未だに荒れ狂いやがる波に、空には厚い雲が立ち込め、雨風が激しく俺と野郎共達を打ちつける。
嵐なんざこれまで何度も経験しちゃ居るが、
舐めてかかると痛ぇ目を見ることも珍しかねぇ。
だが、どうにか船がぶっ壊れちまう様な状況だけは乗り切れた所だった。
「アニキ!!!こっちはもう大丈夫ですぜ!さんとこに行って下さい!」
「そうだ、アニキ!!ここは俺らに任せて、さんを!!」
「そうしてくれ!アニキ!」
「・・・・・・・・オメェら・・・。」
野郎ばかりのこの船で、紅一点の。
あの掴みっどころのねぇ性格に、それでいて憎めねぇ女。
いつの間にかアイツは、俺だけでなく野郎共の心もしっかりと掴んでいやがった。
大した女だぜ、ったく。
「おぅよ、んじゃ、おめぇらの言葉に甘えさせてもらうとすっか。
おぅ!!野郎共!後はおめぇらに任せる!気合入れてこの嵐!!飼い慣らす勢いでいけよ!!」
「「「「「「「任せてくだせぇ!!アニキーーーー!!!」」」」」」
野郎共がいつもながらいい返事で俺に答えた。
俺は片手を挙げてあいつらに返し、ずぶ濡れのまま船室に向かう。
船は風を受けてゆらゆらと揺れていた。
「・・・おぅ、・・・・!俺だ、入るぞ。」
の船室前。
いつもならわざわざ声をかけることなんざしねぇ俺が、
船室の戸の手前で無意識に口を開いちまっていた。
中からの反応はねぇ。
俺はそれ以上声をかけずに船室の戸を開ける。
―ばさばさばさっ。
「モトチカ!モトチカ!」
「どわぁっ!!!!」
戸を開けるのを狙っていた様に、俺のオウムが面目掛けて飛んできやがった。
そしてアイツは俺の頭上をぐるりと小さく旋回すると、部屋の隅に向かって飛んでいく。
「・・・・・・・アアン??おい!!!!」
アイツが飛んで行ったその先にはが蹲るようにして座っていた。
俺は急いでに近寄り、両肩を揺さぶる。
「・・・・・・・わお、チカ!」
俺の存在にやっと気付きやがったらしいは、いつものふざけた調子で俺を見上げた。
「わお、じゃねぇっ!何してやがんだ!?おめぇは!」
「え?あははは・・・!別に、ちょっと考え事・・・。」
「ビビらせんじゃねぇ・・・・・・・・・よ。」
そこで俺はの肩から掌に感じる僅かな振動に気付いた。
震えてやがる。
間違いねぇ。
「おい、・・・・おめぇ・・・・。」
「何かな?チカ君。おっと、この暗がりでケダモノ化!?」
必死でいつも通りの軽口を叩くアイツに、俺は心の底で自分自身に怒鳴り声を上げていた。
クソッタレが!!!大事な女に無理させちまってたことぐれぇさっさと気づきやがれ!!!
「・・・・!」
「っ!?チカ・・・・・・・・・・・・??」
両肩に置いたままだった手でを引き寄せると、俺は自分の胸にアイツの顔を押し付ける。
アイツの震えはさっきよりゃ収まったようだが、それでも完全とは言えなかった。
嵐を恐れてたのは俺だけじゃねぇ。
嵐の日を特別に思ってたのは俺だけじゃねぇ。
それでないさえコイツは女だ、海の上で嵐に襲われる恐怖心があったとしても全く不思議じゃねぇ筈だ。
これで何度目だ!?俺は何度おめぇにそうやって強がったふりさせて、
勝手に安心しちまってたんだ!?
今更だが、俺は俺自身への怒りと情けなさで一杯になっていた。
俺の胸に顔を押し付けたままの状況で、の奴は半分呻くみてぇに口を開く。
「ちょっ・・・この体勢は苦しい・・・・、チカ・・・?」
「すまねぇ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・え?何謝ってんの!?あ、ねぇ胸って言ったこと!?」
「そうじゃねぇだろうが!!どう考えても今の状況でそんなこと言うかよ!!」
どこまでコイツは俺に弱みをみせねぇつもりだ。
咄嗟にツッコンじまう俺も俺だ。
俺はデケェ溜息を吐くと、アイツの肩を抱く手に力を込めた。
「・・・・・・・・・・おめぇの不安に気付いてやれなくて悪かったつってんだろうが。」
「チカ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
俺の名前を呼んだが、いつものふざけた表情からようやく真剣な顔つきに変わる。
アイツはそれから少しの間無言で俺を見上げた後、自分から俺の身体に腕を回してきた。
「このさんとしたことが、嵐が来ると・・・・弱気になってさ。
・・・・・・・・・でも、嵐の雨や風が怖いわけじゃない・・・・・・・。揺れる船が怖いわけでもない・・・・。
チカ、私は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が怖いのは・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・ああ、分かってる。俺と同じこと考えてたってことだろ。
ちぃっ、それにさえ気付けなかった俺も相当なクソッタレだぜ・・・・・・・・・・・・。」
の髪に唇を埋めながら、俺は呟くようにして返した。
―私が怖いのは・・・・
俺が怖いのは・・・
嵐に連れ去られてそのまま、離れ離れになってしまうかもしれないことだ。
「、おめぇが眠るまでここに居てやっから。今日はもう休め。」
「・・・・・・・・・うん。チカ、君の胸・・・貸してくれんでしょ?」
「ああん?当然だろうが。来い。」
「ん。」
俺は先に立ち上がると、の寝床に横になった。
アイツが入れる分だけ場所を空けてやると、
は華奢な身体を俺に密着させるようにして布団に滑り込んでくる。
甲板じゃまだ野郎共が嵐と喧嘩を繰広げてる最中だろう。
波の荒れも風雨も収まっちゃいねぇ筈だ。
それでも俺達の居るこの船室だけは、別世界のように思えちまっていた。
らしくねぇと感じながらも、それもの存在が俺の中でそれだけ膨れ上がっちまったんだと思うと、
それも悪かねぇと思った。
「チカ。」
「アアン?」
「さっきも思ったんだけど、君の心臓の音ってさ・・・心地いい。安心する。」
「・・・・・・・だったら好きなだけ聞かしてやらぁ。」
「あは、役得。」
は俺の胸に耳元を寄せたまま、小さく笑った。
いつもの軽い口ぶりだったが、表情からふざけてる訳じゃねぇってことは分かっていた。
の細い足が俺の脚に絡まってくる。
密着した場所から生まれた熱が、互いの体温を確実に上昇させてきやがった。
これが晴れて凪いだ平穏な夜なら、俺は俺の中にある欲望をにぶつけちまっていただろう。
実際、コイツは自分が思っているよりもずっと色気のある女だ。
腰も細ぇし確かに胸はねぇ。
それでも、には俺の雄としての本能を掻き立てちまうのに十分な雌の匂いが備わっていた。
こいつに「ケダモノ」扱いされんのは癪だが、それもあながち間違っちゃいねぇ訳だ。
けど何故か今だけは、がどんなに俺の胸に身体をすり付けようと、
俺の欲望は疼く事無く納まっていやがった。
ただ今はコイツが安心して眠りにつけばいいと、
俺の腕の中で無防備に寝息を立てて欲しいと、
そんな笑っちまうくらいちっぽけで、それでいて純粋なガキみてぇな考えしか頭になかった。
「モトチカ!モトチカ!」
「おぅ、オメェはちっとばっかし静かにしてろ!
・・・・・・・・・・・・・・・・いや、ま、おめぇにも世話になったんだけどよ・・・。」
いつの間にかの身体の震えも止まり、アイツが眠りに落ちた頃、
オウムが俺との上をぐるぐると旋回し始めた。
、嵐が来るたび、俺もおめぇも不安を完全に消す事なんざ出来ねぇだろう。
だが、今おめぇは俺の腕の中に居る。
今だけは先のことなんざ考えずに、おめぇの寝顔をただこうして眺めさせてくれ。
俺の鼓動に耳を傾けながら目を閉じた、おめぇのその寝顔を。
すまねぇ・・・野郎共・・・、もうちっとだけ・・・ここに居させてもらうぜ。
(嵐の夜はその鼓動を子守唄に)
後書き
どぉ!?久し振りに更新したためにちょっと内容が前思っていたのと違う(涙
しかもちょっとやっぱり元親視点は難しかった。
ではではここまでのお付き合い、誠に有難うございました。失礼致します。
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