「まぁ!犬千代様、この様な所で眠ってしまっては風邪を引いてしまいます。
さぁさぁ、お布団に参りますよ。」
「んーー・・・まつー・・・某・・・酒の肴がもっと・・・グゴォっーーー」
「うわっ、だらしねぇなー利は。」
「慶次にだけは言われたくないでしょうね、利家さんも。」

お月見を兼ねて私達4人はお酒を飲んでいた。
前に慶次が言っていた様に、まつさんに酒の肴を用意してもらって。
利家さんも慶次も思った以上の勢いでお酒を飲み続けて、
たった二人で大瓶3つ分は飲み干したんじゃないかと思う。
まつさんはその間もせっせとお酒を持ってきたり肴になる料理を持ってきてたりして、
色々と世話を焼いてくれていた。
私はと言えば、とりあえず自分のペースを保ちつつ飲んでいた。
他の二人に合わせて飲んでいたら、もうとっくに潰れてしまっているに違いない。

「慶次、わたしは奥の部屋に犬千代様を連れて行きます、
お酒は今あるだけで我慢なさい。肴が足りないならば自分で取ってくるのです。」
「えー、…しゃーねぇなー。分かったよ、まつねえちゃん。」

慶次の答えを聞くとまつさんは軽く頷いて、利家さんの体に手をかけた。
それから利家さんの体を背負うようにして屈み込む。
私は慌てて二人に近寄って、声を上げた。

「まつさん!手伝いますよ、そんな、利家さんを一人で背負うなんて!」
「あら?ほほほ、前田家の嫁にありますればこの程度のこと。
大丈夫ですよ、殿。」

おかしそうな声でまつさんは返し、利家さんを背負ったまま易々と立ち上がる。
私は驚いて一歩、後ろに下がってしまった。
確かにまつさんが色々な面において強いのは知ってる。
利家さんも慶次も、彼女に敵わないことも。
それに利家さんと一緒に戦場に向かうことがあると言うのも慶次から聞いていた。
だけどまさかあの華奢な体の彼女が、
どこからどうみてもがっしりとした体格の利家さんをあんなに簡単に背負ってしまうなんて。
私は余程ぽかんとした顔をしてたらしくて、慶次が笑い出した。

「ははははっ、まつねえちゃんの怪力は今に始まったことじゃねぇって、ちゃん。」
「まぁ!怪力とは何です!慶次!…とにかく、わたしは犬千代様を連れて行きます。
二人とも、くれぐれも飲みすぎぬようになされませ。では。」

まつさんはそう言い残して利家さんを連れて私たちの傍を離れていく。
彼女は全く利家さんを重いとは思っていないみたいで、
普通に歩いている速さと変わらない位で姿が見えなくなった。

「…まつさんってやっぱり凄いわね、改めて実感したわ。」
「はははっ、ま、ここじゃ誰もまつねえちゃんには敵わないってね。
……けど、ああ言うとこ見ると、つくづく利は幸せもんだって思うな。」

言って、慶次は空になった杯にまたお酒を注ごうとしていた。
私は彼が徳利に手を出すより早くそれを手にとって、自分の杯に注ぐ。

「あ!ちゃん、ずりぃ!それ最後の酒じゃねぇか!」
「慶次は飲みすぎ。そろそろ回ってきてるんじゃないの?」
「それはねぇな。俺ってこれでも酒には強ぇんだぜ。」

慶次は言いながら、わざとらしく胸を張ってみせた。
確かに慶次がお酒に強いのは認めるけど、さすがにあの量だ。
本人は気づいてない様だけどとてもシラフには見えない。
顔も目も赤みがさしてきているし、何より会話中に微妙にろれつの回っていない時があった。

「ま、いっか、ちゃんとこうやって酒片手にお月さん眺められるってだけで俺ぁ幸せもんだね。」
「よく言う。」

ふっ、と、思わず笑ってしまいながら私は杯に口をつけた。
慶次のことばかり言えない、この1杯を最後にしないと私もさすがに怪しい。

−トンッ。

「………え?」

不意に、慶次の居る左肩が重くなった。
慶次の体が私に傾いてきたのが分かる。
驚いて視界を移すと、すぐ目の前に慶次の頭があった。
どうやら私の肩に頭を乗せて、よりかかってきたようだった。

「ちょっと…慶次…?」
「ん……。」

彼のふわふわとした髪の毛が私の頬を掠める。
声を掛けても殆ど反応がなく、少しだけ頭の位置がずれただけだった。


え?まさか……寝てる……?だってついさっきまで会話して…。


お酒が入ってお互い体温が上がっている。
私は彼が寄りかかっている肩や、面積が狭いとは言え密着している部分が、
妙に熱く感じてしまっていた。

「慶次……?」

試しにもう一度だけ名前を呼んでみると、不意に慶次が顔を上げる。
余りの至近距離に私の心臓が跳ね上がった。

「何だ、やっぱ起きてるんじゃな…って大丈夫?」

慶次の瞳の視点が定まっていない。
ぼんやりと空中を見つめているような感じだ。
それでも、この距離だからしっかりと私を視界に納めている。
慶次の意識がはっきりしていないのは分かっているのに、
私の心臓がどくどくと信じられない速さで鼓動を刻んでいた。

「……な…とこに居た…かい……。」
「…………えっ?」

唐突に、殆ど聞き取れない程の大きさで慶次が何かを呟いた。
ふっ、と、慶次が穏やかに微笑む。
いつもの無邪気なあの笑顔とは違った、
心に深い傷を持った人だけが出来る、胸が締め付けられる様な笑顔だった。
と、また、不意に彼が動き出した。
もう既に至近距離にある慶次の顔がゆっくりと私に近づく。
それは分かっていたのに、私はそれを避けようとはしなかった。

そして、必然的に重ねられる、唇。
触れ合わせられた慶次の唇は柔らかくて、そして熱を持っていた。
彼の大きな手が私の頬に伸ばされる。
私の唇は、小刻みに震えていた。

「………ねね……。」
「――――――――!?」


ドンッ。


「いでっ!!!」


慶次の口から漏れた名前。
それを耳にした瞬間、咄嗟に私は彼を突き飛ばしていた。

「いってぇなぁ…って、あれ?
やっべすまねぇ、ちゃん、俺眠っちまってた?」
「………………。」

何が起きたのか分からない慶次は、慌てて私に謝る。
だけど私はそれに答えることなく無言で立ち上がった。

「え!?おい、ちゃん!?」

背中で慶次の呼び止める声を聞きながら、私はスタスタと足早に廊下を進んだ。
どうして、こんなにムカついているのか自分でも分からない。


(続く)



後書き
余りにも長ったらしいのでいつもの如く中途半端にぶった切りました。
実は前田家を書くのが好きだったりします。今度は起きている利家も書きたい。
しかし慶次はどちらかと言うとさっさと酔って馬鹿騒ぎしそうな気がしないでもない…。
ではではここまでのお付き合い真に有難うございました、失礼致します。


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