小悪魔の仕掛けた厄介なTrap

「あんのクソガキぃ!!!!」

ありったけの殺意を込めて叫ぶ私の体。
手と言わず足と言わずとにかく髪の毛に至るまで、
泥とネバネバとした謎の液体に侵されてしまっている。
落とし穴にハマったと言うだけでも十分間抜けな姿だが、幾らなんでもこれはない。
これはあり得ないだろう。
いや、今まで何度となくこの手の悪戯に引っ掛かってきたにも関わらず、
見抜けなかった私も私だが。

「センセー!」
「・・・ああ、ゴロ・・・。」
「うわぁ、セイダイにやられちゃったねぇ。大丈夫?」

私の傍まで駆け寄ってきたくりくりとした瞳の可愛らしい美少女は、
心配そうに眉間にしわを寄せて私を覗き込む。
その仕草ひとつ取っても愛らしさが溢れているようだった。
とは言え、この美少女、正真正銘、男子高校生、な訳なのだが。

「でもセンセよくこんな深い落とし穴からあんなにすぐに上ってこれたねぇ。
ゴロちゃん先生が穴に落ちるシュンカン見ちゃって、驚いて走って来たんだけど、
すーぐ上って来たから逆にまたポペラビックリしちゃったぁ。」
「・・・私は運動神経には多少自信があるからな。
ゴロ、余り近寄るとこの謎のネバネバがつくぞ。
私は・・・とにかくシャワーを借りて着替えてくる。小悪魔狩りはそれからだ。」

クソガキ。
クソガキ。
クソガキ。
ドグサレ小悪魔。
ドグサレ小悪魔。
ドグサレ小悪魔。

心の中で呪文のように繰り返しつつ、私は校舎へと向かう。
だが、そこでゴロが再び私を呼びとめた。

「あ、待って!センセ!こっからだと校内入るよりバカサイユの方が近いよ?」
「・・・?そりゃまぁ、そうだが・・・。」
「こないだスーツの替えをバカサイユにも一着置いてたし、
ツバサに理由を話せばシャワーも使わせてくれるんじゃないかなぁ。」
「え!?いや、さすがにそれはマズイだろう。」
「大丈夫、ゴロちゃんも一緒に頼んであげるから、行こう!」

言って、ゴロは私が戸惑っているにも関わらず、ズンズンとバカサイユに向けて歩き出す。
私は仕方なく彼について行くことにした。
バカサイユでシャワーを浴びるなんてさすがに非常識だ。
非常識だと言う事は勿論分かっている。
しかし、このまま校舎に入るまでの長い道のりを思うと、
やはり有難かったと言えなくもないのだった。




「じゃあ、センセ、ここに着替えを置いておくからね。
それから、ツバサにもちゃんとセツメイしたから、
他の皆にもコッチには近づかないように言ってあるし、安心して使っていいよ!」
「ああ、サンキュ、ゴロ。後で翼にも礼を言っておく。」
「うん!そうして。じゃね。」

ふわりとスカートの裾を翻し、ゴロはバスルームを出て行った。
とにかくさっさとシャワーを浴びてあのクソガキを探し出さねばならない。
とは言え、未だに校内に居るのかどうかは怪しいところだが。
ネバネバと妙な糸を引いている衣服をどうにか脱ぎ終え、
ゴロが用意してくれたビニール袋に脱いだばかりのスーツを入れる。
ハァ。
知らず、私の口からため息がこぼれ出た。
これでこうしてスーツをダメにしたのは何着目だろうか。
詳しい数字など思い出したくもないが、
元凶は全てあの悪魔にあるのだと言うことだけは分かっていた。
同僚の悠里先生が私に同情の眼差しを向ける様が目に浮かぶ。
しかし彼女も翼の奴には相当手を焼かされているようだし、
私もこの程度の事でヘコタレている暇は無かった。
と言うか、今回のダメージが大きかった理由は久しぶりに着たスーツがスカートだったことにある。
普段はパンツスタイルの物ばかり着用している私だが、
今回は珍しく数少ないスカートの中で自分なりに気に入ったものを選んで着てきたのだ。
特に理由はない。
あえて言うならそう言う気分だったからだ。
だが、今考えてみれば何て浅はかだったんだと自分でも思う。
最近は奴の考える最凶の悪戯に耐性が付き、回避技も身についてきたとは言え、
平和な日常が約束されている訳では断じてないのだ。
寧ろ奴は何故か私にターゲットを絞ったようにして集中攻撃を仕掛けて来ている始末。
(とは言え、全く周囲の人間に無害になったと言う事は断じてない)
ハァ。
再度、溜息を洩らしながら、私はシャワーのコックを捻った。
同時に温かなお湯が私の裸の体に降り注ぐ。
それだけでホッとした気分になった。
ねばついた髪を指先で丁寧に揉みほぐし、ベタついた肌を掌で撫で上げる。
快適な空間に忘れそうになってしまうが、ここはバカサイユの中だ。
私は手早くシャワーを浴び終えると、タオルを手にして体を拭き始めた。
やわらかくほんのりと優しい香りのするタオルは酷く触り心地がいい。
肌の上を滑るように、それでいて包み込むように水分を吸収していくタオル。
このタオル一枚取って見ても結構なお値段に違いない。
そんなことを考えながら体を拭き終わり、下着に手を伸ばそうとした、その瞬間だった。


―――バンッ。


「あー、ダリィ。」
「!!!!!」


何の前触れもなくバスルームのドアが開き、清春が姿を見せた。
瞬時、タオルで体を隠すようにし、硬直する私。

「ん?アッレー?」
「き、清春・・・!」

奴は私を目にした途端、出て行く所か新しい玩具を買って貰ったばかりの子供の様に目を輝かせた。
更にその表情がニヤニヤとした物に変化する。
最悪。
最悪だ。

「カマオじゃねぇーの。なぁーにしちゃってんのかな?こんな所で。
ああ、そっかそっか、オレ様の罠に落っこちたんだったな、お前。キシシシシッ」
「こんのクソガキ!・・・い、いや、こ、この際もうどうでもいいから、さっさと出て行け!」

一瞬現在置かれている自分の状況を忘れ、奴に説教を食らわせてやろうとすることろだったが、
今はそんなことをしている場合じゃない。
そうだ、そんな余裕は全くない。
全然ちっともないのだ。
何と言っても私は今、タオル一枚しか身につけていない状態なんだから。
だと言うに、目の前のクソガキは全く動じた様子も見せず、ずかずかと私の傍まで近づいてくる。

「なァんでこのオレ様がわざわざ出て行かなきゃなんねぇんだよ。
どうせお前も男なんだしこの際どうだっていいだろ!ケケッ」
「ばっ・・・!誰が男だ!教師を舐めるのもいい加減にしろっ!と言うか、近寄―――」

私がそこまで言いかけたところで、清春は至近距離まで接近すると、
いきなり私の首筋に向って屈み込んだ。
そして―――


ベロリ。


「っ!!!???」

舐めた。
舐めた。
舐めやがった。

「き、ききき、君はっ!!」
「キシシシシシ!おっもしれぇ顔〜!つか舐めろって言ったのカマオじゃん?」
「言ってない!!!私はそんなことは言ってない!!」

今清春が舌を這わせたばかりのその場所を片手で覆い、
私は後ずさって距離を取りながら激しく否定する。
その間も奴はニヤニヤ笑いを全く崩さず、じりじりと私を追い詰め始めた。

「まぁまぁそんなに興奮するなって!」
「興奮じゃな・・・こ、コラ、待て、何する気だ・・・!?」

―トンッ

とうとう私の背中が硬くひんやりとした壁にぶつかる。
視線を上げれば先ほどよりも更に更に間近な距離まで清春の奴が接近して来ていた。

「ナニする気?へぇ、お前はオレにナニかして欲しかったのか、
悪ぃ悪ぃ、ここはやっぱ期待には応えてやらねぇといけねぇぜ。」
「しなくていい!するな!落ち着け!」
「落ち着くのはお前の方だってェの。安心しろ、そして喜べ、このオレ様が優しくシてやる。」

壁際に追い込まれ、逃げることすら叶わない私。
清春はその私の耳元に半ば囁くようにそう告げた。
吹きかかる吐息。
低い声。
いつもはただのクソガキのくせに、どこでこんな事を覚えてきたのか。
顔がいい男と言うのはこの手の仕草は何をしても様になるものだ。
美形はこれを武器に出来る。
だからこそ私は端正な顔の連中の下にある計算をよく知っている。
私の親族どもがいい例だ。
とにかく、私は教師。
是が非でもこの危機を打開せねばならない。

「清春、いい加減に・・・・・・・・・・・・・っ!?」


――グイッ。


不意に清春が私の腰に腕を回し、強引に自分の胸へと私を押し付けた。
咄嗟に抵抗を示すも、高校生と言えども相手は男。
そう簡単に逃げられる訳もない。

「ちょっ・・・君、何を・・・!」
「おいおい、コーユー時は目くらい閉じろよなァ。
オレ様の顔に見惚れるのは分かるけどよォ?ケケッ」
「っ!!」

清春の意図を悟った私は力の限り抵抗をした。
しまくった。
――――筈だ。
にも関わらず、奴の拘束は全く緩まず、とうとう私と清春の唇が触れ合う。
スレスレ、その瞬間。



―――バァンッ!


「キヨォォーーーー!!!!!!!何してるの!!ちょぉっとゴロちゃんが目を離したスキに!」


勢いよくドアを開けて姿を見せたのはゴロだった。
同時に清春が舌打ちをする。

「チッ・・・ンだよ、つっまんねェ・・・!悟郎か。イーイとこで邪魔しやがって。」
「ゴロ!!」
「きゃあーー!!センセってばナンてカッコしてんの!?ポップンやらしいーー!!
キヨ!今すぐ離れて離れて!!!!!」

言いざま、ゴロが私と清春の間に割って入る。
ゴロの台詞に私は再び我に返った。
そうだ、何度も言うようだがここはバスルーム。
そして私はタオル一枚しか身につけていない。
急いで傍にあるタオルをもう一枚ひっつかみ、体に巻き付ける。
そして清春とゴロの背中を押して二人を追い出した。

「私は着替えるから二人ともとにかくまずは出て行け!」
「ぶー!ゴロちゃんセンセのこと助けてあげたのにぃ!」
「バァーカ、お前が邪魔しなきゃイクとこまでイッてたってェの。」
「ばっ!!誰がだ!!さっさと出ろ!」

ようやく二人をバスルームから完全に追い出し、ドアを閉める。
勿論鍵も忘れない。
それから私はゼーハーと肩で大きく息をした。
もう湯冷めしてしまってもおかしくないと言うのに、何故か体が熱い。

「お、言い忘れてたけどさー。」
「・・・!?清春!君はまだ居たのか!?」

鍵をかけているのだから奴は入っては来れないだろうが、咄嗟に身構えてしまう。

「お前予想外に着痩せするタイプだったんだな。
カマ男には勿体ねぇ位いい体してたぜ、キシシシシッ。」
「〜〜〜っっ!!!!!!!!」
「じゃあな、明日はまたスペシャルな悪戯で迎えてやるから楽しみにしてな!ケケッ」


クソガキ。
クソガキ。
クソガキ。
ドグサレ小悪魔。
ドグサレ小悪魔。
ドグサレ小悪魔。

いつもの呪文を心の中で殺意を込めて繰り返しながら、
それでも心臓は恐ろしい心拍数を叩き出している。
思いもよらない罠にハマった。
何故か自分でも良く分からないが、そんな気がしてならない。



「明日こそは絶対に補習を受けさせてやる、クソガキ!」



未だに収まらない熱と鼓動の早さに目を瞑り、
私は一人、そう呟いたのだった。



(END)


あとがき

初・ビタX夢は清春でした。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すんげぇ緊張したよ、キヨ!
全キャラ好きですが最愛は彼です(聞いてない)
しかしそれと書けるかどうかってのは別の話ですな・・・(遠い目)
難しかった上に展開が思っていたのと違う方向に転がってしまいました。
あ、何か設定と言うか状況が(バカサイユのバスルーム)あり得ない感じですが、
そこはスルーして下さいませ(苦笑)
と言うか、今回のツッコミどころは…名前変換なくて本当にすみません!!(・・・)
ではではここまでお付き合い下さった姫様、深く感謝申し上げます!失礼致します