「・・・い、おい、!!」
「ん・・・?え・・・?」
ぼんやり。
霞む視界。
重たい瞼を、ゆっくりと持ち上げた。
腹部に熱い痛みを感じる。
私は一瞬顔を顰めた。
最初に目に入ったのは、将臣の心配そうな顔。
「将・・・臣・・・?」
「大丈夫か?随分うなされてたぞ。腹の傷が痛むんじゃねぇのか?」
「・・・お腹・・・・・。」
記憶が曖昧で、ハッキリしない。
眉間にしわを寄せて、額に掌で触れる。
そこでやっと私は思い出した。
ここは戦場。
そして、私は戦の最中に腹部に傷を負った。
思い出せるのは、熱くて鋭い痛みと、私の身体から出ていた、真っ赤な血。
それから、私を呼ぶ、将臣の声。
「・・・そっか・・・私・・・・・・・・・。」
「思い出したみたいだな。・・・それより、マジで大丈夫か?
傷の深さは大した事ないらしいけど、さっきのうなされ様は普通じゃなかったぜ。」
言われて、私は一度、目を閉じる。
うなされていた原因。
ああ、また、あの夢を見たんだ、と、気付いた。
「・・・だけどまさか・・・今見るとは思わなかったわ・・・。」
思わず私は独り言みたいに返す。
将臣が不思議そうな顔で私を見た。
「?何の話だよ。」
「・・・あ、ごめん。さっき、君が言ったでしょう?・・・私がうなされてたって・・・。
あれってね、別に珍しい事じゃないから・・・気にしないで。」
言って、私は苦笑してみせる。
将臣が益々眉間のしわを深くした。
「珍しくないって、そりゃ、どう言う意味だよ?
まさか毎回眠る度にあんなにうなされてる訳じゃねぇだろ。」
「・・・・うん、それはね。まぁいいじゃない。それより、戦況はどうなの?」
「ああ、火攻めのインパクトがかなりデカかったらしい。
源氏の兵は随分動揺して、士気も落ちてる。ま、一発逆転にかけた甲斐はあったてとこだな。」
「そう、じゃあ勢いを保って攻めるのね。だったら私も・・・。」
言いながら、私は体を起こそうとした。
それをすぐに彼が止める。
「お前はこのまま寝てろって。時期に迎えの兵が来る。そいつらと尼御前達の居る御所まで戻れ。」
「将臣、君、さっき傷は深くないって言ったわね?お願いだから私も行かせて。」
「駄目だ。傷が深くねぇと言っても、開く恐れがあるのは確かだろ。、お前はここに居ろ。いいな?」
「・・・・・・・嫌・・・ここに居ても・・・眠っても・・・同じよ。」
あの、悪夢を見る、だけ。
「?」
「お願い、行かせて。大丈夫、無理はしないわ。」
「・・・・・・・お前・・・・・。」
「眠れないの、将臣、どうせここに居ても眠れない。
大丈夫、戦場に出れば、そっちに集中できるから。」
言って、半分、将臣を押しのける様に私は立ち上がった。
その瞬間、腹部の傷の痛みがズキン、と、大きく体に響く。
「っ・・・つぅ・・・・!」
「!」
足元がふらついて、よろめきそうになった私の体に、彼の腕がのびてきた。
「あ、・・・ごめ・・・。」
「そんな体で無理すんな!傷が開いたらどうすんだよ?
今回の戦は忠度殿達の働きで、決着は殆どついてんだ。
・・・・それとも、そこまで無理して出ようとするのは、
さっき言ってた眠れないってのと何か関係があんのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
私の体に腕を回している将臣が、覗き込むようにしてジッとこっちに視線を向ける。
私は咄嗟にその瞳を逸らした。
「そうなんだな?・・・・話してみろよ。今更、水臭い事はなしにしようぜ。」
溜息と一緒に、彼がそう言って、私を促す。
「・・・将臣・・・・。」
「前にも言っただろ、すぐ自分だけで抱え込むなって。
ま、聞いたからって解決出来るかは別としても、一人で考え込んじまうよりましだろ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうね。」
小さく頷いて、私は答えた。
それから少しだけ、俯く。
あの、悪夢。
思い出すと、情けなくて、そして、苦しい。
「戦前夜には・・・・いつも夢を見るの・・・・・・。毎回少しずつ違うけど、内容は大体一緒。」
「それが原因か、で、どんな夢だ?」
「・・・・戦場の夢。私は一人で戦ってて・・・。真っ赤な血と、沢山の人の呻き声が聞こえて・・・。
怨霊達の悲鳴も聞こえる・・・。
目の前の敵兵が許しを請うのに・・・何故か私は斬るのを止めないの・・・。」
生々しく、耳に、残る、悲鳴。
手には、人の体を刀で断つ、独特の、感触。
そして、返り血で、赤く染まった、私自身。
ガタガタと、自然に震える体に、私は思わず自分の肩を両手で押さえつけた。
「・・・。」
「怖い・・・・・、将臣。私・・・未だに怖いのよ・・・。戦に出るのが・・・、人を斬る事が・・・。」
声が、掠れた。
ここに来て、もう何度、戦に出たのか分からないのに。
「仕方が無いのも、これが必要だと言う事も、綺麗事で済まない事も、
全部・・・全部分かってるつもりだった・・・。
なのに毎回見る夢は同じで・・・・。
こんな・・・情けない私・・・・・・・・・誰にも・・・・将臣にも・・・見られたくなくて・・・。」
「・・・・・・・。」
「だけど、戦場に出れば・・・やっぱりいつも必死で・・・必死で敵兵を倒して・・・・。私・・・・・・・・・っ・・・!」
「ああ、分かってる。分かってるって・・・。ごめんな、辛い話させちまって。」
傷を気遣う様にして、優しく、彼が私を抱きしめた。
彼の肩口。
私は思わず、顔を埋める。
まだ、体が震えているのが、自分でも分かった。
「・・・・将臣・・・・・・・・・・・・。」
白龍の神子。
彼女を分身にしていた、あの頃。
まさか、こんな事に苦しむ日が来るなんて、思ってもみなかった。
戦。
何も生み出さない。
あるのは破壊だけだと、口で言う事は容易くて。
そしてそれは決して間違ってはいないけれど、
そうしなくては、手に入らない、悲しい、哀しい、この世界での現実。
それが分かっていても、やっぱり私は、怖くて仕方がなかった。
何度、戦歴を重ねても。
違う。
重ねるたび、私は、怖くて、怖くて。
「戦場でナーバスになるのは当然だが・・・それだけの問題じゃねぇよな・・・。
俺だって同じだぜ、・・・。幾ら場数踏んでいようが・・・恐怖ってのはあるよな・・・。
それを情けないなんて・・・思う訳ねぇだろ?
・・・いや、それより・・・・・・・気付いてやれなくて、悪かった・・・。」
「将臣・・・・。」
顔を上げれば、すぐ傍にある、優しげな表情の将臣の顔。
頬に、何か熱い雫が伝い落ちたのに気付いたのと、
私が、彼の唇に吸い寄せられたのは、殆ど、同じ、だったと思う。
唇が触れ合った瞬間、胸が、ぎゅ、と、締め付けられるのが分かった。
小刻みに震える私の唇を、将臣は、何も言わずに、受け入れてくれる。
大きな掌が、やわらかく、私の肩に、触れた。
戦。
きっとこの先も、私のこの恐怖心は消えない。
悪夢も、すぐに見なくなるなんて、そんなに都合よくはいかないだろう。
それでも、不思議な程、癒される。
君という存在に。
重ねた唇。
私の目から流れ出た涙が、そこを濡らして流れいく。
私の涙が止まるまで、私の震えが止まるまで、
それから彼は何度も、私の唇に触れた。
君と一緒に戦う。
その決意は、全く変ってないよ。
だから将臣、私はまた、君と戦場に立つ。
(終わり)
後書き
もういいよ、将臣ばっかり書きますよ、私は。だって好きですから(笑)
ヒノエや景時はいつか書ければいいな、と言う事で。知盛は合間に書こうかな。
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございます!失礼致します。
ブラウザバック推奨