黄金色の太陽。
降り注ぐ光と熱。
帆を満たす海風。
澄み切った青空に、負けないくらい綺麗な蒼い海。
水平線。
きらきらと揺れる波間。
空気を深く吸い込めば、爽やかな潮の香りが肺を満たす。


「おい、!おめぇ何こんな所で一人ボケッと突っ立ってんだ?」
「あ、チカ。」

甲板の隅。
海を眺めていた私に、この船の主、長曽我部元親が声を掛けてきた。
思わず手を伸ばしたくなるほど綺麗な銀髪、左目、顔半分を覆ってしまいそうな眼帯。
そして肌の露出の多い鮮やかな紫の衣装。
ひと目見れば絶対に忘れられないルックスの持ち主。
チカは『四国の鬼』と呼ばれている海賊。
なんて、説明は不必要か。
私がチカと初めて『出会った』のは2週間程前。
だけど私はそれよりずっと前から彼を知っていた。
チカがどの位彼の部下の『野郎ども』に慕われているか、とか、
チカがどの位お肌に気を遣って居るか、とか、
チカがどの位子供が苦手か、とか。
少なくとも彼は私のことなんか名前すら知らなかった筈で、
それでも私はチカの事をそれ位は『分かっていた』


何故なら。


「!?何!?」


グイッ!

と、急に彼が私の腕を掴んでその場所から少し離れた所に連れて行く。
すぐに手を離してはくれたけど、意味が分からなくて、私は彼を見上げた。

「日が照り付けた場所に長時間突っ立ってんじゃねぇぜ。
おめぇみてぇな華奢な女はすぐヤラれちまうぞ。」
「・・・・・ああ、お肌も焼けるし?」
「おぅよ!・・・・・・って、うるせぇ!!すぐそっちに話を振るんじゃねぇよ!」

予想通りに反応に、私は嬉しくてケラケラと笑い声を上げる。
これで何回このネタで遊んでるだろう。
その度にチカは私の期待に答えてくれてる。

「君ってホントにいいわ、うん。チカは素敵だよ。」
「んだぁ?気持ち悪ぃ。おめぇ俺のこと馬鹿にしてるだろ。
つーかその妙な呼び方止めろ!普通に呼べねぇのか、普通に。」
「え?だって呼びやすいから。・・・あ、じゃあアニキ?」
「そうじゃねぇだろ!普通につったら名前だろうが!!」

即座にツッコミを入れられて、私は思わず苦笑する。

「親しみを込めて呼んでるのに。それ以外ならやっぱアニキとしか呼べないね。」
「・・・・ちぃっ!好きに呼びやがれ!!」
「ふふ!私の勝ちね、チカ君!」


ビシッ。


と、人差し指を突きつけて、笑う私。
チカは不機嫌そうに眉間にしわを寄せて私を見た。

「で?、結局おめぇは俺の最初の質問に答えちゃいねぇだろうが。
あんな所に突っ立って、何を考えてやがったんだ?」
「ふっ、分からない?チカ、私は海に浪漫を求めていたの。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいか?、もういっぺんだけ聞いてやる!何を考えてやがった!?」

私の答えがお気に召さなかったらしいチカが、そう言ってまた同じ質問を繰り返す。
チカをからかうのは面白い。
彼に直接会って、それに気がつけた私は、本当に幸せ者だ。
と、チカがまた何か怒鳴りそうだったので、私は素早く口を開いた。

「私がチカ達に出会った日のこと、思い出してたの。」
「アアン?ああ・・・あの嵐の日のことか・・・。」
「そう、チカ達に出会った瞬間は嵐だったね。
でも、前にも説明したけど、私が最初に泳いでたのは今のこの凪いだ海みたいだった。」



―2週間前。
真夏の海水浴場。
と言っても、そこは穴場中の穴場で、人で海岸が一杯になると言う事は、まず無かった。
毎年の恒例行事。
あの日、私は数人の友達と小さな島を目指して遠泳めいたことをしていた。
空は快晴。
海の波は凪いでいた、あの日。
順調に泳ぎ続けていた私は、確実に目標の小島を視界の中に捕らえていた。
そのまま泳ぎ続けていれば、絶対にあの小島に辿り着けた筈。
だけど、結局、私があの小島に辿り着くことは無かった。



「あの時はホント、驚いた・・・。
殆ど瞬間的に周りが嵐になって・・・・すぐ傍に大きな船が見えたからね。
さすがのさんもあれにはパニクったわ。」
「・・・ああ、あの嵐だけは俺も合点がいかねぇぜ・・・。
海を知り尽くしたこの俺が、あの程度の嵐を予測出来なかったんだからなぁ・・・。
しかも、野郎どもに指示を出してる最中に、おかしな女が溺れてやがるしよ。」
「失礼な、溺れてなかったでしょ。それはもう人魚の様に見事に嵐の中泳いで見せたじゃない。」
「ケッ、言ってろ・・・。」

チカは呆れた様にそう答えた。
つまり、そう言うことだ。
遠泳の途中、ほんの数秒前まで晴れ渡っていた空が、凪いでいた波が、瞬間的に嵐に変わった。
そう、例えるなら、瞬きした瞬間に全部が一転してしまったみたいな。
私は嵐の海の中で、とにかく必死に手足を動かして、
そしてそこでチカとこの船の皆に助けられた。
助けられた瞬間に脱力して気を失ってしまった私。
でもその後、とんでもない事実に気付いてしまったのだった。

「チカ、私がこの世界の人間じゃないなんて話し、よく信じてくれたわね。」
「あの妙な嵐のこともあるが・・・ま、ちょいと身に覚えのあることがあったんでな。」
「え!?初耳だわ、それ。『身に覚え』って何?」
「何でもねぇよ。」
「・・・今キミはっきり『身に覚えがある』って言ったわよね?」
「・・・あー、うるせぇな。その内話してやっから・・・。」

答えたチカが面倒くさそうに手をひらひらと振って見せる。
どうやら今話す気は全く無し、らしい。
凄く気になるのは山々だけど、私はそれ以上突っ込むのを止めた。
私もチカに言っていないことがある。
『私はこの世界の人間じゃない』とは説明したけれど、
『キミたちはゲームの中のキャラです』なんてことはどうしても言えなかった。
と言うより、私自身、信じられなかったと言うのもある。
まさか、そんなテレビや小説じゃあるまいし、
俗に言う『異世界トリップ』を私が体験するなんて。


、前々から言ってるが、おめぇもう少し着物の着方に気ぃ遣え。」
「・・・・・・・・・え?何よ、今更。」
「今更じゃねぇ!最初っから言ってただろうが、
おめぇのねぇ胸やケツでも野郎どもにとっちゃ目の毒なんだよ。ちったぁ気ぃ遣え!」
「暑っ苦しくて着物なんかまともに着れないわよ。あ、もしかしてチカ欲情した?
うん、うん、分かる、分かる。まだまだ20代前半、獣盛りだもんねぇ。」

大げさに頷いて見せながら、私は言った。
チカはチカで大げさに溜息を吐く。

「だーれがんな色気もクソもねぇ体に欲情するかってんだ、馬鹿が。
襲われてぇんならもっと出すとこ出して出直してきやがれ!」
「ははは♪チカってば強がっちゃって。」
「オメェな!!!」

お約束な返しを受けながら、私はまたケラケラと笑った。
傍を通りかかったチカの部下の一人が、大声でひやかす。

「お!アニキ!さん!今日も仲いいっすねぇ!」
「どもども♪」
「どこがだ!?どこが!?!!おめぇもノリで返事するんじゃねぇ!」

この光景、日常になりつつある、今日この頃。
私だってこの世界に来たばかりの頃は悩まなかった訳じゃない。
だけど、今はポジティブにものを考えることに決めた。
例えば、この滅多に体験できない状況を、楽しむって事。
私にとっての大ラッキーは、来た先が大好きなキャラの傍だったってことだ。
長曽我部元親。
そう、実はゲームで私の一番のお気に入り。

「・・・ちぃっ、・・・ったく、おめぇには調子狂わされっぱなしだぜ。
この鬼ともあろうもんがよ・・・・・・・・。」

ぼやくチカ。
私はそれを横目でみつつ、ふと、あることを思い付いた。
そうだ、この際この世界でしか出来ないことをやっていこう。
いつまた、元の世界に還ることになるか分からないんだから。

「ねぇチカ、キスしよっか?」
「アアン?何だ、今度は。鱚が食いてぇって言いてぇのか?食い意地張った女だぜ。」
「うっわぁ、ベタな返し。しょーがないわねー、お姉さんが教えてあげるわ。」
「・・・・・・・・・・おい、誰が『お姉さん』だって?」
「細かい事は気にしない、気にしない。」

言って、私は怪訝そうな顔のチカと向かい合う。
当然だけど、チカと私は身長差がある。

「ちょっと屈んで。」
「何でだよ?」
「いいから屈んで。」
「・・・・・ったく、おらよ。」

明らかに私の行動に不審がりながらも、彼は私の言う通りに屈んでくれた。
丁度良く、私の少し上にチカの顔がある。
私はチカの襟元を軽く掴んで彼を引き寄せると、背伸びをした。

「あ"!?おい、おめぇ、何・・・・・・・・・・・・っ」

触れ合わせただけの軽いキス。
開きかけのチカの唇に、私は踵を上げて更に唇を押し付けた。
ほんのりと温かくて、柔らかい唇の感触。

「はい、お終い。」
「・・・って、!おめぇ・・・・!!!」

「おおおお!アニキが俺達に隠れてさんと接吻を!!!」
「さすがアニキ!!陸でも海でも手がはぇぇ!!!」

「「「「「アニキ!!!!!」」」」」


私たちの様子を見ていたらしい数人の『野郎ども』がアニキコールを送り出す。
私はその間にチカの傍を離れて船室に向かうことにした。

!!後できっちり話しつけてやっからな!!」

と言う、チカの怒鳴り声が聞こえる。
怒ってると言うより、焦ってる感じで。
私はそんなチカにひらひらと手を振りながら、その場を後にした。


まだここに来て2週間。
もっとこうやって、色々楽しませてくれていいんじゃない?
だってここはゲームの世界。
こんなのまだまだ序の口でしょ。
戦国乱世が舞台の世界だけど、きっとどうにかやって行ける。


宜しく、チカちゃん♪



(終わり)



後書き
勢いに乗じてまたもや書き始めてしまいました、はっはっは!しかも元親格好良くない・・・。
私の目指したアニキは私の小説には現れてくれなかった(苦笑)1話完結型で頑張ります。


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