春。
柔らかな日差し、暖かな空気。
芽吹いた木々、ほころぶ花々。

満開になった京の桜はさぞ美しいだろうな、と、小さな帝は寂しそうに笑った。

うららかな午後。
空を見上げていると、何処からか花の香りが流れてきた。
私は息を大きく吸い込んで、目を閉じる。
将臣、彼女が舞い降りてくる日はもう間近。
君の幼馴染、白龍の神子がこの世界に来るその日は。




「将臣、君・・・それ・・・。」

将臣の耳元で揺れている見慣れた紅い宝石のついたピアス。
彼のその左耳の内側にはめ込まれた、もう1つの、蒼い澄んだ色をした小さな石。
私はそれを見つけて思わず息を飲んだ。
彼は私の言葉に片手で左耳に軽く触れた。

「ん?ああこれか、気付いたらいつの間にかついてたんだ。
ま、特に困りもしねぇし放ってんだけどよ。何だろうな?」
「・・・・・・・・・・・・・・。」


キラリ。

蒼い海を思わせる石の光が、日に照らされて輝く。
私の瞳に、眩しく、反射した。
八葉の証。
天の青龍の証のその石が。

「・・・どうして・・・・。」
「ん?何だ?」
「え?あ、ううん・・・、何でもない・・・・。」


どうして、私が見えてしまうんだろう。


思わず口に出して言ってしまいそうになった言葉を、私は飲み込んだ。
本当なら、あの石は白龍の神子と八葉自身にしか見えないはずのものだ。
私はその存在や意味を知っていても、彼等の関係自体とは全く関係ないと言ってもいい。
なのに、私にはハッキリ見える、彼の天の青龍の証が。

?」

ジッと彼の耳元に目を向けている私に、将臣が不思議そうな表情で声をかけた。
私はそこで曖昧に微笑んで口を開く。

「ごめん、本当に何でもない。」
「そっか?だったらいいけど、お前・・・たまにそう言う顔してることあるからな。
何か心配ことあるんだったら話してみろよ、1人で考え込んでても仕方ねぇだろ。」
「有り難う、でもホントに何でもないから。そうね、ちょっと疲れてるだけ。」

答えた私の瞳を覗きこむみたいに彼が視線を合わせる。
そしてそこでふっ、と、優しげな笑みを零して言った。

「ま、確かにここ最近戦続きだったからな、お前にも無理させちまってるよな、悪い。」

彼の片手が上がり、私の髪を梳くように撫でた。

「ううん、戦のことはこの世界では仕方ないからね。
それよりも・・・君のこの手つき、子供の頭を撫でてるみたいだわ。私は帝じゃないんだけど。」
「ははっ!そう言うなって。子供扱いなんかしてねぇよ、大体は元々俺より年上だろ?」
「年の問題じゃないんだって最近気付いたわ。君の場合、特に。」


クスリ。
私の台詞に将臣が苦笑する。

「お前の髪触ると気持ちいいからな、思わず手が伸びちまうんだよ。」
「・・・・・サンキュ、でも・・・褒めたって何も出ないわよ・・・。」

頬が熱くなるのを感じて、私は彼から目を逸らして言った。
私の髪に手を触れたままの将臣に、私は先を続ける。

「それに・・・そろそろ・・・本当に切ろうかと思ってるから。」
「切る?マジで言ってんのか?」
「戦で邪魔になるしね。」

私は視線を少しだけ彼に戻した。
それは嘘じゃない。
戦闘時に長い髪は確かに邪魔になることも多い。

「結んどけばどうにかなるだろ。」
「そうかもしれないけど・・・・。」

そう言って言葉を濁した私に、彼は指を滑らせて髪から手を離して言った。


「俺は好きだぜ、お前のその長い髪。お世辞なしで綺麗だしな。」


春の柔らかな日差しと同じほど、穏やかな微笑の将臣の台詞。
どくん、と、私の胸が大きく跳ねたのが分かった。

「・・・将臣、君は・・・・・・・・・・・・。」


いつも、どこまで本気なのか、分からない。
君の、本心。

私は顔を上げて正面から将臣に目を向ける。


キラリ。
彼の耳元が、ほんの一瞬蒼い光を放った。
これから先の、君と彼女の絆を示す、蒼く澄んだ八葉の証が。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「言っとくけど、俺はお前をアイツの代わりになんてしてないぜ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

無言でその蒼い石に目を奪われていた私に、将臣が言った。
馬鹿みたいに、口をポカンと開けて、私は彼を見つめる。

「ははっ、何だよ、、その間抜けな顔。」
「な・・・!将臣、君は・・・!」

軽く両手を振り上げた私を、また彼は声を上げて笑った。
私はふくれた顔をして軽くその両手で彼の胸を叩く。
そして思わず堪えきれずに、ふ、と、笑みを零した。

「自惚れてくれたわね、将臣も。」
「ん?そっか?前に俺はお前とアイツを重ねて見ちまった事があったからな・・・・。気になってたんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま、そうね、そう言うことにしておいてあげてもいいけど。」
「どういうことだよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・だから・・・・・。」

そこで私は軽く俯いて、まだ将臣の胸にある自分の両手に目を移した。

「代わりにされて気にしてたってことにしといてあげるわ。
違うんだったら髪は切らない。君も泣いて頼んでる事だし。」
「ははっ!何だ、そりゃ。お前こそ自惚れてるぜ。」


笑った将臣が、片手の掌で私の両手を包んだ。
温もりが、直に、私の手に、伝わってくる。


キラリ。
煌く蒼い光。
天の青龍の証。


私の目に眩しい光。


だけど、君の言葉と笑顔が、私に勇気をくれる。


君を、この先も想っていくという、勇気を。



-終わり-


後書き
知盛を書きたいのに将臣ばかりが仕上がります。
しかも微妙な将臣・・・。ヒノエか景時辺りも書いてみたいと思ってるんですけど、中々・・・。
と言うかこの夢自体私のサイト内での需要があるのか疑問ですが、
このその他部屋の存在も自己満足150%なので仕方がない(笑)
ではでは、この夢を読んで下さった貴重な皆様、有り難うございます。失礼致します。


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