「また俺に何も言わずに帰る気かい?
。」
「・・・・・・・・ヒノエ・・・君は・・・起きてたの・・・。」
「俺の姫君はいつだって気まぐれだね・・・。突然現れたかと思えば、
こうして何も告げずに俺の腕からすり抜けて行こうとするんだから・・・。」
そう言って、困ったように笑う、君。
布団から立ち上がった私の腕を、ヒノエは、そっと掴んだ。
「まだ朝は来ない。空は白んでさえ居ないぜ、
。」
「・・・・・・ヒノエ・・・・・・。」
「お前が何者なのか、今はそんな無粋な事は聞かない。
だからせめてもう少し、俺の腕の中にお前を閉じ込めさせて欲しいね。」
言いながら、彼が再び私を布団の中へ、彼の腕へと引き寄せる。
「だけど、余り長くは居られないわ・・・。」
「でも、今すぐここから出て行かなくても平気なんだろ?
だったら・・・俺の我侭も聞いてくれよ・・・。」
「・・・ふふっ・・・私に甘えるなんて、らしくない・・・・・・・。」
「
、お前にだから言ってるに決まってるだろ。俺の愛しい姫君。」
「・・・・・・・・・・・・・・・ヒノエ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
お互いの吐息が、吹きかかる至近距離。
目の前の君の顔は、いつもの軽い口調は息を潜めて、
ただ真剣に、私を見つめてくれる。
だけど。
私は、君の姫君には、なれない。
熊野の情報網をもってしても、還内府の正体が掴めていない様に、
彼に仕える黄泉から召還された巫女と言われる『黄泉姫』の正体もまた、
源氏側のヒノエ達には伝わっていなかった。
私は平家の黄泉姫。
そして私は、君が熊野別当だと言う事も、知ってる。
熊野は中立。
でも、君は、彼らと一緒に、平家と戦う事を選んだ。
敵対している平家と源氏。
「憂い顔はお前には似合わないぜ、
。俺の傍に居るときは、俺の事だけ見てなよ。
俺はとっくにそうなってるんだから。」
触れ合わせられる、唇と唇。
眩暈さえ、起こしそうな、キス。
ゆっくりと瞳を閉じて、舌を絡ませて、
何度も繰り返す、甘い、口付け。
このまま、酔ってしまえれば、どんなに楽だろう。
身も、心も、こんなにも君を想ってる。
だけど、瞼を開けると、嫌でも視界に飛び込んでくる君の額の紅い宝玉に、
私の心が、どうしても、超えられない壁を作ってしまう。
君は、八葉。
龍神の神子を守る、天の朱雀。
その額の真っ赤な石は、その証。
君と私。
どんなに肌を合わせても、心の奥までは踏み込めない。
踏み込ませない。
「・・・今お前はこうして俺の腕の中に居る筈なのに、
まるであの輝く月と同じ程・・・遠く距離を感じるね・・・・。
俺の愛しい姫君は・・・本当に月から舞い降りた天女様なのかな・・・。」
ふっ、と、寂しげな、そして優しい瞳で私を見つめるヒノエ。
私はそれに、曖昧に微笑んで見せることしか出来ない。
体に回された彼の腕が、心なし、強く、私を抱きしめる。
ねぇヒノエ、君は驚くかもしれないけど、
この世界の月に例えられる位の距離ならば、
私はそれもいいと思ってしまう。
その方が、本当の私たちの距離よりも、ずっとずっと近いから。
「そろそろ行くわ・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
―スッ。
彼の腕を離れて、私は立ち上がる。
畳に落ちている着物を手早く着付けて、
半分体を起して私を見上げる彼と視線を合わせた。
「今度の逢瀬はいつかな・・・?
なんて、お前に聞いても無駄なんだろうね、
。
まさかこの俺が姫君の来訪を一方的に待ってるだけの男になるなんてね、情けない話だぜ。」
「・・・・・・・・・・・・・また・・・会いに来るから・・・・・・・・・。」
そう返事をすることしか出来ない私。
ヒノエ、君が八葉になっていない頃に出会っていれば、
私たち、もっと違う形で一緒に居られたのかもしれないわね。
そんなこと、絶対に有り得ないけど。
だって、君が八葉だからこそ、私と君はこうして出会えたはずなんだもの。
白み始めた空。
夜が、明ける。
近い将来、必ず来る、君と私が戦場で出会う日。
平家の黄泉姫。
私の正体を知ったとき、君は私への気持ちを絶ってしまうのかな。
君の神子姫を守る為に。
源氏に与する者として。
何より、神子の八葉として。
だけど、今は、答えなんか要らない。
欲しくない。
ねぇ、ヒノエ、私は、時がこのまま止まればいいなんて、
君に負けないほどのクサイ考えを、心の底から強く、強く願ってしまう。
決して、叶う事は無いと知りながら。
(終わり)
後書き
・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒノエ???って感じで申し訳ありません・・・。
言い回しがクサけりゃいいってもんでもないな・・・。反省です。
言い訳を書く一方になりそうなので、これにて失礼致します。
ここまでのお付き合い、誠に有難うございました!
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