ渡したくてっ!」

姿を見せた女子生徒は4人。
彼女たちは図書室に入るなり、周囲にキョロキョロと視線を走らせた。
思いきり走ってきたのか、息すら切れているようだ。
私は苦笑して肩をすくめて見せる。

「残念だったな、ここには来ていない。」
「ええ〜!?あ、でも途中で見失っちゃったしなぁ・・・。
もしかしてあっちの廊下渡っちゃったのかもぉ・・・。」
「きっと今ならまだ間に合うよ!探そう!先生、有難うございます!」
「ああ、・・・言っておくが、廊下は走るなよ?」

彼女達は同時に私に頭を下げると、殆ど小走りでその場を去った。
やがて来た時と同じようにその足音が少しずつ遠ざかって行く。

「・・・・一、もう出てきていいぞ。」
「よし、行ったみたいだな。サンキュ、先生。助かった。」
「フフ・・・B6が卒業して以来倍増したな、お前のファンは・・・。」
「面白がンなって、先生・・・。マジで困ってるんだぜ、俺は。」

参るよなー。
言いながら、本棚の影から姿を見せた一は無造作に自分の頭をぽりぽりと掻いた。
私は思わず小さく笑う。

「在校生だった頃はハッキリ断っていただろう。最近はやけに優しくなったな?」
「あ!先生までそれを言うのかよ!
ついさっき南先生にも似たような事言われちまったんだよな。」
「ああ、やっぱり職員室にも行ったのか。なのにどうしてまた追いかけ回されてるんだ?」

私の質問に、一瞬、一は妙な間を置いて複雑な表情を見せた。
そして少しの間視線を彷徨わせた後、私の傍まで近寄って来る。

「ま、どうせ南先生のことだ、先生には話すだろうな。」
「?何の話だ?」
「ああー、うん、・・・鳳先生がさ、南先生に告白しちまったんだよ。俺の目の前で。
つか普通教え子の目の前でアレはねぇと思うんだけど。」
「ええ?・・・いや、まぁ・・・鳳先生が南先生にかなり好意を抱いていたのは知っていたが、
そ、そうか、君の前で・・・。さすがだな、鳳先生。」

クック。
その時の光景を思い浮かべ、知らず、私は笑いを漏らしてしまう。
一は眉を僅かにハの字に曲げ、困ったような表情を浮かべた。

「笑ごとじゃねぇって!しかも南先生なんて鳳先生の告白で一瞬にして俺の存在忘れちまうし。
その上鳳先生なんか勝手に人の前で告っといて俺を邪魔者扱いするわ、
あのコ達に俺の居場所大声で教えるわでさ。おかげで校内走りまわっちまったぜ。」
「はははははっ・・・!廊下を走ったのは頂けないが、緊張感のある体力作りが出来て結構じゃないか。」

ここに飛び込んできた瞬間の焦りまくった一の顔を思い出し、私は今度は声を上げて笑った。
在学生だった頃はストリートで喧嘩に明け暮れ、一に敵うものは居なかった。
レッドガリアと言うこの学園の近くのストリートで、
当時かなり幅を利かせていた性質の悪い一団を一人で一掃した経験もある奴だ。
その一がファンの女の子達からは逃げることしか出来ないとは、何となく可愛いとすら思える。

「笑うなって!・・・なぁ、でも先生は何で鳳先生が南先生を好きだって分かったんだ?
あの人ってそう言うの悟られねぇようにやンのが上手そうなのにさ。」
「そうだな・・・鳳先生は普段から私にも他の先生方にも紳士的な方だから・・・。
ああ、葛城は置いておいてだが。」
「・・・・・・・・や、あの先生だけは別モンだろ。まぁいいや、それで?」
「ああ、だから普通なら絶対気付かなかった筈なんだが・・・・・・・・・・。」

そこで私は少々間を置いた。
この先は南先生本人には言えない事だ。
とは言え、彼女は今職員室に居るのだから、声を落とす必要もないのだが。

「・・・・・・見たんだ、見てしまったんだ、私は。鳳先生が南先生お手製の弁当を食べているのを・・・。
しかも鳳先生はそれを美味しいと仰って、それからほぼ毎日・・・・。」
「う゛げっ・・・・!!!!やっ、やっぱりそれでか・・・!!
実は俺、さっきその話聞いちまって・・・・改めて鳳先生を尊敬したっつーか・・・。
アレを毎日食ってしかも完食するなんて俺には真似できねぇな。
俺・・・南先生は好きだけど、絶対ぇ無理だぜ。」
「フッ、残念だったな?大好きな南先生を目の前で掻っ攫われたのか。」

クスクス。
私は一をからかうつもりでそう言って、また小さく笑った。
すると、何故か一瞬一の動きが停止する。
そしてアイツは私にジッと視線を固定した。

「?どうした?」
先生・・・・俺は確かに南先生は好きだぜ?すげぇ尊敬してるし、感謝もしてる。
あの人は俺達クラスXを最後まで見捨てなかった。鳳先生にだって感謝してる。
それに・・・先生にもそうだ。」
「・・・・・・・・一・・・。」
「南先生と鳳先生がくっついたのは正直少し驚いたけど、それでもあの二人ならって、祝福できる。
けど・・・だけどな・・・先生、俺は―――――――。」

そこで一は言葉を切り、不意に私の手に自分の手を重ねてきた。
私は一瞬ピクリと指先を動かしてそれに反応する。
だが、振り払おうとは思わなかった。
重ねられた手は、私の予想以上に大きく、十分に大人の男として通用するもの。
不覚にも、鼓動が速くなるのが自分でも分かる。

「俺は…もしも鳳先生の相手がアンタだったら、絶対ェに祝福なんかしてやれなかった。
その場で奪い取って、攫ってでも妨害してる・・・。」
「え・・・・・?は、一・・・?」
先生・・・、いや、さん・・・俺、もうここの生徒じゃないんだぜ?
もしも少しでも俺を男として見られるなら、俺と付き合って欲しい。
ずっと好きだったんだ・・・。ホントのとこ・・・いつ言おうかと最近はそればっか考えてた。」

ぎゅ。
重なった手が先ほどよりも強く握られる。
私は瞳を大きく見開き、ジッと一を見つめていた。
真剣で、純粋な眼差し。
真っ直ぐと私を捕えている。

「一・・・私は・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

無言で私を見つめ続ける一。
ドクドクと、鼓動が益々爆音を上げる。
一は仮にも元生徒で。
そして私は彼よりも7つも年上なのだ。
それなのに、どうだろう、この動揺っぷりは。
体が僅かに小刻みに震え、次の言葉を紡ぐことさえままならない。
何より私は。
一の告白が。

「嬉しい、な・・・。」
「え?」
「・・・・・・・私は・・・卒業してしまったらもう以前のように君とは会えなくなるんだと、
そう思っていた。だけどサッカー部を通じて君がまたこの校舎に姿を見せてくれるようになって、
それだけで私には十分だったんだ…。それだけでいいと思っていた。」

これが恋愛感情だとは、思わないようにしていた。
可愛い教え子が今も変わらずこの学園に足を運んでくれる。
それを素直に喜んでいるだけだと、そう思い込もうとしていた。
一の告白を聞かなければ、今も、これからもずっとそうやって自身の心から目を逸らし、
いい先生として彼の心に残ればと、そう思い込んでいたに違いない。

「・・・・・・私も、君が好きなんだな・・・きっと・・・。」
「って、何だよ、その曖昧な言い方は・・・。俺は本気で・・・!」
「・・・ふふ、すまない。好きだよ、私も一が好きだ。君と同じ気持ちで・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・マジで、マジで言ってんだな・・・?」

一の声が微かに掠れる。
私は小さく、だがハッキリと、一度、頷いた。


「ああ、本気だ。教師としてじゃなく、君が好きだ・・・・・。」


瞬間。
私の手を握っていた一の手がグイと私をその腕に引き寄せた。


――ガタン


その拍子に半ば強引に私は椅子から立ち上がることになった。
更に、一は私の腰に腕を回し、力強く抱きしめられる。

「マジで俺今すっげェ嬉しい・・・!好きだ、俺・・・さんがメチャクチャ大好きだぜ!」
「・・・一・・・・・・・・・・・・。」

厚く硬い胸板に私の体が押し付けられ、互いの体が一層密着する。
私はそっとその背に腕を絡めた。
至近距離から一が私を見下ろす。

「・・・・なぁ、その・・・キスしてもいいか?」
「・・・・・・・・・・ああ。」

言い終えてすぐに、私はゆっくりと瞼を閉じた。
やがて唇に一の湿った吐息が吹きかかり、互いの唇が重なる。
触れ合った瞬間に、一はまるで噛みつくように激しく私の唇を貪り始めた。
私は自ら唇に僅かに隙間を作り、彼の舌を迎え入れる。
その舌さえも熱を帯び、今にも溶けてしまいそうだった。

「・・・やべェ・・・止まンねぇ・・・・・。」

キスの合間、唇を重ねたままで一が低く呟く。
同時に一の長い脚が私の太腿を割って滑りこんで来た。
サッカーのユニフォームの薄い生地を通して彼の体温と鼓動が私に伝わってくる。
ようやく唇を離した時には、私達は浅い息を繰り返していた。
暫くの間私達はキスの余韻に浸る様に、ただ無言で抱き合った。

「・・・チッ・・・悪い、さん、俺・・・そろそろ戻らねぇと・・・。」
「ん?ああ、そうだな。彼女たちもさすがに諦めた頃だろう。」

言って、私達は名残り惜しげに互いの体に絡めた腕を放す。

「あのさ・・・さん。」
「何だ?」
「今度、俺に差し入れ持って来てくれねぇか?」
「ああ、いいよ。練習試合が近いと言っていたな、その時には必ず。」
「ま、マジで!?うっわ・・・すげぇ・・・嬉しいぜ!
じゃ、じゃあ今日帰ったらすぐ電話すっから!」
「ああ、待ってる。」

私は微笑して応え、ドアに向かう一を見送る。
一はドアを開こうとしたその手を一瞬止め、再び私に振り返った。


「愛してる・・・ぜ・・・。」
「・・・・っ!?」
「それじゃ!さん!またな!!」


彼は殆ど言い逃げに近い状態でその場を走り去って行く。
私は茫然とその背がドアの向こうに消えて行くのを見つめていた。


「・・・・・・・・ふっ、参ったな・・・。」


愛してる。
何てクサくてストレート過ぎる言葉だろう。
そして場合によってはとても戯言のような台詞。
それなのに。
私の鼓動は正直にそれに応えている。
俗に言うバカップル共が使用する様なそんな言葉だ。
だが。


「・・・・・・・・・・私も・・・・・・・・。」


それも悪くはない。

一。
君の口から囁かれる言葉なら。
甘く、私を酔わせてくれる。


今日から君は、格好良くて可愛い私の恋人。


(END)


あとがき

ゴホオオッ!!(吐血)初・一夢でした。
アンケでコメント書いて下さっている姫様がいらっしゃいましたので、
挑戦してみようと思って書いたのですが、一のキャラが・・・これでいいものか。
取りあえずヒロインは呼び捨てにするか悩んだんですが、
ヒロインのイメージ的に最初は「さん」付けもありかなぁと。その内呼び捨てが望ましい。
そして最後の最後がクサクサ甘?な感じの仕上がりに!!
一は「もっと俺に刺激をくれ!」と言ってるあの声が堪りません(変態)
NLED後に女生徒に追っかけまわされてる彼も愛しいぜ。
ではでは、ここまでお付き合い下さった、有難い姫様に感謝しつつ、失礼します。