・・・!おい、!!しっかりしろ!さっさと目ぇ覚ましやがれ!!」
「・・・ん?・・・あれ?・・・??」

何故だかガクガクと体が揺れている。
そして体に海風に似た爽やかな風を感じた。
薄っすらと瞼を開ければ、目に飛び込んで来たのは、
明らかに誰かに抱えられて走っているらしい動く風景。
と、それが『誰か』はすぐに分かった。
私の視線の先、ほぼ至近距離、左目に眼帯のチカのアップ。

「わお、これって、俗に言う姫だっこじゃない。チカ大胆!とうとう獣モードon?」
「馬鹿野郎!!!誰がだ!!やっと目ぇ覚ましたかと思えば、おめぇはよ!!」

チカは私を腕に抱いたまま、恐らく全速力に近い位のスピードで走っていた。
だけどツッコミだけはきっちり忘れない。
そんなキミが愛しいよ、チカ。

「アニキ!!!あそこはまだ奴らが居ねぇ!!一旦さんを下ろして、逃走経路を考えやしょう!」
「おうよ!!野郎共、遅れんじゃねぇぜ!!」

「「「「おう!!!」」」」

今の状況を全く理解できないままの私。
辺りに視線を彷徨わせた結果、ここがどこだかは大体理解出来た。
嫌でも理解せざる得なかったとも言えるかもしれない。
珍妙で成金趣味。
和風なのか洋風なのか分からない装飾品。
大きな噴水の傍も通った。
チラリとしか見えなかったけど、噴水の中央にあった銅像、間違いない、ザビーだ。

「おい、、ちょいとこの辺で下ろすぜ。」
「ん。ねぇ、チカ、ここって・・・ザビー城内よね?何でこんな所に居る訳?」

チカの腕から下ろされて、ゆっくり地面に足をつきながら、
私は周囲に目を走らせて言った。

「・・・って、おめぇ覚えてねぇのか?俺を待ってる間に、
あのクソッタレ南蛮人に掻っ攫われちまったんだろうがよ。」
「ああ、そう言えば・・・勧誘されたわね。思いっきりお断りしたんだけど、
実はその後の記憶がぶっつり無くて。いやいや、このさんとしたことが、油断したわ、うん。」
「油断した、じゃねぇ!・・・・ああ、いや、今回はおめぇばかりに非があったとは言えねぇな・・・。」

そう言って、チカは少しだけ私から視線を外した。
眉間にしわを寄せて、小さく溜息を吐いてから、彼はまた続けた。

「怪我はねぇか?・・・おかしなこたぁされちゃいねぇようだが。」
「あ、それは平気。変な薬は嗅がされたっぽいけど、怪我はないわね。」
「眠らされてたみてぇだな・・・、ちぃっ・・・ふざけた真似しやがって・・・。」

チカはそう不機嫌そのものの口調で吐き捨てるみたいに言った。
察するに、かなり私を心配してくれた様だ。
そう思うと、思わず口元が緩んでしまう。

「アアン?何だぁ?何いきなりニヤついた顔してやがんだ?。」
「ほっほ、別に。あ、それよりこっから抜け出すの、真っ直ぐ突き進んで行くしかない筈よ。」

言って、私は正面に伸びる廊下を指差した。
それと殆ど同じ位に、チカの部下が声を上げる。

「アニキ!!!追っ手が、追っ手が来やしたぜ!!!」
「ちぃっ、前に進む道しかねぇなら行くしかねぇだろ!
おい、野郎共!!俺について来い!!!」

チカの声に皆がお決まりに威勢のいい声で答える。
彼はまた私の手を取って、正面の廊下に向かって走り始めた。

!!おめぇはアイツらと戦いになったら俺の後ろに隠れてろ!
絶対ぇに離れるんじゃねぇぞ!!いいな?」
「了解!」

それは結構美味しいポジション。
と、頭の片隅で思ってしまった事をチカに悟られないように真面目くさった顔で返事をして、
私は大きく首を縦に振った。
追っ手を振り切る為にかなりのスピードで走りながら、私は彼の後姿に視線を向け続けていた。

「いやー、しかしさんが無事で良かった。アニキと合流したからにはもう心配いりやせんぜ!
・・・・くく、アニキのさんが居なくなったって気付いた時の顔は、今までで一番の動揺で・・・。」

不意に私の斜め隣を走っていたチカの部下がそう言ってヒソヒソと声を掛けて来た。
さすがチカの部下、腹筋が六つに割れているだけはある、全速力で走りながら、
これだけ長い台詞を口に出来るのだから。

「・・・そう、チカ、そんなに・・・心配してた?」

私は途切れ途切れにそう返す。
まだそこまで疲れてはいないけど、走りながらの会話はやっぱり少し厳しい。
さんもまだまだ修行が足りないってヤツだ。

「そりゃもう!危うく日焼けしちまいそうになった時より、
いや、もう比べ物になんなかったですぜ!」

走りながらも興奮しているらしい彼が声を上げてそう言った。
途端に、前を走っていたチカがジロリとこっちに視線を向ける。

「おう!!おめぇ、コイツに余計なこと言ってんじゃねぇだろうなぁ?」
「げ、アニキ、いえ、とんでもありやせん!!!!」

慌てて首を左右に振り回し、否定しているチカの部下。
走りながらにしては器用としか言えない。
チカは彼から私に目を移して、何故か私の手を握る手に力を込めた。

「チカ?」
「悪かったな、・・・。
馴染みの港なんて言っときながら、おめぇを危険な目に合わせちまってよ。」
「別に、こうなったのは・・・キミのせいじゃないでしょ・・・。」
「いや、女一人守れねぇようじゃ四海の鬼の名が泣くってもんだぜ。」

彼はそう言ってまた視線を私から正面に移動させた。

「・・・・・・・・・・・・・・ねぇチカ。」

チカの腕をグイっと引っ張って、足を止める私。
反動で彼はほんの一瞬バランスを崩した。

「あ!?イデぇっ!!!!おめぇいきなり立ち止まるんじゃねぇ!!!」
「ねぇチカ、ここから脱出したら、キスしてくれる?
そしたら今回のことは水に流してあ・げ・る!わお、さん太っ腹!」
「んだぁ!?鱚・・・って・・・お前、こないだのこと言ってやがんのか?」
「またそのベタな返しする所がチカだよね。」

声を上げて笑いながら返事をした私を彼はジロリと睨みつける。
そして、いきなり片手の武器の大きな碇を、ジャラ、と、振り回した。

、おめぇが下らねぇ話なんざ持ち出しやがるから、追手の奴らに追いつかれちまったぜ。
ったく、俺達だけならまだしも、おめぇが居るから必死で撒いてやってりゃ、おめぇはよ・・・。」


―ザッ。


チカの言うとおり、気付けばいつの間にか私たちの周囲をザビー教の信者が取り囲んでいた。
だけど、チカの口元には何処か嬉々とした笑み。

「さぁ、貴方方も我々と共にザビー様への愛を叫びましょう!」
「野郎共!!嵐よりも激しく暴れてやれ!!このイカレた奴らにちょいと痛い目見せてやるぜ!!」

「「「「「おおお!!任して下さい!アニキ!!!」」」」」


部下たちの返事と一緒に、チカは長い脚をビュッと音を立てて振り上げた。
その背後。
私は思わず息を呑む。
ゲーム画面なんて比べ物にならない、絵になる程見事な。

「おい、!俺から離れんじゃねぇぞ!!」
「分かった。」

私が頷くのを確認しながら、チカが蹴りで5,6人の信者を吹っ飛ばす。
さすがBASARAの世界。
アクションシーンは魅せてくれる。
違う、ここはチカだから、と、言っておくか。

、先にさっきの返事をしておいてやらぁ。」
「え?何?」

武器で信者達数十人単位を攻撃しつつ、チカが振り向くことなく私に言う。
だけどチカの大声も、今度ばかりは周囲の声と音でかき消されそうな状態だった。

「チカ?何?聞こえないわ!」

チカの背中に隠れる様にしてどうにか彼について行きながら、
私も声を大きくして返事をする。


―ジャラッッ。


チカの武器がいつもより更に大きく音をたてた。


「船に戻ったら覚悟しとけよ、
この間みてぇな中途半端な口付けは、俺は絶対ぇ許さねぇぜ。」


彼のその台詞は、周囲の音のせいで私の耳にはハッキリ届かなかった。
結局、チカの言った言葉できちんと私の耳に聞こえたのは、この後の台詞だけ。


「ま、安心しろ、あのクソッタレ南蛮人には、
いつかの借りも含めてどーんと礼を返してやっから。」



(続く)


後書き
本当はサンデーたちも出したい所だったんですが、
全体的に長くなってヤバそうだったので断念。後編も同じ位短い・・・予定です。
そして後編はヒロインに遊ばれるだけのアニキじゃない・・・筈。
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございます。失礼致します。


ブラウザバック推奨