平知盛。
彼のその瞳。
いつでも、底知れない渇きを持って、射すくめられてしまいそうな程、鋭い光を宿している。
戦で見せる猟奇的な輝きは、それだけで相手を十分萎縮させる。
私は君が、君の瞳が大嫌いだった。
冷たくて感情の見えない瞳。
きっと、囚われるのが怖かったんだと思う。
君に捕らえられたが最後、蜘蛛の巣に引っかかってしまった蝶のように、
私は、抗う事なんか出来ないまま、落ちていくに違いなかったから。
そして何より、知盛、君が執着する『戦』と『彼女』の存在が、
知らない間に私にブレーキをかけさせていたんだと思う。
だけどもう遅い。
私はとっくに囚われてる。
君の、その、瞳に。
「クッ・・・・、せっせと太刀の手入れ・・・か、黄泉姫殿も戦は嫌いじゃないと見える。」
「知盛。」
部屋の隅で道具を揃えてそろそろ刀の手入れも終わりそうだった、
丁度その時、彼が私に声を掛けてきた。
私は手を止めて、彼を見上げる。
「私だって刀の手入れくらい普通にするわ。戦の好き嫌いに関らず、ね。」
「馴れた手つきだな、有川の奴にでも教わったのか?」
「違う、忠度殿から。」
止めていた手をまた動かしながら、私は答えた。
きらり。
手元で光った日本刀が、私を見下ろす知盛の姿を映す。
私は無意識に、刀に映りこんだ彼を見つめた。
知盛の整った薄い唇の端が、ニヤリと上がる。
「っ・・・!つ・・・・・・・・!」
驚いて一瞬手元が震え、指先を冷たい刃が掠めた。
瞬間、指の腹に痛みが走る。
「どうした?」
指先に、つ、と、血の筋が出来ていた。
私を見下ろしていた知盛が、屈みこんで来る。
「・・・ちょっと手元が狂って・・・、でも大したことないから。」
「、見せてみろ。」
「いい、本当に大したことないから。」
私はまた同じ台詞を繰り返した。
それにも耳を貸さず、知盛が強引に私の手を掴んだ。
そしてそのまま自分の方へと引寄せる。
「随分と白い指だ・・・、血の色が良く映えているぜ?」
「嬉しくないわ、そんなの。大体それは褒め言葉のつもり?」
「さて・・・な。それよりも、傷は浅いが・・・思ったよりよく切れているな。」
知盛は私の指先の傷をジッと見つめて言った。
確かに、深さは大したことがないけれど、長さとしては以外に広く切れていた。
指先から第一間接までを指の腹に赤い筋が通っている。
「薬を塗っておけばすぐに治るわよ、だからもう放し・・・・・・・・・っ!?」
不意に、私のその傷を眺めていた彼が、指を、口に含んだ。
「ちょっ・・・と・・・!知盛!?」
動揺する私をよそに、彼の舌が、傷口をなぞるように動く。
咄嗟に指を引き抜こうとした私の腕を、知盛が掴んだ。
舌が、生温かく、柔らかな彼の舌が、私の指の傷口を執拗に這い回る。
「っ・・・知盛・・・!放して・・・!!」
顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。
私は渾身の力を込めて、彼を振り解こうと抵抗する。
知盛は動じることなく余裕を持って私の指先から唇を放した。
「知盛・・・君は!」
「クッ・・・この程度で動揺するとは、黄泉姫殿も純粋なお方だ。
ちょっとした応急処置だろう?感謝してくれても、いいはずだが?」
「感謝!?からかわないで・・・・!」
濡れた指先が、細かく、震えてる。
彼の、舌の感触が、生々しく、残る傷口。
「からかうな・・・ね。・・・、お前の血は・・・思った以上に甘いな。
その細い指の滑らかさも、・・・血の甘さを十分引き立てているぜ?」
「・・・いい加減にして・・・、私はもう行くわ。」
私は太刀を鞘へ収め、手早く道具をまとめた。
そして彼から離れる為に、立ち上がった。
瞬間。
「っぁ!?」
体中が痺れる。
呪縛。
彼の術だ。
私はそのまま、ガクリ、と、畳みに膝を着いた。
「知・・・盛・・・!?」
目の前には、再度私の方へと屈み込んで、喉を鳴らして笑う彼の姿。
「そう・・・急いで行くこともないだろう?、俺はまだ、黄泉姫殿から褒美を賜っていないことだし・・・な。」
「何言っ・・・て・・・?褒・・・美・・・・・・?」
「傷口の血を止めて差し上げたんだ、その位は頂こうか。」
「なっ・・・・っ・・あっ・・・・・・・!」
シュルリ
彼の手が私の帯紐に触れ、すぐにそれが解かれる。
体を呪縛され、私は抵抗する事も出来なかった。
ただ、どうにか声だけを絞り出す。
「やめ・・・やめて・・・!ぁっあ・・・!」
帯が解けて襟元が大きく開いた。
直に触れる空気に肌が寒さを訴え、鳥肌がたった。
私の胸元が彼の前に晒される。
「透ける様に白い・・・とは、このことか。中々に、いい眺めだぜ?。」
「知・・・盛・・・・!っ・・・・・・あ・・・・・・・」
不意に片手を上げた知盛が、その掌で私の首筋に触れた。
驚くほど、冷たい、彼の手。
「細い首だな、このまま・・・片手で絞める事もできそうじゃないか。」
言った彼が、私の首にある手に軽く力を込めた。
そして、その手をそのまま鎖骨の方へ滑らせる。
私は必死に体を動かそうと力を搾り出した。
「・・・・・・・やめ・・て・・・・知盛・・・!」
「ほぅ、まだ抵抗する気だけは・・・失せていない、か・・・・。」
言いながら、知盛は鎖骨から私の胸に掌を下ろしていく。
「、お前の肌はどこまでも滑らかで弾力がある・・・そのくせ、俺の手に吸い付いてきているぜ?」
クック、と、彼がまた喉を鳴らして笑った。
見上げた先にある彼の紫の瞳。
その中に、冷たい炎が揺れている。
「黄泉姫殿の柔肌は・・・・その血と同じくさぞや甘いだろうな。」
「・・・・何を・・・・する気・・・!?」
彼の瞳が楽しげに細められた。
つ、と、刃の様に冷たい彼の指先が、私の胸の膨らみをなぞる。
それと同時に、赤い、血の筋が、出来た。
「・・・つっ!?・・・ん・ぁっ・・・・」
ピリリとした痛みが走る。
私は思わず声にならない吐息のような音を喉から漏らした。
束縛された体の痺れとは違う、別の何かが私の体を震わせる。
「クッ・・・いい反応をするじゃないか・・・。」
「知盛・・・!」
私を見下ろす彼の瞳が、冷たく、鋭く、細められた。
再び彼が私の方に屈みこみ、唇を胸元の傷に押し当てる。
「っ・・・・・・・!」
私の指の傷口をそうしたように、
彼はまた、自分がつけたばかりの胸元の傷口を、なぞるように舌を這わせた。
「は・・・ぁっ・・・っ・・・」
私は自分の口から漏れる声を必死で殺し、視線だけで彼に抗議を示す。
それを嘲笑うように、彼の冷たい指先が私の胸を無造作に弄んでいる。
「いつまでそうして抗い続けられるか・・・・、
なぁ・・・お前の白い肌は・・・そろそろ我慢出来ずに紅く色付いてきているようだが?」
「くっ・・離・・・・・して・・・・・・・・・・!」
「そう強情をはるなよ、。逃げる獲物は格好の餌食だぜ。
このまま・・・俺がお前を奪いつくしたくなるじゃないか。」
獲物。
君にとって私は、一時的な玩具。
一時的な、興味の、対象。
白龍の神子。
彼女と君の出会いは、必然。
君は必ず彼女に惹かれる。
それが、例え、恋や愛とは程遠いものでも。
君は彼女に執着する。
それは必然だから。
だから、私は・・・・・・・・・・・・。
「御免!新中納言殿!この室におられるか?」
私達の居る部屋の襖のすぐ前で、そう声がした。
私は一瞬息を飲む。
「・・・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・邪魔が・・・入った・・・か。」
フッ、と、私の体に自由が戻る。
知盛が立ち上がり、私から離れた。
襖越し、知盛は気だるそうな声で向こうに居る彼に答える。
「何の用だ?」
「還内府殿がお呼びです!至急、伝えたい事があると。」
「・・・・・ほう、還内府殿が・・・ね。いいだろう、すぐ行く。」
「はっ!では!」
そのやり取りがあっている間に、私は急いで乱れた衣服を整えた。
胸につけられた傷が、まだピリピリと痺れるような痛みを持っている。
「この頃合に還内府殿からの呼び出しとは・・・な、
お前の身の危険でも察したのかもしれないぜ?黄泉姫殿。」
「・・・早く行けばいいわ・・・、君の顔・・・当分私は見たくない・・・・・・・・。」
「クッ・・・ご機嫌を損ねてしまったようだな。ならば、お望みどおり御前を失礼させて頂こうか。」
私に背を向けて、知盛が片手で襖を開けた。
そして、そのまま振り向いて、視線を私に向ける。
ニヤリ。
彼が曲げて笑った唇が、憎らしいほど絵になっている。
「、中々に・・・楽しい時間だったぜ。
いつかまた・・・お前のその白い肌に俺の印を刻んでやろう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
部屋から彼が出て行き、その気配が遠ざかっていく。
私はそこから立ち上がることもせずにただ宙を見つめた。
知盛、私はもう、君に囚われてしまった身。
だけど、溺れる事は出来ない。
どんなに無意味でも、抗い続ける。
渇望。
本当は、君が欲しくて、欲しくて、堪らない。
それでも、私は抗う。
決して、溺れないように。
決して、落ちてしまわないように。
ねぇ知盛、いつか彼女が現れて、君が神子を求めるその時、
それでも君の側に居たいと思う、私を、君は、どう思うんだろうね?
なんて、私が思ってること、気付かせてはあげないけれど。
-終わり-
後書き
知盛エンド未だ見れず!な癖に初知盛夢です。完璧に健全な将臣夢と正反対の微エロ。
しかも知盛の性格が将臣以上に分からない。とりあえず望美の存在はどちらにしろデカイです。
ではでは、今回この作品を読んで下さった皆様、本当に心より感謝致します。失礼します。
ブラウザバック推奨