その後、私はどうやら当て身を喰らわされたらしく、気付けば甲板の上で、
柱に身体を縛り付けられてる上に、ご丁寧に両手と両足を縄で拘束されていると言う状況だった。
薄らと瞼を開けて周囲を見渡す。
見知ったチカの手下の野郎共の他、見慣れないゴツイ野郎共達も視界に入ってきた。
一触即発。
私が意識を失ってどの位経つかは謎だけど、場の雰囲気は最悪。
そりゃそうだ、チカの船は今まさに他の海賊に乗っ取られようとしてるんだから。
なんて、呑気な事を考えてる場合じゃないわね。
さすがのさんもいつものふざけた調子でやっていける状況じゃないのは分ってる。
何が最悪って、つまり、私自身が人質に取られてチカ達が手を出せない状態だってこと。
それは目覚めてすぐに周囲の雰囲気ですぐに理解できた。
「あらぁ?お目覚めの様ね、お嬢さん。」
クスクス。
私のすぐ側に立っていたらしい長髪のカマ大将が私の頬に手を伸ばして笑う。
自慢じゃないが美系は大好物だ。
だけど、コイツは無理。絶対無理。
それは相手がオカマだからとかそう言った意味じゃなく、
チカと敵対してる人間だからって理由が大きいんだと思う。
奴の指先が私の頬の一部に触れただけで背筋が嫌悪感でゾっとして、
私は咄嗟に眉間にしわを寄せてカマ男を睨みつけた。
「!!!大丈夫か!?・・・クソッ垂れが、ソイツに気安く触れるんじゃねぇ!!」
それと殆ど同時に、聞き慣れ過ぎた怒鳴り声が上がる。
チカだ。
私は視線をすぐに彼へと向けた。
「チカ!!」
「、・・・安心しろ!!こんな奴らなんざ俺と野郎共でぶっ倒して、
すぐにオメェを助け出してやる!」
「ハッ!この状況でよく言ってくれるねぇ、鬼小僧。
女一人まともに守れなかった男が、大口叩いてるんじゃないわよ。」
カマお頭がチカを冷ややかな視線で見つめて、鼻で笑う。
確かに状況は最悪で、チカ達の圧倒的不利。
だけど、私はチカの言葉がとても心強く感じていた。
チカなら大丈夫。
きっと助けてくれる。
どうにかしてくれる。
無条件でそう思えるのは、やっぱり愛の力ってヤツか。
「うるせぇ!!このカマ野郎!!
ここはこの鬼の庭だ!その庭を土足で踏みにじりやがった上に、
にまで手ぇ出しやがって・・・!テメェだけは絶対ぇ許さねぇっ!!」
「おやおや、よっぽどこの女が大事なんだね、鬼っこは。
この女は・・・そんなにイイの?ふぅん、興味有るわ、ワタシもお相手願おうかしら?」
言って、おネェなお頭は私の至近距離まで来ると、私の脇腹を撫でる様に掌で触れた。
「それ以上ソイツに手ぇ出してみやがれ・・・あんた、今までみてぇに生かしちゃやらねぇぜ?」
「フン、今のこの状況でお前に何が出来るの?下手な真似してみなさい。
お前の可愛い手下共は愚か、このお嬢さんの命もないわよ。」
私の体に手を這わせたまま、カマお頭は言った。
同時に、チカの野郎共を取り囲んでいる奴の部下が、ニヤニヤ嫌な笑いを浮かべているのが分かる。
私を人質に取られてるだけでなく、野郎共まで身動きの取れない状態だ。
「アニキ!!俺達はどうなっても構いやせん!!さんを助けてやって下さい!!」
「そうだぜ、アニキ!!凶風の連中なんかの言うなりにならないで下せぇ!!」
口々に叫ぶ野郎共。
「・・・・・・・・オメェら・・・。」
チカは眉間にしわを寄せて、呻くみたいな声を漏らして、拳を握る。
彼が可愛い野郎共を見捨てられる筈なんてない。
だからこそ、チカは慕われてきたんだから。
「相変わらず暑っ苦しいわねぇ、
お前達は。だけど、どんなにあがいても無駄よ。
この船はもうワタシ達の物。そうねぇ、この女もついでに頂いていこうかしら。
無駄に凹凸のある女は嫌いだけど、この少年体系、結構好みだわぁ。」
言いながら、オネェなお頭が私の胸元を厭らしい手つきでゆっくりと撫でまわした。
即座、生理的嫌悪感が私の体を駆け抜ける。
冗談じゃないぞ、このカマ男!
実はカマに見せかけてるだけなんて詐欺は許されない。
「っ!!ちょっと、このさんはそこまでお安い女じゃないんだけど!
さっきからなでなでなでなで!!
私にそうやって触っていい男は一人だけなのよ。絶対、断じて、キミみたいなオカマじゃないわ!」
「フフフ、言ってくれるじゃない。それは、あそこで無様に突っ立ってる鬼っこのこと?」
カマ大将が形のいい唇を曲げて愉快そうに笑う。
同時に馬鹿にして見下した様な瞳でチカを見た。
「てめぇ・・・汚ぇ手で俺の女に触るんじゃねぇ!!!」
―――ジャラッ
チカは武器の大碇の鎖を大きく鳴らして声をさっきよりも更に荒げた。
こんな時だってのにさん、思わずチカかっこいい!とウットリしてしまいそうになったほどだ。
当然そんな真似はせずに我慢したけど。
チカの怒りは多分今沸点直前だ。
ううん、直前じゃ済まされない。
オネェなお頭はケタケタと耳障りな笑い声を上げる。
「無様だねぇ、鬼っこ。どんなに吠えても現状は変わらないわよ?
この娘は頂いて行くわ。ワタシがたっぷり可愛がってあげる。」
未だに私に触れたままのカマ大将の手に鳥肌が立つ。
何より私がこいつに捕まってるせいで、
チカや野郎共が手も足も出ない状況になってる事が悔しくて仕方なかった。
「チカ・・・、私は―――「諦めるんじぇねぇ!!!!信じろ!
俺はおめぇも野郎共も絶対ぇ助けてやる!!」
―――私はいいから。
言おうとした私の言葉を遮って、チカが叫んだ。
周囲に居る彼の部下が、真剣な表情で頷く。
ああ、さんとしたことが、馬鹿だわ。
こんな時こそ信じなくてどうするよ。
一人で悲劇のヒロインぶってる場合じゃない。
ついさっき無条件で信じられると思ったばかりじゃないか。
彼は鬼の長曽我部元親だ。
何よりこのさんがゲームの世界と分かってても惹かれずには居られなかった相手だ。
私はこっくりとチカに向かって大きく頷いた。
「フンっ、気に食わないわね!お前達がどれ位無力か、今すぐ教えてやるわ!」
カマお頭が如何にも忌々しそうにそう声を上げた、瞬間――――
ズッドオオオオ・・・ンっ
「っ!!??」
お腹に響く重低音と一緒に、船が大きく揺れた。
何かがこの船にぶつかった衝撃らしい。
かなりの揺れで、
不意を突かれたカマ大将達は驚いたように瞳を見開いてその場で揺れに耐えていた。
そして、チカはその一瞬の隙を見逃さなかった。
「野郎共!!今だ!!くそったれのカマ野郎の手下に礼をしてやんな!!」
「「「「合点でぇい!!アニキィィ!!!!」」」」」
チカの号令で野郎共が瞬時に反撃を開始する。
同時に、チカはオネェお頭に思いきり蹴りをかました。
ビュッ
チカの長い脚が鋭く空を斬る音がして、
それは綺麗にド派手な格好のカマ大将の腹部に決まる。
間違いなく彼の足は相手のお腹にめり込んでいた。
「グゥっ・・・!!」
蛙の潰れる瞬間みたいな声と一緒に、お頭は甲板の隅まで吹っ飛んだ。
チカは素早く私の側まで近寄ると、私の身体や手足を縛っている縄を碇で切断した。
瞬間、拘束されていた手足が解放されてフッ、と楽になる。
手首にはクッキリ縄の痕がついていた。
足首も当然そうに違いない。
何てことだ、これじゃあ妖しい遊びをした後みたいじゃないか。
カマ大将め、許せないわ。
だけど今はそんなことより何より、チカの腕に引き寄せられて心底ホッとしていた。
「チカ・・・っ・・・!」
「おう!すまねぇな、おめぇにゃ随分怖い思いさせちまったぜ・・・。」
言って、チカは私の体に回した腕に益々力を強めた。
今回ばかりは私も軽口叩かず、素直に彼の体にしがみつく。
チカだ。
やっぱりチカだわ。
「野郎共!!俺達を馬鹿にしやがった凶風の連中にとっくりと思い知らせてやれ!!
2度とこの鬼の領土に足を踏み入れられねぇように、身体に教えてやんな!!!」
「了解しやした!!アニキィ!!コイツらだきゃ許せねぇ!!」
「そうだ!!さんにまで手ぇ出しやがって!!」
「アニキ!!アニキィ!!」
形成は完全に逆転。
チカは私を片腕に抱いたまま、
甲板の隅に吹っ飛んで、
未だにお腹を押さえて床に四つん這いになってるオネェお頭の側までつかつかと進み出た。
「っひっ!!」
「おぅ、凶風のカマ野郎!!てめぇたぁ今まで何度となくやり合ってきたが、
今回ばかりはお遊びが過ぎたようだなぁ。俺の可愛い野郎共を馬鹿にしくさった上に、
に手ぇ出したんだ、それ相応の覚悟はしてもらおうじゃねぇか。」
低く、限りなくドスの利いた声でチカが言った。
カマ大将を見下ろす彼の金色の瞳は、今まで見たどんな瞬間よりも鋭い。
私は思わずチカの腕の中で呟いていた。
「チカ、殺さないで・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コイツは、汚ぇ手でオメェに触りやがったんだぜ?
生かしておけると思うか・・・・・・?」
「チカ・・・・・・・。」
私はチカの背中で掌に拳を握る。
らしくもなく、それが震えているのが分かった。
ちぃっ。
彼は大きく舌打ちをして、カマ大将にもう一度、蹴りをお見舞いした。
―ドッ
「ウッっぐ!!」
鈍くこもるみたいな音と一緒に、オネェお頭が呻き声を上げる。
「こいつの船もお宝も俺達のもんだ!!
野郎共、奴らは衣服引っぺがして緊急用のボロ船で流してやんな!
――――――その代り・・・次俺達の前に顔見せてみやがれ、てめぇら全員、
黄泉路さえまともに渡れねぇ体にしてやるからなぁ!!!」
言いざま、チカが私を連れて船室に向かって歩き出す。
その途中に彼は何人かの部下に指示をだしていた。
私は無事に夜襲と言う大ピンチを乗り越えられた事にホッとして、
半分茫然と月明かりに輝くチカの銀髪を眺めていた。
後から聞いたところによれば、チカの船にぶつかって衝撃を与えてきた謎の物体は、
海底に潜ませてある新型の兵器で、どうやら潜水艦に近いものだったらしい。
まだまだ試作品段階だった為、動かすのにも時間がかかってしまったとのことだった。
状況が状況だっただけに仕方ないけど、
新型の兵器の機体を船にぶつけるなんてビックリだ。
素直にチカにそう言った私。
それに対してチカは大声で豪快に笑って言った。
「俺の可愛い野郎共と、惚れた女を助ける為だ。
あの程度のことどうってことねぇぜ!!」
チカ。
チカ。
元親。
ねぇこれ以上、私を君の虜にしないでよ。
君が好きで好きで好き過ぎて。
現実かゲームかなんて、考えることさえ馬鹿らしくなるから。
(終わり)
後書き
オリキャラ出張りまくりと言うか、何と言うか(苦笑)
本当は政宗が登場する予定だったんですけど、
それだとアニキの格好良さが半減しそうな展開だったので断念。
やっぱり好きな相手は自分で守らなくちゃ(誰だ)
一応青空シリーズは次回で完結予定。・・・本気でいつになるんだろー(遠い目
ではでは、ここまでお付き合い下さった心優しい姫様に感謝しつつ、失礼します
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