余裕なんてない


不意に目が覚め、何気なくベッドの側にあるデジタル時計に視線を移す。
深夜3時。
ぼんやりとした視界でどうにか数字を読み取り、確認する。
想像していたよりも時間は経過していなかった。
あれから一時間弱と言うところか。
元々眠りが浅い方ではあるが、今回はそう言った理由とは別な事は明確だ。
私は視線を隣に眠っている人物へと移した。
ここは私の住んでいるマンションの自室。
何もかも見慣れた私のテリトリー。
それでもいつもとこの部屋の空気が違って感じるのは、彼が同じベッドに眠っているせいだろう。
特別な人が隣で眠っていると言うのは、幾つになってもくすぐったく、そして気恥ずかしい。
私は知らず、唇を僅かに綻ばせ、穏やかに寝息を立てている彼の髪にそっと手を触れた。
そして、色素の薄い、長めの髪を、梳くようにして撫でる。
酷く不思議な気分だった。

「・・・・・・・・・・・ん・・・。」
「・・・!」

不意に彼が小さく声を漏らし、やがて薄らと瞳を開けた。
一瞬。
ひとつ、大きく、胸が鳴る。
何てことだ、17,8の女子高生でもあるまいに。
こんなに狼狽えるなんて。

さん・・・、起きていたのかい・・・?」
「・・・すみません、鳳先生、起こしてしまいましたね・・・。」
「・・・さん。」


咄嗟に動揺と共に返した私の唇。
私の名を呼んだと同時に、彼は人差し指を押し当ててきた。

「・・・っ・・・?」
「今はプライベートな時間だ。私の事は名前で呼んでくれと言った筈だよ。」
「あ・・・はい。」
「それから、二人だけの時は敬語も止めてくれていい。
私は君のあの凛とした口調が気に入っているんだ。いいね?」

言って、彼は常の微笑みとは違う、何処か悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「はい・・・、あ・・・ああ、晃司さん。」
「最初は慣れないかもしれないけれど、これからゆっくり二人の時間を増やして慣れて行こう。」

晃司さんは瞳を僅かに細めて私の頬に手を伸ばした。
何処か大人の男の色気すら思わせる彼の骨ばった指先が私の頬に優しく触れる。

「・・・貴方は変わっているな・・・。
友人ならまだしも、自分の恋人がこんな話し方をしていても気にならないのか・・・?」
「おや?どうしてだい。さっきも言った通り、
私は君のその話し方、とても好きだよ。話し方だけじゃない、声の質もだ。
君の声はいつまでも聞いていたくなってしまうよ。」
「・・・・・・・そんなこと、初めて言われた・・・。正直・・・・、嬉しい、な・・・」

私は頬を撫でる晃司さんの手に自身の手を重ね、その指先に軽くキスをした。

「君には参ってしまうね、さん。
不意を突いてこう言った可愛い事をしてくれるから、私の方が戸惑ってしまうよ。」

穏やかな微笑を浮かべてそう口にし、同時に彼は空いた片手で私の腰に腕を回して抱き寄せた。
瞬間的に互いの距離が縮まり、視線が絡む。
私の唇に押し当てられたままの彼の指先が、ゆっくりとその淵を辿る様に動いた。

「君を前にすると、自分でも驚くほどに箍が外れてしまうんだ。
余り私を煽ると君が後悔することになるかもしれないよ?」
「大丈夫だ、貴方相手に後悔することなんて何もない・・・。」

言いざま、私は晃司さんの後頭部へ腕を回し、自ら唇を彼のものへと重ねた。
軽く触れ合せるだけのキスを一度。
そして更に唇を重ねる。
彼が舌でゆっくりと私の唇を割り、それを口内へ侵入させた。
同時に甘さを帯びた熱い吐息が私の喉を焦がすように満たしていく。
密着した肌と肌。
体温が上昇していくのが分かった。
やがて互いの口内からピチャピチャと湿った水音が響き始め、蕩けた唾液が溢れだす。

「君は私をその気にさせるのがとても上手だ・・・。
この分だと私は・・・夜明けまで君を寝かせてあげられそうにないな・・・。」

とろみを帯びた二人分の唾液を飲み下した後、常よりも低く、艶のある声で晃司さんが囁いた。
そして私の内股を割り、するりと彼の長い脚が絡められる。
私達は少しの隙間も許さぬように、ピッタリと密着していた。

「晃司さん・・・。」
「フ、困ったものだね。初めて君とこうして過ごす夜だ。
本当は、もっと紳士的であるべきだと分かってはいるんだが・・・、どうやらそうはいかないらしい。」

告げる彼の掌が、ゆっくりと私の体を撫で上げる。
それだけで数時間前の行為を思い出し、私の体が芯から震えた。

「私が貴方の前でだけ女であるように、私の前ではただの紳士ではなく、
男として・・・思うがままに私に触れて欲しい・・・。」
「・・・・本当に、いいんだね?・・・なんて訊ねてはみたものの・・・すまない、
私はもう、我慢できそうもないよ・・・。」

そう言って、僅か困ったように笑う、晃司さん。
その笑みさえも艶やかな大人の色気に溢れている。


長く骨ばったその指に翻弄されながら、私はこの日、
文字通り明け方過ぎまでシーツの波を心行くまで泳ぐことになった。


(END)


あとがき

「余裕なんてない」一に続き、初鳳夢を初めてのお泊まりシチュで書いてみました。
どのジャンルでもよくやるんですよね、これ系。
折角なんで、書けるキャラはこのシチュで書いて初めてのお泊まりシリーズ的にしようかな。
でもでも、その場合一番の問題は、葛城銀児の奴だと思います。
ヒロAだとまぁまだ彼女の部屋でいいんですけど、Bだと・・・。なっさけないダロオオオ!
鳳先生の家とか当然無理だし、彼女の家って・・・両親居ますからね!!つか一人暮らしでない限り微妙。
因みに↑で鳳先生がヒロインの家に泊まった日、葛城先生は何やってたんだろうとか色々考えてました。
ではでは、ここまでお付き合い下さった貴重な姫様に深く感謝しつつ、失礼致します!