「アニキっ!!夜襲だ!!奴らだっ、凶風の奴らがきやがった!!!」
「ちぃっ・・・奴らか・・・ふざけた真似しやがって!
・・・こうしちゃあ居られねぇぜ、の奴があぶねぇ・・・!
――――野郎共!!配置につけ!!」
夜襲。
私の船室の外からそう聞こえてきた瞬間、真っ先に思い浮かんだのはチカの言葉だ。
私がここに来て間もない頃、チカがもしもの時の心得と対処法を教えてくれた。
その時の言葉。
―いいか、、20秒数えても俺がオメェの船室に現れなかった場合は、
何も考えずにさっさとここに隠れろ。船室から出ることなんざ、考えるんじゃねぇぞ!
ドアの外では野郎どもがバタバタと走り回る足音や、何やら怒鳴りあう声が聞こえてくる。
私はゆっくりと体を起こすと、側に置いてある棚に無造作に置いていた上着を引っ掛けて、
チカの言っていた通りに数を数え始めた。
その間も部屋の外では色々な音や声が飛び交っている。
「・・・18・・・19・・・20・・・」
数え終わってすぐに、私はチカの教えてくれた床下の隠れ場所まで移動することにした。
板張りの床をトントントントン、と、リズミカルに数回叩くと、それに反応してパカリと床が開く。
それからその奥にもうひとつ蓋がついていて、
それを開くとそこは丁度人間が座った状態で一人、身を隠せるスペースが出来ていた。
私は素早くそこに潜り込み、まず一つ目の蓋をして、
それから今度は内側から軽くトントンと2回蓋を叩いた。
頭上から、パタンと小さな音がする。
二つ目の蓋が閉まった音だ。
念の為二重にしてあるから、船室の外の音は私にはもう殆ど聞こえない状態だった。
さすがにここを利用することになるのはお初だったので、幾らさんと言えども不安なことは間違いなく、
それ以前にチカや野郎どもがどうしているのかが凄く心配だった。
チカたちに限って負けるなんてことはないと思うけど、それでもやっぱ心配だ。
なんてことを考えていると、不意に、頭上から会話らしきものが聞こえてきた。
一瞬、チカかと思って腰を浮かしかけたけど、そうじゃないことはすぐに分かった。
声が違う。
チカの声はもっと心地いい低くさだし、それでいて独特で、何より格好いい。
まぁ、これは私の個人的な意見が盛り沢山なんだけど。
だったら野郎どもかっていうとこれもそうじゃない。
って言うか、野郎どもは野郎どもでも敵方の野郎どもの様だった。
あああああ、何てこと、さん大ピンチじゃないか。
心の中で焦りを感じつつ、私は頭上の会話に聞き耳を立てた。
蓋が二重になってるから、さすがに同じ室内でも聞き辛い。
「お頭ぁ!こっちの部屋には誰も居ませんよ!」
「そうなの?おかしいわね、ワタシの見たて違いかしら・・・?」
いかにも海の男な大声の低音の後に、少し高めのどっちかと言うと涼やかな声がした。
でも、これは絶対に男の声だ。お姉言葉と言うかカマ言葉だけど。
と、私の船室内を横切る足音が左上から右下にかけて聞こえてくる。
歩き方から言って、カマ言葉のお頭の方が移動したらしい。
「・・・あら?この布団・・・・・・ふぅん・・・。」
「どうしました?頭。」
「ここ・・・女の部屋だったみたいね。クスクス、あの鬼小僧やるじゃないの。」
会話内容から、どうやら私の寝ていた布団のすぐ側まで近づいたことを理解して、
私は益々息を殺すようにして二人の様子に神経を集中させた。
「そうねぇ・・・。女が居たってことは・・・ここから出たんだとしたらすぐに分かる筈だし・・・。
それに・・・あの鬼小僧の女だとしたら・・・部屋から出るような指示は出してないと思うんだけど・・・。」
ほんの一瞬、思わず私の体がビクリと震える。
このカマ男、伊達にお頭って訳じゃない。
私の中で緊張と焦りが入り混じり、確実に膨れ上がっていく。
―カッカッカッ・・・
カッカッカツ・・・・・・・・・・・・・
カマ男が室内を歩き回る足音が響く。
その足音は、暫くの間ずっと鳴り止まなかった。
どうやら室内を歩きまわって何かを調べてるみたいだ。
そして、不意にその足音が唐突にピタリと止まった。
私の、頭上で。
「・・・・・・・・・・・ふぅぅん。」
カマお頭が意味深な声を漏らす。
ゴクリ。
私の喉が小さく鳴った。
やばいぞ。
ヤバ過ぎる。
見つかったのかもしれない。
さん、人生最大の、ピンチ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
私はさっきまでより更に体を縮めて、息を殺す。
気配を消す、なんて武人技を持っちゃいないけど、
出来るものならその技術を今この瞬間だけでも体得したかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
だけどどんなに息を殺して待ち続けてみても、
上に居る筈のカマ男が動く気配は全く無かった。
もしかしたら気付かないまま、部屋を出て行ってくれるかもしれない。
よっしゃ。
一人、心の中でガッツポーズをしたその時――――
――ドゴッ
もの凄い衝撃と乱暴な音が頭上で響き、
同時に私のすぐ上の蓋がおかしな感じに変形する。
「ヒッ・・・!」
咄嗟に私の喉が声にならない音を漏らした。
身体がガタガタと震える。
バキッ・・・めき・・・ばきばきっ。
力ずくで二重になっている蓋が取りはらわれて行く音。
それからすぐに、誰かが私を覗き込んでくる気配がした。
最悪だ。
蓋が完全に取り払われ、私は無防備に奴らに見下ろされてる。
このさんとしたことが、恐怖で声も出せない。
カマお頭らしい、派手な衣装の長髪の男(実は予想外に美系)が、
私と視線を合せて如何にも愉しげに言った。
「大収穫だわねぇ。あの鬼小僧の悔しそうな顔が目に浮かぶ・・・。
ふふふ、さぁ、そのお嬢さんを連れて行くのよ!」
「へい!!」
「っ!」
半分引きずり出される形で私はカマお頭の手下に担がれる。
幾ら何でも大人しく連れ去られる訳には行かなかった。
両手と両足を力の限りバタつかせ、私は必死に抵抗を試みる。
「放せっ!このさんに触れていいのはたった一人だって決まってんのよ!!」
大男はそんな私に構わずスタスタと歩いて部屋の出入り口を目指した。
私の抵抗なんて全くちっとも利いてないのだ。
私はこの時初めて逞しい海の男ってやつを心から恨んだ。
無駄に筋肉つけて、ちょっとやそっとじゃ全く堪えないらしい。
「大丈夫よ、お嬢さん。今すぐ殺したりしないから。そう、今すぐにはね。」
そう言って私に微笑みかけたカマ男の表情は、心底ゾッとする位、綺麗で酷薄なものだった。
(続く)
後書き
前回の愛人3人衆と言い連続でオリキャラ出張りまくりで申し訳ありません。
しかもめちゃくちゃ久しぶりの更新なのに(苦笑)
青空シリーズはこの話の次の後一話で終了予定なんですが、い、いつになるだろ(遠い目)
ヒロインの性格すら久々すぎて忘れてました。
ではでは、ここまで読んで下さった方に深く感謝しつつ、失礼致します。
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