「将臣くんそれはこうだと思うよ、ほら。」
「いいって、いいって、こんなの適当で。」
「まったく、兄さんはいつでも適当じゃないか。
ほら、春日先輩の言うとおり、ここはこうして・・・・・・・。」

青い空。
ふうわりと、香る、優しい風。
満開の桜の木。
縁側に腰掛けて楽しそうに話している3人の幼馴染。
こんなにも、ほほえましいのに、私の胸の中は、もやもやとしていた。


・・・私って・・・案外心の狭いヤツよね・・・。


なんて、考えながら、ぼんやりと見つめる先は、やっぱり将臣の横顔。
ここ最近で、久し振りに見る、彼の笑顔。
嬉しいのに、それは本当に嬉しいのに。

「どうしましたか?さん。」
「え!?あ、弁慶・・・。」

不意に声を掛けられて振り向くと、柔らかに微笑む弁慶の姿。

「食い入るように見つめていますね?ふふ、あの3人が気になりますか?」
「なっ・・・!そんな・・・!・・・・・・・・・ただ・・・・。」
「ただ?」
「・・・・・将臣のあんな顔、久し振りだと思ったの・・・・。」

ついさっきまで心の中で思っていた事を、私はそのまま彼に向かって口にした。

「そうなんですか。やはり、久し振りに会う可愛い幼馴染の存在が、
彼の笑顔を引き出したんでしょうね。・・・・妬けますか?」
「・・・・・・な!!・・・・君って、ほんっと、底意地悪い・・・。」

見透かされた心。
思わず、私は拗ねた様に頬を膨らませて彼を見た。
まさに黒軍師。
思っていた通り、食えない男。
弁慶はクス、と、小さく笑って答えた。

「底意地が悪いだなんて、心外ですね。では、少し挽回させて頂きましょうか。」
「・・・・挽回・・・って?」
「僕から見れば、キミと居る将臣殿の表情も十分珍しいものですよ。」
「・・・・・?どう言う意味?」

彼の言っていることがイマイチ理解出来ずに、私は聞き返す。
弁慶はいつものやわらかな笑みを浮かべたまま、続けた。

「望美さん達と一緒居る彼は勿論楽しそうではありますが、
やはり身内同士の親しみに似たものがあります。まぁ、実際譲殿は弟さんですが。
ですが、キミと居る時の彼は・・・・。」

言いかけて、弁慶が言葉を切った。

「?弁慶?」
「弁慶、ここに居たのか、探したぞ!」

そう言って、私たちの傍に近付いてきたのは源九郎義経。

「九郎、どうしたんですか?そんなに慌てて。」
「兄上が呼んでいる。景時も一緒にだ。兄上を待たせる訳にはいかないだろう。
景時は先に向かっているから、お前も早く来い!」
「おやおや、慌しいですね・・・。ですが、鎌倉殿がお呼びとあらば仕方ありません。
さん、申し訳ありませんが、お話はまた次の機会に。」

彼は頭を軽く下げてそう言った。
私は左右に首を振り、答える。

「ううん、気にしないで。二人とも、行ってらっしゃい。」
「ああ、、悪いな。行くぞ、弁慶。」

二人が居なくなってから、私も外へ出かける事にした。
3人は相変わらず楽しそうに話をしてて、何となく、声を掛けづらくて、
結局、私は朔に外出することを伝えた。

「一人で出かけるの?誰か一緒に行った方がいいんじゃないかしら?」
「大丈夫、危ないとこには近付かないから。ちょっとその辺ぶらつくだけだし。」

心配そうな表情の朔に私は笑顔で答えた。
それでもまだ眉間にしわを寄せている彼女に、私は苦笑して続ける。

「本当に大丈夫よ。散歩みたいなもので、その・・・ちょっと一人で考えたい事もあるから。」
「・・・ええ、分かったわ。だけど、気をつけてね?」
「了解、了解!」
「ふふ・・・、って本当に将臣殿みたい。」

笑った朔に手を振って、私はそのまま一人、外出することにした。


おかしな気分だ。
この世界に来て、この世界で将臣と出会って、そして彼を好きになった。
彼の幼馴染、白龍の神子である、春日望美。
私の分身だったはずの彼女は、今や私の中で、ある種のコンプレックスになっていた。
だけど。


―初めまして、さん。わたしは春日望美です。さんのことは将臣くんから聞いてました。
ふふ・・・これから仲良くしてくださいね!


彼女を紹介されたあの時。
そう挨拶をした彼女の笑顔。
清浄な空気を纏う白龍の神子。
その意味が、初めて会ったその一瞬で、理解出来てしまった。
彼女が、この世界に、最も愛されている、神子。
心底実感してしまった、瞬間でもあった。
そして、不覚にも、結局、好感を持ってしまった私。


『白龍、君の選択は・・・正しかったわね。』


なんて、言うつもりもなかった事まで、口に出した程。
勿論、あの無邪気な龍が、満面の笑顔で答えたのは言うまでも無いけれど。


―俺はずっと望美と一緒に居てやるってことは出来ねぇからな。
アイツの傍に居る時位、アイツの八葉として護ってやりたいんだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かってる、わよ。」

思わず私は、小さく呟いた。

ズキ。
と、痛む、胸。
思い出す、将臣の言葉。
細道を歩きながら、不意に私は空に目を向ける。
泣きたくなる様な青空。
とは、本当によく言ったものだ。
少しの間あてもなくただ歩いて居ると、川が流れているのが見えた。
そしてそのすぐ手前には桜の木が1本。
私は、ゆっくりとその桜の木の下まで近付いた。
満開の桜、そして真っ青な空の、目に鮮やかなコントラスト。
草の多く生えている場所に腰掛けて、私はそれに目を奪われていた。
寝転がった状態で、スゥー、っと、深呼吸してみる。
緑と、桜の香りが、肺にゆっくり入りこんできた。


・・・そう言えば、弁慶は結局何を言いかけてたんだろ・・・?


ふと、そんな事を思い出す。
将臣以外の八葉達には、初めて直にあったけど、皆、全くイメージ通りだった。
だけど、弁慶、彼は思ってた以上にやり手だ。
色々な意味で。


会って間もないのに、人の事見透かすし・・・。


―・・・・妬けますか?


「・・・・・・・・・・。」

私はそこで小さく溜息を吐いて、また、空を見上げる。
桜が風に吹かれて、ひらり、ひらり、と、私の上に花弁を落した。
ゆっくり、目を閉じる。
そのまま、気付けば、私は眠ってしまっていた。



「おい!!こんな所で寝てんじゃねぇよ!」
「・・・ん・・・・・・・んん・・・・・っ・・・あ。」

とろとろと、まどろみから目覚めれば、私の肩を揺らす将臣の姿。
私が彼と視線を合わせると、呆れた様に深い溜息を吐いて言った。

「ったく、いつまでたっても帰って来ねぇから心配してりゃ、
のんきに昼寝かよ。焦って損したぜ。」
「将臣・・・、あ、私、あのまま眠ってたんだ・・・。」

ふぁ。
と、思わず口から飛び出しそうになる欠伸を私は両手で抑え込む。
そんな私の様子に、彼は苦笑して見せた。

「お前マジでのんき過ぎ。朔や望美なんてスゲェ心配してたぞ。」
「ええ!?そ、そうなのね・・・・。何か、あんまり気持ちよくて・・・。
ここって、場所的にサイコーだったし・・・。」
「ははっ!確かに、桜は満開だし、昼間は天気も良かったもんな。
けどもう夕刻だぜ。いい加減起きてもいい頃だろ。」

将臣の言葉に、私は辺りを見回す。
いつの間にか、辺りは暗くなり始めていた。

「・・・そう言えば、少し寒かったかもしれないわ。」
、お前天然かぁ?あんまり笑わせんなよ。」
「・・・もう、ごめんって。」

言って、私はゆっくりと立ち上がる。
パンパン、と、背中やお尻を片手ではたいて、また彼に視線を向けた。

「将臣?」
「ああ。夜桜って程でもねぇけど、やっぱ綺麗だな。」
「・・・・ふぅん、君も風流の分かる大人になったか。」
「はは、何だよ、それ。けど、ま、そう言うお前も花より団子なんじゃねぇのか?」
「言ってくれるわね、これでも最近笛なんか出来たりするのよ?」

ふん、と、私はわざと胸を張って見せた。
将臣がそれに声を上げて笑う。
そして、不意に、ふっ、と、視線を和らげた。

「悪い、ついついアイツらに構って、お前の事放っちまってたぜ。」
「何よ・・・急に・・・。」
「いや、ただ、の事だから妬いてんじゃねぇかと思ってな?」
「・・・!!」

そう言って、少しだけ悪戯っぽく笑う、将臣。

「君、自惚れすぎ。」

なんて口にしながら、顔が、恥ずかしくて赤くなる。
情けない位、分かり易い私。

「私は妬いてなんか・・・・

『いないわ。』

続けようとした唇に、ひら、と、桜の花弁が降りた。
私がそれに反応するよりも早く、将臣が片手を上げて指先で花弁に触れた。

「・・・・・・・・・・・・・・・将・・・臣?」
「お前ってホンット、素直じゃねぇな。」

クス。
と、優しげな笑みを浮かべる彼。

「え・・・・?・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・」

突然、重ねられた唇。
温かで、やわらかな、感触。
呼吸の、止まった、一瞬。
花弁越しのキス。


将臣がゆっくり私から離れると、
花弁は、ひらひら、舞って、地面に落ちた。

「・・・帰るぞ。アイツらまで大捜査し始めたんじゃ堪んねぇからな。」

コツン。
私の頭を軽く小突いて、彼は私の手を取った。

「・・・・・・・・・・・・・君って・・・・。」
「ん?何か言ったか?」

何事も無かったみたいに振り向く彼に、私は軽く首を左右に振る。


君はいつもどこか余裕を持ってて、どこまで、本気なのか、分からない。
君のそんな行動に、こんなにも心癒されてしまう私。
今でもスゴク不安で、なのに、同じ位安心してる。
全く、理解不能の君。


その後、将臣と二人で戻った私は、心配をかけた皆に謝って回った。

「・・・もう、本当にごめんね、弁慶。」
「ふふ、いいんですよ。キミが無事であったのなら、何も言うことはありません。
それに、珍しいものもみせて貰った事ですし。」
「・・・・・・・・・え?珍しい・・・・?」

聞き返した私に、弁慶はいつもの笑顔で頷く。

「ええ。将臣殿が珍しく慌ててましたから。彼はああ見えて物事に動じない人間なのに。」
「・・・・・・・・・・・そう・・・だったの・・・。」

何だか少し照れくさくて、私は思わず俯いた。
不意に、彼は思い出した様に続ける。

「ああ、そうでした、昼間の続き、今言ってしまった方がいいかな?」
「え?あ、そっか、昼間・・・。」

顔を上げて答えると、彼は少しだけ私に近付いて、楽しそうに耳元で言った。


「キミと一緒に居る将臣殿の表情は・・・「。」

突然、遮られる、弁慶の声。
後ろから腰に回された腕に、私は驚いて振り返る。

「姫君、帰りがあんまり遅いんで、お前を想う不埒な輩に連れ去られたのかと思ったよ。」
「っ・・・ヒノエ!」
「・・・やれやれ・・・ヒノエ、彼女は今僕と大事な話をしていた所なんですがね。」

ふぅ、と、大きな溜息を吐いてそう抗議した弁慶に、
ヒノエは私を腕の中に引き寄せてから答えた。

「あんたと姫君の大事な話?益々コイツは渡せないね。
おいで、。あっちで俺がお前を楽しませてやるから。」
「・・・ってヒノエ、君、この腕を離してくれない・・・?」
「ふふ、照れてるのかい?可愛いね。しょうがない、今は姫君のお言葉に従うよ。」

言って、彼は私に絡ませていた腕を離してくれた。
とは言っても、私は結局彼に連れて行かれてしまったのだけど。

「まったく、ヒノエにも困ったものですね・・・。
お陰で、底意地が悪いという彼女の印象を塗り替える機会を逸してしまった・・・。」


―キミと一緒に居る将臣殿の表情は、恐らく、特別な人間にしか見せる事のないものですよ。


彼の言おうとした台詞、その内容を、私は知る由も無かった。


(終わり)


後書き
矛盾だらけの一品になってしまいましたが、そこはスルーで(苦笑)
単に平家側だけでなく、他の八葉も登場させたかっただけです。
しかも弁慶出張りすぎ(笑)特に心残りは景時を出せなかった事です。
八葉勢揃いは無理として、マイラブは登場させたかった。
では、今回ここまでのお付き合い、誠に有難うございました!失礼致します。


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