深夜。
穏やかな暗い夜の波間に、満月がきらきらと光を反射させている。
どうしてもすぐに寝付くことの出来なかった私は、自分の船室から出ると、
海を眺めながら夜空を見つめていた。
いつもより薄着で出たせいか、ほんの少しだけ肌寒い気がする。
私はすぐ傍に置いてある大きな樽の上よじ登り、そこに腰掛けることにした。


「おい!、おめぇそんなとこで何してやがる!?」
「!?えっ?」


―グラリ。

あまりに突然にチカから怒鳴られたものだから、一瞬バランスを崩す私。
咄嗟に手を伸ばして何かを掴もうとしたら、その手と私の腰辺りをチカが素早く支えてくれた。
そうでなければ、もしかしたら海に落ちてしまっていたかもしれない。
さすがにこの時ばかりはこのさんも、素で焦ったわ、ホント。

「・・・ビックリ、した。」
「それはこっちの台詞だろうが!ビビらせやがって!」
「この樽に座ろうとしてた所をチカに怒鳴られて驚いたのよ。」
「アアン?樽に座ろうとしてただと?・・・ちぃっ、紛らわしい事しやがって・・・」

言ったチカが、ハァーー、と、深い溜息と一緒に脱力して、
頭を垂れると私の肩に額を押し付けた。
綺麗な銀髪が月の光で波と同じようにきらきらと輝いてるのが、私の目に飛び込んでくる。
結局最初の目的どおりに樽に座った形になった私は、
少し屈んだ彼と同じくらいの目の高さに居た。


「・・・海に・・・・還っちまうのかと思ったぜ・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・え?」


チカの銀色の髪に手で触れてみようとしたその瞬間。
彼が、殆ど聞き取れるか聞き取れないかの声で、そう呟いた。

「チカ、今・・・・」
「何でもねぇ。」

ぶっきらぼうに返したチカは、そのまま私から少しだけ体を離した。
その視線が不意に私の襟元辺りで止まる。

「おい、思いっきり前肌蹴てるぜ、。」

言われて、私はチカと同じく自分の体に視線を下ろした。
がっぽり。
開かれている胸元。

「わお、さんお色気ムンムンONになってたわ。
あ、もしかして今度こそ獣化?大丈夫よ、私はいつでもこの『ねぇ胸』で受け止めてあげるから!」
「・・・・・・・・・・おめぇ実は結構根に持ってやがるだろ?」
「ほっほ!」

珍しく鋭いじゃないか、チカ。
港で彼に腕を回していた綺麗どころのモデル体系を目にしてから、
自分の胸の無さが以前より気になるようになった。
と、言うのが本当のところだけど、それは今は口にしない。
胸元をさっさと直そうと、私は自分の襟元に手を伸ばした。

「?チカ?」

瞬間。
何故かチカがその私の手首を片手で掴む。

「よぉ、いつでもそのねぇ胸で受け止めてくれるんじゃなかったのか?。」

言ったチカの空いた片手が、
がっぽり空いている私の胸元に何の躊躇いもなく差し入れられる。
私は思わず樽の上でビクリと体を跳ねさせてしまった。

「チカ?わお、本気で獣化?」
「今更おめぇがそれを聞くんじゃねぇ・・・。」

彼はそう言って、私の首筋に喰らいつくみたいに唇を押し付けてきた。
実際、ほんの少し歯を立てているらしい、吸い付かれるのとは別の痛みを感じる。
そうしながら、チカは着物の襟から差し入れた掌で、
私の『ねぇ胸』をゆっくりと撫で回し始めた。

「・・・チカ・・・っ・・・待って、さすがに・・・ここでは・・・ァっ・・・!」
「アアン?ここまで来てこの俺が我慢できる訳ねぇだろうが。
・・・安心しろ、こっちにゃ野郎共は来ねぇよ。ああ、でも今回は声は抑えた方がいいかもな・・・。」

そんな言葉を口にしつつ、チカの掌が、こねる様にして私の胸元を揉んでいる。
危うく声を上げそうになるのを必死で堪え、私は溜息に近いものを漏らした。

「・・・っ・・ふ・・・・」
「さすがに大人しくなったじゃねぇか・・・。
いつもの減らず口が出てこねぇ程イイか?俺はただ手ぇ動かしてるだけだぜ。」
「・・・急展開過ぎて、・・・驚いてるだけ・・・。・・・・・ァっ・・・!」

予想外の急展開。
まさかいつもの軽口にチカが乗ってくるとは思わなくて、
私は少なからず混乱していた。
それでも、チカに触れられるのは嫌じゃない。
全然、嫌じゃない。
女として素直に反応しているのも事実。
これはさん、ちょっとばかし深入りし過ぎたのかもしれない。
まだ、私の中の複雑な感情に答えが出た訳じゃないのに。

、おめぇのねぇ胸も、揉んでりゃその内デカくなるだろうぜ。
ま、安心しろ、俺が手伝ってやっから。」
「チカ、エロ親父の発想。」
「るせぇ、口開いたと思ったらそれか、おめぇは。」
「・・・んっ・・・・・」

言いざま、チカの唇が私の唇を乱暴に塞ぐ。
いつかのキス以上に、噛み付くみたいな、食い千切られそうなキス。
チカの裸の上半身に、私の露出した肌が直に密着させられる。
私の胸の先端がきゅ、と、形を変えて彼の胸板で潰れた。
さっきまで肌寒さを感じていた筈の私の体が、今は汗ばんでいる。
私は自分からチカの後頭部に腕を回すと、彼の銀髪に掌を埋めた。
口内に挿し入れられたチカの舌が、私の舌を絡め取る。
私はそれに応える形で少しだけ首の角度を変えた。
私の口内を荒らし回る様に動いていたチカの舌が、不意に、その動きを止める。
彼はほんの少し、私の唇から距離を取ると、囁く様にして言った。


「この鬼を食らえる女が居るとしたら、おめぇだけかもしれねぇぜ、・・・。」


瞬間。
私を見つめるチカの眼差しは、驚くほど優しくて、そして真剣だった。
わお、チカってば私に惚れた?
いつもなら絶対口にしてる筈の軽口も、この時はどうしても出てこなかった。
代わりに、胸の奥が妙に甘い、灼けつくような痺れを感じたのが分かる。
樽に腰掛けている私の膝裏にチカが手を移動させ、太腿まで着物をたくしあげた。
元々短くしていた着物の丈が、ミニスカート並みになる。

「脚には自信があるのよ、さんは。脚線美ってやつ?」
「・・・どこまでも色気のねぇ会話をお望みらしいな、おめぇはよ。」
「じゃなきゃ、スゴイ声上げそうだから・・・ね。」

素直に本音を口にする私。
少し驚いたみたいにチカは私を見つめて、それから笑って言った。

「はっはー!やっぱりその気あるんじゃねぇか。」
「・・・それは否定しないわ、でも、ここでは嫌だってこと。これでもヲトメですから。」
「いい年こいてよく言うぜ。」
「キミとそう変わらないでしょ。・・・・ンぁっ・・・・・!」

会話途中。
いきなりチカが私の胸元に屈みこみ、胸の先端を口に含んだ。


ビクン。


反応して、私の体が自然と大きく震える。
油断していたこともあって、声を上げそうになった所で、
チカの大きな掌が私の口を覆った。
そして彼は口に含んだ胸の突起を転がす様にして弄び始める。
体に弱い電流が何度も走るみたいな感覚に襲われながら、
私は荒くなっていく息をどうすることも出来なかった。

「ふっ・・・ん・・・チ・・・カ・・・」
、おめぇも色気のある声出せるんじゃねぇか。それだけで十分イっちまえるってもんだぜ。」

そう言って、彼がとうとう私の着物の腰紐を本格的に解いていしまおうとした、その時。


「アニキーー!!アニキ!!何処に居るんですか!?
ちょっと厄介事が持ち上がっちまった!アニキー!!!」
「・・・げ、マジかよ。」


私たちの居る場所から少し離れた所から、チカを呼ぶ部下の声。
チカは素早く私から体を離して、同じ位素早く私の着物の乱れを直してくれた。

「おぅ!!俺はここだ!!すぐ行くからちっとばっかり待ってろ!!」
「へい!!待ってやすぜ!アニキ!!」

返事と一緒にドタドタと部下が遠ざかっていく足音が聞こえた。
チカがホッとした様な溜息を吐いて、また私に視線を戻す。

「ちぃっ、仕方ねぇ、今回はお預けだぜ。」
「・・・続きは屋外羞恥プレイ以外でヨロシク。」
「はっはー!言ってろ。・・・それより、今日はもう自分の部屋に戻るんだな。
そんな格好でふらふら歩き回って他の野郎に出くわすんじゃねぇぞ。」
「モトチカ、ケダモノ!第2号に遭遇したら大変だしね。」
「るせぇ!さっさと戻りやがれ!」

ケラケラ。
と、チカの返事に笑って答える私。

「大人しく戻りますか。じゃあね、チカ。」

言って、樽から飛び降りると、私は彼に背中を向けた。
それと同時に、またもチカに呼び止められる。

・・・。」
「え?」

足を止めて振り返ってみると、チカは何か言いたげな顔で口を開きかけた。
でもすぐに首を小さく左右に振ると、ひらひらと手を振る。

「んでもねぇ・・・、あばよ。」
「?じゃあね。」

彼は私が船室に戻るのを見送った後、部下の所に向かったみたいだった。


ねぇチカ、キミは怒るかもしれないけど、やっぱり私、
自分でも今の私とチカの関係がよく分からない。

私にとって、ここはゲームの世界。
楽しめればそれでいい、そう、思ってた。
でも、キミと過ごす時間が長くなればなるほどに、気持ちが複雑な物に変わっていく。


キミが私に触れる事、求める事、正直素直に嬉しかった。

それでも、これが『恋』と結びつくものなのか、答えが出ない。
深刻に考えるのは苦手。


ねぇ、チカ、こんな私の本心を知ってしまっても、
キミは私をあんなに優しい瞳で見つめてくれる?


(終わり)



後書き
わーー!とうとうやってしまった、元親で微エロ。
ですがヒロインの性質上、余り甘い物に仕上がらなくて申し訳ありません・・・。
しかも下品な発言が・・・・・・・・。
では、ここまでのお付き合い、誠に有難うございました!失礼致します。


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