余裕なんてない目が覚めてすぐに見慣れない天井に違和感を覚えた。 数十秒くらいぼんやり考えた後、あたしは隣でいびきをかいて眠ってるホスト崩れに視線を移した。 町内会の福引で当てた中流ホテル2泊3日の宿泊券。 まさかこんな形で使用することになるとは思わなかった。 って言うか、少なくともあたしは、こんな使い道は全くちっとも考えてなかった。 両親を言いくるめてまでこのどうしようもない駄目教師とお泊まりなんて。 「・・・眠ってれば無害だし、見られる顔してんだけどね・・・。だからこそ曲者っていうか・・・。」 ハァ。 小さく溜息を吐きつつ、あたしは上半身を起こして、 やけに幸せそうな寝顔を晒している葛城先生をジッと見つめ続けた。 顔のいい男ってのは大抵食わせ者だけど、この人の場合もうホント、マジでダメダメ。 皆言ってるけどどうやって教職に就いたのか心底不思議だ。 なんて、くさしてる割にそんな人を好きになって、 しかも告白までしたのは他の誰でもない、このあたしなんだけど。 教師と生徒。 そんな枠さえ超えてどうにかして掴みたいと思うくらい好きになった人。 それが、この借金大魔王で女ったらしのホスト教師。 あたしも相当に相当だ。 あたしは片手を伸ばして葛城先生の髪にそっと触れた。 瞬間。 「・・・・んー・・・フヘヘ・・・子猫ちゃぁーん・・・。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・あ゛!?」 だらしのない事この上ない声と同時に葛城先生が寝言で発した一言。 ピキリ。 あたしの周囲の空気がひび割れる。 子猫ちゃん?子猫ちゃんって言った?このホスト! どうしよう。 葛城先生に対して軽く殺意が湧いてきた。 未だにだらしなくニヤニヤした顔つきで寝言をムニャムニャ呟いている先生。 最低だ。 この状況で、初めて一緒に夜を過ごしたって言うこの状況で、あたし以外の女(ひと)の名前を呼んだ。 (直接名前って訳じゃないけど、誰の事なのかなんかすぐ分かったし) このホスト。 どこまでもベタで最低な事をしてくれるんだろう。 少なくとも、あたしにとっては一大事な夜だったのに。 唇を噛みしめつつ殺意を込めた瞳で先生を睨みつける。 一、殴る。 二、そして殴る。 三、やっぱり殴る。 四、とにかく殴る。 五、花瓶で殴打。 六、置き物で殴打。 殴れば、殴る時、殴れ。 駄目だ、どんなに考えても殴る以外の選択肢が思い浮かばない。 アクティブ且つバイオレンスな行動しか考えられない。 あたしはブルブル震える拳をどうにか抑えつけ、ベッドから抜け出すことに成功した。 とにかくシャワーでも浴びて少し頭を冷やそう。 ここが殺人現場になる前に。 シャワーを浴びる為に立ち上がろうとした時に気付いたんだけど、 予想以上に腰に負担がかかっていた様で、 床に足をついて力を入れた瞬間に鈍痛がして移動するのに少し時間がかかってしまった。 それからどうにかシャワーを浴び終えて、 脱衣所(ユニットバスじゃなかった)で体を拭こうとタオルを手にした、その時。 「おいおいおい、ベッドに一人寂しく俺を残して自分はシャワーを浴びてたのかァ? そう言うのはさ、恋人同士一緒に入るモンなんだぜ?マイシュガーベイベ!」 「!!!!!!!!」 ドンっ 余りに唐突過ぎる葛城先生の登場。 あたしは咄嗟にタオルを体の前で握りしめ、そのまま壁に勢いよく背中をぶつけてしまった。 その衝撃で腰がズキンと痛んだけど、今はそんな事を気にしてる余裕はない。 「なっ、な、ななな、何で!!??」 「起きたら隣にお前が居ねぇから、銀児ィ、寂しくってここまで来ちゃった☆」 「ばっ!!来なくていいから!ってか出てって下さい!!何考えてるんですか!?」 慌てまくりつつ握りしめていたタオルを急いで体に巻きつけ、あたしは必死に抗議する。 まさか先生が目を覚ましてここまで侵入してくるなんて考えてなかった。 あの様子じゃ、あたしが無理に起こしでもしない限り眠り倒すにきまってると思ってたのに。 葛城先生は壁に背中を張り付けたままのあたしの側に足早に近づいてきた。 電気をつけてなかった室内と違って明るいこの空間だと、 上半身裸の葛城先生の日焼けした筋肉質な体が嫌でもあたしの眼に映る。 逆に言えば、タオル一枚しか身につけてないあたし自身も先生の視界にバッチリ入ってる訳で。 昨日の今日だけに、もう意識せずにはいられなかった。 「クック・・・今更なーにビビってンだよ?お互い全部さらけ出しちまった仲だろう?」 「〜〜っ!!!!よくそう言う恥ずかしい事言えますね!もう、マジで出てって下さい!!」 「そう言うなって・・・。」 「ちょっ・・・ちょっと・・・!!」 あたしに伸ばされた両腕。 逃れようにも既にあたしは壁際で、避ける場所さえない。 しかも動こうと足を踏み出した瞬間、腰に響く鈍い痛み。 必然的に、あたしはほぼ無抵抗のまま、葛城先生の腕の中におさまってしまった。 「暴れンなよ・・・。なぁ・・・、さっき目が覚めた時にお前が隣に居なくてマジに傷ついたんだぜ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?あ・・・だってあれは・・・!」 「ん?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何でもないです・・・。い、いいから放して下さい・・・!」 シャワーを浴びたばかりで、濡れたままのあたしの体。 密着したせいで、葛城先生の体まで濡れてしまった。 それがまたいやに生々しく感じて、あたしは腰の痛みを我慢しながら、 どうにか先生の腕から逃れようと抵抗する。 とは言っても相手はバリバリ体育会系な筋肉の持ち主な葛城先生。 あたしの抵抗なんて全くちっともこれっぽちもきいてなくて、寧ろ益々抱きすくめられる結果になってしまった。 薄いタオル生地を通して、先生の体温が伝わってくる。 硬い筋肉の感触があたしの体に押し付けられていた。 「・・・何でもないって感じじゃねぇよなぁ・・・?、お前何か拗ねたみてぇな顔してるぞ。」 「っ、す、拗ねてません!!大体、葛城先生が南先生追っかけまわしてんのなんていつものことだし!」 「・・・・はぁ?子猫ちゃん?なンだ?急に!?」 「って言うか、こう言う状況でよく子猫ちゃんとか呼べますね!?葛城先生無神経過ぎ! 夢にまで出てくる位好きならあたしより南先生のとこでも行ってればいいでしょうが!!」 「って、どゎっ!!拳を振り回すなっ!」 何だか無性にムカついてきて、あたしはムチャクチャに拳をブンブン振り回した。 葛城先生はそれを必死に避けている。 「こう言うときは1回位殴られるのが男の優しさですよ!」 「どんな優しさだ!それはー!そんな優しさ銀児様は持ち合わせちゃいねぇんだよ!!殴られるのは太郎さんや鳳様だけで十分なの!!」 「大体先生がっ・・・あ――――――――― パサ・・・ 自業自得。 なのかもしれない。 タオル一枚であれだけ暴れまくったのだ。 タオルが落ちても仕方ない。 と言うか、寧ろ落ちない方が不思議だった。 とにかくそれ位暴れたのは間違いなかった。 「あ、ちょ、わ、わああ、ま、あのっ・・・!!」 薄暗い室内でも死にたくなる恥ずかしさだったってのに、この明るさで裸を見られるなんて心底あり得ない。 あたしは一瞬にしてテンパりまくり、十数秒硬直した後、慌ててタオルを拾い上げようと屈みこんだ。 違う。 屈みこもうと、した。 だけどタオルを拾おうとするまえに、またしても葛城先生に抱き寄せられてしまった。 「葛城先生っ!!!!????」 「大丈夫だ・・・、こうしてりゃ・・・見えねぇ・・・だろ?」 「そそそそそ、そう言う問題じゃな・・・っ、せ、先生っ・・・!」 「・・・ンな時まで先生、先生連呼するんじゃねぇよ・・・。」 低く掠れた声でそう言われ、動揺しまくりのあたしの唇に先生の唇が押し付けられる。 抱きしめられた体はさっきよりも腕の力が強くて、肌と肌がこれでもかと言うほど密着していた。 乾きかけのあたしの湿った肌が、敏感に先生の熱を感じ取る。 「銀児って呼んでみろ・・・、・・・。」 キスの合間に唇を触れ合せたままそう囁かれる。 この時にはもう脳内が麻痺して恥ずかしさを感じる余裕さえなかった。 「・・・・・・・・・・・・・先生・・・。」 「ククッ・・・、昨日の夜は呼んでくれたじゃねぇか・・・、呼べよ・・・。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。ぎ・・・・・・・・ぎ、んじ・・・・・・・・・・・。」 「ははっ、ンだよ、ぎこちねぇな・・・・。ま、しゃーねぇか・・・。ほら、ご褒美だ・・・・・・・。」 「ンン・・・ぅ・・・」 再度、唇を塞がれて、噛みつかれる。 舌を絡ませ、強弱をつけて吸われる。 葛城先生の舌は、まるで軟体動物みたいにあたしの口内で暴れまわっていた。 ぬらりとした生温かい感触が、あたしの思考を奪う、翻弄する。 当然と言えば当然だけど、経験不足のあたしが敵う訳もなくて。 唾液がとろりと交わり、蕩ける感触に目眩さえ覚えた。 同時にお互いの肌がさっきよりずっと熱を持ってきたのが分かる。 素肌と素肌がすれあって、あたしの胸の先が先生の胸板で潰れた。 絡められた脚。 密着した部分全部から、熱が生まれる。 不意に、あたしは内腿に当たる違和感に、一瞬硬直してしまった。 「・・・せ、先・・・セっ!?」 「悪ぃ・・・、・・・。ベッドまで戻りてぇとこだけど・・・ンな余裕ねぇわ・・・。」 「・・・っ・・・」 「力・・・抜けよ・・・。」 今でさえ腰に痛みがあるのに、これ以上無理をしたら下手すると立てなくなるかもしれない。 頭ではそう思ってるのに、さっきまでと違って抵抗しようって気が全然起きない。 それどころか、あたしはいつの間にか先生の体に腕を回してしまっていた。 「大人の余裕が聞いて呆れる・・・ってな・・・。マジに悪い・・・。」 鼓膜を直接震わせるような先生の声。 正常な思考回路もこれに狂わされてしまったんだと思う。 本当は、まだまだ言いたい事も沢山あったんだけど。 最終的に行きつく先。 つまりは結局、好きな人に触れてもらえることが、嬉しくて堪らないのだった。 (END) あとがき
・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・。あははははは!!(誤魔化そうとして言葉が見つからなかったようだ)
もう何か色々とツッコミどころ満載な話ですが、そこはあえてスルーでお願いいたします! 危うく微エロ通り越しそうだよ、これ。とは言え裏夢は書けないテンションが続いているので、 そこまでぶっ飛びはしなかったと思いますが、それでも暴走したら15禁位は行きそうな勢いでした。 ヒロBだと何だかんだで主導権を葛城先生が持ってけるので、こう言う方向もいけるんですが、 Aだとそこに辿り着くまでがなぁ・・・。 でもアンケでもコメント頂いたし、こっちも恋人設定で甘い話も書いてみようと思ってます。 ああ、因みに、これ甘じゃなくてエロだろおお、と言うのは、あの、はい、その通りです! すみません、本当にすみません。管理人の脳内ショッキングピンクです。 ではでは何やら意味不明に長いアトガキとなりましたが、 ここまでお付き合い下さった貴重な姫様に心からの感謝を!誠に有難うございました。 |