互いを照らすは室内に差し込む月明かりのやわらかな光のみ。
はその美しく艶やかな裸体を惜しげもなく晒し、小十郎の眼前で彼を見上げていた。
「様、女人が軽々しく男の前で素肌を晒すものではありません。
お早く着物を身に着けられますよう・・・。」
「嫌よ。」
答えた彼女は挑むような眼差しで小十郎を睨みつける。
彼は表情を変えぬまま、自身の上着を脱ぎ去ると、
それを彼女の細い肩へ羽織らせる為に腕を伸ばした。
「要らない、と言っているでしょう!」
は苛立たしげな口調でそう返し、彼の腕を振り払う。
「様、余りこの小十郎を困らせないで頂きたい。
貴方様は政宗様の妹君、他の者からあらぬ誤解を受けるような真似は謹んで下さらねば。」
「あらぬ、誤解・・・?」
フン。
は小さく鼻を鳴らし、その後嘲笑染みた笑みを浮かべた。
「景綱、あらぬ誤解って何?所詮子供と大人だもの、そんなの、生まれるはずないわ。
ねぇ、そうでしょう?あたしはあんたにとって、子供だものね。」
「様・・・。」
「見てよ、景綱。見なさい、あんたの目の前に居るあたしは、子供なんでしょう?」
言いざま、は彼の両腕を掴み、その身体を揺さぶる。
刹那、ほの白く発光しているとすら錯覚させる彼女の肌が小十郎の視界に飛びこんだ。
未だ幼さを残す少女の表情を見せる。
されど、その肢体は既に成熟した女人の色香を十分に身に着けている。
彼女の体を形成するはしなやかな曲線と双丘の豊満な膨らみ。
年若い頃の小十郎であれば、激情に任せてこのたおやかな華を手折っていたかもしれない。
だが――――
「いい加減にしねぇか!!」
「・・・・っ!!!」
唐突に放たれた小十郎からの怒声。
はビクリと一瞬身を震わせた。
しかし、その瞳は未だしっかりと彼を捉えて離さない。
挑戦的な色も失われては居なかった。
その様は、兄・伊達政宗を彷彿とさせる。
「様、・・・俺は貴女を子供等とは思っていない。
だからこそ、このように軽々しい真似はしないで頂きたい。」
「・・・景綱。」
「さぁ、このままでは風邪を召されてしまう。着物を。」
先程振り払われた上着を彼はそっとの肩に掛け、羽織らせた。
「ならばせめてあたしに教えなさい、景綱。」
彼女は大人しく小十郎の上着を受け入れ、胸元を掻き合わせる。
同時に再び視線を上げ、今し方間でよりも落ち着いた静かな声音で言った。
「せめて、あたしに口付の味を教えなさい。知りたいわ、あんたから、教えてほしい。」
「様・・・。」
小十郎の胸中。
その硬い表情とは相反し、激しく高鳴る鼓動。
彼の視線の先の扇情的なの瞳は、
彼女自身が意図しているよりも更に小十郎の心を大きく揺さぶっていた。
やがて小十郎は微かに笑みを漏らした。
「御意。様、貴女様には敵いませぬな。」
囁くようにそう口にし、彼は片腕でを抱き寄せた。
ゆっくりと閉じられる彼女の黒曜石の瞳。
ふっくらとした薄紅色の花唇が、僅か緊張した様に震えている。
気丈な態度を取ってはいても、彼女はまだ18なのだ。
彼は自らの唇でそのの唇の淵をなぞる様に触れ、更に一度、啄む様に口付けた。
そして再び彼女の唇に自身の唇を強く押しつけると、の口内へ舌を侵入させる。
ビク。
一瞬、彼女は微かに身を大きく震わせた。
小十郎はそれを宥める如く、回した腕でその背を撫でる。
そうしながら、彼の舌はの舌を絡み取っていた。
「ふ・・・・。」
吐息にも似た甘やかな声を漏らし、は一層彼を煽る。
とろみを帯びた生温い唾液が既に互いの口内に溢れ始めていた。
恋情と合い間って膨れ上がるは情欲。
今にも目覚めんとする己が内の獣を寸で抑え、小十郎は口付を中断する。
「様・・・、これ以上は・・・。」
「っ・・・?」
言いざま、小十郎は自身の腕を彼女から引き剥がすように距離を取った。
「景綱?」
切羽詰った様子の小十郎の声音。
だがには未だ彼の状況が理解できていない。
「様、この小十郎の理性が消えてなくなる前に、どうかお着物を。」
「景綱、あたしは―――――」
一線を越える覚悟なら出来ていた。
その為に彼女はここへ足を運び、一糸纏わぬ姿を小十郎の前へ晒したのだから。
だが、はそこで言葉を切り、小さく頷くと、速やかに着衣を整えた。
「次あたしがここに現れたその時は・・・その時こそは、心を決めてね。」
「様・・・。」
「約束よ、景綱。」
そう彼に告げ、瞳を細めては微笑した。
この上なく艶やかな笑み。
それは到底少女の表情とは思えないものだった。
(終わり)
後書き
ううーん、ちょっと尻切れ気味でしょうか?
だけどこれ以上伸ばすとダラダラ感が出そうだったので、思い切ってここで終わらせました。
敬語の小十郎は予想以上に難しいです。彼らしさが出ているのかかなり心配なところ。
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様に誠に感謝です。失礼致します。
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