「ちぃっ・・・胸クソ悪ぃっ・・・!」

―ガッ!

チカを追って船室に向かおうとしたその途中。
船室に入る手前。
死角になるその場所から、チカの不機嫌極まりない声と、
何かを蹴ったらしい(見えなくても蹴ったと断言できるわよ、さんは。)音。
私はそこへ、ひょいっと顔を覗かせてみた。
案の定、大樽に足を引っ掛けて、しかめっ面状態のチカを発見。
さん相変わらず冴えてる、冴えてる。

「チカ、何が胸クソ悪いって?」
「・・・アアン?んだぁ?、おめぇ・・・何しにきやがった?
客人の相手してんじゃなかったのか。」

私に声を掛けられて、ジロリと視線を此方に向けるチカ。
その顔で睨まれるのは結構迫力満点。
だけどさん、もうその瞳には慣れっこだったりする訳だ。

「うんうん、そのつもりだったんだけど、拗ねてる鬼っこが居たからさ。」
「誰が拗ねてるだァ!?」
「あ、間違えた、ヤキモチって言った方が良かった?」
「るせぇ!!拗ねてなんざいねぇ、ヤキモチなんざもっと妬いてねぇ!!」

怒鳴るチカ。
それさえ格好いい、可愛い、と思っている私は、もう治し様がない重度の病気なんだろうか。

「ちぃっ・・・俺のことなんざ放っといて、おめぇはあの独眼竜の相手でもしてろ。
「・・・・・・・・・・分かった。」

答えて、くるり、私はまた、チカに背中を向ける。
そして私が一歩、踏み出した、瞬間。

、おめぇ・・・クソっ、待ちやがれ!」

呆気なくチカの傍を離れようとする私を、チカが焦った様に呼び止めた。
ここで吹き出しちゃ、いけないのが肝心。
私はまた、彼の方に振り返る。

「何?チカ。」
「・・・・・・・・おめぇ、本気でアイツの所に戻るつもりか?」
「わおわお、チカが行けって言ったんじゃない。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「っブッ・・・あははははは・・・!」

我慢しきれず私は声を上げて笑ってしまった。
チカのあんな顔、初めて見るかもしれない。

「なっ!?!おめぇ俺をハメやがったな!?」
「ないない・・・!・・・とも言えない・・・かな?」

言った私に、チカはまたジロリと睨みを利かせ、つかつか私の傍までやって来た。

「馬鹿にしてんのか?。」
「馬鹿にはしてないけど、チカちゃんが素直じゃないからさん困っちゃって。」

にっこり。
笑顔で答えた私を、チカはジッと見下ろした後、小さな溜息を漏らした。

「・・・・・・・・・・・、ひとつだけ聞かせろ。」
「ん?何?ひとつと言わず幾つでもどうぞ。」
「・・・・もしもあの独眼竜と・・・前にここで俺とあった同じ状況になっちまったとしたら・・・、
おめぇは・・・・・・アイツを受け入れんのか?」
「・・・・・・・・前に、ここで・・・。」

オウム返しに口にしつつ、私は視線を大樽に向ける。
彼の言いたい事は、すぐに理解できた。
狼なチカと赤ずきんなさんの図。
ま、それは誇張し過ぎだとして、彼が言いたいのはこないだ私と『そう言う関係』
一歩手前、よりちょっと手前、になったあの夜のことだと思う。
つまり、あのチカの居た場所が、政宗になって、彼とああ言う展開になったとして。
わお、わーお、美味しいかも!
と、思わなくもないけれど、今回はさん、真面目に考えてみた。
さっきの政宗からの不意打ちキス。
正直、嫌悪感は無かった。
勿論咄嗟の事でそんな判断さえ出来ない状況ではあった訳だけど。
だから何だかんだでときめきもした。
だけどそれはちょっと失礼な話し、『政宗に』と言うよりも、あの綺麗な顔立ちに、な気がする。
BASARAの政宗にキスされるなんてラッキー、とは思っても、その先へ進みたいかなんて考えもしなかった。
美形のしかも好きキャラだから、私は嫌悪感を感じなかった。
でも、ここでのチカとの出来事は違う。
『チカだから』私は受け入れた、その気にもなった。
何故か、それだけはハッキリと言える。
ああ、さん、ヤバい所まで来てるって自覚を、そろそろ本格的にするべきか。

「チカ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

名前を呼んでも無言のまま、眉間にしわを寄せている彼。
私は一歩、チカの前に進み出た。
そして、そのまま踵を上げる。

ちゅ。


私はわざと音をたてて、啄ばむ様にしてチカの唇に吸い付いた。
一瞬。
チカが硬直したのが分かる。
私から攻めに回った時のチカは、純情小僧の顔を見せてくれることが多い。

「なっ・・・!おめぇ、突然何しやがる・・・!?」
「・・・あのね、チカ、政宗とはチカとあったことと同じ状況にはならないし、なれないと思うわ。
あ、別に同じ場所に寝泊りしてないからとか、そう言う意味じゃなくて。」
「?・・・じゃあどう言う意味だ?」
「ふっ、女の口からそれを言わせるつもり?」
・・・おめぇって女はつくづくふざけるのが好きなヤツの様だなぁ?あぁ?」

シリアスな空気が肌に合わない私。
思わず出た私の台詞に、チカの表情が機嫌の悪い時のものから呆れた表情へと変わる。
さっきより少し、機嫌が直ったのかもしれない。

「私はチカの傍だから安心して無防備で居られる。
チカだからこうやって自分からも触れたいと思う。
それを他の人に置き換えることなんか、想像もしなかったわよ。」
・・・・・・・・・・・・。」

よしよし、珍しくきちんと返答出来たか、私。
自分自身に満足しつつ、私はチカの銀髪に手を伸ばす。

「どうだね?チカくん、満足した?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

チカは少しの間黙ったまま私をジッと見つめて、
不意に、彼の髪に触れている私の手を掴んだ。
そして私の手を掴んだまま、少し乱暴な動きで私の体を壁に押し付けた。
見上げれば、私の視界に入るのは息が吹きかかる程近くにある彼の顔。

「足りねぇな・・・・・・、そんな言葉程度で、この俺が満足出来る訳がねぇ・・・。」

言い終えた直後、彼が私の唇に喰らいつく。
私の呼吸を、全部、もって行かれそうな程の勢い。
彼の吐息が逆流して私の喉を焦がしている様な感覚さえ覚えた。
息苦しさとは別の、妙な切なさが私を襲う。
荒々しいのに、どこか優しさを感じずにはいられない、チカのキス。
お互いの唇から溢れ始めた半透明の液を、チカは私の唇から顎にかけて辿る様にして舐め取った。
まるで、銀色の鬣(たてがみ)を持つ獅子みたいだ。
と、チカが突然複雑極まりない表情で私から体を離した。

「・・・考えたくもねぇけどよ・・・、気分的に俺ぁ今独眼竜の奴と・・・。」
「ああ、間接キスって?」
!おめぇ嬉しそうに言ってんじゃねぇ!!!」

チカのいつもの怒鳴り声。
完全に機嫌が直った。

「チカ、そろそろ戻った方がいいかもよ。『野郎共』も心配してたし。・・・・・・チカ?」
「・・・今の口付けで火がついちまったぜ・・・、おぅ、、鎮めちゃくれねぇか?」
「わおわおわーお!今のさんの言葉聞いてた?」

私がそう言っている間に、チカの唇がゆっくり首筋に降りてくる。
ゾクリ。
その瞬間に背中に駆け抜ける妙な感覚。
こないだの時と同じように、彼は私の首筋に少しだけ歯を立てているみたいだった。
チカの掌が、着物の上から私の胸の形を確かめるようにして動き始める。

「誰にも・・・触れさせンじゃねぇぞ・・・・・・。」

彼は私の唇と自分の唇を殆どスレスレの状態で触れ合わせて、
隻眼の瞳でジッと私を見つめて言った。

「え・・・?」
「おめぇの『ねぇ胸』をデカくすんのは俺の役目だってことよ。」

言いざま、また、唇に喰らいつかれる。
私の太腿を割って、絡められるチカの脚。
ピチャ。
重なったお互いの唇の奥から、水音が聞こえ始める。
でも、さすがに今はこの状況に流されていい時とは言えない。
幾ら何でも政宗たちをあのまま放っておくのは失礼ってもんだ。
私がどうにかそれをチカに伝えようと少しだけ身じろぎした、その時。

「AH-HA・・・なぁ、小十郎、この先に進んじまうと嫌な予感がするんだが、Did I imagine it?」
                                 (気のせいか?)
「そう思われるならここまで足を運ばずとも良かったのではありませんか?
あの鬼の坊やが大人しくを一人で此方に向かわせるとも思えません。」
「I see.I see.っつーことらしいが、実際はどうだ?四国の鬼。」

「!!」

唐突にこっちに話を振った政宗。
多分最初から私たちがここ居ることは分かって居たんだと思う。
独眼竜は伊達じゃない。
さん、さすがに驚いたわよ。

「ちぃっ、おめぇ分かってて邪魔しにきやがったな?独眼竜。」

言って、チカは諦めた様にして政宗と小十郎の前に進み出た。
私もその後に続く。

「クックック・・・こんな所で俺達を放っておいてお楽しみにシケこまれたんじゃ、
こっちの立場がねぇからな。それとも、それがアンタの礼儀かい?」
「・・・・ったく、それ相応のことしでかしといてよく言いやがる・・・。
まぁいい、悪かったな・・・。遠方からの客人だ、
もてなし代わりに野郎共も交えて飲み比べと行こうじゃねぇか。」

チカはそう答えると、宴の会場になっている甲板に向かう。
4人揃って宴の席に戻ると、伊達も長曽我部も入り乱れた『野郎共』が威勢の言い声で迎えてくれた。

「おぅ!野郎共!仕切りなおしだ!!今夜は船中の酒かっ喰らう勢いで客人持て成してやれ!
まずはどーんと酒持って来やがれ!!!海の男が酒にも戦にも強いってのを、見せ付けてやんな!!」
「HAHAHA!おめぇら!!鬼の手下に負けてんじゃねぇぞ!!」

「「「「「「アニキーー!!!」」」」」
「「「「「「筆頭!!!ブッこんでいきます!!」」」」」

船中と言うより、海周辺まで響き渡りそうなやり取り。
ゲームそのままの彼らの姿に私は声を上げて笑い、宴の席に戻る事にした。

、おめぇはそっちじゃなくてこっちに座ってろ。」

チカにそう言われた場所は、さっき私が席を離れる前に座っていた場所とは反対側。
チカは私の隣に居るけど、政宗は私の隣じゃない。
つまり、両手に眼帯コンビ、ならず。

「おいおい、を俺から遠ざけるこたねぇだろ?何警戒してんだ。」
「るせぇ!どの面下げて言ってやがんだ、おめぇは?」
「はーい、さん思うにチカも十分危険だと思いまーす!」
「はっはっは、違いねぇ。、なんならおめぇ、俺の所に来るか?」

おっとぉ、これは嬉しいお申し出。
私はそそくさと立ち上がると、素早く小十郎の隣(念の為政宗の居る方とは反対側)に座る。

!おめぇ嬉しそうに移動してんじゃねぇ!」
「OH!しかも俺の隣はわざと外しやがったな?」
「ほっほ!二人とも大人の男の魅力と渋さを身につけて出直して来なさい!」
「くっく・・・やっぱりおめぇはいい性格してるぜ、。」

ちゃっかり小十郎のお酒のお酌をさせて貰いながら、
私はまた、BASARAファンとして美味し過ぎる位置をキープすることに成功した。



ねぇ、チカ、今回の件で、私はキミへのこの複雑な感情を、少しずつ理解し始めてる気がする。
自惚れ出なければ、キミもきっと、私と同じ気持ちでいてくれてる筈。
だけどお互い、今はまだ、ハッキリと口には出来ないんだね。


この気持ちが『恋』だとは。



(終わり)


後書き
後半えらい長くなってしまいました・・・。
私の書く政宗にしては今回結構控えめだった気がします。
ではでは、今回はここまでのお付き合い、誠に有難うございました!


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