「アニキ、今夜のしけは手強そうですねぇ!!波がいつもより高ぇや!」
「おぅよ!こりゃあ悪けりゃ一晩中かもしれねぇぜ。
野郎共、気合い入れてかかれよ!!!!」

「「「「「任せて下さい!アニキ!!!」」」」」

今夜の海は大荒れだ。
今は夕刻だが、俺にはそうハッキリと断言できた。
今更海のしけなんざ怖かねぇが、
嵐が来るとなると一言言っておかねぇといけねぇヤツが居る。
野郎共に粗方の指示を出し、俺は船室に向かった。

「わおわーお!チカ、何だかいつも以上に活気付いてるわね『野郎共』」

目的の船室に着くより早く、緊張感の欠片もねぇ間抜けた声が俺を呼び止めた。
俺は大きく溜息を吐き、ソイツの居る方向へ視線を向ける。

、何でンなとこに座りこんでやがんだ?おめぇは。」
「何か皆忙しそうで暇だから。あ、チカ、もしかして何か用?」

俺の歩いてきた廊下の右側、いやにデケぇ樽が並んだ丁度死角になるその場所に、
アイツは腰を下ろしていた。
立ち上がる気すらねぇのか、のヤツは座り込んだまま俺を見上げる。

「・・・おぅ、、今夜は嵐だ・・・、って訳で、船室から一歩も外に出るんじゃねぇぞ。」

嵐。
俺の一言にほんの一瞬だが、の眉がピクリと反応した様に思えた。
元々コイツはふざけた口ばかりを叩きたがる女だが、今回も例外とはいかねぇらしい。
表情が変わったのはそのたった一瞬で、気付いた時にはいつも通りのニヤけた面に戻っていた。

「ほっほ!アニキはこれから嵐と熱い死闘を繰広げる訳ね?」
「死闘?ああ、ま、嵐は舐めてかかると痛ぇめ見るからな・・・。
おい、おめぇ俺の言ったこと分かってンのか?絶対ぇ部屋から出るんじゃねぇぞ。」
「んー、了解、了解。」

は気のねぇ返事をしながら、視線を俺から逸らし、ひらひらと手を振った。
全く緊張感のねぇ女だ。
いや、それでも俺にはもうコイツが今何を考えているかぐれぇは分かっていた。

「安心しろ、俺が夜中にちょいとおめぇの様子見に行ってやっから。」
「わお、夜這い!?さん大ピーンチ!ご心配なく、キミのオウムに慰めて貰ってるから。」

そう答えると、はようやく立ち上がった。
俺はついでにを船室まで送ってやることにした。

コイツが来てから2,3度海のしけにぶちあたっちまったことがある。
俺はその度にコイツに船室から出るなと念を押して言っていた。
嵐。
その言葉に、俺の胸の奥が細波の様なざわめきを持つ。
ああ、分かってるさ、この細波の正体なんざ、な。
が俺達の前に現れたのは嵐の晩だ。
海を知り尽くした俺や野郎共さえ予測出来なかった、あの妙な嵐。
何の前触れもなく海が荒れ狂い、野郎共に指示を出す暇さえ無かった。
いつ高波に飲まれちまっても仕方の無い状況の中、野郎共の一人がを見つけ、
俺達はアイツを海から船へと助け出した。
あの大荒れの海を女が一人で泳いでいやがっただけでも十分おかしな出来事だったが、
助け上げられたを見て、俺は一瞬声も出せねぇ程ビビっちまった。
アイツが妙な格好してたってことも勿論だが、
(後々のヤツは「あれは水着と言うお色気装備なのよ、チカ。」
と意味の分からねぇ説明をしやがった。)
それよりも俺はの顔をよく知っていたからだった。
当然直接会った訳じゃねぇ。
あの嵐の晩が初対面だ。
だが、あの晩より一月ぐれぇ前から、俺はおかしな夢をよく見ていた。
見知らぬ女が俺に駆け寄り、笑顔で俺に何かを話しかけてくる。
決まってその夢は音も声も聞こえねぇ状態だった。
だから当然だが、話の内容は全く分からねぇ。
それでも、その夢を見ている間、俺の心は凪いだ海みてぇに穏やかな気分だった。
そうだ、もう言うまでもねぇだろう。
その夢に出てきた女がだ。

あの嵐の前の晩。
あの日も俺は夢を見た。
だが、今までと決定的に違った、その日の夢。
全く無音だった筈の夢が、その日だけはやけにハッキリ音も声も聞こえやがった。


――――――チカ、私はキミに会う為にこの世界に来たのよ。


あれから俺はその夢を見なくなっちまったが、それは俺の手の届くところにが居るからなのか、
他に理由があるからなのかなんざ全く分からねぇままだ。

馬鹿馬鹿しい話だぜ。
どこぞの御伽話じゃあるめぇしよ。

そう思うおうとする一方で、俺は女々しいぐれぇにその夢に願望を重ねちまってもいた。
夢の中のアイツのその台詞は、今でもハッキリと俺の耳に焼きついて離れねぇ。

なぁ、・・・俺はおめぇに―――――。


「チカ、何ボケッとしてるのかな?そろそろ戻らないとヤバいんじゃないの?
あ、私なら平気だから安心していいわよ。さん嵐なんかちっとも怖くありません。」
「・・・アアン?おぅ、ま、じゃあ後でな。」

嵐を怖くないとえらくきっぱり口にしたアイツの顔は、
いつも通り軽口叩きやがる時の態度と全く変わりなかった。
だが、今から考えりゃあその方が逆におかしかったと気付いてやるべきだったんだろう。
この時俺は嵐の間はの奴が船室から出る様子がねぇ事で安心しちまっていた。

有り得ねぇ程に情けねぇ話だが、テメェの不安が軽くなって、
の抱えたままの不安に目を向けてやることを怠ったって訳だ。


それを後々死ぬほど後悔した俺は、まったく情けねぇ男だぜ。


何だってあの時気付いてやれなかったか、なんてよ、後悔先に立たずたぁよく言ったもんだ。


(続く)



後書き
・・・・どどどどうしよう・・・。お初元親視点、普通に難しすぎました(涙)
後編・・・どうなるだろう・・・。話し自体は考えているのですが、
キャラ視点ってのは必要以上に考えることが増えてしまう為・・・。
・・・頑張ります。ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございました!


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