悪夢の始まりから数日。
私自身は全く本意でないながら、私の男子校生活は始まり、今に至る。
私は元々スカート等と言うものとは無縁の境遇に有った為、
男ものの制服(着用は重要行事を除き自由)に特に違和感は感じなかった。
幼い頃から言動のひとつひとつを如何に『男らしく』見せるかを、
クソ親父から叩き込まれたお陰で、今の私がある訳だが、
それもまた不本意にもこの高校生活に役立って居た。
とは言え、私もこの数日間をあの伊達政宗の下で大人しく過ごしていた訳ではない。
幾度もあの邸とあの男の傍からの脱出を図ろうと機会を狙っては居たのだ。
だが、認めたくはないが、あの男が初めて会ったあの日に口にした様に、「やるだけ無駄」だった。
邸内のセキュリティの完成度は並みではなく、
その手のプログラムにほんの少々知識のあるド素人の私では話しにならず、
ならばと高校への登下校を狙ってはみたものの、
常にあの長身の大男、片倉小十郎が目を光らせてい為それも無駄に終った。
ドクソ野郎共。
毎朝毎朝最低の気分で目覚めては、私は心の中で毒づく。
だが奴らの前で怒鳴り声を上げて怒りを露にする様な醜態を晒すことだけは、
私のプライドが許さなかった。
結局のところ私は今もあの伊達政宗の言葉通り、奴の邸で寝泊りをさせられ、
同じ高校に通わされ、常に行動を共にさせられるという屈辱的な生活を強いられている訳だ。
―ピンポンパンポーン
[生徒会役員に告ぐ、緊急招集だ。今すぐ生徒会室に来い。この俺を待たせんじゃねぇぞ。以上だ。]
ピンポンパンポーン――
2時限終了直後。
伊達政宗による生徒会執行部呼び出し。
校内放送にしては不遜極まりなく、
その声を聞いただけでも不愉快この上ない気分がせり上がってくる。
当然ながら私は伊達政宗と同じクラスにぶち込まれている訳だが、
つい先ごろから珍しく奴の姿が見えないと喜んでいたのも束の間、
校内放送と言う嫌でも耳に入ってくる手段であの男の声を耳にしてしまった。
私は不機嫌に眉をしかめ、教室の前方、天井の隅に配置されている放送スピーカーを睨みつけた。
フン、とは言え私には関係の無い事だ。
ここは少しでもあの男の顔を見なくても済む事に感謝するか。
そう思い直し、私は手元の小説に目を落す。
と、不意に、誰かが私の机の正面へ立った気配がし、私は再度、視線を上げた。
「はいはいっと、猿飛先生です。大きなお世話かもしんないけどさ、さん、
あんた生徒会室に向かった方が身の為だと思うぜ?」
私の机の前に立っていたのは私のクラスの担任、猿飛佐助だった。
この校内で私の性別と境遇を知る数限られた教師だ。
この男は一見ヘラヘラとした軽いだけの人間に見えるが、
実のところその瞳の奥に何か油断ならないものを隠し持っている様にも思え、
何処か食えない部分があった。
「今の呼び出しは確か生徒会執行部の者に向けての言葉だった筈ですが。」
「ま、それはそうなんだけどねぇ・・・。」
私の答えに猿飛先生は苦笑と共に曖昧な返事をする。
私が何を言いたいのかと訝っていると、担任の眉間が一瞬ピクリと何かに反応する様に動いた。
「あーあ・・・やっぱ迎えに来ちまうか・・・。この分だとすぐ教室に戻ってくるな。
さすが竜と恐れられる我が校生徒会長、いやー移動スピードも伊達じゃないねぇ・・・。」
「?失礼ですが、猿飛先生、何の話をしているのか分かりませんが・・・?」
唐突に一人、ぶつぶつと口にし始めた担任に、私は益々怪訝な眼差しを向けて問い返す。
猿飛先生は再度苦笑を浮かべた。
「俺様の思った通りになっちまいそうだと思ってさ・・・。
さん、この後の授業、あんた多分出られないぜ。」
「?・・・・猿飛先・・・・------
―ズパーン!!!
私が再び問い返そうと担任に向かって声を掛けた、その瞬間。
教室の前のドアが何者かに恐ろしい勢いで開け放たれた。
それとほぼ同時に私の正面に立っている猿飛先生が予想していた様に小さく呟く。
「やっぱりな、こうなっちまったか・・・。」
私は眉間に深くしわを寄せたまま、ドアの前に姿を見せた無礼な男に視線を移動させた。
瞬時にその人物を視界に収め、私は胸中を不愉快極まりない空気が覆っていくのを感じていた。
伊達政宗。
教室のドアを破壊しかねぬ勢いで開け放ったのは、紛れも無くあの男だった。
奴は広い教室内をグルリと一周見回した後、ピタと、ある一点でその視線を固定した。
そう、私の居る場所にだ。
奴の目的が私だと言うこと等、あの男がこの教室のドアを開けたと気付いた瞬間から理解していた。
案の定、伊達政宗は何の躊躇いもなく、真っ直ぐに私の席に向かって足早に近付いて来る。
担任は厄介ごとは御免だとばかりに私の席の傍から僅かに距離を取った。
「HEY!、アンタは何だって未だに教室に居やがんだ?まさか放送が聞こえなかった訳じゃねぇだろうな?」
「貴様の言っている意味を理解出来かねるが、伊達政宗。
先程の呼び出しは生徒会役員に向けての物だろう、生憎と私は生徒会執行部の人間じゃないんでね。」
正面から奴の視線を受け止め、私は答える。
ほんの少しの間でも、奴の顔を見ずに済む時間が欲しかった。
それをあっという間にぶち壊してくれた上、この男はまた訳の分からない言いがかりを口にする。
日に何度、この男の顔をぶちのめしたくなる衝動に駆られるだろうか。
数えるのさえ既に馬鹿馬鹿しい。
「HAHAHA!そうかい、アンタ、俺と会った初日に俺が言ったことを全く覚えちゃいねぇ様だな?
俺ははっきり言った筈だぜ、『アンタは当分の間、俺と常に行動を共にしてしてもらう』ってな。」
そう言い放ち、奴は更にあの憎々しいニヤリとした笑みを浮かべて続けた。
「つまりさっきの放送はアンタに向けての呼び出してもあったんだぜ、。You see?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
目の前の隻眼の男の言葉に、私は無言で奴を睨みつける。
奴はいつもの様に全く動じた風もなく、あのくそ忌々しい笑いを唇に貼り付けたまま言った。
「分かったらさっさと立ち上がんな。とっくに役員連中は全員揃ってる筈だ。
今回はアンタが居ねぇと始まらねぇんだからな。
なんなら・・・俺が立ち上がるのを手伝ってやろうか?」
くっくっくっ。
喉の奥を鳴らして笑うあの男の声が、私の神経を一層逆なでする。
「・・・・・・・・・結構だ。」
教室内の視線が此方に釘付けになっているのは分かっていた。
だからこそ、私は努めて冷静に、怒りをかみ殺すしか無かった。
私がゆっくりと椅子から立ち上がると、伊達政宗が即座に教室のドアに向けて歩き始める。
私がその後に従う事を当然だと思っているその不遜な態度が、またも私を不愉快にさせる。
生徒会室。
そこはそう呼ぶには余りに広すぎ、そして驚くほど設備の整った空間だった。
この学園内自体も高校生が使用するにしては立派過ぎる物ばかりが目立つが、
この生徒会室はその象徴とも言えるほどだ。
室内にさり気なく置いてある装飾品は嫌味な程に自然で、趣味がいいのだが、
生徒会室に必要な物なのかは全く疑問だとしか思えない。
恐らく、この学園の生徒会長である伊達政宗の嗜好だろうが。
そして生徒会の会議に使用されると言うその部屋に連れて行かれた私は今、
役員の要になるらしい人間達を前に自己紹介を強要されたばかりだった。
「そうか・・・君が伊達君の言っていた新しく生徒会の役員に入ると言う君だね。
僕は副会長をやらせて貰っている、竹中半兵衛と言う者だよ。宜しく。」
言って、竹中は私の方にその顔と同じく女のものと見間違う程白く華奢な手を差し出して来た。
この男の視線や物腰には、冷静さと聡明さが現れている。
余り表情を表に出すタイプではないと、私にはすぐに判断できた。
「我は会計を任されている毛利元就だ。以後、見知りおくがいい。」
完結にそう述べ、毛利は私と目すら合わさずにそう自己紹介をした。
竹中と同じく聡明で冷静であろうと推察するが、この男は酷く冷たい眼差しを宿していた。
強いて言うならば、何に対しても大した興味を持っていないような、そんな瞳だ。
「フフフ・・・生徒会役員は何人居ても手が足りない・・・、貴方はとても優秀そうだ。此方としても助かりますよ。
おっと・・・・申し遅れましたが、わたしは会計補佐の明智光秀と言います。宜しく、さん。」
この明智とか言う男は、容姿は恐らく美麗と言う方に入るだろう。
そして先の二人よりも物腰も柔らかく、笑顔も穏やかだ。
が、何故か私はこの明智と言う男の瞳の奥に、底冷えする様な何かが見え隠れしている様に見えた。
「わしは徳川家康!会長と副会長の補佐役みてぇなもんだ!
言っとくがな、年下だからってこのわしを舐めるんじゃねぇぞっ!
おめぇらとは器が違うからな!はっはっはっはー!」
小柄で一見小学生にさえ見える容姿。
だがその自己紹介を聞いても分かるように態度のデカイ徳川と名乗った男は、
それでも何処か憎めない雰囲気があった。
「これでこれからアンタが世話になる役員連中の挨拶は終わりだ。仲良くやれよ、。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
私は伊達政宗の言葉に無言でヤツを一瞥する。
ここでどう反論しようとも、ヤツは聞く耳を持つ気はないだろう。
ならば今はこの男と話をすることなど何も無かった。
「おいおい、俺が声掛けてやってんだぜ、返事位したらどうだ?」
再び伊達政宗が私に向けてそう続ける。
ニヤリと歪めて笑っているあのクソ忌々しい口元は、私の心中を見抜いているからこそだろう。
「伊達君、我々は授業を受けずに会議を行う事になるんだ。
だったら速やかに開始した方がいいと思うのだけど、どうかな?」
「・・・HA!仕方ねぇ、んじゃ、始めるか。」
竹中の一言に奴はそう言って私から視線を逸らした。
そしてその後、担任、猿飛の予想通り、私は3時限目の授業を受けることが出来ず、
不本意にも生徒会役員共々この会議に加わる結果になった。
だが、この同じ日のその後、伊達邸で私は更に不愉快な役回りを強要させられることとなる。
(前途多難な日々-学園にて-)
後書き
続きますか!しかもやっと2話目更新したのに進み具合微妙過ぎて申し訳ないです。
一応共通部分とそれぞれのキャラ夢的な部分とある予定で、これは勿論共通部分。
因みに補足で、ヒロインの名前、「女みたいだな」位にしか思われていない方向で(笑)
しかしアンケートでまさかあんなに票を頂けるとは思ってもみなかったです。
ど、どうしよう、あの、政宗、ほんとヤな奴で申し訳ございません。
ヒロインも政宗嫌い過ぎだし。
ではではここまでのお付き合い、誠に有難うございました。失礼致します。
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